おねだりする俺だが2
昼食を食べてから、メディアレナに頼まれた俺は薬草の採集に出掛けた。家の裏から歩いて下った湿地帯を中心に、彼女の記した絵と特徴を頼りに探すと、次々とお目当ての薬草が生えているのが見つかった。
「これは葉がギザギザで茎は赤いし、花が黄色だからジェレムの薬草で間違いないな」
根がいるので、数本引き抜いて土を払い背負っていた籠に入れる。花や葉の場合は、そこだけ摘み取って小さな袋に入れた。
この時期は最も薬草が採集できる気候だが、 この山自体が他の場所よりも薬草が群生している土地であり、彼女がここを棲み家とする理由の一つとなっている。
メモに書かれた彼女の字は、大きく丁寧で読みやすい。私生活は大雑把でも、メディアレナは一方では仕事に責任を持っていて熱意がある。字がそれを表しているように見え、それなりに魔女であることを楽しんでいるのだろうと俺は思う。
デートの時に話してくれたように、彼女はあまり幸せとは言えない子供時代を過ごした。魔女だからと利用されたり悪意を持たれたことも多かっただろうに、彼女の弱った姿を殆ど見たことがない。
いつものんびりとした態度で微笑を浮かべていて、世界のことなど知らないとばかりの態度で達観しているメディアレナ。
彼女の心の奥底には何があるのか。きっと俺は知らない。
一人になると、ついそんなことばかり考えてしまい、気持ちを切り換えようと頭を振った。
弱いのは俺の方だ。
粗方取り終えた俺は、家に入って驚いた。
壁一面に色とりどりの紙で作った輪飾りが囲んでいて、赤や青や黄色の風船が部屋を飛んでいる。
「……………これ」
「リト、座って」
いそいそと手を引かれて、上座の椅子に座らされる。
素早く台所へと消えた彼女が、抱えるようにして大きなケーキを運んできた。
フルーツと生クリームが、たっぷり乗ったそれを俺の前に置くと、隣に座ったメディアレナが小さく誕生日の歌を歌う。
あらかじめ灯された蝋燭がちろちろと揺れているのを見ながら俺は、むず痒いような恥ずかしさで口元を隠した。
ケーキを作っているのは分かっていたが、飾り付けまでして祝われるとは思わなかった。昨日から用意してくれていたに違いない。
「14歳のお誕生日おめでとう、リト…………エリオット」
紹介状に書かれていた俺の誕生日を、彼女はちゃんと把握していたのだろう。
照れを隠して、急ぐようにして蝋燭を吹き消すと拍手が起きた。幼い時は両親にも似たような感じで祝ってもらったが、学園に入ってからは贈り物で済ませていたので、自分が急に幼くなったように錯覚する。
「ありがとう、ございます」
でも彼女が楽しそうだし、わざわざ用意してくれたことが嬉しい。
切り分けたケーキが俺の前にデンと置かれたのを見れば、ほぼホールケーキの半分だった。
「美味しかったらいいのだけれど、作ったことなかったからどうかな?」
期待と不安の混ざった彼女の視線の元、フォークで一口食べてみる……………うん、ぼんやりした味。
「美味しいです」
「……………うん、気を遣ってくれてありがとう。砂糖が足りなかったかなあ」
「でも甘すぎないし、食べられますから」
自分のを食べてみて残念そうに肩を落とす彼女の前で、俺は完食してみせると笑いかけた。
「メディアレナ様、こんなにお祝いしてもらっただけで、俺は嬉しいです」
「うん…………」
ケーキの味がイマイチだったのが悔しかったのだろう。俯いて、モソモソとケーキを食べる彼女を見ていて、ふと思い付いた。
「メディアレナ様、僕プレゼントが欲しいんですが」
「ごめんなさい、何がいいか分からなくて用意してないの。今度買いに」
言いかける彼女の唇に指を置いて制止する。ぷにぷにしてる!
「も、物はいらないんです。ただ…………」
少し迷って言い淀む。
「キ…………だ、抱き締めて欲しい………です」
キョトンとする彼女から、目を逸らす。
や、やり過ぎただろうか?でもキスをねだるよりは、おかしなおねだりではないはず。大人の男がねだったら引くだろうが、俺は少年だ。まだ許されるはず………
「そんなのお安い御用よ」
後悔しかけていた俺を、メディアレナの腕がふわりと包んだ。
「あ、メディアレナさ、ま」
「こんなことでいいの?」
引き寄せるようにして抱き締められて、彼女の肩口に頭が押し付けられる。
「…………い、いいんです。う、うう」
上半身を抱え込まれて密着度の高さに、自分が頼んだくせにドキドキと苦しい。
「おめでとう、リト。この世に生まれた大切なあなたが、これから先、幸多からんことを祈ります」
優しく髪を撫でられるのを感じていたら、俺の耳元で彼女が囁いた。
「あなたが皆に愛されて、幸せな人生を送れますように」
「メディ………っ……………」
頬に手を宛がわれて、そっと上向かせられる。俺の額に祝福のキスが一つ降って、目頭がふいに熱くなる。
「リト」
「………く………」
厳かにも思える祝福に、彼女の背中を抱き締め返し、首に顔を押し付ける。
前世で体験したとてつもない喪失感。記憶の底にこびりついて離れないその苦しみに、彼女の言葉が染み込むようだった。
「あなたの御両親と同じように、私もあなたを愛しているわ」
「…………………う…」
懸命に溢れそうになるものを堪えて、震えてしまう唇を動かす。
「僕も…………僕、も…………愛しています」
メディアレナの首筋に唇を触れさせて、彼女の言葉よりも綺麗ではない告白をする。
華奢な背中を強く抱く。
同じ言葉で、違う形の想いが彼女を素通りしても、俺はそれでも幸せだった。




