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真実を知った俺だが3

 

 箱の中のランスロットは、裸体にシーツを被せられた状態で横たわっていた。

 一応隠してあるので安心したが、彼女に肉体の隅から隅までを作られてしまうとは…………こんな時だが、結構恥ずかしい。待てよ、俺の秘密の部分はどうなっているんだ?見せたことなかったはずなんだが。

 それに自分を自分が見るなんて奇妙だった。


 でも、これは俺の脱け殻に過ぎない。


「もう十分だからレナ、頼む」

「でも息をしてるの、生きているのよ」


 膝を立てて、箱の端に手を掛けたメディアレナが声を絞り出す。その声に罪の意識を感じた俺は、後ろから彼女の腹に手を回して背にくっついた。


「平気だ。ランスロットが望んでいる」


 人間一人を創り上げるなんて、魔女の域を越えた行いだ。彼女は、それを成し遂げた。精霊の時の記憶を持つ俺でさえ、到底及びもつかない知識と魔法と根気が必要だったはずだ。

 そこまでしてくれた、だから十分だ。


「ありがとうアリシア、レナ。お前の気持ちだけで俺は報われたんだ。だから『俺』を見て。その肉体を解放してあげてくれないか?」


 彼女は、振りきるように一度ぎゅっと目を瞑った。


「……………ごめんなさい」


 謝ってから、俺に促されたメディアレナは、ランスロットにゆっくりと腕を伸ばした。


「私の身勝手さで、リトを苦しめたわ」


 眠る男の頬を撫でながら、苦悶の表情を浮かべて懺悔する魔女に「そんなことはない」と強く吹き込む。


「ここまでしてくれて『俺』が嬉しくないわけないだろう?」

「リト………………」


 腹に回っている俺の手を片手で握り締めながら、彼女が詠唱を唱え始めた。ランスロットの胸の真ん中に、微かに震える指で魔方陣を書き込む。


『体内を巡りし水よ、流れを止めよ。構成せし姿を解きて、生まれ出でた大気へと帰れ』


 何十にも魔法が複雑に絡み合って構成されていたらしい。水魔法を解き、火や闇や風に雷を解いていくと、次第にランスロットの肉体の輪郭がぼやけて見えてきた。


「ありがとう、ランスロット……………さよなら」


 彼女が最後に感謝を口にすれば、安らかに眠ったまま肉体の活動と構成が同時に失われ、ランスロットは淡い光を放ったと思ったら、大気へと溶け込むように消えてしまった。


 それを見届け終わるや疲労でよろめいた彼女を受け止めながら床に座り、膝の上に乗せた状態で肩を支えた。


「大丈夫か?」

「うん……………でも酷いわ、リト」

「え?」


 涙は乾かない。今まで溜め込んでいた想いのように、彼女の頬を濡らしていた。それでもメディアレナは小さく笑った。


「折角魔女になったのに、あなたったら人間の男の子になって押しかけてくるんだもの。魔女になった私はどうしたらいいの?」

「そのままでいい、レナはレナだ。魔女でも人間でも関係ない…………お前ならわかるだろう?」


 精霊でも人間でも、前世でも今世でも、俺を好きになってくれたメディアレナ。

 そんな彼女が悪戯っぽく笑うのは、俺の言葉が予想できたからだろう。


 俺がランスロットのことを頼んだばかりに、疲労困憊で気だるげに俺に身体を委ねている彼女だが、その表情はとても晴れやかだった。

 言い知れぬ安堵を覚えて、俺は微笑みに唇を寄せた。

 勿論、約束を果たしてもらう為だ。


 恥ずかしそうに、メディアレナが目蓋を閉じて待ってくれた。


 ようやく触れ合った唇は少しかさついていた。でもこれ以上ないぐらい優しくて満ち足りた柔らかさだった。


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