偉大な魔女を目にした俺だが2
「メディアレナ様、お酒はほどほどにして下さいよ」
「リト、心配しないで」
宴席に座ったメディアレナが、隣に座る俺を得意気に見つめて、秘密を打ち明けるように声を潜めた。
「私ね、ついこの間お酒は辞めたの」
「そうなんですか?!知らなかった」
「頑張ったでしょう?」
「すごいです」
褒めてあげると嬉しそうに、はにかんでいる。
横髪が頬に掛かっていたので耳にかけて直してやっていたら、彼女の向こう側にいたセレーヌが俺達を見ながらニヤリと唇を上げている。
最初に宴席に案内された時、メディアレナはイサルの隣に席を用意されていたのだが、さっぱりと断って隅っこの俺の隣に座ってくれたのだ。
「でもメディアレナ様、僕が成人したら記念にお酒を飲み交わして下さいね」
セレーヌの視線を無視して言えば「ええ勿論、楽しみね」と彼女が返す。
あと四年か。とても長く感じるぞ。
ところで俺はそれまで、メディアレナとどこまで進んでいいだろうか?
急遽用意された宴席の膳は、特に目を引くような珍しかったり高級なものは無いが、心尽くしのご馳走が並んでいる。庶民が好むような軽くつまめるような物もあり、言うなれば一般のパーティーに近い。
「美味しい?」
「はい」
ふむ、なかなかだ。俺が作る料理と同じぐらいの腕前だな。
食べ方が綺麗だが、彼女はそこそこ食べる。丁寧に咀嚼して味を楽しむ姿は見ていて気持ちが良い。
メディアレナの横顔を眺めていたら、鋭い視線を感じたので辺りを窺うと、遠くの向かい側に位置するイサルが、こちらを見ながら騎士団長に何か話していた。
……………良からぬことを話している気がするぞ。
そうこうしていたら、ミランダや他の王宮魔法師と魔法学園の関係者である魔女達がメディアレナを取り囲み、魔法の講義のような話が始まってしまった。
蚊帳の外の気分で一人コロッケを食べていたら、いきなり後ろから肩を抱かれた。
「リト、淋しそうだね」
「うお!セレーヌ………様ですか」
「レナが他の子と話しているのが気に食わないようだな」
「放っといて下さいって、飲み過ぎですよ」
近くで見ると、セレーヌの緑の目は据わり、朱に染まった頬をしていた。しかも身体が左右に揺れていて、美酒の香りを身に纏っていた。
イケメン美女でも、酔うとこうなるのか。
「しばらく見ない間にレナと進展したようだね」
「邪魔はしないで下さいね」
「そんなつもりはない。ただ欲を言えば、もう少し大人の男であればとは思うが」
「直ぐに成長してみせます」
むくれてお茶を飲めば、今度は頭を撫でくりまわされた。
「せ、セレーヌ様」
「君は良い男になるさ。君ほどレナを慕う人間はいない。どうかあの子を幸せにしてやって欲しい」
酔っぱらいの言葉ではあるが、それでも他者に認められたことが思ったよりも嬉しい。
俺は礼だけ述べて、そっと嬉しさを噛み締めた。
その後は夜まで宴は続き、途中クラウやミランダに絡まれて、メディアレナへの気持ちを問い詰められたり、なぜか髪の編み方のアレンジを教えてもらったり、ハビアルの学生時代の話や互いの愛用武器の自慢なんかで、そこそこ迷惑…………じゃなかった、楽しい時間を過ごした。
あまりメディアレナと話はできなかったが、明日帰宅すれば二人きりでいられるし、宴が終わり部屋に戻る時にはお休みのハグをしたので、まあ良いとしよう。
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朝早く、扉を強めにノックする音で目が覚めた。
「エリオット君、起きてるか?おい、団長から呼ばれてるぞ」
「うるせえ…………………」
クラウの爽やかではない声に、苛立ちながらも扉を開けた。
「何ですか?朝早いですね」
眠い目を擦りながら聞けば、部屋の外はまだ薄暗く明けきっていないようだ。クラウは困ったように頬を掻いて「悪いな」とだけ言うと、俺を追い立てるように着替えさせて外へと引き摺って行く。
「まったく、何をしたんだエリオット君」
「だから『君』はいらないです。こっちが聞きたいんですが?」
連れて来られたのは、王宮に併設された騎士団の野外練習場のようだった。雨でぬかるんでいただろうそこは、新しく土が入れられて整備されたばかりらしい。
かなり広い円形の練習場には騎士団の者達が大勢いて、俺を見るなり黙って道を開けて行く。
「朝早くに呼び出して悪いな、エリオット」
騎士団長ランディが中央に立っていて、俺を待っていた。
「実はな、公立ハビアル騎士学園を飛び級して卒業した魔女様の弟子に皆興味津々でな。一度手合わせをしたいと思って呼んだんだ」
何かあると思ったら、成る程な。
「それは誰の指示ですか?」
「何?」
「本当は陛下に命じられたのでしょう?」
目を細めて聞けば、ランディが微かな罪悪感を浮かべて後ろを振り返った先には、やはりイサルが場外のベンチに座ってこちらを意地悪そうに笑って眺めていた。
「いいですよ、やってやろうじゃないですか。相手は、あなたですか?」
「………………いや」
両手の指を広げて突きつけたランディが、哀れむように呟く。
「10人抜きだ。まず見習いが相手をする。それから勝つごとに少しずつレベルの高い奴と手合わせしてもらう。最後が騎士団長である俺だ」
「…………………イジメって知ってます?それか未成年に対する虐待」
「………………俺だって本当は嫌なんだ。だが陛下の命令には逆らえん」
イサル、同情してやった過去の俺を返せ。
「わかりました」
模擬刀を持たされて、俺は騎士見習いの男と対峙した。
そいつは僅かに年上らしく、はなっからナメた目で俺を見ている。
「よろしくな、チビッ子」
身長は標準だ!
さすがに寛容な俺も我慢ならないぞ。
「……………掛かって来たらどうです、ガキが」




