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小娘に追いかけられる俺だが4

 

 コルネがレイピアを両手に構えると、その切っ先をメディアレナに向ける。いつも無駄に煩い少女だが、剣を抜き唇を引き結んだ真剣な姿は、さすが騎士の卵といったところか。


「お、重い」

「師匠、ちょ、大丈夫ですか?!」


 相反する形で、俺が貸した剣を両手に引き摺るように持つメディアレナは、既に息が上がっている。まだ何もしてないぞ!


「待ってください!何で魔法で戦わないんですか?」

「だってフェアじゃないでしょう?」


 スカート派の彼女が、細身のズボンにブーツ、白ブラウスという新鮮な出で立ちながら、剣の重量に負けて両手を下げてよろめくのに、俺は絶望を感じた。


 春うららかな野原。朝のヒヤリとした寒さも消えた頃合いを見計らい、女性達は決着をつけるべく対峙している。


 昨夜は二人仲良く同じベッドで眠って女子トークして深夜まで騒いでいたくせに、やっぱり女子って分からない。

 一人ソファーでポツンと眠った俺の気持ちなんて、お前達にも分からないだろうがな。


「っ、コルネ待て」

「なんで?あたしはいつでも闘えるよ?」

「師匠がまだなんだよ」


 見ていられなくて俺は二人の間に割って入った。


「師匠、剣に触れたこと無いですよね?」

「うん、初めて持ったけれど重いのね。こんなのよく扱えるわね」


 感心している場合じゃないぞ!


 メディアレナに駆け寄ると、剣を持つ彼女の手を取り支える。


「この際魔法使っちゃって下さいよ!剣だったら、逆に師匠に不利でしょう?」

「でも攻撃魔法は難しいのよ」

「難しい?使えないんですか?」


 途方に暮れた顔をして、彼女が俺を見つめる。


「使えるけれど………もしコルネちゃんを焦がしたり溺れさせたり蒸発させたり切り刻んだらどうしようかと思って、あんまり使わないから加減が難しいのよ。試してみてもいいけれど、命は一つしかない貴重なものだから」

「………分かりました」


 戦慄を覚えつつ彼女の背後に回ると、後ろから両手を支え直して構えの姿勢を補助する。


「コルネの視線の先を見て、次の攻撃を予測して」

「ええ」

「………柄を手のひら全部で包むようにして手首で剣を支える感じで、腕は真っ直ぐ」

「分かったわ」

「……………焦らず、れ、冷静に」

「それは大丈夫」


 教えていて気付いたが、俺は後ろからメディアレナに抱きつくような格好をしている。その上彼女の両手を握り、頬を擦り合わせるようにして耳元で囁くように話していた。


「メディア、レナ……さ、ま」


 どうしよう体温感じるぞ、甘いハーブの匂いもするし、息遣いまで近い。

 このままぎゅうぎゅうと抱き締めてもいいだろうか?

 俺の忍耐は既に振り切って辛いんだが。


「リト、息が荒いわ。どうしたの?」

「な………なんでも、あ」


 不思議そうに後ろに顔を少しだけ向けるので、彼女の唇に釘付けになる。キスしても、い、いいだろうか……


「もっと……こっちを……向いて、もっと」

「リト!何してるのよ!あたしの前でイチャイチャしてヒドイ」

「………は!いや、剣を剣を教え……」


 コルネの怒った声に俺は我に返った。そんな俺を放って、一歩前へと離れたメディアレナが、なんとか一人で剣を構えた。全く俺を意識していないし気付いていないらしく、いつもの彼女だ。いやいつもより弱そうだ。


「コルネちゃん、掛かってきなさい」


 重さで腕をプルプルさせながら挑発するメディアレナ。今俺の未来は彼女に託された、嘘だろ!


「遠慮なくいきます、はあっ!」


 コルネが気合いと共に振り下ろした刃を、メディアレナが剣で受け止める。

 そして、そのままポトッと剣を地面に落とした。


「あ」

「え、ええ?!」


 思わず間の抜けた声を出す俺をよそに、彼女の喉元に突き付けようとしたコルネの剣は、対象者を見失い左右に揺れた。

 落とした剣だけが草花に囲われて残っているそこから、メディアレナの姿が消えていた。


「どこ?!」

『その肌を巡りし悦楽なる風よ、笑みを与えよ。感覚魔法その2、擽り』


 いつの間にかコルネの背後に寄ったメディアレナが、詠唱しながら少女の脇辺りに指で魔法陣を描く。


「ぷっ、キャハハハハハ!」


 コルネが突如、身を捩りながら笑い出して膝を付いた。


「キャハハハハハ、ア、ヤメテ、キャハハ」

「あー、ごめんね。魔法使っちゃったわ」


 とうとう地面で笑い転げてしまったコルネを、魔女が悪びれた様子もなく見下ろす。


「降参する?しないとずっと笑って生きられるわよ?」


 それ怖いから!意味おかしいから!


 笑いながら涙目になったコルネが、必死で頷いている。


「こうさん、する、します!キャハハ、もう、くるしっ」


 特に脇が効いているようだ。そうか擽りの魔法は完成したのか。俺の犠牲はムダではなかったのか、良かった!



 ******************


 魔法は数分で自然に効力を切らした。

「まだまだ長くするよう改良の余地があるわね」と呟いたメディアレナに、ひきつった顔をしたコルネが一礼する。

 約束通り、少女は一人で帰る。


「ごめんなさいね、最後まで剣だけで戦いたかったけれど負けるのは嫌だったの」

「いえ、魔女様に勝負を挑むあたしがどうかしてたんです」


 ようやく気付いたのか、小娘?


「リト、元気でね」

「ああ、コルネも」

「気が向いたら、いつでも帰って来てね」


 それには答えずに、玄関にある人間用転移魔方陣に立つコルネを見送る。

 魔方陣の赤い光に包まれ、泣き笑いの顔をして俺を見つめたコルネは、瞬く間に消えていった。


「…………この山全体にはね、私のトラップ魔法がたくさん仕掛けてあるの」


 少女の消えた辺りを、しばらく見つめていたら、後ろからメディアレナがポツリと声を発した。


「悪意がある者は、私のトラップが感知してここには辿り着けない。ずっと山をさ迷って、やがて麓に強制的に帰還させられるの」

「………そうですか」

「悪意がなくても、興味本位や好奇心などの生半可な心持ちでも辿り着けないようにしている。つまりここまで来た者は、それだけ本気だということよ」

「………………あ、え?」


 ドクン、と心臓が跳ねた。

 メディアレナが、ふいに俺を後ろから抱き締めたのだ。


「ど、どうしたん、ですか?!」


 驚いて、現実かも分からずに、ただ固まる。


「コルネちゃんは、それだけリトに本気だったということよ。だからね、なんだか……ヤキモチかな」


 耳元で、くすりと小さく笑う声と吐息に目が回る。


「め、メディアレナ様。僕も、ここへ来ましたよ」

「ええ、だから信じてる」


 回された腕に、かあっと体の芯が熱くなるようだった。


 ヤキモチ、ヤキモチって!


「メディアレナ……さま、ぼく、は」


 早く抱き締め返したいと思い、ぎこちなくも焦りながら振り返ると、合わせるかのように腕を解かれた。


「はあ、疲れた。リト、お茶にしましょう」

「メディ……まっ、ま……て」


 振り返った時には、台所へと歩く彼女の背中を見て、ヘロヘロと床に座り膝を抱えた。









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