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勇者の商人  作者:
All For One

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33/85

佞臣は思うがままに。

やや「えろす」があります。

 その夜、ダーレス王は着の身着のままで王宮を脱出した。

 絶対的な恐怖と魔性で王宮を支配したメイシンだが、ダーレス王の身柄を拘束、監禁まではしなかった。一応衛兵はつけられていたものの、さほど厳しい監視はない。ダーレス王のみが知る隠し通路を使えば、王宮を脱出することは難しくなかった。

 無論、メイシンとジルの手のひらの上の話である。首の後ろには小さな四角錐を植えつけられて、動向は完全に掌握されていた。

 ジルには一応の読心能力はあるが、正確に読み取ることができるのは表層意識だけだ。本人が忘れていること、その時点で考えに浮かんでいないことはわからない。ダーレス王のみが知り、忘れている隠し通路や隠し財産などがないかを確認するために、形式上野放しにされているだけの話だった。

 息を切らせ、汗みずくになって走ったダーレス王は、ターミカシュ公爵家の別邸の門の前に立ち、叫んだ。


「ターミカシュ! ターミカシュ! 余を! 余を助けよ!」


 絶叫するダーレス王。しかしターミカシュ家の警備兵たちは供もなく、王冠もつけずに現れた男を王とは判断できなかった。

 目立たぬように、動きやすいようにとあえて地味な衣装を身につけていたことも災いした。


「やかましい! ここをどこだと思っている!」


 警備用の杖がぶんと風を切り、ダーレス王のほおげたを打ちのめす。

 奥歯が折れ、前歯が飛んだ。


「あぎゃあ」


 悲鳴をあげて地面に転がったダーレス王は、口から血混じりの唾液をこぼしながら、必死で内懐を探る。


「とっとと失せろ!」


 野良犬を追うように杖を振り上げる警備兵たちに向けて、ダーレス王はアレイスタ紋章の入った短い杖を突き出した。


「ここ、これが目に入らぬかっ! よ、余を! 余を誰と心得ている!」


 アレイスタの王笏おうしゃく。アレイスタ王の象徴の一つだ。事ここに至ってようやくダーレス王の正体に気づいた二人の警備兵は顔を青ざめさせると杖を放り出し「ははあっ!」と這いつくばった。


「お、お許しください! 陛下とは知らず!」


 震え上がり、哀願する警備兵の頭を、ダーレス王は拾い上げた杖で殴りつけた。

 打撲音とうめき声が響く。


「……お許し! おゆるっ……」


 許しを請う言葉を聞き入れることなく、ダーレスは血走った目で警備兵を殴打し続けた。

 ダーレスは王だった。

 人族世界の頂点であり、中心に立つ存在だった。だがメイシンの豹変以降、世界は変わってしまった。世界を左右し、世界がその動向を伺ったダーレス王は、どうしようもない恐怖に打ちひしがれ、息子の顔色を伺う立場に成り下がった。やる方なく溜め込まれていた憤懣と憎悪が、警備兵からの殴打をきっかけに暴力衝動という形で燃え上がり、王を狂乱させていた。

 ダーレスを殴りつけた警備兵が血みどろになり、動かなくなった頃、屋敷から一人の男が姿を見せた。でっぷりと太った体に豪奢な衣装、やや額が後退した六十がらみの男だ。

 ターミカシュ公爵。

 アレイスタ王国で最も富裕な貴族である。


「国王陛下! そのお姿は! 一体何があったのです」


 大げさな声と身振りで言ったターミカシュ公爵は、脂肪を揺らしてダーレス王に駆け寄った。

 その鼻先に王笏を突きつけ、ダーレス王は血走った目で告げた。


「兵を集めよ! ターミカシュ! メイシンが乱心をした。すぐに除くのだ!」

「何と! 王太子殿下が! 詳しいお話をお聞かせください! いえ、その前に手当とお召替えを! どうぞこちらへ!」


 ターミカシュ公爵はダーレス王を屋敷に招き入れ、新しい衣装を用意し、手当をした。

 そして、上ずった声で語るダーレス王の話を聞いた。


「すぐ兵を用意するのだ! 諸侯に、諸国を糾合し、王宮をあの化け物から取り戻せ! この際マングラールの力を借りても構わん! そうだ、マングラールだ! メイシンとアスールを噛み合わせて共倒れにさせればよい!」


 ダーレス王はがなる。


「それは、どうでしょうねぇ」


 ターミカシュ公爵はのんびりと言った。

 目の奥には、ダーレス王の知る媚びるような色はない。

 無関心な表情だった。


「もう、陛下の時代は終わったのでしょう。これからは新王メイシン陛下の元、新しい時代を作って行くべきではないでしょうか。アレイスタ連邦、素晴らしいお考えだと思いますよ」

「な、何を言っている! アレイスタの王は余だ! メイシンは魔王だ! アレイスタを魔王国とするというのか」

「その魔王国と今のアレイスタの違いというのものが、私にはよくわからないのです」


 ターミカシュ公爵は紅茶のカップを口元に持っていく。


「私にわかることは、今の陛下が、負け犬の顔をしているということだけですな」

「き、貴様、何と言った!」


 頰を痙攣させるダーレス王を、ターミカシュ公爵は笑顔で見返した。


「負け犬の顔と申し上げました。今の陛下は、自らの力で新王様に勝つという気概はお持ちでないでしょう? ただ、誰か助けてくれと泣きわめいているだけです。私といたしましては、そのような頼り甲斐のない方についてゆくことはできません。ジウス」


 ターミカシュ公爵は傍に控える老執事ジウスに声をかけた。


「陛下を王宮にお送りしなさい」

「かしこまりました」


 老執事は静かに応じると、ダーレス王に歩み寄る。

 六十代後半、細身の老人だが、冷徹な空気と独特の凄みがあった。


「や、やめろ! 触れるな、余は国王なのだぞ! 裏切り者! 売国奴めが!」


 負け犬の遠吠えを繰り返すダーレスには応じず、ターミカシュ公爵はダーレスを取り押さえたジウスに声をかけた。


「くれぐれも、新王様には粗相の無いようお願いしますよ」

 ターミカシュ公爵は屋敷の寝室へと戻った。

 ベッドの上には、絹の夜着を纏ったハーフエルフの女が待っていた。

 栗色の髪と瞳、人間でいうと十八くらいの外見だが、ハーフエルフは成長が遅い。実際にはもっと年長であろう。


「待たせてすまなかったね。続けよう」

「……本当に、いいんですか? 私なんかの体で。本当に、ご気分を害されるのでは……」


 ハーフエルフは翳りのある、複雑な表情でターミカシュ公爵を見上げる。

 ハーフエルフの名はクローマという。

 かつて勇者ヴェルクトに命を救われたことがあるらしく、公爵家の出入り商人を通じ、国葬に参加したいと相談してきた。

 ターミカシュ公爵にとっては、同行者を一人入れ替えるだけの話だ。商人への貸しとして、タダで引き受けてもよかったが、クローマと顔と体つきを見て、欲望が湧いた。

 条件として、一夜を要求した。

 ある身体的理由を告げ、固辞しようとしたクローマだが、ターミカシュ公爵の欲情と好奇心はかえって加速した。「すぐに決めなければ、国葬に参加する機会はなくなる」と迫り、閨に連れ込むことに成功した。

 いざ・・というときになって、ダーレス王がやってきた形である。ダーレス王の話も興味深いものだったが、いまはこのハーフエルフの体の方が重大事である。新王メイシンへの接し方などについてはあとで考えれば良いことだ。

 欲情に浮かされた頭では、良い知恵も浮かぶまい。


「心配はいらない、さぁおいで」


 ターミカシュ公爵はクローマの肢体を抱き寄せる、胴体には柔らかみと弾力があるが、手足はひどく細く、硬い。そのアンバランスさが興奮を煽った。

 夜着を脱がせると、不思議な美しさを持った裸身が露わになった。

 クローマの両腕、両足は、すべて魔導回路を使った義肢だった。

 胴体は生身のままだが、背中には精密な魔導回路の配線が埋め込まれ、金の刺青しせいのような光を放っていた。


「ああ、これは……素晴らしいね」


 自他共に認める好色家であるターミカシュ公爵だが、今回は珍しく、欲望を審美的感動と知的好奇心が上回った。

 それだけの稀覯品であり、美術品であった。


「うつぶせになってくれるかな。背中をもっと見せて欲しい」

「……はい」


 クローマはベッドに身を横たえる、金色の魔導回路が浮いた背中と、白く小さな尻がターミカシュ公爵に晒される。


「本当に綺麗だ」


 一夜と言わず、新しい宝物として手元に置いて鑑賞し、愛玩したい。そんな感情すら沸いた。


「いつから、このような体に?」


 背中の魔導回路をそっと指でなぞって、ターミカシュ公爵は問う。


「ずっと昔のことです。ある錬金術師に拉致されて」


 うつ伏せの体勢のまま、クローマは淡々と応じた。


「根源魔導回路の部品として組み込まれていました」

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