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第一話

 


 丁度、夏休みの終わり頃であった。

 暇を持て余した俺達高校生は特にこれといって何かをすることなく、いつも通りのメンバーでグダグダとクーラーの効いた一室を占拠していた。


「たまには俺以外の部屋で集まろうぜ」

 リョウが床に散らばった飲料水の空き缶を眺めながら憂鬱そうに言った。


「だってリョウ君の部屋しかクーラーないじゃん」

 リョウのパソコンを占領したまま、こちらを見ずに何かネタを探しているのはタカフミだ。


「ケイタ、お前何か面白いネタないのかよ~このまま夏休み終わっちゃっていいのか」

 別に俺は全く構わないが。口には出さずに肩をすくめる。


「あ、なんか面白そうなサイト発見」

 タカフミの言葉にリョウと二人でディスプレイに顔をよせる。

 こいつの面白そうな、大抵碌でもないことが多い。

 エロサイトならまだいい。だけど大体がグロだとか――。


「オカルトかよ!」

 俺の考えをそのままリョウが代弁してくれる。

 ディスプレイに広がる【事故物件】のサイト。


「面白そうでしょ」

 得意げになるタカフミだが、どこがどう面白そうなのかは理解に苦しむ。

「見てよ、これ。近所じゃない?」

 眉を寄せてタカフミが指差す部分を見つめると、なるほど、確かにこれは近所だ。


【事故物件】先着一名様まで


 ――先着一名様まで、ってなんだ?


「あー何々。事故物件。父母と娘二人の一家四人のうち三人が腹部を割かれた惨殺死体で発見、父親は見つからず」

 こんな事件聞いたことねえぞ、と吐く動作をしながら言うリョウに同意する。


「しかも他の物件は日付があるのにここだけ日付どころか年号すらないな」

「あれ、ほんとだ。おかしいね……」

 三人で体を寄せると暑苦しいことこの上ないのに、その時はなぜかひんやりとした空気が部屋を支配していた。


「夏の思い出か」

 碌でもない物を見つけるのが得意なのはタカフミだが、碌でもない事を言い出すのは大体リョウだ。


「ケイタ、タカフミ」


 俺達二人の顔を交互に見る瞳は嫌なぐらい輝いていた。


「いこーぜ。ここ」


 にかっと笑うその顔に俺は呆れてため息を付いた。

 ちょっとヤンキーが入ってるリョウはいい出したら聞かないのが大体だ。

 反対でもするのならば、すねて一人でも危険地帯に行くと言い出すだろう、そして勿論実行する。


「どうせ嫌だっていっても一人で行くんだろ」

「わあってるじゃん、ケイタ。さすがー」


 タカフミは既に地図を拡大して詳細な場所と辺りの風景を画像で調べ始めていた。


「まあ暇だしね、僕も行くよ」

「それでこそ俺の友人」


 話はとんとんと進み、深夜一時、うるさい家族が寝静まった頃に現地集合、となった。




 タカフミに送ってもらった地図を頼りに、現地へ赴く。

 既に二人は来ていて、おせーよだとか遅いだとか口々に罵られる。


「悪い悪い。親が中々寝ないもんだからさ」


 謝罪もそこそこに事故物件、を見上げた。

 少し住宅街から離れた場所に、その家はあった。


 家というよりもはや廃屋、という方が相応しい。

 屋根は剥がれかけていて、一部家屋が露出している。


 2階建ての壁にはツタのような植物が巻き付き、かつては白かっただろう壁は薄汚れて、雨が伝ったような跡が所々に残されている。

 庭は荒れ放題で伸びっぱなしの草が家人がいないであろうことを雄弁に物語っている。


「こんな所マジで近所にあったんだな……」

 呟くリョウの顔は神妙だ。タカフミもどことなく落ち着かない様子である。


「行くの、やめる?」

 タカフミの言葉にリョウが反応する。


「馬鹿、ビビってんじゃねーぞ。お前が一人でここで待っててもいいんだぜ」

 俺が行くことは決定事項らしい。


「冗談だよ、僕も行くよ」

 あわててタカフミが言い返す、こんな所にそりゃあ誰だって置いて行かれたくないだろう。


「コントやってないでさっさと行くぞ」

 二人に声をかけると、廃屋に向かって進む。

 出来る限り外からさっと一周して帰りたい。


「うわ、なんか付いた……」

「この草ベタベタしてねえ?」


 懐中電灯の灯りだけでは中々辺りを照らせない。

 背後からついてくる二人の声を確認すると玄関の前で立ち止まる。


「これ、開いてねーんじゃねえの?」

 リョウは早速ドアノブを乱暴にガチャガチャやり始めた。


「そりゃあ廃屋でも一応誰かの所有物だからなあ」

 今時、開いてる方が珍しいんじゃないだろうか。


「うーん。画像マップを見た限りだとあと入れそうな所は裏口か、庭のリビングの大窓?」

 下調べをしていたであろうタカフミがキョロキョロとあたりを見回す。


「正面が掛かってるなら裏口も鍵あるだろ」

「そうだな、ならリビングから侵入するか!」


 余計なことを言った。上手く行けばこのまま帰れたかもしれないのに。

 草を踏みしめ、玄関の横を通ってリビング側へと向かう。

 大きな窓は割られていて風通しが随分良くなっている。

 ひゅーひゅーひゅー、と大きな口で呼吸をするかのように窓が不気味にうなる。


「あいてんじゃん」

 笑うリョウに、この状況でどうして楽観的に物事を捉えられるのか。羨ましくて仕方がない。


「切らないように気をつけてね」


 早速押し入ろうとするリョウへ、タカフミが背後から声をかける。

 リョウに続き、体を捻りながら中へ入るが、所々引っかかったらしく服が破れてしまった。


「最悪……」

「まあまあ。どうせ大した服着てねえだろ」


 確かに、大した値段じゃないけどそういう問題じゃない。

 タカフミが入ったのを確認すると行こうぜ、とリョウを先頭に探索を開始した。


「なんか、慌てて出ていきましたーって感じだよな」

 リョウの言葉に頷く。


 ボロボロだが家具はそのまま、床には子供が読むような絵本や食器などが散らばっている。

 リビングとキッチンには何もなさそうだった。

 途中でふざけてリョウが包丁とかねえのかな、と探し始めたが、流石に凶器になるような類は一切出てこない。


「あっち、お風呂場みたいだね」


 拍子抜けするぐらい何もないまま、風呂場も確認するが、やはり何もないというか何も出ない。

 脱衣所にある木の籠を腹いせに蹴ると、見事にバラバラに分解された。


「ボロすぎだろ……」

「ちょっと、一応人のものなんだからさあ」

 タカフミとあれこれ言ってると横からリョウが何かを振る。


「見ろよこれ」


 リョウの手にはアヒルの形をした風呂桶が握られていた。

 アヒルの片目は風化したのか、擦れて消えていた。

 中には薄汚れた花の形をしたボディ・スポンジ。


「マジ、なんもねえな」


 飽きるのも早いリョウは退屈し始めていた。

 このままさっさと終わらせてくれないだろうか。


 風呂場を出て、一回の和室や他の部屋も片っ端から見て回ったがやはり何もない。

 和室を開けて即、仏壇には少しびびったが。


 残ったのは目の前の二階につながる階段だけだ。

 外観からだと屋根が崩れていたし、階段もまともに歩けるか分かったもんじゃない。


「帰ろうぜ」

「何にもなさそうだしね……」


 暗にタカフミも同意するが、リョウは満足していないらしい。


「二階があったろ、殺人現場って二階だろ?もうちょい見ていこうぜ」

「マジかよ、お前一人で行けよ」


 流石に殺人現場なんて見たくない、と即座に否定する。


「僕もそれはちょっと……」

「お前ら根性ねーなあ。いいよ、ここで待ってろよ」


 ムッとした様子でリョウは一人、階段の奥へと消えていった。

 ギシリ、ギシリ、と音は遠ざかっていく。


「あいつ馬鹿だろ」

「まあ、馬鹿は死んでもなんとやらってね」


 タカフミは呆れ声でその場にしゃがむと、スマホをいじりはじめた。

 懐中電灯の灯りとスマホが暗闇でぼうっと光る。

 一〇分は経っただろうか、リョウは帰ってこない。


「なんか、遅くない?」

 タカフミに同意だ。いくらなんでもさっと見て回るだけでこれは遅い。


「あー面倒ばっかりかけてくれますなあ、リョウ君は」


 おどけてみせるが、内心は怖い。

 階段の上のぽっかりと空いた暗闇には得体の知れない化け物がいるのではないか。

 そんな恐怖が頭をよぎる。


「迎えに行く?」

「……そうするか」


 二人で頷くと手すりに手をかける。その時。


「うわあああああああああああああああああああ」


 心臓が止まりそうになった。

 リョウの叫び声だ。


「あいつ、ふざけてんじゃねーよな!?」

「どうしよう!? 通報する!?」


 答えを返す前に、体は二階に向かって駆け出していた。






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