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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6.5章 ダンジョン出現で揺れ動く世界 
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第86話 露西亜の動き

お気に入り10760超、PV5590000超、ジャンル別日刊22位、応援ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 先発隊の全滅と言う結果を受けて数日後、第2陣としてダンジョンに送り込まれた彼等はモンスターを警戒しながらダンジョンの奥深くへと潜行していた。


「っ、隊長」

「……分かっている。総員迎撃準備。1班は射撃準備、2班は近接戦闘の用意、3班は後方の安全を確保、4班は各班を適時援護可能なように準備しておけ」

「「「「了解!」」」」


 隊長の指示に従い、部下達はキビキビと動き迎撃準備を整える。銃を前方に構える者、マチェーテやナイフを構える者、ハンドライトで通路を照らす者と様々だ。

 準備が整うと隊長の前進指示に従い、隊は全員でユックリと通路を進んで行く。そして……。

 

「前方距離50に犬、数は3! 既に、こちらを認識しているぞ!」

「射撃準備完了しています、何時でもどうぞ!」

「距離30を切ったら発砲を許可する! 2班! 銃撃が効かなければ、俺の合図を待って切り込め!」

「「了解!」」

「3班、後方の退路はどうだ!?」

「異常ありません!」

「4班!照らしているハンドライトを揺らすな! しっかり固定しろ!」

「了解!」


 挑発する為に敢えて隊長は大声で指示を出し、モンスター、ハウンドドッグ達の注意を引くと直ぐに突進して来た。  

 

「射撃用意……撃てぇぇぇ」 


 隊長の指示に従い、誤射防止の為に、弾道確認用レーザーを照射する銃を構えた隊員達は、銃弾を放つ。狙いすまし3連射された銃弾は、狙い違わずハウンドドッグの胴体や足に命中したが、致命傷には至らなかった。銃弾を受けたハウンドドッグ達は、傷口から血を流しながら、左右にスラロームしながら、更に速度を上げ隊員達に近づいてくる。

 

「っち。1班、制圧射撃! 2班、近接戦闘用意!」


 隊長の指示に従い、1班は銃を連射しハウンドドッグの行動を阻害。2班はその隙に、弾道確認用のレーザーを遮らない様に気を付けながら、ハウンドドッグに接近する。

 そして、進行方向の足元に銃弾の雨を浴び、思わず足を止めてしまっているハウンドドッグ達の首元にマチェーテを振り下ろした。


「……状況終了だな。各員、ダメージレポート」


 胴体と首を切り離されたハウンドドッグ達の亡骸を確認し、隊長は戦闘終了を宣言した。


「1班、損害ありません」

「2班、1名の装備に破損を確認、戦闘行動に支障はありません」

「3班、損傷ありません」

「4班、損傷ありません」


 各班の班長が報告を上げる。無傷での勝利とは行かなかったが、誰も負傷せずモンスターの襲撃を退けたようだ。 

 しかし……。


「2班、装備の破損とは?」

「近接戦闘時に、モンスターの爪が戦闘服に引っかかり破けたそうです」


 隊長の質問に2班班長が答え、装備を破損させたと言う隊員は右足の破損箇所を見せる。

 

「防刃繊維製の戦闘服が裂けるか……」

「はい。幸い、引っ掛けた服が裂けただけで怪我は負っていないようですが……」

「……近接戦闘を想定した、戦闘服の作成を上申する必要があるな」

「はい。少なくとも、四肢を守る臑当や篭手は追加した方が良いかと」


 基本的に彼らが着用しているボディーアーマーは、銃撃戦を想定した防具である。その為、重要度の高い胴体等のバイタルパートを重視した構成になっており、軽量化の為に手足の部分に防具は施されていない。

 今回は運良く、偶々傷を負っていないだけだった。


「……隊長」

「ああ、今回の探索は此処までだ。総員、撤退準備を」

「「「「了解!」」」」


 周辺を警戒しつつ、彼等はハウンドドッグのドロップしたアイテムを回収し撤退を開始。帰路でもモンスターと遭遇はしたが、幸い隊員達が怪我を負う事も無く無事にダンジョンを出て後方部隊との合流を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 第2次調査隊の結果を、大統領は補佐官から報告を受けていた。 


「調査隊の損害は?」 

「前回の教訓があった為、第2次調査隊の被害は極々軽微です。数十名の重傷者を出しましたが、幸い命に別状はありません」

「そうか」


 大統領はその報告を聞き、小さく安堵の息を漏らす。

 しかし、その安堵する大統領の姿を見て、補佐官は罪悪感で僅かに顔を歪めた。詳細に報告はしなかったが重傷者の中には……死にこそしていないが四肢の欠損や半身不随と言う傷を負った者も居る。

 補佐官は話を切り替えようと、新しい資料を執務机に置く。

 

「……第2次調査隊の報告から、ダンジョン探索に用いる装備の改善要求が多数上がっています」

「改善?」

「はい。中でも多いのは、近接戦武器と防具に関する改善要求です」


 補佐官から差し出された資料を手に取り、大統領は数十項目の改善点が箇条書された資料に目を通す。


「ダンジョンは下層階に潜れば潜るほど、出現するモンスターに銃器が通用しなくなる傾向があります。その為、調査隊員達は近接戦にてモンスターとの戦闘を行ったとの事です」

「銃が効かないだと?」

「はい。原因は調査中ですが、3階層以降になると銃だけでモンスターを倒す事は至難の業の様です。今回調査隊員達が装備していた、アサルトライフル以上の大口径砲を用いれば通用するかもしれませんが……」

「何れは通用しなくなる、か?」

「はい」

「そうか……」


 大統領は資料に目を落とし、眉間に皺を寄せる。 


「その対応策として調査隊からは、近接武器の充実が提案されています」

「……月までロケットが飛ぶ時代の近代軍が、刃物や鈍器を持って狩猟の真似事か……お笑いだな」

「ですが銃が通用しない以上、近接武器を用いた殴り合いも有効かと」

「分かっている。単なる愚痴だよ」


 大統領は自嘲する笑みを浮かべた。 

 補佐官も大統領に釣られて自嘲の笑みを漏らしかけたが、グッと我慢しダンジョンを攻略するメリットを提示する。 


「ですが、得難い成果もあります」

「ドロップアイテムの事だな?」

「はい。現在確認されているだけでも、多数の貴重な宝石や貴金属。詳細は現在解析中ですが、薬品類や巻物、不思議な効果を発揮する各種道具が得られています」

 

 補佐官は大統領に、第2次調査隊が手に入れたアイテムのリストを渡す。


「宝石類や貴金属を換金すれば、ダンジョン出現に伴い発生した被害の補填に当てられるな」

「はい。他の物に関しても、調査結果の如何によっては高い付加価値を得られるかと」

「調査を急がせてくれ」

「分かりました」


 そして大統領は、一呼吸間を開け補佐官に今後の指示を出していく。


「予算や改善案については、閣僚達と提案を検討した上で決定する。現状で無理をさせる必要はないが、軍には第3次調査隊を編成させダンジョンの3階層までを中心に調査をさせろ。モンスターがドロップするアイテムの収集を第一とし、回収したアイテムはサンプルとし科学者連中に調査をさせ詳細を調べ上げさせる」

「了解しました」


 大統領の指示を受け、補佐官は動き出し部屋を退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 上申された近接武器や防具の充実が進み、調査隊によるダンジョン探索もある程度の安全が確保されるようになった。国土内に出現したダンジョンは軍や警察が封鎖し、民間人が勝手にダンジョンに侵入し死傷すると言う事態は他国程は起きていない。

 そして今日、連邦軍にとある軍団が産声を上げた。

 数千人に及ぶ兵達が並ぶ前で、多数の勲章を胸に飾った将官は壇上で物怖じせず演説を行っていた。


「諸君! 我らロシアダンジョン攻略軍は、本日只今を以て連邦軍の一翼を担う組織として発足する!」


 ダンジョン攻略軍。日本のコアクリスタル発電に触発され、ダンジョンの利用価値が見直される形で創設された独立兵科だ。彼らの主任務は、国内に存在するダンジョンの警備と監視、倒したモンスターから得られるドロップアイテムの収集だ。


「我らの活躍の如何によっては、困窮する祖国や連邦軍の窮地を救う事が出来る! その事を胸に刻み、各員の奮戦を期待する!」

「「「はっ!」」」


 将官が壇上で敬礼をすると、数千人に及ぶ兵達も一斉に敬礼をした。 

 将官の演説で分かる様に、ダンジョン攻略軍の存在意義は一言で言って金儲けだ。ダンジョン産のアイテムが高額で取引される事実を知り、ロシアは国内全てのダンジョンを国有化。民間人には開放せず、軍を用いた攻略を行うと言う方針を打ち出した。

 軍を用いる事で安定したアイテム収集が可能になり、余剰分を輸出し外貨を得て経済を立て直す事を選択したのだ。1独立兵科だけとは言え、軍と言う巨大消費組織が外貨獲得の為の生産的活動を始めた瞬間だった。

 因みに軍と政府の間で、アイテム販売で稼いだ資金の分配比率を多めに設定し、軍に多額の資金を回す事で合意している。この御陰で連邦軍は久しく余裕のある予算編成が出来、その多くを人件費に割り当てた事で将兵達の給与が改善、低収入から起きる横流しや汚職と言った犯罪行為が激減し、風紀が引き締まった事で規律ある軍への再生を始めた。

 その為、連邦軍内においてのダンジョン軍の立場は新設の独立兵科でありながら、どの軍からも下に置かれない畏敬の念が向けられる珍しい物だった。自分達の待遇が改善したのが、ダンジョン攻略軍のお陰だと皆が知っているからだ。

 

 

 

 

 

 

 大統領は補佐官の報告を聞き、眉を顰めた。


「中東の紛争が再燃した、だと?」

「はい。つい先ほど、現地に派遣している大使から報告が上がってきました。事前通達も無く、停戦条約を一方的に無視し攻撃を再開したそうです」

「……停戦条約を結んで1年も経たずに戦闘再開か……侭ならんな」

「はい。……我が国としては、どう対処なさいますか?」


 額に手を当て頭が痛そうにしている大統領に、補佐官はこの事態に対する自国の態度をどうするのかと問う。


「……他に何か情報は入っているかね?」

「はい。今回侵攻した部隊に、探索者達で構成されたと思わしき部隊の存在が確認されました」

「何だと? それは本当か?」

「はい。重火器を携行し、装甲車両に追随出来る速度で市街地を走り回っていたそうです」


 補佐官は手元の報告書を読み上げながら、大統領の質問に答えて行く。

 

「そんな真似、一般の兵には不可能だな」

「はい。以前ダンジョン攻略軍が演習で同様の事を行っていましたし、間違いないかと」


 補佐官は、かつて見たダンジョン攻略軍が行った演習を思い起こす。

 重機関銃と大量の弾薬を抱え、装甲車両と同等の速度で演習場を駆け回る隊員達。一斉射撃で、蜂の巣にされて行く標的の廃棄車両。戦闘ヘリを模したドローンに向けて地上の歩兵から放たれる、数十に及ぶ対空射撃の火線。探索者として力を得た者達による演習をみて、歩兵と言う概念が変わろうとしていると実感した。

 因みに現在、探索者が使う事を前提とした携行可能な大口径火砲の開発が、ダンジョン攻略軍主導で行われている。


「しかし、探索者部隊が前面に出て都市戦を行っているのか……現地人の避難は?」

「突然の侵攻の為、住民の避難は行われていない様です。多数の死傷者が発生している模様です」

「そうなると、停戦で落ち着いていた難民の避難も、再開される事になるな」

「はい。その事で、欧州は蜂の巣をつついた様な大騒ぎになっています」

「だろうな」


 大統領は大量に流入するだろう難民によって生じる、欧州の混乱具合を予想し目を閉じ同情する。 

 しかし、何時までも他人事とも言ってられはしない。何せ、紛争を起こしている片方の勢力を後押ししているのは、紛れもなく自国なのだから。


「取り敢えず、早急に現地の情報を集めさせてくれ。正確な情報がなければ、我が国の対処法も決められない」

「はい。早急に報告を上げさせます」

「それと、関係閣僚を早急に集めてくれ。現段階での、対策を練る為の会議を開きたい」

「分かりました」


 大統領の指示を受け、秘書官は部屋を退出した。

 補佐官が退出した扉を見ながら、大統領はポツリと漏らす。


「紛争の再燃か……思ったより早かったな。まぁ、ダンジョンが出現した事で、急遽締結したような停戦条約だったからな。何の問題も解決していない以上、再燃は時間の問題だったと言う事か……」


 大統領は停戦条約の内容を思い起こし、遣る瀬無さ気に溜息を漏らした。

 この紛争再開を切っ掛けに、世界各地で停戦していた紛争や内戦が再開して行く。多くの戦場で、探索者の力を持ったと思わしき兵達が跳梁跋扈し、戦場はダンジョン出現前以上の地獄の模様を体現して行く。それにともない間接的被害も増加、一般民衆にも容赦無く被害を撒き散らした。

 そのせいで難民が数多く発生。安全を求め大量の難民による周辺各国への流入が始まり、ダンジョン出現前より深刻な難民問題に発展していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロシア編です。

資金難で喘ぐロシアが、ダンジョンから得られる利益で国家経済再生への道を歩み始めました。

 過去に、社会主義国家としての経験があるので、米国等の民主主義国家に比べれば非常識の国内統制はまだ効きやすいかなと。

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[気になる点] 非常識の国内統制
[気になる点] ~ そのせいで難民が数多く発生。安全を求め大量の難民による周辺各国への流入が始まり、ダンジョン出現前より深刻な難民問題に発展していった。  そのせいでという地の文は幼い印象を受けるのと…
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