四二話 ~パイロット 前編~
長くなったので、戦闘回を二回に分けます。
『マスター、センサーに感あり。また、現在交戦中の部隊とのデータリンク確立。情報によると、当該空域の飛行物体は全数一八。うち八機はわが軍のエイルアンジェです』
「飛んでったのは全部で八機だったよな? まだ全機無事ってことか。にしても、十機だと? 十機も飛ばしてきたってのか?」
『そのようです。メデュラドは数に頼ることしかできない腰抜け野郎ですので』
「なんだ、急に口が悪くなったな」
『私は高性能ですから』
「言ってろ。そろそろ戦闘空域か?」
『ETAは二分後。マスターアーム点火します』
スロットルレバーをさらに前へと倒し、バーナーを点火する。
ちんたらちんたら飛んで、敵に余裕を与えたくは無かった。
「さぁ! 行くぞアンジェ!」
『了解ですマスター』
二分など、あっという間だ。
やがて夜空の向こうに、ビーム機銃とフレアの光が明滅し始める。
かなり大規模な空戦だ。こんなものが首都のすぐそばで起きてしまっているという事実。
今更になって、少しばかりの恐怖を覚えた。
「アンジェ。高度を取って上から行くぞ」
『了解』
右に機首を向けてから操縦桿を引き、雲に隠れながら高度を取る。
敵にはもうこちらが接近してきているということはバレている。
しかも、数は向こうの方が上。
戦闘を離脱してこちらに向かってくる敵がいる可能性も大きい。
攻撃をされる前に、有利な位置を取っておきたかった。
と、その時。センサーロックされたことを知らせるアラームがエンジン音を上書きしてコックピットの中に響き渡る。
『マスター、捕捉されました。シーカー冷却を確認。ミサイル、八時方向より接近。数三』
「言ってる先から……! おでましか!」
『さらに二機が戦列を離れ、こちらに接近。機銃射程まで五百』
「その前にミサイルだ!」
バーナーを消し、スロットルを絞る。
ミサイルとこちらの距離はそう離れていない。
エンジンのクールダウンはおそらく間に合わないはずだ。
ゆるく左旋回をしながら高度を上げている最中だった俺は、左ラダーペダルを蹴り込みながら操縦桿を左へ。
機体の天が地を向いたところで、操縦桿を体側に倒す。
今まで稼いでいた高度を失うのはもったいないけれど、背に腹は代えられない。
急降下して速度を稼ぎつつ、機体の天を今度はミサイルに向ける。
対空ミサイルは、目標がいずれ飛ぶであろう地点を予測して飛んでくる。
すなわち、大きな機動を取ってミサイルを振り回すことで運動エネルギーを消費させ、回避することができる。
もっともこれは距離が遠い場合の話なんだけど、近距離でもミサイルに無駄な機動を行わせることは結構有効だったりする。
「ほーらこっちだこっちだ!」
急降下から、大きく右旋回。ミサイルに今度は機体の左側面を向け、さらに今度は左旋回。ミサイルに機首を向け、今度は急上昇。
一気にミサイルの持つ運動エネルギーを切り崩しにかかる。
ミサイルとの距離が百を切ったところで、フレアを放出しながら右急旋回。
あちらこちらに振り回されて力を失っていたミサイルは、フレアに惑わされながらも力尽き、俺の機体を捉えることはなかった。
「っしゃあ!」
普通、ここまで大きな機動を取った場合戦闘機の持つ運動エネルギーは大幅に減少していて、機銃攻撃のいい的になってしまう。
だけど、何度も言う通りそうはならないのがこのブルスト世界の戦闘機だ。
「行くぞ! エイルアンジェ!」
スロットルをミリタリー、さらに押し込んでバーナーを点火。
シートに体が押さえつけられるほどの加速Gを身に受けながら、俺の機体は一瞬のうちに音速まで加速する。
本当に、化け物じみた機体性能だ。
『マスター、四時方向敵機。ガンサイトに当機を補足、射撃してきます』
「オラッ!!」
右ラダーを踏み込みながら、操縦桿を左に倒してから体側へ。
機首を飛行方向に向けたまま大きくロール機動を行うバレル・ロール機動。
ひっくり返った天地。
見上げるとそこは地面。
キャノピー越しに、緑色の光の束が闇を切り裂いて突き抜けていく。
後ろに二機。
それ以外は首都防空隊の相手をしているためにこちらに攻撃してくる素振りは見せてない。
二機相手なら、速度を一度殺しても大丈夫!
ラダーペダルの両方を踏み込みながら、操縦桿を強く体側へ。
俺の十八番。コブラ機動。
後ろについて五秒もしないうちにこんな機動をされちゃあ、対応もできないだろう。
『マスター、敵機、当機をオーバーシュート。被弾無し』
「上出来だ!」
そもそも今は視界が悪い夜だ。
相手の動きを予測するのは難しい。昼間なら見える動翼の動きも、捉えることができないだろう。
だから、こういう派手な機動もやりやすい。
「墜ちろクソが!」
兵装選択レバーで、ビーム機銃を選択。
前を飛んでいた一機をLCOSの中心に捉え、引き金を引いた。
引き金を引くのに、躊躇いは感じなかった。
さすがに一発でとはいかなかったけれど、ビームの束は敵のTT装甲を追い詰め、三秒ほど連続で命中させたところで垂直尾翼が吹き飛んだ。
レイダーもエイルアンジェと同じく二枚の垂直尾翼を持つ。
一枚失ったところで即墜落とはいかないけれど、それでも大事な翼を一枚失った敵は煙を吐き出しながらふらつきだす。
「とどめだ!」
さらにトリガーを引く。
今度はエンジンノズルの奥を捉えた。
一瞬のうちに爆発、炎上。
真っ黒な夜空に真っ赤な火の玉を残しつつ、敵は空の藻屑と化した。
僚機を吹き飛ばされながらも、その間に俺の追尾を振り切っていたもう一機。
バーナーを点火し、急上昇しながら大きく右に旋回している最中だった。
「バーナー吐いたら、撃ってくれって言ってるようなもんだぞ!」
オフボアサイト攻撃。
煌々と輝くバーナーの光を捉え、エウリュアレーを四発放つ。
この距離で、バーナーを吐いた敵を、逃すはずもない。
「スプラッシュバンディット!」
二機目の撃墜。
けどそんなことを喜ぶ暇もなく、俺は首都防空隊と残りの八機の戦闘が続く空へと機首を巡らせた。




