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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第78話 美佳達の稽古始め

お気に入り10530超、PV 4990000超、ジャンル別日刊23位、応援ありがとうございます。



 


 重蔵さんと話し合った翌日、俺達3人は放課後の教室で話しながら美佳と沙織ちゃんが来るのを待っている。教室に残っている連中も、片手で数えられる程に減っていた。

 

「遅いな……」


 裕二達と話していたとは言え、特にする事もなく待っていて暇になった俺は愚痴を漏らす。

 が……。


「放課後になって、まだ20分も経っていないじゃないか。もう少し、気長に待っていてやれよ……」

「そうよ。放課後すぐに、この教室に来るように約束したんでしょ? それなら、もう直ぐ来るわよ」


 俺の愚痴が聞こえたらしい、裕二と柊さんに嗜められた。

 まぁ、そうなんだけどね。暇なんだから、愚痴の一つぐらい漏らしても良いじゃないか……。  


「そう言えば、九重君。妹さん達は、この稽古の事どう言ってたの? 拒否はしなかった?」

「大丈夫、拒否はしなかったよ。俺がダンジョンに行くようになってから稽古通いしていたこともあるし、家でも素振り何かは日課で稽古していたからね……」

  

 昨日の夕食後に、美佳に稽古のことを伝えたら二つ返事で了承してくれた。前々から、ダンジョン内でのモンスターとの戦闘映像を見せていた事も影響しているのか、戦闘訓練の必要性は理解しているようだったからな。


「まぁ最低限、美佳達には自分の振るった武器で自分が傷つかない程度にはなって貰わないと……」

「そうだな。自分の武器で自傷するとか、ギャグだよな」

「そうね。でもたまに、ダンジョンの表層階でそう言う人を見かけるわよ?」

「ああ、居るね。そう言う人……」


 振り抜いた武器を止めきれず、自分の足を切り血塗れになっている探索者をたまに見かける。ああ言う手合いを見ていると、何で事前に練習してからダンジョンに来ないのか本当……謎だ。

 多分、モンスターと対峙した緊張と興奮で、武器を後先考えず力任せに振るった結果だろうけど。


「鈍器系の武器を使う探索者に多いよな、そう言う怪我をする人」

「……そうね。自分の武器の重さに振り回されて、って所かしら?」

「……美佳達には筋トレをさせた方が良いかな?」

「その方が良いだろうな。レベルアップすれば解決する問題だとは思うけど、やっておいて無駄なことじゃないと思うしな」


 そうなると鈍器系を美佳達に使わせるのも考え物かもな……。

 俺達が、美佳達に何を使わせた方が良いか、を悩んでいると、美佳達が教室のドアの前から、声をかけてきた。 


「お兄ちゃん! お待たせ!」

「お待たせしちゃったみたいで、すみません」

「二人共、そんな所に立ってないで入ってきなよ」


 俺が手招きをすると、美佳達は教室に入って俺達の下まで近寄ってきた。美佳は何も気にしていない様だったが、沙織ちゃんは教室に残る他の上級生達に遠慮しながら。


「こんにちは! 裕二さん、柊さん! 今日は、よろしくお願いします!」

「あの、その……よろしくお願いします!」

「ああ、よろしく。美佳ちゃん、岸田さん」

「こちらこそよろしくね、九重さん、岸田さん」


 頭を深々と下げながら美佳達は挨拶し、裕二は軽く手を挙げ、柊さんは会釈でそれぞれ応える。取り敢えず、変な蟠りもなさそうで良かった。

 

「それにしても、遅かったな。何かクラスの仕事でもあったのか?」

「うん! それがさ、聞いてよお兄ちゃん!」

 

 美佳達に来るのが遅かった理由を聞くと、美佳は苛立たし気に語気を荒げ、沙織ちゃんは不機嫌そうな表情を浮かべる。二人を落ち着かせながら話を聞くと、遅れた理由は例の留年生探索者関連とのことだ。


「断っても、何度も何度もしつこく勧誘し続けるんだよ!? 本当、迷惑なんだから、あの連中!」

「美佳ちゃんの言う通りですよ! あの人達、人の都合も一切考慮しないで自分達の言い分を一方的に主張し続けて来るんです!」


 どうやら二人共、相当不満を溜め込んでいたようで、止めど無く愚痴を漏らす。俺達三人はそんな二人に何も言えず、聞き手に徹することしか出来なかった。因みに、教室に残っていた数名のクラスメイト達も二人の話を聞いていたらしく、唖然とした表情を浮かべながら二人の愚痴に耳を傾けている。そんな彼等に、俺はアイコンタクトで軽く謝罪しておいた。

 そして5分ほど愚痴を吐き出した2人は、漸く落ち着きを取り戻す。 


「えっと、大変だったみたいだな?」

「うん。本当に、もう……」

「聞いてたより、大分酷そうだな」

「そうなんですよ。ゴールデンウィークで何らかの成果があったみたいで、益々素行が……」

「それ……本格的に、どうにかしないと拙そうね」


 俺達は口々に二人の愚痴の感想を述べるが、二人は大分疲れた様子で近くの空いている椅子に力なく座り込んだ。……本当に、疲れているらしい。

 しかし、何時までもこうやっていても仕方がないな。


「まぁ、何だ? 皆揃ったことだし、移動しようか? あんまり重蔵さんを待たせるのも、アレだしな」

「ああ、そうだな」

「ええ」


 落ち込む二人に声をかけ、俺達は荷物を持って席を立つ。美佳と沙織ちゃんも顔を見合わせ、軽く溜息を吐いた後に席を立った。


「二人共、大丈夫?」

「うん」

「はい。気疲れはしてますけど、大丈夫です」

「そう……じゃ、行こうか」


 残ったクラスメイト達に挨拶をした後、俺達は連れ立って教室を後にした。

 彼らが美佳達に向けた、不憫そうな眼差しは見なかった事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 美佳と沙織ちゃんは唖然とした表情を浮かべながら、足を止め裕二の家の門を見上げていた。

 

「ここが、裕二さんの……?」

「大きい、ですね」


 沙織ちゃんは当然として、そう言えば美佳も裕二の家には連れて来たことはなかったな。初見なら、驚くのも無理はないか。

 

「何してるんだ二人共? そんな所に突っ立っていないで行くぞ」

「えっ、あ、うん」

「あっ、す、すみません」


 俺の掛けた声で正気を取り戻した二人はおっかな吃驚と言った足取りで、大門横の潜り戸の前に立つ俺達の下に駆け寄る。想定外過ぎたのか、裕二の家構えを前にし二人は先程から挙動不審だ。

 取って食われる訳じゃないんだからもう少し落ち着いたら良いのに……と言う感想を、自分達の初訪問時の動揺を忘却の彼方に押しやりつつ思った。


「お邪魔します」

「お、お邪魔します?」

「お邪魔しま……」

 

 裕二を先頭に1人ずつ潜り門を抜ける。玄関はまだ先だと知ってはいるが、一応潜り戸を抜ける時に声をかけながら門を潜った。美佳と沙織ちゃんも俺に倣って声をかけながら潜り戸を抜け……固まる。

 まぁ……何の心積もりも無くこの前庭を見れば、固まるわな。

 

「九重さん、岸田さん。そこに立たれていると中に入れないから、奥に進んでくれないかしら?」

「あっ、ご、ゴメンなさい!」

「す、すみません! 直ぐに退きます!」

「危ないから、そんなに飛び跳ねる様に退かなくても良いのに……」


 潜り戸の先に広がる光景に唖然と立ち尽くしていた二人の後ろから、柊さんの注意の声がかかる。二人は左右に飛び跳ねるように分かれ、潜り戸の前を退く。

 柊さんは軽く溜息を吐きながら、二人が潜り門の前を退いたことを確認し門を抜け、後ろ手で門を閉める。

 

「さっ、爺さんも首を長くして待っているだろうから、早く道場の方に移動しよう」

「あぁ、そうだな。二人共、そろそろ行くぞ?」


 門が閉まったことを確認した裕二が、俺達に先を促す声を掛ける。美佳達を待っていた分、何時もより遅くなったからな。一応重蔵さんには昨日、訪問が少し遅れる旨を伝えていたので大丈夫だとは思うが……早い事に越したことはないからな。

 なので、顔を忙しなく左右に動かし庭の様子を観察している美佳と沙織ちゃんに俺は声をかけた。


「あっ、うん」

「は、はい」


 裕二に先導される形で前庭を抜け、俺達は玄関に到着する。

 その間、美佳と沙織ちゃんは繁繁と裕二の家を観察し小さく驚きの声を上げていたけどな。


「ただいま」

「「「「お邪魔します」」」」


 玄関を上がった俺達は、先ずは荷物を置く為に裕二の部屋へ移動する。相変わらず家の中だと言うのに、結構歩くよな。


「さっ、荷物を置いたら道場に行こうか? 二人は運動着、持ってきてるよね?」

「あっ、はい! お兄ちゃんに言われていたので、準備してきています!」

「学校の体操着とジャージなんですけど……大丈夫ですよね?」

「それで、問題ないよ」


 裕二が美佳と沙織ちゃんに、運動に適した服装の有無を確認する。昨日の内に、2人には運動着を用意するように伝えておいたのだが、流石に昨日の今日では体操服位しか用意出来ないよな。まぁ裕二の言うように、体操服でも全然問題ないけど。

 裕二の部屋に荷物を置いた俺達は、稽古に使う運動着を手に持ち道場へ移動する。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道場に入ると、重蔵さんが道場の真ん中で俺達が来るのを瞑想しながら待っていた。

 道場の扉を開いた音に気が付いたような感じはなく、俺達の存在に気が付いていないようだが……重蔵さんに限ってそれは無いな。

 だが、その独特の場の雰囲気に気おされ、道場の中を覗き込んでいた美佳と沙織ちゃんは身を一歩引く。 

「爺さん」


 裕二が道場の入口から声をかけると、重蔵さんは瞑想で閉じていた瞳を開け俺達を見た。


「おお、裕二か。遅かったの?」

「ちょっとゴタゴタがあって」

「そうか。で、そっちの二人が?」

「ああ。大樹の妹の美佳ちゃんと、その友達の岸田沙織ちゃんだ」

「ふむ」


 裕二の紹介をうけ、重蔵さんは美佳と沙織ちゃんに品定めをするような視線を向ける。

 って。


「「……!」」


 重蔵さんに視線を向けられた瞬間、二人は俺達の後ろに身を隠し縮こまる。

 まぁ、行き成り重蔵さんにあんな視線を向けられれば、無理もないか。


「おい、爺さん」

「おっと、すまんすまん。良く来たな、二人共」


 裕二の咎める様な指摘に重蔵さんは視線を緩め、好々爺然とした笑みを浮かべながら二人に謝罪する。


「「……」」

「ふむ……嫌われたかの?」

「行き成りあんな不躾な視線を向けられれば仕方ないだろ、自業自得だ」

「まぁ、そうじゃな。さて、お主ら。何時までもそんな所に突っ立っていないで、道場に上がると良い」


 重蔵さんに促され、俺達は道場へ上がる。

 しかし、俺達の後ろに隠れていた美佳と沙織ちゃんは中々道場へ上がろうとしない。 


「どうしたの?」 

「えっ、あっ、うん……」

「……」


 どうやら二人共、気が進まないらしい。原因は、重蔵さんの視線だよな……。


「二人共、そんなに緊張しなくても大丈夫だから」

「で、でも……」

「別に重蔵さんも、二人のことが気に入らなくてあんな視線を向けた訳じゃないからね。只、俺達が連れてきたってことで、興味が湧いたんだと思うよ」

「……そうなんですか?」

「うん。外見は強面だけど、重蔵さんは面倒見が良い人だよ」


 本当、面倒見は良いんだよ。裕二の友達とは言え、ど素人だった俺や柊さんに重蔵さん本人が丁寧に指導してくれる位だからね。普通なら、有り得ない高待遇だと思うよ。

 二人は俺の弁明の言葉を聞き、お互いに顔を合わせて頷き合う。どうやら、第一印象の誤解は解けたみたいだな。


「じゃ、行こうか?」 

「うん」

「はい」


 俺が道場に上がるように促すと、今度は二人共素直に道場へ上がる。

 そして、俺達は重蔵さんに一言断りを入れ、先ず稽古着に着替えることにした。


「じゃぁ、柊さん。二人を頼むね?」

「ええ、分かったわ。じゃぁ九重さん岸田さん、こっちよ」

「「はい」」


 二人は柊さんに連れられ、道場に備え付けられている更衣室へ移動した。

 3人を見送った後、俺は裕二

に声をかける。


「さて、3人も行った事だし俺達も着替えようか?」

「ああ。何時までも爺さんを待たせとく訳にも行かないしな」

 

 俺と裕二は3人が入っていった更衣室の反対側にある、もう一つの更衣室に入る。

 更衣室は4畳半程の大きさの部屋に、壁一面の木製棚と木製のベンチシートが置かれているだけのシンプルな作りだ。棚に着ていた制服を放り込み、運動着に着替える。ダンジョンに入る時に着ている、レベルアップしている部屋着と違い量販品の只のジャージだ。 

 手早く着替え終え振り返ると、裕二も着替え終えていた。


「よし。行くか」

「ああ」


 俺と裕二は更衣室を出て、瞑想の続きをしている重蔵さんの前に静かに腰を下ろす。 

 まぁ、重蔵さんに声をかけるのは、柊さんと美佳達が来てからで良いだろう。 


「……」

「……」

「……」

 

 ま、間が持たない……。美佳達を待ち始めて既に5分ほど経過しているのだが、何をしているのか3人はまだ来ない。これは、声をかけるタイミングを逸したなぁ。裕二も裕二で重蔵さんに倣って瞑想をし始めたから、道場の中に音を立てる者も居ない。

 早く出てきてくれないかな……と思っていると、更衣室の方から美佳達の声が聞こえてきた。

 

「待たせたわね」

「お待たせぇ」

「すみません遅くなりました」


 3者3様、口々に着替えに時間がかかったことを謝罪すると、俺の横に腰を下ろした。

 俺は内心ホッとしつつ、瞑想をしている重蔵さんと裕二に声をかける。俺の声が聞こえた重蔵さんは瞑想を止め、目を開き俺達を一瞥し……。


「……手始めじゃ」

 

 その一言と共に、重蔵さんは脇に置いていた木刀を美佳と沙織ちゃん目掛けて袈裟斬りに振るった。

 

  

  

  

  

  

 

  

  

 

留年探索者達は、アメ撒きで好感度稼ぎ中です。

妹達は稽古開始です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーは面白いんだけど… [気になる点] 主人公達がいまいち好きになれない… なんか他の探索者達をナチュラルに見下してる感じがして… 確かにかなりの探索者が準備不足だったりやらかしたり…
[一言] やはり横に通用門があるのに、なぜ初めての時は正門を開いたのじゃろ。
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