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精霊が見えない俺だが

 

 朝、目を開けると、約束通りメディアレナはまだそこにいた。


「おはよう、リト」


 うつ伏せでベッドに肘をついていた彼女は先に起きていたらしく、俺が目覚めたのに気付くと身体を起こした。


「…………おはようございます」


 俺の髪を撫でると、彼女がベッドから立ち上がった。


「今日は私が朝御飯作るから、リトはゆっくりしていて」


「先にシャワー行ってからね」と、薄いワンピース型の寝巻き姿の彼女が離れていって、思わず伸ばした手を慌てて引っ込める。


 戸が閉まって一人になると、俺はベッドに半身を起こしたまま両手で顔を覆った。


「…………………うああ、何てことだ」


 昨夜の醜態を思い出して、羞恥でベッドの上を転がった。まるで子供みたいに泣いて彼女を引き留めてしまった。

 これでは彼女の母性は擽るだろうが、異性として意識なんて論外だ。


「ああ、情けない」


 あんな夢を見たばかりに。いや、俺が望んで忘れないようにしたわけだが、それでも思い出したくはないものだ。


「そうだ、俺…………」


 口元に手を当てて考える。

 悪夢にうなされて何か口走っただろうか。


 着替えを済ませ階下に降りたら、メディアレナはシャワー中らしくてリビングにはいなかった。剣を手にして玄関を開けると、夜中に雨が降ったらしく野は湿っていた。


 一人剣を振り、いつものように鍛練をする。悪夢の名残を振り切るように身体を動かしていたら、すぐに汗が滴った。夏の雨上がりの、もわっとした湿気と相まってベタベタした身体が気持ち悪い。


 30分ほどしてから家に戻り、汗を流そうと脱衣場の戸をノックした。シャワーの音も声もしないのを確認してから扉を開けた。


「うな、お!?」


 とっくに風呂から出たと思っていたメディアレナが、脱衣場に付いている鏡を全裸でぼんやりと見ていた。


「………………………ん?」


 強烈な視線に、ようやく気付いたらしい。メディアレナが、ご丁寧に体ごとこちらを向いた。


 水気をたっぷり含んだ黒髪が、白く艶かしい体に流れていた。滴る雫が玉のように輝く肌を伝い、豊かなふくらみ、に……


「ぶふうっ!?」


 ボタボタと赤い液体が俺の鼻から噴き出し顎を伝い、俺はガクリと膝を付いた。


「リト、血が!」


 床に広がる血溜まりに、メディアレナが慌てて駆け寄って来た、全裸で。


「メディ、まっ、来ないでくださ、ふぐ」

「見せて」

「いや、あなた見えて」


 彼女の指が、俺の鼻の頭に魔方陣を描く。

 哀しいかな男の(さが)で、入り込む液体を荒い呼吸で阻止しながら、俺は目だけは全力で見開いて彼女を映した。

 近い、近いぞ!


「ほら、治ったわ」

「う、うう」


 座り込んで微笑むメディアレナの横を這い、震える手で籠からバスタオルを取り出した俺は、それで彼女の体を包んだ。


「あ………」


 自分が裸だという事実を今思い出したらしく、メディアレナはタオルの前を合わせて、ほんのりと頬を染めて恥じらった。


 く、可愛い、悶え死ぬ!


「ご、ごめんなさいね、ぼうっとしてて」

「い、え………ぐっ」


 正直な体をもて余し、俺は鼻を押さえて這いながら脱衣場をなんとか脱出すると、戸を閉めた。


「なんて…………攻撃力だ」


 前世の俺が見たら、情けなさで頭を抱えるだろう。心は大人でも体はそれに追い付かず、視覚的な刺激が強すぎたのだ。


 それにしても、メディアレナは落ち着きすぎじゃないか。

 俺に見られても緩い反応だったな。子供だからって、俺は男なのに。


 悔しい気持ちと素晴らしいものを見た幸福が入り交じりながら、俺は彼女の作ってくれた朝御飯を食べた。


 隣でジャガイモのスープを飲む彼女をチラチラと気にしていたら、ふいに目が合ってしまった。決まり悪くて俺が俯くより早く、彼女が口を開いた。


「リト」

「はい」

「昨夜は……………」


 言い澱む彼女に、自己嫌悪を覚えながら謝った。


「昨夜は、申し訳ありませんでした。色々と気遣ってもらって、そのガキみたいに泣いてしまって……………」

「いいのよ、気にすることないわ」

「それと、さっきの…………ことも」

「ああ、あれは私がぼんやりしてたから鍵も掛けずに………気にしないで」


 気にしてくれ!

 逆に落ち込んでしまった俺を、メディアレナがフォークを皿に置いてじっと見つめてきた。


「リト、夢は…………どんな夢を見たの?」

「……………………それは」

「嫌だったら言わなくていいの、ただ」

「ただ?何かうわ言で言ってましたか?」


 内心の動揺を隠しつつ、俺は彼女を窺った。


「名を呼んでいたような…………」


 そうか名前………だが現世のメディアレナには分からないはずだ。適当な作り話で誤魔化すか?だがいつか話す時に、それではややこしくなるだろう。いっそ打ち明けるか?

 信じてもらえるだろうか?


 考えると、ふいに疑問が湧いた。


 待てよ、彼女が前世を知ることに意味があるのか?知れば、俺を見る目が変わるとでも思っているのか?


 前世で好きだったから、今も好きになると…………それは本当に今の俺を見ているのか?

 俺は『メディアレナ』をちゃんと好きなのか?


「リト、大丈夫?」

「え、ああ、それで僕は何て言ってましたか?」

「それが………」


 メディアレナは俺の反応を見ながら小声で答えた。


「サディーン様、って」


 そっちか!









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