表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/61

真実を知った俺だが2

 

「アリシア……………アリシア!」


 泣き崩れる彼女の『名』を何度も呼び、俺はその身体を強く抱き締めた。

 彼女の唇が問いを口にする前に、俺の心臓の位置にその手を導く。


「アリシア、ランスロットは目覚めない。お前がいくら魔法で肉体を作り上げても魂はもう無いんだ」


 身体を少しだけ放して、涙に濡れた顔を上げた彼女は、俺の顔を食い入るように見つめた。まるで答えを待っているかのようだ。


「ランスロットの魂は、ここ…………俺の中にある」


 彼女は驚かなかった。薄々気付いていたのか、やはりという安堵と戸惑いと不安で瞳を揺らしていた。


「………………精霊は、転生しないのでは」

「普通はそうだ。だが俺は…………その、精霊にしては感情豊かになりすぎたようで、精霊として消える前には魂を生じて転生することができた」


 恋をしたから魂が生まれたなんて、照れ臭くて言えない。

 だが魔女であるメディアレナには理解できるだろう。

 時折嗚咽を漏らしながら、彼女が俺にすがって確かめようとする。


「本当に『リト』なの?本当に?」

「そうだよ」


 俺は、アリシアと別れてからのサディーン様とのやり取りを話した。


 話を聞いている間、メディアレナは俺に抱き着いて静かに泣いていた。その涙を拭いながら、どれほどの長い年月彼女が俺を想っていたのかと考える。

『もういない恋人』は俺のことだったのだ。胸がいっぱいで堪らない。


「俺は転生しても、前世の記憶を持ったままアリシアと再び巡り逢って共に生きたいと願った。だからお前を探して、魔女の弟子をさせてもらっていた」

「……………あなたが悪夢にうなされていた時、うわ言でサディーン様の名を呼んでいたと言ったけれど、本当は『アリシア』も呼んでいた。まさかとは思ったの、あなたがあのヒトの生まれ変わりなんて期待して、いつか違うと分かったらと思うと怖かった。だから聞けなくて。でももしそうなら、魔法とは無縁のあなたが私に押しかけ弟子を志願したのも納得できる……………そう考えていたの」


 俺の心臓の辺りを、彼女がそっと撫でた。とても大事そうに撫でられて、自然顔が綻んだ。

 彼女は、俺のことを忘れてなんかいなかった。

 あんな恐ろしい記憶を留めても、俺のことを忘れようとしなかった。


「レナは、サディーン様に何を頼んだんだ?」

「死んで魂だけになった時に分かったの、精霊だったリトが、このまま消えてしまうって。だからサディーン様に、前世の記憶を持ったまま転生して、私を魔女にして欲しいとお願いしたわ」

「魔女になったのは、もしかして……」


 横たわるランスロットに目を向けて、彼女は頷いた。


「魔女の力を使って、リトを人間として甦らそうと思ったの。それに悪魔憑きというだけで、あんな風に殺された私の、私なりの復讐の為。悪魔憑き………今でいう魔女に本当になって、見返してやろうって」

「レナ」

「ランスロットと、あんなに急に別れることになるなんて思わなかった。私、もっとたくさん会って話をしたかった…………ちゃんと好きだと伝えたかった。彼に笑って欲しかった。だから、もう一度会いたくて」


 肩幅も背も足りない少年の身体が歯痒い。彼女をもっと深く包んで守りたいのに。苦しんだ魂を癒してあげたいのに。


「ここに来てから何年もランスロットの肉体を創ることに心血を注いできたわ。あと少しという時に、あなたが訪ねてきた。私があなたを弟子にしたのは、実は下心があったから」

「下心?」

「実験。あの感覚を試したり肌や筋肉の質感や構造を調べたのは、ランスロットの肉体をより人間らしく創るためだった」

「そういうことか」


 皮肉なものだ。俺は俺の肉体の為に実験体にされていたとは。


「でも、私の計画はそこからおかしくなったの。私、あなたといることが楽しくて…………次第に怖くなったの。あなたの存在が大きくなって、ランスロットを甦らすことは誤りじゃないかと思うようになってきて、そんなことを思い始めた自分が嫌でたまらなかった。あなたが悪夢にうなされて、前世の私の名を呼んだ時は期待までしてしまって、それであなたが好きなんだと分かったの」


 懸命に話す彼女の泣き腫らした目蓋に口付けると、メディアレナはゆっくりと微笑んだ。


「あなたに好きって言ってもらって嬉しかった。そしてランスロットを忘れてしまうんじゃないかと苦しかった。だから、ケジメをつけようと思ったの。このままでは私はどちらも選べないから…………ランスロットの肉体を完成させて甦らせることができたら、彼にこの気持ちを伝えたかった。それに自分の気持ちが、はっきりと分かると思ったの。リトとランスロットの、どちらを私は本当に好きなのだろうかって」


 恥じ入るように彼女は俯いた。


「ねえリト、私ね…………ランスロットが目覚めないと知ってホッとしたの。自分が創ったのに……………酷いよね」


 緩く首を振った俺は、彼女が自分を責めないように、自分から望みを告げた。


「ランスロットを、楽にしてあげて」














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ