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前世は悪魔みたいな俺だが2

 

 闇の精霊は、森羅万象から生まれた精霊の中でも変わっている。例えば火の精霊が火の中に潜み、火を食して、火を生じさせるエコな生態であるのと違い、闇の精霊は物理的な闇以外に精神的な闇を食する。


 原初の時代、闇から世界は生まれた。闇は光の精霊を生み出し、自然の精霊を増やした偉大な父であり母だった。それがサディーン様だ。


 最初は闇の精霊は、光の元でできる影や宵闇から生じる精霊であったのだが、人間が生じてから様相は変わっていった。


 その複雑な精神から、人間達は心に闇を抱きやすかった。妬み、怒り、憎しみ、殺意、悲しみ、絶望にあらゆる欲望。

 属性柄、相性の良い闇の精霊には、それは極上の美味だった。


 次第にそれぞれの欲望や感情を専門に食する精霊が増えていき、ゆるやかに形を変えていった精霊の一つが俺、淫欲を食する淫魔インキュバスだった。

 淫魔や悪魔など、人間が勝手に付けた名称に過ぎない。だから悪魔は実は全て闇の精霊のことなのだ。インキュバスや女の形をした淫魔サキュバスは他の悪魔と同じく数を増やしたが、それは人間の増加と比例する。


 俺はその中でもサディーン様の覚えめでたく愛称で呼ばれるほどで、あの方から孫のように可愛がられている。(精霊は皆彼の子供みたいなものだが)


 他のインキュバス達が話してくれたのだが、俺は精霊にしては感情が豊かで人間臭く、サディーン様はそうした部分を気に入ったのだという。

 俺は淫魔の中でも古株で、数えきれない人間の女と爛れた関係を結び、数千年間彼女達の淫欲を食してきた。だからかもしれない。

 淫欲にスパイスのように含まれた悲しみ、苦しみ、嫉妬、諦め、中には幸福や恋、愛情…………そんな味付けを愉しんできたから、取り込み続けた俺自身に人間達の心というものが徐々に浸み込んできている気がした。


「また来たの?」


 暗い部屋の中、いつものように箒を片手に構えるアリシアが、俺を見てホッとしたような顔をした。なぜそんな顔をしたのかは分からなかったが、怯えたりされるよりはマシだ。


「………………話がしたいだけだ。今夜は何もしない」

「あなた、痩せた?」

「………………なぜだろうな」


 虚ろに笑い、長い足を組んで椅子に座った俺を、アリシアが気味悪そうにじっと見つめる。


「もしかして、私が………その…………?」


 言葉にできない彼女を、真っ直ぐ見据え俺は言った。


「そうだ。お前が俺と××××しないから×××××で得られる×××を食せないせいだ、ぐほおっ!」

「いやああ!!」


 はっきりと教えてやったのに、いきなりパンチが炸裂して椅子から吹っ飛んだ。


「俺がインキュバスだと分かっているクセに、なぜ驚くのだ!?」

「驚いたんじゃない!あ、あなたがはっきり言い過ぎるから!」

「今更…………」


 頬を赤く染めて涙目になって睨む彼女に言葉を飲み込んだ。可愛い、お前がサキュバスか。


「…………………………アリシア」


 思考が上手く働かないでいたら、恥ずかしさから立ち直った彼女が怪訝そうな顔になった。


「でもそれなら、私なんかより他の女の子を狙ったら手っ取り早く食べられるんじゃないの?だって私、あなたなんかに一生絶対にそんなものあげるわけないもの」

「はうっ!!」


 起き上がりかけていた俺だったが、急に胸に鋭い痛みを感じて蹲った。

 どうしたというのだ、精霊たる俺に死にそうな苦しみを与えるとは、この女ただ者ではないな!


「ああでも、他の女の子があなたの毒牙にかかるのは許せないわ。それなら私が」

「え?私が何だ?」


 パッと顔を上げたら、真剣に考える彼女が息をついた。


「やっぱ無いわ。うん、死んでも絶対に嫌」

「く、うう」


 顔を背けて俺は呻いた。これは悲しい、のか?


 一定の距離を保って反対の椅子に座った彼女が、そんな俺を再び気色悪そうに見ている。普段の俺は人間には見えない。夜に限られるが、ターゲットの女にだけ俺は見えるし触れることもできる。

 アリシアに狙いを定めたのは、家族を幼い頃に亡くして、この小さな家に一人暮らしの淋しそうな女だったからだ。孤独な女ほど、俺に一度捕らわれたら溺れるものだと知っている。


 だがなぜか魅了の力が効かず、俺の容姿にも全く興味を示さないアリシアは手強い。これほどの強敵がいたとは、俺もまだまだのようだな。

 ちなみに淫魔は、あの手この手を使って相手の合意を得てから関係を持つ。無理強いすれば、淫欲よりも恐怖や絶望のスパイスが強くて不味いからだ。


 しかし不可解だ。今夜は「押してダメなら引いてみろ」作戦を実行するはずだったのに、俺ばかりダメージがくるのはどうしてだ。


「あなたも変わった悪魔ね」

「悪魔ではない精霊だ」


 これでも自然の一部だ、もっと敬え。

 それに人間は、俺達精霊に闇を食されると少しばかり心が軽くなってスッキリする。一時期のこととはいえ、心の闇を消してやっているのだから感謝してもらいたいぐらいだ。


 心を読むわけではないが、人間である限りアリシアにも闇はあるはずだ。


「アリシア、素直になるのだ」

「いや、素直に拒否してます」

「く、俺に心を開いてみるのだ。悪いようにはせぬ」

「インキュバスに言われても、信じられない」


 アリシアは、俺を疑いと警戒の眼差しで見ている。箒は未だ手の中だ。


「そもそも女の子に、会って直ぐに迫るなんて男のすることなの?」

「へ?」


 インキュバスにそんなこと言っても………


「親しくなるには順序があるものよ、長生きしてるのにそんなことも学ばなかったの?」

「えっと、どうしろと言うのだ?」


 説教をくらった俺は、混乱したまま居ずまいを正した。


 そもそも俺は、なぜ意地になってアリシアを諦めないんだ?

 下手(したて)に出てまで彼女に師事を仰ぐ俺は、人智を越えた精霊だぞ?


「まずは友達から始めるものでしょう?」

「は?」


 当たり前のように言われて、ポカンと彼女を見つめた。

 俺の顔が可笑しかったらしく、アリシアが「ぷふっ」と吹き出した。


「変な精霊ね」

「…………いやお前が変」


 初めて微笑んだアリシアに、俺の胸が妙に温かくて騒がしい。


「よろしくね、ランスロット…………ランス?」

「……………………リト、だ」


 薄暗い部屋にいるのにアリシアが眩しくて直視できないぞ、なぜだ?


「でもリト、友達になったからって、あなたが望むものは絶対に一生あげないからね」


 おかしい、目から液体が出そうだぞ。



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