振り向かせた俺だが4
「まさかそんなことで…………」
背後に控えていたミランダが声を上げた。
「魔法学園では、そのようなこと習いませんでした。精霊が怒ることなどあるのですか?」
「滅多にないでしょう。一つの魔法を少々使っても、簡単には悪影響が出ることはありません」
顎に指を置いて話すメディアレナに、イサルが目元を隠しながら呻いた。
「…………………心当たりはあります」
「雨が降り始めた時期は3ヶ月前でしたね?」
「おそらく即位式です」
「ああ、あれですね!」
合点がいったランディが俺達に語ったのは、即位式のド派手なパフォーマンスだった。
まず魔法学園への支援金をちらつかせて、嫌がるセレーヌを引っ張りだし、樹木魔法により巨大な木々を組み上げたものを会場に設営する。
そこに王宮魔法師ミランダの雷魔法により、雷を順序よく落としていく。
最後に国王直々に、火魔法により一斉に火が夜空高く噴き上げて、祝砲代わりに多くの球状の火を放ち、更には花火の打ち上げも火魔法で行った。
それを三夜続けて開催し、シェルマージ国民へ深く印象付けたという。ちなみにステージショーでは、魔法学園有志による魔法の実演が色々行われて、即位の記念品として薬草や薬、化粧品が国民に贈られたという。
「わあ、楽しそうね。見たかったわ」
「巨大キャンプファイアですかね」
目を輝かすメディアレナに、まあ俺も同意するが、やろうと思えば彼女一人でも可能なことのような気がする。
「樹木魔法に雷魔法に、それに火魔法……………火の精霊を活発にさせる要因がこうも揃っていては、水の精霊に影響が出るのは不思議ではありません」
言い置いて「セレーヌ、相当嫌だったのね」と同情を見せるメディアレナ。
「何てことだ。私はただ国民を喜ばせたかっただけなのだが………」
本当は自分アピールだろ?
苦渋を顔に滲ませて、イサルはメディアレナを見ている。
「メディアレナ様、責任は私にもあるのです。陛下ばかりを責めないで下さい」
ミランダが悲壮な声で彼女の前に回り込むと、がっくりと座り込んだ。相当落ち込んでいるようだ。
「この長雨で増水した川の氾濫や地滑りも起きている。幸い早めの避難を呼び掛けて死傷者は出ていないものの、家屋や農作物への影響は計り知れない………………このまま雨が続けば更なる被害も予想される」
イサルが肩を落としながら呟いた。
この王様の第一印象が悪かった為に、てっきり独裁的で我が儘な奴かと思っていたが、見る限り本気で国民の為に苦悩しているようだ。
「とりあえず雨止めましょうか?」
当たり前みたいにメディアレナが言って、ミランダの肩に慰めるように手を置いた。
「メディ………」
「ただし条件があります。私が雨を止めたら、自宅に帰らせて下さい」
「できるのですか?!ならば私が叶えられる範囲なら、どんな願いも聞き届けましょう」
「帰宅を許してもらえたら結構です。では早速………」
くるりとドレスを翻し、メディアレナが謁見室から出て行く。
「け、見学させていただいてもよろしいですか?」
「どうぞ」
ミランダは同じ魔女として興味津々らしく、彼女の後ろを嬉々として付いて行くのに続いて、ランディやイサルも遠慮がちに距離を開けつつ扉を出た。
扉を守っていたクラウがランディから話を聞いて、どこかへ駆けて行ったと思ったら、王宮中が騒がしくなってきた。
雨の降りしきる中、庭へと出たメディアレナが傘を断り、辺りを見回して苦笑した。
「これもパフォーマンスかしら?」
遠巻きに人々が見守り、王宮の窓からも彼女を見学する者で溢れた。
「大丈夫ですか?」
一緒に濡れながら聞くと、深呼吸をしながら彼女が笑う。
「うん……………ねえリト、力を分けて」
冗談っぽく言われて苦笑した。
珍しく緊張しているらしい彼女の背を撫でてから、結い上げた髪を解いた。パサリと下りた湿った髪を素早く手で梳いて、彼女のお気に入りに編み上げ直した。
「いつも通りに、ね」
髪先に唇をつけてから言うと、彼女が照れながら深く頷いた。
メディアレナならできるだろう。信じているというよりは、俺には当たり前に思えた。




