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家に帰る俺だが

 

 物心ついた頃には、俺はアリシアの魂を探していた。


 会えないことへの不安もあったが、自分が人間へと転生していることを考えたら、サディーン様は約束を果たして、きっと彼女と巡り合わせてくれると信じて生きてきた。


 初めは、まだ見ぬ彼女を物理的に守れるようにと考えた末に剣を選んだ。

 前世の守れなかった後悔を拭い去りたかったからかもしれない。


 学園で学び、人間の自分でも努力すれば上達するのだと分かり、そしてそれなりに剣の才能もあったようで次第に相手を負かすようになると嬉しくて、反対に負けると強くなる為に更に打ち込んだ。

 俺にはそれしかない。だがそれが強みでもある。


「リト、準備できた?」

「はい、お待たせしました」


 部屋を出ると、メディアレナが帰り支度を終えて待っていて、荷物を肩に掛けた俺を見て、変わらぬ微笑を湛えていた。


「帰りましょう」


 俺はイサルとランディの騎士団への入団の打診を保留にして、彼女と家に帰ることにした。

 落ち着いてから返事をすると約束している。


 王宮の正門まで歩いて出ると、見送りの者達が集まっていた。


「メディアレナ様、ありがとうございました!また入らして下さい」

「陛下も失恋か、おいたわしや」


 祝、失恋!


 クラウが俺の肩を叩いて「早く戻って来い」と笑うのを曖昧に返す。騎士団との戦いの折り、俺に野次を飛ばしていたことを知っているぞ。


 メディアレナがセレーヌと抱き合って「また遊びに来てね」と約束を交わし手を振ってから、門前の隅の壁に新たに設置した魔法石の前へと二人で並んだ。


「少し寄る所があるから」

「はい、どこへ?」

「うん……………ちょっとね」


 はっきりとは答えず、魔法石に触れる彼女の横顔を見つめる。


 メディアレナは何も言わない。

 イサルに諭されて、俺はこれからのことを考え始めた。

 まだ成年でない俺に、実力に見合った待遇を提示してきたシェルマージ国。

 正直悪くない、寧ろ好条件だ。

 俺は、やはり剣を扱うことが好きなのだと思うし、自分の生活の一部で切り離せないものだと分かっている。それを生業にできるなら、これほど有り難いことはない。

 ただし、代わりに彼女と離れてしまうが。


 メディアレナは自立した女性だ。自分の仕事を持って、自分の生き方を通している。彼女には、あの山の上の自宅で暮らすことが確立した生き方なのだ。


 付いてきて欲しいとは言えない。でも離れたくない。だが彼女の恋人として相応しい男になりたい。

 結局俺は、優柔不断で弱い人間になってしまっている。


 来た時と同じように白い光を放つ魔方陣をくぐると、そこには一軒の屋敷があった。


「シェルマージの首都から、そんなに離れてないわ」


 青い屋根で水色の壁をした二階建ての広い建物だ。

 メディアレナが、薔薇の絡まる白い門扉に手を掛けた。


「………………すぐに戻るから、ここで待っていてくれる?」


 屋敷を睨むように見つめるのは緊張しているからだと気付き、門扉を開ける手を握った。


「レナ……………ここが、あなたの家?」

「そうよ」


 強張った手を優しく包むと、彼女がようやくこちらを向いた。


「私、いつまでも逃げてばかりで、大人げなかったと反省したの。避けていたシェルマージ国も向き合ってみたら悪いことはなかった。リトにも道が拓けたし、私も自分の狭量さに気付かされて学ぶことが多かった。だから思ったの」


 彼女が、指を絡めて握り返す。


「未来は向き合わなければ、何も変わらない。運命なんて受け入れるのではなく、自分が作っていかなければ始まらないし、あとで悔やむ資格も無い。私はもっと胸を張って生きたい。自分の生き方を誰にも卑下されないように堂々と前を向いていたいの」


 一度息を深く吐くと、彼女は今度こそ迷わずに門扉を押して歩き出した。


「…………………レナ」


 遠ざかる彼女の背中を見つめて、俺は苦笑するしかなかった。


 彼女は、やはり俺の師だ。未熟な俺に在るべき姿を見せつけてくれる、人間の師。


「お前には勝てないよ」





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