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下剋上を狙う俺だが3

 

 俺はメディアレナを見下ろした状態で、答えを待った。


 濡れた服は、強烈な風魔法と夏の気温に晒されたせいで乾いていたが、彼女の腹を跨ぐようにして座っている足はジンジンと痛んだ。肩や腕など、あちこちも足ほどではないが痛むので、気付かない内に切り傷や痣を作っているのだろう。


 メディアレナは黙ったまま俺を見上げている。

 潤んだ瞳をして唇を引き結び、頬を朱に染めた彼女は、まるでか弱い少女のようだった。


 もう取り返しはつかない。これからどうなってしまうのか不安があるが、告白したからには後には退けない。

 居心地の良かった師匠と弟子の関係だったが、俺はそれに満足できなかった。これは俺の一方的な我が儘のようなものだ。


 人間とは、かくも矛盾した生き物だったのか。博愛精神で彼女を見守るだけでは飽き足らず、求めてしまうとは。

 アリシアを愛していた時の方が、まだ自制できていた。それは、俺が人間ではなく精霊だったからだろう。

 だが今でも尚、あんな辛い別れ方をしたことを俺は悔いている。


 今度こそは後悔したくない。

 最初は、その気持ちを強く抱えて彼女の魂を愛していた。でも今の彼女と共に過ごす内に変わった。彼女がアリシアではなくてもいいと思えるほどに、俺はメディアレナが好きになった。

 だから、俺は彼女を求める。


「……………………リトが」


 ようやく彼女の唇から小さな声が発せられ、俺は聞き漏らすまいと顔を近付けた。泣き出しそうに顔を歪めている彼女は、心の中で葛藤しているらしく、口を小さく開けたり閉じたりを繰り返した。


「あなたが私を、そういう風に見ていたのは…………知っていたわ」

「…………………そう、だったんですか」


 いつから知っていたのだろう。まあ俺は出会った時から彼女に好きだと伝えていたが、メディアレナには『魔女への憧れのような好き』の意味合いに聞こえているだろうと思っていたし、彼女をかなり鈍いのだと決めつけていた。

 だが「知っていた」ということは、そうした好意に鈍いように振る舞っていたということだろう。


「気付かないフリをしていたのは、死んだ恋人への義理立てですか?」


 俺の気持ちを知っていながら、つまり彼女は逃げていたということだ。つい恨みを込めた言葉になってしまった。


「ぎ、義理なんかじゃないわ!私は今もずっと」

「その人を好きとか忘れられないとか関係ないんです!メディアレナは、俺をどう思っているんだ!?」


 死んだ恋人のことを知っていたことも分かっていたのだろう。彼女は驚くことはない代わりに声を荒げた。

 彼女は怒っているというよりも悲しそうで、頬に触れる俺を懸命に見返している。


「私は……………」

「『ちゃんと俺を見て』と言った時、あなたは攻撃を止めた。それは少しだけでも俺のことを想ってくれているからじゃないのか?」

「あ…………」

「あなたは強い。俺は今まであなたに一度も勝てなかった。それなのに俺が何を願うか分かった途端に逃げようとして、その癖最後には俺に捕まった。本気で嫌だったら俺を負かせていただろうに、あなたは俺に負けた。それは俺のことを」


「やめて」


 メディアレナが遂に両手で顔を覆った。


「約束です。俺を見て、俺を…………」


 顔を覆う彼女の手の甲に唇を押し当ててから、欲を晒け出した。


「愛して」


 両手で隠し切れずに、メディアレナの頬を一筋の雫が滑っていく。

 泣かせてしまったことに動揺して謝りそうになるが、自分の言葉を撤回する気はないので堪える。

 この雫分、彼女の心を揺り動かしたのだと信じたい。


 指で雫をできるだけ優しく払うと、彼女の上から体を退けた。

 俯いて髪で顔を隠し、彼女がふらりと体を起こした。


「メディ」

「……………ダメなの。これでは私が魔女として生まれた意味が、ない」


 抱き締めようと肩に触れた俺を、上向いた彼女が頼りなげに見つめる。


「え?」


 意味?

 彼女の言葉の真意が呑み込めずにいたら、考えるように一度地面に目を落としたメディアレナが囁いた。


「リト………………あなたは一体」


 言いかけたメディアレナだったが、ふいに目つきを険しくすると、いきなり俺を突き飛ばした。


「な?!」


 怪我を負った足のせいで、身軽に動くことができず倒れた俺が地面に手を付いて起き上がったら、さっきまでいた所に火柱が上がっていた。


「メディアレナ!」


 立ち上がった彼女は、魔法で周りの風を操って火を防いでいるらしい。


「トラップを破られたのに気付かなかったのかい、メディアレナ?」


 そう言って、こちらへ歩んで来る男が火魔法を使ったのだろう。なかなか整った顔立ちをしていて、高級そうな服を着こなし、背後には従者らしき一人の若い女と数人の男達。


 何度か話に出てきた男だと分かって、不愉快さが増した。


 殺されかけて、邪魔をされた。初対面だが印象最悪なそいつを睨み付けると、馬鹿にしたような薄笑いが返ってきた。

 その笑いから、一部始終を見られていたことが予想がついてしまい急に顔が熱くなってきた。

 見られていたことさえ、更には侵入者用トラップが突破されたことさえ分からなくなるほど、俺もメディアレナも互いに気を取られていたということか。


 チラッと振り返り、俺の怪我の状態を確認したメディアレナだったが、目の前の男に向き直ると、ワンピースの裾を軽く持ち上げて貴族らしい礼を取った。


「シェルマージ国王イサル陛下、ご無沙汰しております」

「本当に…………君は益々美しくなった」


 イサルに完璧な所作で挨拶し変わらない微笑みを浮かべるメディアレナを、急に遠くに感じた。





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