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前世は悪魔みたいな俺だが

 

 ああ、また夢を見ている。

 見たくない、何度見たって辛いばかり………前世の…………


 *******************


『ランスロット』

「はい、サディーン様」

『そなた随分痩せたようだが、しっかり食しておるのか?』

「は………はい、勿論でございます」


 ひざまずいた俺は、水晶でできた椅子に腰掛けた上司の視線から逃れて俯いた。


 クソッ、あの女!あいつのせいで俺はこんなにひもじい思いを!


『ランスロット』

「………………………」

『聞いておるのか、リトよ』

「は、はい!失礼致しました!」


 あの女の顔を思い出し、屈辱に打ち震えていて呼び掛けに気付かなかった。


 サディーン様は白髪の長い髪を垂らし、白く豊かな髭を蓄えた老人の姿を普段はとっている。髪には蔦の冠を付け、身に纏った闇色の衣に散る星が時折煌めく。


 全ての精霊の王である上司は、闇と時を司る偉大な方だ。そもそも精霊に体はあってないようなもの。

 サディーン様は闇に溶け込んでたゆたう時もあれば、幼児になったり美女になって強欲な人間の元へと出向き闇の心を食す。


 サディーン様に近しい闇の精霊たる俺も闇に溶け込むことはあるが、都合上大体は見目麗しい美青年の姿をとっている。

 性別は闇から生じた時から男性だ。そうでないと食料に困ることになっていた。


 金髪碧眼にして、背は高く均整の取れた肢体。鼻筋は通り、やや垂れ目で厚めの唇は、人間の女が見たら色気に当てられること間違いない………はずだった。


「くっ!」


 それなのに、あの女…………


『……………ふむ、そなたが人間に手こずっておるのか?珍しいことよな』

「え、そんなことはありませぬ。そのような、人間ごときに」


 自分でも分かりやすいと思うぐらいにわたわたと動揺してしまったら、サディーン様は『やはりな』と目を細めた。心を読むわけではなく、感情の機微を目敏く察知される方だなのだ。まあ俺は分かりやすいと定評だが。


『飢えて消滅する前に、意地を張らず見切りをつけ次の人間を探すのだな』

「はい………分かっております」


 一礼して顔を上げた時には、サディーン様は陽の落ちて染まった闇に紛れて消えていた。


「………………誇りにかけて、諦めぬ」


 気持ちを新たにし、俺は今夜も憎き女の元へと向かった。


 闇の精霊である為に夜にしか活動できないが、闇は自由自在に俺をどこへだって運ぶ。

 戸や窓に、どんなに厳重な鍵を掛けていても無意味だ。闇のある所全てが俺の庭のようなもの。


 闇から形を成して、傍のベッドを窺う。こんもりと盛り上がった布団を見てニヤリと笑む。


「ふん、無防備に眠っている」


 頭まで被っている布団を剥ごうと手を伸ばした瞬間、殺気を感じた。


「この痴漢!」

「はぐっ!?」


 背後から頭を箒の柄で叩かれて、目を回した。

 精霊にしては実体をとることに秀でた俺には、それなりに痛覚や触感が備わっている(都合上)

 怪我はしないから、それが原因で死にはしない。

 だが痛い。痛いと感じる。


 それを知っている女が、ボコボコに俺を叩く。

 あ、ベッドの膨らみはクッションを入れたカモフラージュだな。


「また懲りずに来たわね!」

「ぐあ、はが、くあ、やめろ」


 残念ながら俺は防御力、攻撃力共に低い。頭を抱えて、なんとか振り向いたら顎をはたかれて仰け反って倒れた。これでも精霊だ。


「いい加減諦めなさいよ!」

「ふぐっ!」


 例え小柄な女だろうが、思いっきり腹に乗っかられたら呻くものだ。

 赤茶色の肩まで伸びた髪が俺の頬を擽り、焦げ茶の瞳が睨み付けている。


「どうして私を」

「くらえ」


 呆れたように口を開きかけた彼女に、碧眼を光らせて魅了の力を放つ。


「……ん?なに?」

「……………なぜ効かぬのだ?!」


 蚊でもいたかと不思議そうに周りを見回す女に、手首を押さえつけられたまま叫んだ。


 やはり効かないだと?

 なぜだ?俺の魅了は、今まで失敗したことなどないのに。力に当てられたものは皆、俺にメロメロになって「どうにでもして」とねだるはずなのだ。


 ところで、この押さえ込まれた感じ、逆なら興奮するのだが。


「効かぬも何も、私はあなたなんか好みじゃないの。あなたが美形だからって、女が皆外見で判断するなんて大間違いよ。あなたなんて一皮剥いたら…………闇だし」

「く、おのれ、ハアハア」

「何興奮してるの?!」


 どうしてこんなに力が強いのだ?足はバタバタできるが、押さえつけられた手と上半身は全く動かせない。あいにく筋肉マッチョではなく、優男風なので腕力には自信がない。あるのは美と色気だ!


「あ、アリシア………何もしないから手を離してくれないか?」

「そう言って何度襲おうとしたっけ?」


 名を呼べば、ぴくりと眉を動かして、女は不快げに俺を見下ろしている。

 その瞳に軽蔑が混じっているのは、他の女でもよくあることなので気にならないはずだったが……………なぜか傷付いた。

 アリシアのように穢れを知らぬ清楚な乙女に、殊更俺の食指が動く。

 そういう女を暴いて快楽に堕とせば、極上の糧が味わえるのを知っているからだ。


「仕方ないだろう、俺は闇の精霊なのだから」

「精霊ねえ…………悪魔でしょう?あなたインキュバスなのだから」

「そうだが、悪いか?ああそうだ、俺はインキュバスさ」


 何も卑下することではないぞ。もう一度名乗ってやる!


「インキュバスのランスロットですが何か?」







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