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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第82話 顧問教員候補とのお話し合い

お気に入り10580超、PV5230000超、ジャンル別日刊14位、応援ありがとうございます。




 授業が全て終わった放課後、少し間を空けて俺達3人は再び職員室に足を運んでいた。平坂先生に、顧問教員候補の先生を紹介して貰う為だ。

 一言断りを入れ職員室に入り、机で書類整理していた平坂先生に声をかける。 


「遅くなりました。それで平坂先生、紹介して貰える先生は何処ですか?」

「ん? ……まだ戻って来ていない様だな」


 平坂先生は椅子に座ったまま、首を伸ばし職員室の中を流し見る。


「ここで待っていて貰っても良いが、お前達どうする? 話し合い自体は相談室でして貰う積もりだったから、使用予約は入れておいたから……先に移動するか?」


 平坂先生に聞かれ、俺は一瞬どうしようか悩む、が。


「……はい。そうさせて貰います」


 素直に相談室への移動を了承する。

 流石に何時までも、用事も無くこんな(職員室)所に居続けたくないからな。裕二や柊さんが特に反論しない所を見ると、俺と同じ気持ちの様だ。


「じゃぁ先生には、俺の方から移動したって伝えておくから、鍵を貰って相談室に移動しておいてくれ。そんなに待たなくて良いと思うぞ?」

「はい、お願いします。じゃ、失礼します」


 俺達は軽く頭を下げ、平坂先生の元を去る。

 そして、職員室を出る前に入口近くの壁に掛かっている鍵掛けから、相談室のカギを取ってから退出した。

 因みに、相談室は職員室と同じ並びなので、移動には一分も掛からずに移動完了。鍵を開け部屋に入ると、6,7人分のパイプ椅子と折りたたみ長机が並んでいた。


「相談室には初めて入ったけど、随分簡素な部屋ね」

「まぁ、話をするだけの部屋だからね。そんなに凝った内装にする必要もないんじゃないかな?」

「そうだな。最低限話が出来る設備があれば十分だしな」


 俺達は机の上にカバンを置き、片側のパイプ椅子に座る。クッションが薄い安物のパイプ椅子だな、これ。長く座っていると、尻が痛くなりそうだ。


「さてさて、どんな先生なんだろうな?」

「教科担当されているクラスの友達に聞いたら、新卒の先生らしく真面目な先生らしいわよ?」

「へぇー」


 真面目な先生……ね。新任の先生らしいから、気合が入って奮闘中って所かな? 無理をし過ぎていなければ良いけど。ネットで軽く調べただけでも、学校教師と言う職はかなり激務の様で、病気離職率を見るだけでも他の職に比べてかなり高かったからな。

 柊さんの噂話を聞いた俺は、まだ良く知らない顧問教員候補の先生の身を案じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分程相談室で雑談をしていると、突如入口の扉が開き若い女性の先生が入ってきた。

 まだ赴任してから日も浅く、先生と言う職に慣れていないのか所作の端々に大学生っぽい初々しさが残っている様に思える。 


「待たせてゴメンなさい。貴方達が平坂先生の言っていた、創部をしたいって言う生徒さん?」


 椅子に座る俺達の姿を確認した先生は、入口付近で微笑みながら確認の言葉を投げかけてくる。


「はい。2年の九重です」

「柊です」

「広瀬です」


 俺達は椅子から立ち上がり、会釈しながら先生に簡単な自己紹介をした。 

 そして先生も、返答代わりに自己紹介をする。

 

「私は2年生の公民を担当している、橋本沙也加(はしもと さやか)。よろしくね」

「「「よろしくお願いします!」」」 

「自己紹介も終わったし、さっ、座って」 


 橋本先生に着席を促された俺達は椅子に座り、橋本先生も俺達の対面の椅子に腰を下ろす。

 さて、交渉開始だな。


「えっと。君達の相談事は新しく創部する部活の顧問教師の事で、私に顧問を務めて欲しい……って事で良いのよね?」

「はい。……平坂先生から、どう言う風に聞いてますか?」


 まずは、双方の認識の擦り合せからだ。最初の認識からズレていたら、修正するのが面倒になるからな。

 

「平坂先生からは、貴方達が起業研究をする部活を作りたいと言っていると聞いてるわ。高校生なのに、珍しい事に関心を持つわね」


 そう言いながら橋本先生は、俺達に物珍し気な眼差しを向けてくる。

 まぁ普通、高校生なら就職に関心を持ったとしても、起業には先ず関心を持たないからな……。一応、珍しい活動内容を掲げていると言う自覚はある。


「確かに俺達もそう思いますけど……今の世の中のニーズを考えると、高校生で起業と言う行為は珍しい物では無くなってくると思っています」

「特に昨今は社会情勢も激変(ダンジョン出現)していますし……高校生の起業家(専業探索者)は確実に増えると考えています」

「うちの学校でも、必要に迫られ起業する奴が出てくると思いますよ」


 俺達の意見を聞き、言葉の意味を理解した橋本先生は真剣な表情を浮かべる。流石経済大学出身者、詳細を言わなくても伝わったようだ。


「……貴方達が言ってる必要に迫られる事態と言うのは、探索者の収入に関する事かしら?」

「はい。うちの学校にも、探索者資格を持つ生徒達は大勢居ますよね? 彼等は何れ、扶養控除限度額を超えたと言う問題に直面する筈です。昨年度は探索者試験が行われた時期が遅かったと言う事もあって、扶養控除限度額を超えたと言う生徒は希だったでしょうけど、今年度は大勢の生徒が扶養限度額を超える事になると思いますよ」

「……確かに、九重君の言う通りかも知れないわね」

「私達も探索者をしているのですが、今は個人事業主として起業している状態です」

「……貴方達、起業してるの?」


 柊さんの起業済みという言葉に、橋本先生は目を軽く見開き俺達の顔をまじまじと見てくる。

 まぁ、行き成り起業していると聞けばそう言う反応になるか。


「はい。必要に迫られてですけど」

「探索者としての収入が思ったより多くて、今年度の収入はどう計算しても親の扶養範囲内では収まりきれないんです」

「探索中に珍しい物(スキルスクロール等)が手に入って、換金したら意外に高額だったんですよ。いやぁ、運が良いのか悪いのか……」


 俺達全員が揃って苦笑気味に起業している事実を認めると、橋本先生は大きく溜息を吐く。 

 先生が生徒に向かって、それはないでしょ……。

   

「貴方達、優秀なのね……」

「運が良かっただけですよ。偶々、珍しい物が手に入っただけです」

「それでもよ……扶養控除限度額を超えると言う事は、100万円以上稼いでいるって事じゃない」

「まぁ、そうですね」

  

 再び橋本先生が溜息をつく、俺達の収入について何か思う所があるみたいだ。 

 

「私もね、学生時代に友人達とパーティーを組んでダンジョンに行ったわ……直ぐに辞めたけど」

「パーティーの誰かが、怪我でもしたんですか?」

「いいえ。幸い、私達は大きな怪我を負う事は無かったわ」

「それなら、どうして辞めたんですか?」


 俺の質問に一瞬閉口し躊躇した後、橋本先生は探索者を辞めた理由を話してくれた。


「……覚えてるかしら? ダンジョン内でPK行為が発生した事件。あの事件で被害にあった人達の中の一部に、ウチの大学の生徒が混じってたのよ」

「……えっ」 


 それって、宮野さん達の事じゃ……無いよね?


「特にその人達と親しかったと言う訳じゃないんだけど、同じ学校に通う生徒が被害にあったと聞いたら……ね。それに、その被害者達が通っていたダンジョンって言うのが、私達も通っていたダンジョンだって聞くとね? とてもじゃないけど、それまでと同じ様に潜り続ける事なんて出来ないわよ」

「……」

「勿論、もう直ぐ大学を卒業して就職するって言う時期だったから、引退するのに丁度良いって言う理由もあったわ。それに、私がパーティーを組んでいた子達も就職で、全国津々浦々にって感じで散っていって、パーティーを組み続ける事自体が無理だったのよ」


 橋本先生は軽い調子で引退理由を話してくれたが、俺達は表情を変えない様にしながら宮野さん達の事を思い出していた。

 直接PK被害に遭っていなくても、やはりPK被害の影響は甚大だったようだ。どれ位の探索者達が、事件をきっかけに探索者を辞めたのだろうか……。

 

「だから私も、一応探索者として稼ぐ大変さは知ってるつもりよ?」

「そう、ですか……」

「今は入場数制限も同階層帯での過剰聚合も無くなってモンスターと遭遇する機会が増えたとは聞いてるけど、ドロップ品の買取換金額も下がって来てるのでしょ? そんな中で学生の……それも高校生の立場で扶養控除額を超える程の収入が確定していると言い切れる時点で、貴方達が優秀な探索者であるという証拠よ」

 

 言われてみれば、確かに橋本先生の言う通りかもしれないな。

 長期休みを除けば、全日制の高校生がマトモにダンジョンに通える日など週末の休日位しか無い。その上、ウチの学校では土曜日は午前中に授業があるので、日曜日しかダンジョンに潜れないしな。この条件下で、スキルスクロール等の希少な高額換金アイテムが拾得出来ず、低層階のモンスターを相手にして扶養控除額を越える額を稼ごうと思えば……並大抵の苦労ではないな。 

 

 

 

 

 


 橋本先生の探索者経験話が一段落した所で、やっと俺達は今回の相談事の本題に入る。 

 

「で、顧問教員の話だけど……活動内容を聞かせて貰えるかしら? 部活の内容を聞いてから、やるかどうかの返事をさせて貰うわ」

 

 俺はカバンの中から一枚の紙を取り出し、橋本先生に渡す。昨日、平坂先生に貰った創部申請書類だ。

 顧問教員のサイン欄以外は、全て書き込んである。


「どれどれ……えっ?」


 橋本先生は申請書類に目を通し、一瞬固まる。


「朝練無しの土日休み、活動時間は平日の17時まで……」

「運動部ではありませんので、部員が部活中に怪我をする事は先ず有りませんよ」

「……負傷……責任……謝罪……対策……改善……報告……」

「活動報告を兼ねた成果発表は文化祭時にしますので、大会に引率すると言う事もないと思いますよ」

「週休1日……確定……」

「あと、消耗品等の備品は自分達の手持ち分で賄えます」

「……手出し無し……うん」


 申請書類を凝視したまま、橋本先生はブツブツと小さな声で呟いていた。まぁ、橋本先生の様な新卒新任の先生にとって、この条件はかなり美味しい条件だからな。特に橋本先生は現在、運動部の副顧問を任せられているらしいから、尚の事だろう。

 何度も頷きながら申請書類を凝視している橋本先生の姿を見るに、答えは既に決まっている様な気がするが一応確認しておくか。 


「橋本先生……顧問教員の件、引き受けて貰えますか?」

「……!」


 一瞬、即答で顧問就任を了承しそうになった橋本先生だったが、声を出す前に口を手で押さえ即答を思い止まっていた。 

 数度深呼吸をして気持ちを整えた後、橋本先生は口を開く。


「ええっと、返事は幾つか確認をしてからで良いかしら?」

「ええ、それは勿論。それで、質問は何ですか?」

「先ず一つ目は、活動時間の短さよ。申請書類だと、平日に1時間位しか活動しない事になっているのだけど……これで良いの? 他の部活だと、大体2時間くらいは活動してるんだけど……」

「はい。部活の他にもやる事もありますし、創部する目的を考えるとその位の時間で十分だと思っています」


 俺の回答に、橋本先生は首をかしげる。まぁこんな短い活動時間だと、態々手間をかけてまで創部する意味がわからないからな。


「? 創部の目的? 書類に書いてある理由以外に、何か他にもあるのかしら?」

「はい。どちらかと言うと、こっちの理由が創部の主目的です」

「……どういう事か、聞かせて貰えるかしら?」  

「はい。じゃぁ、先ず……」


 俺は創部しようとするに至った経緯を、橋本先生に順を追って話す。

 1年生が抱える留年探索者の強引な勧誘問題、GW後の留年探索者勢力の急激な拡大への不安、美佳達が直面するだろう今後の高校生活への不安……など。重要部分以外を色々と端折りながら説明したのだが、時計を見ると説明が終わるまで10分以上かかっていた。


「なる程……そう言う理由で創部しようとしていたのね。はぁ……」


 橋本先生は説明を聞き終わると、心底疲れたと言いたげな盛大な溜息を吐く。生徒の前でその態度はどうかと思わなくもないけど、まぁ無理もないか。


「すみません。七面倒な問題を黙っていて」 


 俺達は椅子に座ったまま軽く頭を下げ、橋本先生に謝罪する。

 事情を黙ったまま、騙す様にして顧問教員に担ぎ上げようとは思ってはいないが、面倒事に巻き込もうとしていたのは事実だからな。


「謝らないで。この件に関して言えば、謝らなければいけないのは私達教員側なんだから」

「……えっと、どう言う事ですか?」

「私達教師も、留年探索者の問題行動に関してはある程度認識しているわ。職員会議の議題にも、何度か取り上げられた事もあったわ。でも、私達が把握しているのはあくまでも人伝に聞く噂。問題行動の現場を押さえた訳でも、明確な証拠を押さえた訳でも無いのよ。だから中々、生活指導なんかの対策が取れなくて……」


 教師側も留年探索者の行動について、何も知らないと言う訳ではなかった様だ。予想通り、今はまだ明確な証拠が無く、動くに動けないと言った所らしい。

 確かに、理由も無く生徒間の問題に学校が首を突っ込む訳にもいかないからな。


「本当なら、私達教師が動いて、解決しないといけない事なのに、私達がグダグダしている内に……はぁ、不甲斐ないわね」


 橋本先生は顔を俯かせ少し黙り込んだ。どうやら先程の大きな溜息は、不甲斐なさからくる自責の溜息だった様だな。

 しかし、まぁ……教師側もまさか留年生がこんな問題を起こすとは考えていなかった筈だ。少しくらい対応が遅れても仕方ないとは思うんだけどな。被害に遭う生徒側としたらたまった物ではないと思うけど。

 だが、まぁ取り敢えず。

 

「あの、橋本先生? 別に、そんなに気落ちしなくても……」

「そうですよ、先生。元気出して下さい」


 何時までも落ち込んでいられると、流石に面倒だ。

 俺と柊さんが色々励ましの声をかけると、橋本先生は俯かせていた顔を上げる。その顔に浮かべた表情は、何かを吹っ切った様に見えた。


「そうね。何時までも落ち込んでいてもしょうがないわね。良いわ、顧問教員の件……私が引き受けてあげる」

「……はい?」

「新部の顧問を、私が引き受けてあげるって言ってるのよ。留年生の問題解決を、生徒だけに押し付ける訳にもいかないしね」

「あっ、その、えっと……ありがとう、ございます?」

「よろしくね」


 突然の顧問教員就任了承に戸惑う俺達に、橋本先生は笑顔で右手を出し握手を求めてきたので、良く分からないまま俺達は順番にその手を取って握手をした。

 これって、一応目的は達したと考えて良いのだろうか?


「創部申請書類は、私が顧問欄に署名してから提出しておくわ。中間考査もあるから、創部許可の是非に関しては来月になると思うわ」

「はぁ、分かりました」

「気のない返事ね。まぁ、良いわ。文系の部活に分類されるはずだから、特別教室を部室替わりに使用申請出来るけど……何か希望はあるかしら?」

「部室、ですか……」


 それは……考えてなかったな。

 裕二と柊さんに確認の視線を送ってみるが、二人も特に使用する教室に希望は無いようだ。


「特に希望はありません」

「そう。じゃぁ、私が適当に見繕っておくけど、良いかしら?」

「はい。お願いします」


 取り敢えず、コレで顧問問題は解決。創部問題に関しては、後は許可待ちだな。 

 さてと、少し遅くなったけど稽古に行くか。美佳達は無事かな? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顧問の件はなんとか無事に了承を得ました。

留年生の行動については、職員の間でも認識はされています。


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― 新着の感想 ―
普通の社会人の感覚で週休1日って聞いて、最初拒絶反応出そうになったんですが・・・。 そうか、教師って土日も部活で出勤する可能性あるから休み無しかもしれないんだ・・・こわっ
生徒は顧問が確保できてヨシ 先生は週休1日確定でヨシ!!
[一言] とある(仕事と人生が)漆黒先生Vtuber小説読んだ後だとめっちゃホワイトな部活顧問だなーと、改めて思う 同僚に羨ましがられて、(教師にとって)大当たり部活ですな、ほんとに
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