第84話 某南米組織の事情
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薄暗い石畳の通路を、3人の男達は脇目も振らずに全力で走っていた。
「何なんだよ、アレは!?」
「良いから走れ! 追いつかれるだろ!?」
「クソッ! 寄り道なんてするんじゃなかった!」
全力で通路を走る男達は、激しく後悔した。とある取引を済ませた帰りに、見慣れない不思議な建造物を発見し興味本位で潜り込んだのが運の尽き。その不思議な建造物は、ダンジョンだったのだ。侵入して暫くするとモンスターと遭遇し、慌てて逃げ出し今に至る。
「出口だ!」
「走れ!走れ!」
「っ! マズイ、奴ら追いついて来やがった!」
男達が通路の角を曲がると、太陽の光が差し込む出口が見えた。
だが、走る男達の後ろから、威嚇する様なモンスターの遠吠えが聞こえて来た。出口まではまだ少し距離が有り、このまま走り続けては出口につく前に追いつかれる。そう考えた男の一人が足を止め振り返り、持っていた自動拳銃をモンスターに向けて構えた。
「っち! コレでも喰らえ!」
間近まで近付いて来ていた、4足歩行のモンスターに目掛けて、男は無我夢中で引き金を引く。突発音が石畳の通路に響き、銃口から打ち出された銃弾が、モンスターに当たる。
だが……。
「ぎゃぁぁぁっ!」
命中した銃弾をモノともせず、モンスターは首筋から血を流しながら男が咄嗟に突き出した左腕に食らいついた。
「くっ、くそぉぉぉっ! この、死ね死ね死ねぇぇぇ!」
男は左手に走る激痛に耐えながら、右手に持っていた拳銃をモンスターの胴体に突き付け引き金を何度も引いた。幾度も石畳の通路に響く銃声。一緒に逃げていた男達も思わず足を止め、モンスターに食いつかれた男の行動を見守る。
そして、零距離で放たれた銃弾を全弾その身に受けたモンスターは、噛み付いていた腕から口を離し男に圧し掛かる様に崩れ落ち息絶えた。
「だ、大丈夫か!?」
「な、何とか。それより、コイツを退けてくれ重い!」
「わ、分かった」
慌てて噛み付かれた男の元に駆け寄った男は、大急ぎでモンスターの死体を退かす。
「くっそ、痛ってぇぇぇ!」
「と、取り敢えずコレを巻いて止血するぞ。おい、水!」
「あっ、ああ!」
逃げていた男達は、噛み付かれていた男の怪我の治療をする。傷口を持っていた水で洗い、シャツを破いて作った少し薄汚れた布で圧迫止血した。
「くそ、傷が深い。早く医者に連れていかないと……」
「ああ、急いで……ん?」
急いで噛まれた男を病院に搬送しようとしていた時、モンスターの死体が光と共に消え、拳大の銀色に輝く金属塊がその場にが残った。
「……何だ、これは?」
「おい! 何をしているんだ、急げ!」
「あっ、ああ。悪い!」
男は咄嗟に金属塊をポケットに捩じ込み、モンスターに噛まれた男に肩を貸しダンジョンを脱出した。
その後、無事に街まで辿り着いた男達はモンスターに腕を噛まれた男を行き付けの闇医者の元に放り込んだ後、取引結果の報告と一緒に不思議な建物について取引の元締に話した。
「お前ら……良く無事に逃げ切れたな? それはアレだ。今世間を騒がしている、ダンジョンって言う代物だ」
葉巻を吸いながら男達の報告を聞いていた元締めは、呆れ混じりの感心の声を上げた。
「ダンジョン……ですか?」
「ああ。コイツを見てみな」
そう言って、元締めは部屋に備え付けられているTVの電源を入れた。電源が入ったTV画面には、ダンジョンについて報道するニュースが映し出される。男達は暫くニュース画面を凝視し、内容を理解するにつれて滝の様な冷や汗を流していく。
「ご覧の通り、今や世界中このニュースで持ち切りだ。お前達の様に無策にダンジョンに突入した連中は、数千人規模で死傷者を出しているみたいだぞ? ……運が良かったな」
「は、はぃ」
「……」
元締めの称賛にも似た褒め言葉に、男達は表情を引き攣らせ何とかか細い返事を呻く様に返した。
そして、男達の醜態を眺めながら元締めは、葉巻を吹かしつつ本題を切り出す。
「で、お前ら? ダンジョンで、何を手に入れたんだ?」
「……えっ?」
「えっ?じゃないだろ? えっ?じゃ。お前、さっき見たニュースでも言ってただろ? ダンジョンの中に居るモンスターを倒すと、お宝を手に入れられるって。 アイツがそのモンスターってのを倒したのなら、何か手に入れたんじゃないのか?」
元締めにそう言われ、男は思い出す。ダンジョンで拾い、ポケットに突っ込んだ金属塊の存在を。男はポケットを漁って取り出した金属塊を、恐る恐ると行った様子で元締めの机の上に置く。
「あっ、えっと……コレです。何かは分かりませんけど、モンスターが消えた後に残っていた物です」
「ん? コレか……!?!? なっ!?」
男が取り出した金属塊を一瞥し、元締めは椅子から転がり落ちそうに成る程の驚きの声を上げた。
「ど、どうしたんですか!?」
「ばっ! 馬鹿野郎! お前ら、これはプラチナの塊だぞ!?」
「プラチナ……プラチナ!?」
「……ええっ!?」
元締めの言葉を理解した男達も、飛び退く様にして驚き机の上のプラチナ塊を凝視する。
「この大きさと重さのプラチナだと……10万ドル以上は確実だな」
「ええっ!」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、こんな事で嘘をついてどうする」
元締めが言い切った事で、男達は目を白黒させながらプラチナ塊を凝視し続けた。その間、元締めは何か思い付いたのか、葉巻を吹かし唸りながら考えを巡らせる。
そして……。
「……おい、お前ら。ダンジョンのあった場所は覚えているか?」
「えっ? あっ、はい。大凡の場所は……」
「どこだ?」
「あっ、えっと……ここら辺です」
問い質された男は元締めが取り出した地図に、ダンジョンがあったと思わしき場所を指で円を描き指し示す。
「……詳しい場所は? ピンポイントで指し示せないか?」
「えっと、すみません。詳しい場所は、現地に行けば思い出すと思うんですが……」
「そうか。それなら直ぐに用意しろ、手勢を連れてダンジョンに行くぞ!」
「ええっ!? 今からですか!?」
「そうだ。直ぐに用意しろ!」
「は、はいぃぃ!」
元締めに怒鳴られた男達は、大慌てで元締めの部屋を出ていった。
そして元締めは備え付けの電話を取り、部下にある指示を出す。
「私だ。XXX山林地帯の所有者を探してくれ。何?探し出してどうするのかだと? 買い取るに決まっているだろ。……ああそうだ。まずは合法的に買取交渉をしろ。……何? 拒んだらどうするか、だと? 決まっている、拒めば何時もの様に処理しろ。……ああそうだ。それで良い、頼んだぞ」
部下への指示出しを終え、元締めは電話を切り椅子の背凭れに体重を掛けながら葉巻を吹かした。
「これは投資……いや、投機だな。まぁ、そう分が悪い賭けでも無いだろうがな」
元締めは男達が置いて行ったプラチナ塊を眺めながら、不敵な笑みを浮かべていた。
大荷物を抱えフェンスを越えようとしている男達は、巡回車からのサーチライトの光から身を隠す様に、雑木林の中から伏せ状態で辺りの様子を窺っていた。
だが……。
「ダメだな。国境警備隊の警備が厳しくて、何時もの手じゃ抜け様が無い」
「全く、ダンジョンが出現してからコッチ、こうも国境の警戒が厳重じゃ商売上がったりだぜ」
「そうだな……仕方無い。一旦引き上げて、元締めに状況を報告するぞ」
「分かった」
男達は警戒厳重な国境越えを諦め、警備部隊に見付かる前にその場を撤収した。
「そうか。国境越えは無理か……」
「はい。ダンジョンが出来たせいでしょうけど、今の警備状態で国境を越えるのは至極困難かと。素人を多数送り込んで、数で攻めても恐らく突破出来る者は居ないでしょう。無駄に商品を当局に押さえられるだけです」
「……分かった。暫くの間、商品の配送は中止する。何、それ程の警備だ。奴さん達も、何時までも続けては居られんさ。ほとぼりが冷めたら、配送を再開する」
男の報告を受け、元締めは商品の配送の一時中止を決断する。
「分かりました。では、その間は例の?」
「ああ。ウチで押さえたダンジョンで、配下の連中に魔法を覚えさせたりレベルアップさせる」
「分かりました。数ヵ月後が楽しみですね」
「ああ。それと、ちゃんとダンジョン利用料はせしめておけよ?」
「分かってます。ドロップアイテムの一部を、物納と言う形で徴収します」
元締めは男の返事に満足げに頷きながら、一言忠告を入れる。
「任せる。匙加減は間違えるなよ?」
「はい。力を得た下っ端に反乱を起こされたら、困りますからね」
「全くだ。直属の連中には、早めにレベルを上げるように言っておけ」
「はい」
元締めの意を受け、男は軽く頷き部屋を出ていった。
男が部屋を出て行った事を確認し、元締めは葉巻に火を点けた。
「思った通り、国境の警備が厚くなっていたな。この分だと、半年は配送不可能と言った所か?」
葉巻を吹かしながら、元締めは壁にかかったカレンダーを確認する。
「まぁ、良い。金蔓は他にもあるしな」
机の引き出しを開け、ダンジョンに潜った配下の者から物納されたソレを眺めた。
液体の入った瓶や巻物、小粒の輝石等である。
「……思ったより、投資の回収は早そうだな」
不敵な笑みを浮かべた後、元締めは机の引き出しを閉じた。
男達は勢い良く鶴嘴やスコップを振るい、地面の下を掘り進めて行く。固く押し固まった土も、男達にとってはプリンも同じだった。
「折角ダンジョンでレベルアップしたって言うのに、結局やってる事は穴掘りかよ」
「愚痴を漏らすなよ。これだって立派な仕事だ。これが完成すれば、商品の配送も格段に容易になるんだからな」
「だとしてもだよ。良いよな、お前は……魔法が使えて」
「適材適所って奴だな」
男はスコップで土をトロッコに詰めながら、壁を魔法で半円状に舗装しながら補強する男に羨望の眼差しを向ける。
「お前だって武器強化スキルの御陰で、同レベルの奴より攻撃力が高いだろが。そのスコップだって、市販品の安物だろ? 普通そんな安物じゃ、こんな硬い岩盤を刳り貫けやしないって」
「まぁ、そうなんだけどな」
「ほら、もう直ぐゴールなんだ。サクサクと掘り進めて、仕事終わりの飲みに行こうぜ?」
「……そうだな」
丸め込まれた感を感じつつ、男はスコップを握り直し掘削を再開した。その後ろ姿を見届けた後、魔法で補強をしていた男は、補強が終わった壁に木材を貼り付けて行く。
そしてこの3日後、男達が半月程掛け掘削していたトンネルは一応の完成をみた。
20人程の軽装の老若男女が、照明が照らされた長い地下トンネルを足早に通って居た。
先導する男は後ろを振り返り、列をバラけさせ始めた集団に叱責を飛ばす。
「ほら、右側を一列で歩け! 急げ! 向こう側についたら、指示通り用意されている車に乗り込め!」
先導する男に導かれトンネルを抜けると、そこはダンボールが積み重ねられた小さな倉庫だった。全員がトンネルを出た事を確認し、先導していた男は地下トンネルに通じる入口に蓋を置き手早く偽装を施す。
「これで良し、っと。じゃぁ、移動するぞ。全員、指示されたトラックに乗る様に」
男は軽装の老若男女をそれぞれ数人ずつ割り振り、冷蔵庫や洗濯機のダンボールを被せ偽装し、本物の家電と一緒に貨物トラックに載せて行く。
そして数分後、準備が出来た貨物トラックが倉庫を出発する。
だが……。
「止まれ! 警察だ! 荷物を検めさせて貰う!」
敷地を出て直ぐ、待ち伏せをしていた、と思わしき警察に貨物トラックは、停車させられる。複数のパトカーが貨物トラックを取り囲み、ライフルを構え、警察官が銃口をトラックに向けていた。
運転手を務めていた老若男女を先導していた男は抵抗を諦め、手を挙げながら下車。ライフルを突きつける警察官達に、地面に押し倒され取り押さえられた。
「居たぞ! 情報にあった、密入国者達だ!」
「こちらも見付けました! 家電の中に、大量の麻薬が仕込まれています!」
「了解した」
指揮官らしき警察官は、トラックを調べていた部下達の報告を聞き厳しい表情を浮かべ頷く。
「まったく、手古摺らせてくれたな? お前には密輸ルートから何から、洗い浚い話して貰うからな!」
「……」
指揮官は男の顔の側に膝を着け、頭上から叱責を浴びせる。
その後、貨物トラックは押収され、倉庫の家宅捜索で地下トンネルも発見された。
元締めは渋い表情を浮かべ、報告を受けていた。
「そうか、Aトンネルは摘発されたか」
「はい。密入国させた者が不法滞在で捕まったおりの取り調べで、口を滑らせトンネルの存在を露呈させた様です」
「っち! おい、そのトンネルの存在を漏らした馬鹿はどうした?」
「既に強制送還されていましたので、内々で処分しておきました」
淡々とした口調で、男は件の人物の、後始末について報告する。元締めは報告を聞いた後、葉巻を吹かし、高ぶった気持ちを落ち着かせた。
「……まぁ、良い。トンネルは1本だけじゃないんだ。他のトンネルの偽装は?」
「今回の件を受け、念入りに再偽装を施しています」
「そうか。新しいトンネルの掘削もさせておいた方が、良さそうだな」
「はい。バックアップは、幾ら有っても困る事はありません」
「では、その様に手配しろ」
「はい」
男が部屋を出て行った後、元締めは葉巻を吹かしながらポツリと漏らす。
「イタチごっこ成らぬモグラごっこか……大して面白くないな」
南米の某組織編です。
出現初期にダンジョンを確保秘匿出来れば、一弱小組織でも武力資金の両面で力を蓄えられますよね?
そうなれば……。




