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大空への夢を、異世界でもう一度!  作者: ふみ狐
一章 ~つかみ取った大空~
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四三話 ~パイロット 中編~

『メイデイメイデイ! こちらアラクネースリー! 敵が後ろに着いた! 振り切れない! 誰か助けてくれ!』

『スリー! 機銃撃ってくるぞ! 左にブレイク! ブレイク!』

『リーダー! 上空からさらに二機!』

『くそっ! 被弾した! 蓄熱率六十九パーセント!』

 


 首都防空隊、アラクネー隊と敵戦闘機の戦いは、乱戦の様を呈していた。

 俺が先ほど二機を撃墜し、八対八のドッグファイトとなっている訳だが、全十六機によるドッグファイトは十分大規模空中戦と言っても過言ではない。

 

 ピンクと緑のビームが夜空を切り裂き、フレアの灯りが空に漂うミサイル煙とヴェイパーを照らし出す。

 そしてバーナーの青い光が、ひときわ強く暗闇に浮かび上がっている。


「敵は二機撃墜されたことに気づいてるよな?」

『肯定です。ですが、マスターが撃墜したということまでは把握できていないかと』

「フフン、ミスターXってとこか? このまま闇に紛れて敵の数を減らすぞ!」

『了解ですマスター。現在最寄りの基地から増援部隊も急行中。ETAはあと十分です』

「十分あったら全部落とせるな。行くぞアンジェ!」

『いつでもどうぞ』


 バーナーを点火し、再び高度を取る。

 数の優位を失った敵はこちらにかまうこともできず、ただ必死にアラクネー隊とのドッグファイトを繰り広げ続けていた。


 現在こちらは九機、むこうは八機。

 一気にひっくり返った戦況に、敵さんきっと慌てふためいているはずだ。


「その隙、つかせてもらおう!」


 ある程度高度を稼ぎ、戦闘空域を見下ろす形になったところで機体をひっくり返す。

 そして操縦桿を体側へ。


 一気に急降下の態勢を取り、アラクネースリーの後ろを取ってビーム機銃を乱射しているレイダーをLCOSの中心に捉えた。

 この距離で外すはずもない。機銃の束はレイダーの胴体を捉え、やがて爆ぜた。



 逃げ惑っていたアラクネースリーの隣に並び、無線を開いて呼びかける。



「よっしゃあ残り七機! こちらスパロウツー、大丈夫かアラクネースリー!」

『スパロウ!? なんで君がここに……! えぇい! 詳しい話はあとだ! 支援感謝する! このクソ野郎どもを地面にキスさせるのが先だ!』

「わかってる! こっちは勝手に飛ぶぞ!」

『了解! 撃つ前に一言言ってくれればそれでいい! 頼むぞ!』

「アラクネーリーダー! 聞いてのとおりだ! ここからは俺も参加させてもらうぞ!」

『おいおい! エースが来るなんて聞いてねぇぞ! このままじゃあ手柄を全部持ってかれちまうぞ! 気合い入れろお前ら!』


 鬨の声が上がる。

 自分で言うのもなんだけど、強いやつが味方にいるときの士気の上がり方は、半端じゃない。

 ゲームでも、実戦でも。


 自分がその『強い奴』ポジションにいるということに、嫌でもテンションが上がってしまう。

 これだ。この、自分が必要とされている感覚。思い出した。強くなって、満たされていくこの満足感。


 かっこ悪いところなんざ見せられない!


 

「っと、さっそくお出ましか!」


 いつの間にか、レイダーが二機後ろについている。

 ビーム機銃を乱射し、こちらをけん制。俺はそれにとらわれることが無いよう、機首を不規則に揺らすジンギング機動を行いながら、周囲の状況を確認する。


「俺についてるやつら以外はアラクネーとやりあうのに必死か……」


 だったら、速度を落としても問題は無いな!

 もう俺の十八番と言ってもいいだろう。さっさと決めてやろうじゃねぇか!


 でも何度もおんなじやり方じゃあ、つまらないよなぁ……!



「アンジェ、後方の二機をセンサーロック! エウリュアレー四発シーカー冷却!」

『お言葉ですがマスター。オフボアサイト能力で後方への射撃も可能ではありますが、命中する可能性は極めて低いかと思われます』

「だれがこのまま撃つって言った! いいから、射撃準備!」

『了解』


 エウリュアレーの目は、真後ろを見ることはできない。だけどあらかたの場所を示しておいて、撃った後に『見つけさせる』こともできるんだ。

 

「準備良いな!? 行くぞ!」


 エウリュアレーの発射準備が整ったところで、十八番であるクルビット機動。

 でも今回は、オーバーシュートだけが目的じゃない。


「スパロウツー! FOX2! FOX2!!」


 クルビットで機首が後ろを向くその瞬間、俺はミサイル発射ボタンを押し込んだ。

 名付けてサマーソルト!


 後ろを取った状態からミサイルを撃たれるなんて誰も想像しないだろう。

 ろくな回避機動を取るでもなく、ミサイルはレイダーのコックピットを捉えた。


 すぐ機体は元飛んでいた方向に機首を向け、後方にあった二機の反応が消失する。




 確実に、今俺は二人の人間を殺した。


 だけど、もう罪悪感も恐怖も、感じなくなっていた。


「スパロウツー、スプラッシュバンディット! 二機撃墜!」

『本当に、マスターの飛び方には毎回驚かされます』

「俺は世界で一番強い男だからな! 次行くぞ!」

『了解』


 これで敵の残りは六機。このまま押し込めば数分もせずに片が付く数だ。

 アラクネーの後ろについて必死こいていたレイダーが俺の目の前を飛び去って行く。


 逃すはずもない。

 エウリュアレーを二発、すかさず放った。

 

 夜の闇を切り裂いて飛ぶミサイルは、ロケットモーターの燃焼が終わらないうちにレイダーのエンジンを捉える。


「もう一機だ! 五機目! スプラッシュバンディット!」

『おいおい……! 化け物かよ……! この短時間で五機だと……!?』

『たった一機で戦況をひっくり返しやがった……!』

『ぼさっとするな! まだ戦闘は終わってねぇぞ! このまま全部あいつに落とされたら首都防空隊の赤っ恥だぞ! 気合い入れなおせ!』


 ふふん! なんと気持ちいいことか! これだ! これがエースっていうものだ!

『マスター、とても楽しそうですね』

「あぁ! 最高に楽しいね!」


 何の迷いもなく、そう返した。

 鳥肌が立つほど、面白い!


「このままいくぞ!」

 と、気合を入れなおしたところで、緊急の通信がどこからともなく飛び込んできた。

 アラクネーからじゃない。ということは、送信先についてなんて考えるまでもない。


『こちらグルージアコントロール! アラクネーおよびスパロウ、聞こえるか! 基地から南東百キロの地点に、新たな敵が出現! 支給迎撃に向かってくれ!』


 なんとなくそんな予感はしていた。

 多分敵の狙いはフレイアだ。となると、首都からこんな離れたところに十機も部隊を『出現』させることはどう考えても不自然だ。

 だけど、こっちにこないとアラクネー隊がどうなるかわからなかった。


 だから、何も考えずにこっちに来ていたんだけど……。


『スパロウ! もうこっちは大丈夫だ! お前は早く迎撃に行け!』

「そうさせてもらう!」


 もう十分こっちの戦力も削いだ。

 アラクネー隊の実力も、予想以上に良い。これならもう俺がこの戦闘空域を離れても大丈夫だろう。


『俺たちの街なんだ。頼むぞ!』

「任せといてください! アンジェ! 新たな目標までの最短ルートを出せ!」

『既にやっておきましたマスター。MFDに表示します。ウェイポイントゴルフを新たに設定』

「さすがだ!」


 ここから新たな敵編隊までは、直線距離で約百六十キロメートル。どう考えても間に合う距離じゃない。

 でも俺には、確かな自信があった。


 敵は、絶対に首都へはたどり着けない。


「ウェイポイントヘッドオン! スパロウツー、これより新たな敵編隊の迎撃に向かう!」


 スロットルをバーナー位置へ。

 何も考える必要はない。とにかく速く。もっと速く!


 信じられないくらいの勢いで跳ね上がっていく速度計の表示。

 マッハ四を超えても、速度はさらに上がり続けていく。


 すぐ首都の上空に到達し、あっという間に通り過ぎる。

 だけど敵の姿は、影も形もない。


 攻撃された様子もない。


「やっぱり、あのまま黙ってる人じゃねぇよなぁ!」


 そのままマッハで飛び続け、やがて指定された空域へ。

 さっきと同じように、夜空をビームとフレア、そしてアフターバーナーの光が切り裂いている。


 戦闘が起きている証拠だ。


 首都防空隊は全て最初の部隊に対応している。

 あの基地にいたパイロットで、数の不利などものともしないエースパイロットなんて、もう一人しかいない。


「遅くなりました隊長! 結局予備機をブン取ってきたんですか!?」

『しっかり同意を得たうえでの出撃だ! ほらっ! さっさと落とせ! リョースケ!』

「了解! 右から戦闘空域に突入、エウリュアレー全弾斉射します!」



 少なくとも、敵の数は六機。

 その六機を相手に、全く遅れることなく飛び回る、垂直尾翼に首都防空隊のエンブレムがペイントされたエイルアンジェ。

 でもそのパイロットは、アラクネーの人間ではない。


『スパロウワン! FOX2! FOX2!!』

「全く、昼間撃墜されて病院に担ぎ込まれて、その日の夜にはこれだもんなぁ……!」

『なんか言ったかルーキー!』

「何でもないです! スパロウツー! エンゲイジ!」


 まったく無駄のない機動。

 それでいて、大胆。


 大きな機動だと思ったら、小さくコンパクトな機動で敵を翻弄する。


 ルーニエス空軍のエース、シャルロット・ハルトマンは、やっぱりどこまで行ってもエースパイロットなんだなと。

 少し遠めに見る彼女の機動で、改めてそう思った。





 

 



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