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弟子になった俺だが2

 

 地下室の壁には、天井に近い辺りに光取りのとても小さな窓が何個も備えられていて、そこから木漏れ日のような明るさが入り込んでいて暗くはない。どうやら壁の上部は地上から出ている状態なのだろう。


 よく見たら壁には魔方陣一覧表や薬草のスケッチが貼られているし、研究用道具は高価そうなものばかりだ。

 乱雑に散らばる研究道具を片付けたら、一度見たことのあるハビアル国の魔法研究施設ぐらいには充実した設備と資料があるようだ。


「う……あ………ふ、んあ………」


 そんな場所で、少年の快感と屈辱に濡れた声が聴こえる。

 俺の声だよ。


 彼女が手にした羽のようなものが、俺の首元を往復する。


「くっ、う、ふう」


 左右に首を振って逃れようとしたら、書類に何かを書き込んだ彼女が、今度は手首に羽を触れさせる。

 あ、平気だ。


「これ魔法の研究じゃないですよね?!はあ、あっああ!脇は、ダメっ、あうう!」

「感覚を操作する魔法の研究よ。リトがいて助かるわ、どうしても人間の被験者が必要だったから」

「そん、ああ、うっ」


 つつっ、ともう片側の脇を擽られて、頭を反らして喘いだ。平均より少し上ぐらいの顔の俺でも、こんな声を出して悶えたら、それなりに淫靡な構図だろ?

 しかしながら、彼女はそそられてはいない。やってることはプレイなのに、彼女の顔は遊んでいない。子どもでは食指が働かないか?変態じゃなくて魔女だものな。


「笑わないの?」

「う、笑うというより、くるしっ、ふあ」


 ハアハアと息を弾ませる俺からようやく羽を離して、メディアレナが書類にまた何かを書いている。


 おい、お前はこんな女だったか?前世の穢れを知らない乙女アリシアはどこに行った。


「どこが一番感じる?苦しいのと快感の境は、どのあたり?」

「脇は嫌ですダメです。感覚操作の魔法って、具体的にどういうことですか?」


 息が整ってきて聞けば、彼女が眼鏡を指で押し上げる。一見賢そうな眼鏡の女が、だんだんサドなだけのように思えてきた。

 なんか鞭を持たせてみたい。きっと似合うだろう、俺が変態か!


「そうねえ、例えば魔法によって体に傷を作らず痛みを与えるとか、逆に何の刺激もなく快感を得るとか……かしら?」

「快感を得る………だと?」

「リスクも後遺症もない拷問みたいなものね。魔法石で携帯して扱えるようになればいいわね。罪人への自白強要とか、倦怠期のカップルなんかには喜ばれるかしら」


 うっかり口調を変えた俺を気にする様子もなく、彼女は書類を見ながら独り言のように説明する。


 快感を魔法で得るのか?

 一人快楽に耽り喘ぐメディアレナを妄想しかけて、俺は首を振ってそれを追いやった。

 なんて淋しい魔法だ。だが俺がいる、お前がそんな魔法を自分に使う日は来ないぞ。


 薬草の中には、そうした精神に快楽をもたらす作用のものが何種類か存在する。

 なにぶん副作用が強くて最後には廃人か死が待っている恐ろしいものであり、大体は違法で栽培も売買も禁止されている。魔女として薬草にも詳しい彼女は、そこから発想を得たのだろう。


 魔女達は薬草の知識があり、それらから薬を精製する者が多い。古代の魔女は、魔法の力で薬草を育てて薬を作っていた『薬屋』の意味合いが強かったのだ。


 それが今現在も伝統として受け継がれていて、普通の魔女は魔法を生業にするよりも、効率の良い薬草を主体に生計を立てるのが一般的だ。

 魔法石に魔法を込めたりするのは需要が高いが、一日に使える魔法の量には個人で限界がある為、魔法と相性の良い薬学に力を入れる者が多いのだ。

 メディアレナは、全属性持ちの無限魔法量にして魔法バカの最強の魔女だから魔法でも稼いでいるようだが、花に水をやれる程度の魔女ではそうもいかない。


『魔女』は自然に深く根ざし生きる中で、自然の精霊の加護を受けやすくなるという。

 魔法は本来、自然の作用を凝縮したものである。


 薬草は時に魔法を補助したり増幅させることもあり、特に精霊の好む匂いだったりする為に、彼女達は薬草と切り離せない関係だ。


 だから彼女がハーブの香りを纏うのは、魔法が扱いやすいからだと思うし、自然豊かな場所に住むのは精霊が多く在るからだ。

  そうしたことを踏まえて、魔法学校では伝統を重んじることもあり魔法とセットで薬学も学ぶという。


「はい休憩終わり。再開するわ」

「え、あっ何を!うっん」


 メディアレナの指が、シャツを捲り上げる。微かに触れた指の冷たさだけで、焦らされていた体は反応してしまい喘いでしまった。

 そんな俺とは裏腹に、真剣な表情の眼鏡魔女が羽で脇腹を擽り出した。


「ぐっ、は、ふう、あ、もうやめ、あ」


 動けない俺は涙を滲ませて耐えるしかない。しかし、ふと思い至った。


「メディア……し、師匠師匠!俺、はっあ、気付いたんですがああっ」

「んー?」

「師匠を俺が擽った方が、んあっ、わ、分かりやすいんじゃ?」

「それはそうね」


 羽を口許に持っていき、彼女は考える素振りを見せた。


「ほら……どこが感じやすくて気持ちいいのか一番喘いじゃう部分とか、俺が丹念に責めて記録しますから」


 納得して早く俺を解放しろ。

 思春期のデリケートな身体を弄ぶなど、なんと罪深い魔女だ。さすがは真の魔女メディアレナ。

 今度は俺の手で思うさま乱れてみろ。


「やっぱりヤダ」

「なあ?!」

「だって擽ったいの苦手なの」


 普通に言うけれど、ねえ俺は?


「はあ?」

「足裏とかは、どうかしら?」


 座りこんで靴を脱がした彼女が、足を持ち上げて、羽を俺の足裏に当て細かく揺らしながら上下に動かし始めた。


「ぐ、うう、これはムズ痒いような!ああ、もういやだって!」

「弟子なんでしょう、頑張れ」

「おい!」


 永遠とも思える時間だった。

 過ぎたる快楽は、毒だ。なんて恐ろしい快楽責めだ。


 アンアン鳴かされメンタルを削られた俺は、午後のお茶の時間に喉を癒す薬草茶を啜った。

 温かくて優しい味だな。さっきの拷問は夢だったんだ、きっとそうだ。


「ァア、イギガエッダ」


 こんな嗄れた声、俺の声じゃない。


「明日は、もう少し強めの刺激にしてみようかしら。魔法石を振動させたのを身体中に当てて」


 横でブツブツと呟く魔女から、俺は視線を反らした。


 今のうちだ。お前が俺をアンアン喘がせようが好きにすればいい。その内、俺に倍返しで鳴かされるんだからな。

 早く大人になりたい。







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