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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第75話 通学路にて

お気に入り10470超、PV4800000 超、ジャンル別日刊22位、応援ありがとうございます。


 

  

 

 

 短いようで長かったゴールデンウィークが明け、久し振りの学校だ。色々と憂鬱になることもあったが、中々有意義な連休だった。俺は制服に袖を通し、身嗜みを整え通学鞄を持って部屋を出る。

 リビングに入ると、既に美佳が準備万端で俺を待っていた。


「お待たせ」

「遅いよ、お兄ちゃん。何時もの登校時間には、間に合わないかと思ったよ」

「ごめんごめん。ちょっと準備に時間がかかってね」

「もう……昨日の内に準備をしておかないからだよ」

「そうだな、ごめん。……じゃぁ、遅刻しないうちに行くか?」

「うん」

 

 美佳は通学カバンを持ち、ソファーから立ち上がる。 


「もう行くの? 車には気を付けるのよ」

「はぁい」

「行ってきます」


 台所で片づけ物をしていた母さんの声が聞こえたので、返事を返し俺と美佳は家を出た。

 通学路を美佳と並んで歩いていると俺達と同じ様に登校している、休み明けの気怠い雰囲気を纏った学生達の姿がチラホラと見受けられる。


「やっぱり皆、休みボケしてるみたいだな……」

「……お兄ちゃんが言うの? お兄ちゃんだって、ゴールデンウィーク中日の時は似た様な感じだったよ?」

「うっ……」


 俺がポツリと口にした戯言に、美佳の鋭い突っ込みが入る。

 確かに美佳の言う通りだ。あの時偶々ジュエルスライムが引き出しの中に出現したから、テンションが上がり登校前に気怠さも飛んだけど……アレがなかったら歩くゾンビの様な感じで登校していただろうな。


「まっ、まぁ……それはそれとして。美佳、バイトの方はどうだったんだ? 何か面白い事はあったか?」


 この話題は分が悪いと思い、俺は多少強引だが話題を変える。

 

「? 面白い事?」

「アレだけ大きなイベントだからな、何か面白い出来事とかなかったのか?」

「面白い事……。ああ、そう言えば……」

「何かあったのか?」


 何か思い当たることがあったらしく、美佳は手を叩きながら俺に話し出す。


「うん。木刀がお兄ちゃんに向かって飛んで来た模擬戦イベント、覚えてるよね?」

「ああ、勿論。アレがどうしたんだ?」

「あの模擬戦イベントなんだけど、次の日から中止になったの」

「へぇー」


 安全性の問題かな?まぁ確かに、あの時あの場に居たのが俺じゃなかったら良くても打撲、悪かったら死亡事案だったからな。

 あえて、リスクの高い見世物を続ける意味もないか。


「でね? 模擬戦の代わりに、魔法を使ったマジックショー(魔法ショー)になったの」

「へー」

「曲芸みたいで中々見応えがあって、模擬戦より面白かったって評判だったんだよ?」


 模擬戦よりって、宮野さん達が続けてやったのかな?

 それとも、別の人が出張って……?


「そのマジックショーって、模擬戦をやってた人達が引き続やってたのか?」

「うん。私が見た時は、同じ人達がマジックショーもやってたよ」

「そうか……」


 あの後、不祥事の責任を取らされて、解雇とかされなかったみたいだな……良かった。

 あんな姿を見た後だと、宮野さん達の扱いが少し心配だったんだよな。この手の不祥事が起きた時、まれにバイトに全責任を押し付けて責任者は責任逃れを……と言った展開もあるって、耳にするし。

 

 

 

 

 

 

 

 美佳と話をしながら歩いていると、後ろから声がかけられた。

 

「おはよう、美佳ちゃん。お兄さんも、おはようございます」


 声を掛けて来たのは、沙織ちゃんだった。 

 どうやら俺達の後を急いで追って来たらしく、少し息が切れている。


「おはよう」

「おはよう、沙織ちゃん」


 俺と美佳は足を止め、沙織ちゃんに朝の挨拶を返す。少し間を空け、沙織ちゃんの息が整った頃合を見て再び歩き始める。 


「久しぶりだね、沙織ちゃん。イベント会場で少し会って以来かな?」 

「はい。あの時はバタバタしていて、すみませんでした」

「俺の方こそ、急いでいたのに時間を取っちゃったみたいで悪かったね」


 俺と沙織ちゃんは、互いにイベントで会った時の不手際を謝り合う。まぁあの時は、お互いにタイミングが悪かっただけ何だけどな。

 

「あっ、そう言えばお礼がまだでしたね」

「お礼?」

「はい。イベント屋台の無料クーポンの件です」

「ああ、アレね」


 沙織ちゃんに言われて、俺は忘れていたクーポン券の存在を思い出す。

  

「美佳ちゃんから聞きました、お兄さんが譲ってくれたんですよね?」

「俺が持っていても、しょうがない物だったからね。2人が有効に使ってくれるのなら、それに越した事はないよ」

「でも御陰で、バイト期間中は私も美佳ちゃんも毎日美味しい昼食にありつけたんですよ? お兄さんには、感謝しっぱなしでした」


 満面の笑みを浮かべた沙織ちゃんが、再び俺に頭を下げながらお礼をする。アレは、単なる貰い物の横流しだったんだけどな……。

 俺は照れ臭さを誤魔化す様に頭を掻きながら、どうにかしてくれと美佳に視線を送る。

 だが……。


「美味しかったよ、屋台飯。お兄ちゃんの御陰で、充実したお昼だったなぁ」

「うん。特に、焼きそばが絶品だったよね?」

「そうそう。少し焦げたソースの香りが特に……」


 美佳は俺の助けを求める視線に気づかず、バイト期間中の昼食で食べた屋台飯の事を思い出し沙織ちゃんとグルメ談義を始める。正直、横で聞いているだけで腹が減ってきた。

 胃の辺りを摩りつつ二人を率いて歩き続けていると、不意に俺達に向けられる視線を感じとる。何事かと周りを見回して見ると、通学中の生徒達が餓狼のような視線をグルメ談義を行っている二人に向けていた。  

 

「……」


 俺と視線があった幾人かは、恨みがましい視線が送られてきた。因みに、恨みがましい視線を向けてくる割合は男より女の方が多い。……朝食を抜いてきたのかな?

 夢中でグルメ談義をする2人は気付いていないのだろうが、俺は中々の居心地の悪さを感じつつ通学路を歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 居心地の悪さを感じつつ通学路を歩いていると、背後から声を掛けられる。

 

「よう、大樹。久しぶりだな」

「……裕二か?」

「他の誰に見えるんだ?」


 声を掛けて来たのは、久しぶりに顔を合わせる裕二だ。

 

「おはようございます、裕二さん」

「おはようございます」

「おはよう、美佳ちゃん。それと……岸田さんだっけ?」

「はい」


 裕二の登場に俺が戸惑っている間に、美佳と沙織ちゃんが裕二に挨拶をする。  

 二人共、裕二とは面識があるからな。


「それにしても二人共、随分腹が減ってくるような話をしてたな?」

「えっ、聞いてたんですか?」

「聞き耳を立ててた訳じゃないんだけど、聞こえてきたんだよ。ほら、周りを見てみなよ」

「「……」」


 裕二に指摘され、2人は辺りを見渡し凍りつく。

 やっと、自分達に向けられる視線に気が付いた様だ。


「俺の他にも2人の話が聞こえてたようでな、合流するまでに何人か通学路の途中にあるコンビニに入って行くのが見えてたよ」

「……えっと」


 うん、俗に言う飯テロだよな。

 朝飯を抜いた連中は途中で脱落し、今周りに残っている生徒はちゃんと朝飯を食ってきた連中ということだろう。


「「御免なさい」」


 現状を認識した二人は、周りにいる生徒達に向けて慌てて頭を下げる。 周りに居た生徒達は二人の行動に苦笑を漏らしつつ、何も言わずに立ち去っていった。

 飯テロ被害者が残っていなくて良かったな。 


「……まぁ、何だ? おはよう、裕二」

「ああ、おはよう」  


 周りの生徒達が大方立ち去った後、俺たちは再び歩き始めた。が、美佳と沙織ちゃんがやらかした失態に落ち込み気不味い沈黙が流れたので、取り敢えずこの空気を打破する為朝の挨拶をまだしていなかった俺は裕二に声をかけた。


「そう言えば、地方出張はどうだった? イベントは成功したの?」

「ああ。取り敢えず、成功と言って良いと思うぞ? 客足もそこそこだったしな」

「へー。結構人気のイベントだったんだ」

「ああ。色んな流派の武術道場を集めた、総合武術イベントだったからな。参加した道場も、新弟子獲得のチャンスだって躍起になってたぞ」


 弟子集め……つまり顧客確保か。

 ダンジョンブームで道場通いする人が増えたとは聞くけど、格闘系のカルチャースクールも同時に増えたからな。生徒……顧客の獲得競争事情の厳しさに変わらないか。 


「そう言えば、裕二は代役だったんだろ? 新弟子は確保したのか?」

「いいや。剣術と言うこともあって結構人気だったけど、今回俺達は代役だったからな。代役を頼んだ道場の方を、希望者には紹介しておいたよ」 

「大丈夫なのか、それ?」


 裕二と重蔵さんの模擬戦を見て、弟子入りを希望したんだろ? 下手したら、紹介された道場が詐欺扱いされかねないんじゃ……。


「大丈夫なんじゃないか? そこまで、アレな模擬戦はしてないし……」

「……そうか?」

「ああ。一応、一般人に見える程度の動きしかしてないし、爺さんも本気は出さなかったしな。ちょっと凄い模擬戦ですんだ……と思う」


 自分で言ってる内に裕二の語尾が段々小さくなっていき、少し自信無さ気になっていく。模擬戦中にテンションが上がって、何かやらかしたのか?俺の向ける疑惑の眼差しに、裕二は気不味気に視線をズラす。本気で、何かやらかしたようだ。


「あの、裕二さん? どこかのイベントに出演したんですか?」


 俺と裕二のやり取りを聞いていた美佳が、少し躊躇しつつ口を挟む。

 多分、バイト先のイベントショーの模擬戦を思い出したのだろう。


「ん? ああ、知り合いの道場主に頼まれて、俺と爺さんが地方のイベントで模範演武をやったんだよ」

「で、何かやらかしたらしい」

「やらかしてはいないさ。ちょっと、木刀を最後の打ち合いでヘシ折っただけだ」

「……充分やらかしてるだろ、それ」

 

 木刀がヘシ折れるって……ドンだけ激しい打ち合いをしたんだよ?

 まぁ確かに、俺達がそこそこ気合を込めて打ちこんで受け流し方を間違えれば、木刀ぐらい簡単に折れるけどさ。模擬戦を始めた最初の頃は、良く木刀をヘシ折ってたな。


「ええっ! 木刀を折ったんですか!?」

「アレって、折れる物なんですか?」


 ほら、見ろ。美佳や沙織ちゃんの反応を。一般人からしたら、模擬戦中に木刀が折れるなんて異常事態でしかないからな。

 ジト目を俺が向けると、裕二は肩を落とし落ち込んだ。


「やっぱり、そうなんだ。だからあの後……」


 あの後……何?

 何かあったのか追及したいのは山々なのだが、澱んだ雰囲気を発し始めた裕二に声をかけるのは躊躇する。美佳や沙織ちゃんも俺と同じらしく、裕二から一歩引いていた。 

 俺達は落ち込む裕二をそのままに、無言のまま通学路を歩く。


「あっ、じゃあ私達ここで……」

「お兄さん、頑張って下さい」

「あっ、ちょ」


 昇降口に到着した途端、美佳と沙織ちゃんが手を振りながら去っていく。靴箱の場所が違うとは言え、図らずも気不味い空気を発し続ける裕二を押し付けられた形になった。

 勘弁してくれ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室に到着した俺は裕二を席に送り届けた後、自分の席で突っ伏した。 


「何で朝から、こんな気苦労をしないといけないんだよ」


 思わず愚痴が漏れる。

 ただ歩いて通学しただけなのに、精神的疲労が半端無い。飯テロ被害者の恨みの視線に晒され、底なしに落ち込む友人の介助……。


「もう帰りたい」

「登校したそばから、何言ってんだ?」

「……ん?」


 突っ伏した顔を上げると、そこには呆れ顔の重盛が居た。


「……重盛か」

「重盛か、じゃ無いだろ? なんで朝っぱらからそんなに疲れてるんだ?」

「ちょっと、な」


 突っ伏していた体を持ち上げ、前の席に座る重盛に朝の出来事を話す。

 聞き始めは呆れ顔だった重盛も、話が進むに連れ同情の色を見せ始めた。


「ああ、なる程。それなら、朝から疲れるのも無理はないか……」

「本当にな」


 胸に溜まっていた物を重盛に話し吐き出したことで、幾分か気が楽になった。やっぱり気が滅入った時は、一人で溜め込まず誰かに話して吐き出すのが一番の解決策だな。

 

「さて、と。今日も一日頑張るか」


 俺はカバンの中身を取り出し、机の中にしまって授業の準備を行う。 

 その際、裕二の様子を確認すると相変わらず澱んだ雰囲気を纏っていた。まぁ、俺と同じ様に授業の準備をしているので大丈夫ではあるようだ。昼休みになっても落ち込んでいるようなら、話を聞いて慰めてやろう。まぁ、本人が話すかは別だけど。

   

「美佳達の事も相談しないといけないから、早く立ち直ってくれると良いんだけどな」 


 登校中に裕二には話しておこうかと思ったんだが、あんな空気の中じゃ切り出せなかったからな。

 まぁ、そこまで急ぐ用件でもないから、昼休みにでも柊さんと一緒に話しを聞くか。はぁ、二人は良いと言ってくれるかな?

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通学路で飯テロ発生です。朝食抜くと腹減りますよね。


第6章のタイトルを少し変えました。


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[一言] めちゃ引くわずっと妹
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