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失恋した俺だが

 

『誰とも結婚しないわ………しないわ…………』


 頭の中で何度も言葉がぐるぐると回る。


「………………しないって………誰ともって」

「リト?リト、焦げてるわ!」

「あ!」


 メディアレナの声に我に帰った俺は、フライパンから黒い煙を上げる魚の切り身を慌てて皿に取り出した。


「わあ、真っ黒」


 魚だったものは、黒くボロボロになって見る影もない。


「……………………すみません」


 力なく項垂れる俺に、彼女が相変わらず飄々として笑う。


「気にしないで。それよりどうしたの?最近元気ないみたいね」

「それはっ」


 ぐっと言葉を呑み込み、キョトンとする彼女をチラッと見て直ぐに目を逸らす。


 どうして気付かないんだ?


「…………何でもないんです。それより魚、作り直します」

「いいわ、食べちゃいましょう」


 皿を運んだメディアレナがテーブルに座り手招きするので、俺は彼女の向かいに座った。

 最初に焼いておいて無事だった魚の皿を、当たり前のように俺に差し出した彼女が、焦げた方を顔色一つ変えずに口にする。


「ダメですよ、こっちを食べて下さい」

「平気よ、思ったより食べられる」


 焦げた魚をペロリと平らげる彼女を見て、やるせなさで一杯になる。

 彼女はいつも通りだ。

 それが余計に俺を(さいな)む。


 あの時実験室で俺が言ったことを、彼女は冗談だと受け止めているのだ。

 そして『一生誰とも結婚しないわ』発言に茫然とする俺に、「大丈夫よ、リトは家事もできるし優しくて良い子なんだからお婿の行く当てはたくさんあるわよ」と見当違いに励ます始末。


 昼食を取る気にもなれず、向かい側の彼女をぼんやりと見つめる。

「なぜ結婚しないんですか?」と何度も聞いたが、その度に彼女は曖昧な笑みを浮かべて答えない。


 クソッ、こんなことで狼狽えてどうする!

 前世では想い合った仲だったとしても、今の俺達は知り合ってまだ3ヶ月も経っていないのだ。しかもこの姿の俺では、恋愛対象に見られないことぐらい覚悟していたことだろうに。


「リト?」


 スルッと頬を撫でられて、俺は瞬きした。


「食欲、まだ無いの?」


 心配そうなメディアレナに、ぎこちなく笑ってみせる。


「いえ。焦がした方を食べてもらって申し訳ないなと思っていただけです」

「そう思うなら、さあ食べて」

「はい」


 頬に触れる彼女の手のひらに、俺は甘えるようにすり寄った。それを見届けて離れる手から顔を背けて、フォークで魚を食べ始める。


「今日はお客が来るわ」


 既に食べ終えた彼女が、ナフキンで口元を拭いてから思い出したように話すので、俺は咀嚼しながら顔を上げた。


「客ですか?」

「ええ、それはそれは男前な」

「え、男!?」


 その時、人間用の転移魔方陣が白く光り、同時に「リーンリーン」と呼び鈴が鳴った。


「噂をすれば」


 おもむろに立ち上がったメディアレナが、床に取り付けた魔方陣の中心に位置する魔法石を踏んだ。

 光る魔方陣から現れた人影を、俺は食事を中断して固唾を飲んで見守った。


「レナ!会いたかったぞ!」

「きゃあ、久し振り!」


 黄色い声を上げたメディアレナが、手を広げて駆け寄り、そいつとヒシッと抱き合った。


「な、な……」


 イチャつく二人にショックを受けて佇んでいたら、抱き合ったままで、そいつが俺に視線を向けた。


「この子が、レナの手紙にあった子だね」

「そうよ。私の弟子のエリオット。リト、こちらは」


 つかつかと大股で近寄って来たそいつが、俺をしげしげと観察する。


 金色の短髪に緑の瞳。背が高く、目付きは鋭く鼻筋は通り凛々しい。


「へえ、可愛いじゃないか。よろしくリト君。私はセレーヌ、メディアレナの友人だ」

「ゆ、友人?」

「そう、魔法学園の同級生よ。つまり魔女仲間」


 メディアレナの言葉を時間をかけて消化して、俺はそいつを頭から足の先まで見渡した。


「……………女性の方、ですか?」


 聞かれることに慣れているのか機嫌を損ねることもなく、ズボンに詰め襟の上着を爽やかに着こなした男前のセレーヌは、ふっと唇を上げた。


「そうだよ、私はこんなだからよく間違われるが、これでも女なんだ」


 話し方もイケメンだな。


「セレーヌは、学園でも女の子にモテモテだったものね」

「大袈裟だな、レナ。卒業しても学園で教師をしている私は、モテモテでも君ぐらいしか友人がいない淋しい女さ」


 メディアレナが無防備にセレーヌの腕に引っ付く。かなり打ち解けた仲のようだ。確か魔法学園は8年制で全寮制だったはずだから、長年の友なのだろう。端から見たら恋人同士に見えるが……………あ、俺の心が出血してる。


「しかし、レナが弟子を取るとはね」


 椅子に座ったセレーヌは、肘を付いて隣の俺を見たままだ。


「お茶を淹れますね」

「いいわ、私が淹れてくる。セレーヌはカンリのお茶が好きだったわよね?」


 セレーヌの視線から逃げようとした俺を制し、メディアレナが台所へと消えていった。それを見届けた彼女が、俺に詰め寄る。


「リト君、押し掛け弟子だって?」

「はい、そうですが………いけませんか?」


 含みのあるセレーヌの問いにムッとして答えると、彼女は真顔になって声を潜めた。


「レナを手に入れようとする奴がいる。しっかり守ってやってくれよ………彼女が好きなんだろう?」















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