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失恋した俺だが2

 

「どういうことですか?それは誰が?!」

「セレーヌ、余計なことを言わないで」


 つい声を大きくしたら、台所から茶器の盆を手に彼女が戻ってきた。


「余計なことだと?弟子が知らなくてどうするのだ」

「別に今に始まったことではないでしょう。わざわざそれを伝えに来たの?」


 カップに注がれた橙色の茶を眺めつつ、セレーヌは頷いた。


「警告しにきた。第二王子が国王崩御に伴い王位に就いた」

「へえ、そうなの。やはり気の弱い兄王子様は位を譲られたのね」

「世捨て魔女は、やはり知らなかったか。新聞ぐらい読みなよ」


 第二王子?

 メディアレナが話してくれたシェルマージ国のイサルと言う王子のことか。


「世間のことには興味が無いの。でもそれとどう繋がるの?」


 うんざりと言った感じで一口チョコをかじる彼女に、セレーヌも茶を飲んで億劫そうに息を吐いた。


「………その王子が国王になった権力で、メディアレナ様を本気で捕えようとしているということですか?」


 俺が問うと、聞いていたメディアレナが「まさか、まだ諦めてないの」と顔をしかめた。


「そんなところかな。第二王子は学園を三年前に卒業した元生徒で、私はシェルマージの魔法学園の教師をしているからな。彼と懇意にしている学長を通して聞いた話だから確かだと思う。それにイサル陛下はレナの所在を調べている。私も問われたが口は割らなかったぞ」


「そう、迷惑をかけたわね」

「尾行は撒いた」

「ありがとう。でもきっともう知られているわね」


 チョコをかじるセレーヌに、彼女は苦笑した。


 俺もメディアレナを探し出すのは大変苦労した。

 騎士学園に在籍していた頃から時間を見つけては噂を頼りに調べ、数年かけて麓の街に行き着いて、街の人の話からこの家を知ったのだ。


「一旦ここを離れるか?匿う場所ぐらい用意するぞ?」

「いいの。セレーヌに迷惑は掛けられないし、ここが安全でないなら、どこへ行っても変わらないわ」

「そうか」


 落ち着いた様子でお茶を飲む彼女は、俺が見ていることに気付くと笑顔を向けた。


「リトは大丈夫よ。私が手出しさせないわ」

「あなたが心配なんです」


 俺のことなど………なぜ自分の身を案じない?!


「平気よ。万一捕まっても殺すつもりはないでしょう。まあ最悪、私の魔法や研究が他国侵略の道具に使用されたり、金儲けに悪用されたりするだけでしょう」


 のんびりした態度の彼女に、セレーヌが「他人事みたいだな」と呆れた顔をする。


「レナは昔から他人の好意に疎いな。本当にイサル陛下がそれだけの為にレナを欲しがるか?最後に会ってから3年も経っているのに、彼が執念深くレナを探す理由が何だと思う?」


 嫌な話に胸焼けがしていたら、メディアレナはコテンと首を傾げた。そうだな、お前は俺の気持ちにも気付かないんだ。分かるわけがない。


「イサル陛下は学生時代からレナに気があった。もし捕まった場合の最悪は、彼の王妃にさせられて体を弄ばれて孕まさせるコースを考えねばな」

「ええ?」

「そんなのダメだ!!」


 頭に血が上って椅子を蹴って立ち上がった俺を、セレーヌは予想通りと言わんばかりに唇を上げて見上げた。


「魔女と魔法を使う王との間の子なら、魔法の素質が期待できるかもな」

「やめろ、やめろ!」


「リト、落ち着いて」


 我を忘れる俺を前にしても、メディアレナは静かに茶を飲んでいる。


「そんなことにはならないわ。私は誰のものにもならないのだから」

「…………っ、メディアレナ、さま」


 また一つ心に微細な傷を与えられ、俺は彼女を睨み、背中を向けて外へと出て行った。


 春の終わりに咲く、白くて丸っこい花弁の花達の野を歩き、以前ピクニックをした辺りに膝を立てて座る。


 片手の手のひらを見つめて、拳にするや地を叩いた。


「なぜだ?!」


 人間になることを望んだのに、今はこの体が恨めしい。

 前世の俺を愛してくれた彼女なら、姿形が違っても、記憶が無くても再び愛してくれると信じていたのに。


 俺ではダメなのか?

 闇の精霊が人を愛するなど、やはり何かの誤りだったのか。


「俺はどうしたら…………」


 この世に生まれた存在意義を失ったら、どうしたらいいのか。


 後ろから近付く気配に、膝を抱えて俯く。こんな顔、誰にも見せられない。


「リト、さっきの質問に答えてないな」

「……………一人にしてもらえませんか」


 セレーヌが構わず俺の隣に座るのに、苛立って唇を噛み締める。


「メディアレナが好きなのか、リトはまだ答えていないぞ」

「………………ええ、そうですが」


 ふっ、と笑う気配がした。


「レナの髪に可愛い髪飾りが付いてた。彼女はそんな物に頓着しないから、君が贈ったものなんだろう?」

「はい」


 デートの時に、メディアレナの仕事の用事を待っている間にこっそり買った物だ。

 次の日の朝、彼女の長い髪を編んだ時に付けてあげたら、気付いた彼女が少し恥ずかしそうに微笑んで「嬉しい」と言ってくれた。

 あの笑顔が、とても可愛くて………ああ、胸が苦しい。


「好きというより、愛してるんだね?」

「愛して…………いますよ」


 ぐっと目を瞑って、半ば投げ遣りに返したら、背中をポンポンと叩かれた。


「君は本気なんだね」

「…………………………………」

「そうか」


 同情されているのを声音で感じ、膝を抱える手で片方の袖を握り締めた。


「………………なぜメディアレナ様は、誰とも結婚したくないのでしょうか?」

「理由、知っているよ」


 呆気なく返された言葉に、思わずセレーヌに顔を向けたら目が合った。


「知りたい?」

「はい、知りたいです」


 食いつき気味に応えれば、立ち上がった彼女が俺を見下ろした。


「知りたいなら、私と戦って勝ってからだ。君の本気を見せてみなさい」





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