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転生した俺だが2

ブクマ、評価ありがとうございます!元気が湧きます。

 クソなんだよ可愛いな。昔のお前も清楚系美少女だったが、今度は妖艶な美女だと?良い、良いぞ。俺はどちらでもwelcomeだ!全くお前ときたら俺の好みを熟知して


「解除」

「は!?」


 メディアレナが軽く両手を合わせて叩いた途端、急に体が自由になって妄想の海にいた俺はバランスを崩しかけた。


「ほら」

「あ!」


 前のめりになりかけた肩を彼女が支えるように触れ、思わず乙女のような高い声を上げて目を見張った。


 彼女の白い手が俺に触った!

 それだけで胸が熱くなる。

 人間になって優しい両親の愛をたっぷり注がれて育てられたせいか、俺はどうにも感情が豊かになり過ぎたんじゃないだろうか。

 思えば彼女と触れ合うなど、500年ぶりじゃないか!


 ああ今すぐ抱き締めて、そのプリプリした唇に俺の熱い想いを……


「エリオット君?」

「あ、はい」


 すっ、と真面目な少年へと表情を切り替え、俺は可愛らしい返事を作った。


「歩いて来たの?」

「そうですが」


 初春とはいえハードな山登りで汗だくで膝に傷のある俺を、ソファーに座ったままの彼女は観察するように見つめる。


「…………大変だったねえ。麓に転移魔方陣あったんだから使えば良かったのに」

「おい……じゃない、え?」

「まあ私の許可が無いと使えなかったしねえ。仕方ないか」

「…………………」


 腰よりも長い黒髪をふわりと揺らし立ち上がったメディアレナは、俺に酒瓶の並ぶテーブルの傍の椅子に座らせると、台所へと姿を消した。


「うーん、弟子ねえ。頼んだ覚えないんだけどねえ」


 カチャカチャと陶器の軽やかな音と共に、困ったような独り言がしっかり聴こえる。


「あの、僕が頼んだんです。メディアレナ様のような凄い魔女様の元で修行したくて、その」


 盆を手にした彼女が台所から出て来て、ハーブの香りが漂う。


「…………疲れの取れる薬草茶よ、まあお飲みなさいな」


 瓶を脇へ追いやり、薄黄色の茶の入ったカップとチョコチップクッキーが盛られた皿を俺の前に置いた彼女は隣に座ると膝の傷に指を近付けた。


「万物に行き流れし豊かなる水よ、この者の傷を修復せよ」


 小さな白い魔方陣が彼女の指から浮かび上がり傷を覆ったと思ったら、あっという間に傷は跡形も無くなっていた。


「あ……ありがとうございます」


 やはり本物だ。複雑な気持ちで礼を述べるが、メディアレナは憂鬱げに頷くと、テーブルの上の書類を漁り出した。


「これね」


 どうやら俺の紹介状を見つけたらしい。未開封の帯を破ると封筒から取り出して目を通すのを、薬草茶を飲みながら横目で窺う。

 なかなか香ばしくて美味しいぞ。


「エリオット、13歳。隣国ハビアルの出身で、公立ハビアル騎士学園の剣術科を2年飛び級して卒業……剣が使えるのね。本人たっての願いで弟子として受け入れ可能か返事を……学園長の紹介ね」

「何も連絡がないので、こちらから出向きました」


 玄関先に置いたリュックから鞘に収めた剣が出ているのを、彼女が見ている。


「なぜ剣術に秀でているのに、魔女である私の弟子になりたいの?」

「ずっとあなたに憧れていたんです。剣術はあなたを守れるようにする為なんです」


 本当は、お前が欲しいから。俺はお前と今度こそ添い遂げたいからだ。


 13の少年が言うセリフじゃない。だから本音を飲み込み、弟子入りを願う。


「あなた、魔女が何か分かっているの?」


 困った顔をするのは想定内だ。


「僕では素質が無いでしょうか?」

「根本的に違うのよ」


 慰めるように俺の栗色の髪を軽く撫でると、メディアレナは顔を背けた。


「私はね、もはや人間ではないの。この身に流れる血は本物の魔女の血よ」


 分かっている。だからそんな罪でも犯したように己を蔑むな。


「私は悪魔の王と契約を結んだ身。人間の肉体を棄てたの」

「メディアレナ様」


 俺は彼女の顔を覗き込んだ。


 人間が魔法を使えるかは、生まれながらの素質だ。自然の中に存在する精霊に愛される僅かな人間が、彼らの力を借りることで行使する力が魔法だ。

 その為には素質の他に、詠唱法と魔方陣式を複雑に組み合わせた術を使いこなせて、初めて魔法が発動する。

 そよ風を吹かしたり、焚き火を起こしたり、花に少量の水を与える程度だが。


 それに魔法が使える者は、精霊と相性の合いやすい女性が多い。魔女という呼称は、そこから生じたのだが、世界中で百人ほどしか存在しないのだ。


 まして傷を即時に治癒できるなんて、メディアレナしかいない。

 世界唯一の魔法学園を首席で卒業し、『水精霊による肌細胞の活性化』という論文で、世の女性のアンチエイジングを助け、世界最強とまでその名を轟かせた彼女。

 本物の魔女だと俺はちゃんと分かっていた。


 だって彼女と契約した悪魔の王は、俺の元上司だからな。


「…………掃除洗濯料理、何でもしますよ」


 ピクリと反応した彼女が、こちらに目を向けた。


「弟子でなくてもいいんです。傍に置いて下さい」

「分からないわ、なぜそんなに……」

「あなたに興味があるんです」


 魔女であるからじゃない。お前という女にだ。


 つい悪い笑みを浮かべて答えれば、彼女も怯まない俺を面白そうに見つめる。


「………ふうん、変わってるわね。確かに家事は助かるわ。ねえ、髪の毛結える?」

「え、はい!」


 メディアレナが背中に豊かに流れる髪を俺に向けるので、そっとその漆黒に指を通した。

 極上の絹糸のようだ。

 何度も夢中になって指で掬っていると、気持ちいいのか、彼女が声を立てて笑った。


「いいわエリオット、弟子にしてあげる」

「あ、ありがとうございます!メディアレナ様!」


 まずは第一歩進展だ。

 早く心ゆくまで彼女を存分に愛せる仲に持っていかねば。


「師匠と呼んでね。それから魔法の実験にも、あなたを使わせてもらうから」

「え」


 うふふ、と楽しそうな彼女に、初めてぞくりと背に寒気が走り黒髪が指をすり抜けた。



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