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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第73話 宮野さん達のその後

お気に入り10420超、PV 4670000超、ジャンル別日刊14位、応援ありがとうございます。


 

 

 

 

 俺の声に反応し姿を見せた宮野さんは、ステージ衣装を脱ぎジャージ姿に変わっていた。

 探索者装備を外し軽く手を上げながら挨拶してくる宮野さんの姿は厳つさが抜けていて、爽やかな大学生と言った所だろうか?


「お久しぶりです」

「ああ、久しぶり。直接顔を合わせるのは、あの時以来かな?」

「ええ。そうなりますね」


 まずは、当たり障りない挨拶を交わす。 

 

「今回の件は、済まなかったね。安全確認が不十分で、君達を危険な目に遭わせてしまった」

「いいえ。特に怪我もなかった事ですし、気にしないで下さい」

「そう言って貰えると助かるよ」


 宮野さんは、ホッとした様に肩の荷を落ろす。直接俺が気にしなくても大丈夫だと伝えた事で、心のつかえが取れたらしい。

 先程の謝罪では、最初に宮野さんと相方の水沢さんが一言謝罪を述べた後、責任者の中年のオジさんが1人で喋りまくっていたからな。やきもきしながら、気にしていたんだろう。


「でも本当、不幸中の幸いでしたね」

「ああ、全くだよ。偶々君が居る所に飛んでいったから良かったものの、これが只の一般人の観客の所に飛んでいっていたらと思うと……」


 宮野さんの顔色が、若干悪くなった。

 まぁ、当然だよな。アレが万一人に当たりでもしたら……。


「あの木刀、中に鉄芯が仕込まれていましたよね?」

「ああ。模擬戦中に、折れると拙いからね」

「ですよね。受け止めた感じ、普通の木刀に比べて結構重量が増していたみたいですし」

「流石に見世物で真剣は使えないからね、ショーでは木刀を使っているんだよ」


 宮野さんは頭を掻きながら、疲れたように溜息を吐く。今回の件、相当に心胆寒からしめたらしい。

 特に実害があった訳ではない以上、これ以上追及するのはやめておいた方が良いな。


「まぁ、済んでしまった事をグダグダ言っていても仕方ありません。再発しない様に、防止策を考える方が建設的ですよ?」

「……そうだね。同じ失敗を繰り返さない事の方が、重要だね」

「そうですよ。それに今回の件については、俺も既に賠償金モドキを受け取った身です。この話は、お終いにしましょう」


 俺は手を叩きながら言った言葉を切っ掛けに、宮野さんは若干明るさを取り戻す。俺自身、今回の件について特に気にしていないので、宮野さんに何時までもこの事を引きずって貰っても困るからな。

 

 

 

 

 

 

 

 宮野さんが気を取り直したみたいなので、取り敢えず俺は話題を変える事にした。

  

「そう言えば、宮野さん達はあの後どうしていたんですか?」

「あの後と言うと、襲撃犯をDPに引き渡した後の事だよね? 知らないの?」

「はい。自分達はあの時に軽く調書を取られただけで、特に捜査協力を求められなかったから事件の詳細は知らないんですよ」

「調べようとは?」

「ニュース報道を見た以上の事はしていません。あの後、何の音沙汰も無く宮野さん達の回復薬の代金も早々に協会経由で振り込まれていたので、深く事件には関わらない方が良いって無言のメッセージなのかと思って……」

「……そうなんだ」


 宮野さんは俺の話を聞いて、残念そうに肩を落とす。先程よりも暗い雰囲気を纏い俯く姿を見ると、俺達が知らない何やら複雑な事情があるらしい。

 俺が黙って宮野さんが口を開くのを待っていると数十秒の間を空け、宮野さんは俯いていた顔を上げて意を決した眼差しで俺を見ながら口を開く。 


「場所を変えて話さないかい? ちょっと話を付けてくるから、待っててくれるかな?」

「えっ、はい。良いですよ」

 

 その真摯な眼差しを見て俺は何も言えず、宮野さんの提案を首を縦に振って素直に受け入れた。了承を得た宮野さんは俺に一言断りを入れ、テントの中に入って行く。

 そして、宮野さんは1分程で戻って来た。  


「お待たせ。さっ、行こうか?」

「あっ、はい」


 俺は宮野さんに先導され、イベントエリアを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 屋台エリアで飲み物を買った後、俺と宮野さんは人気の少ない休憩スペースの仮設ベンチに横並びで腰を下ろした。 

 そして、宮野さんは購入したお茶を一口飲んだ後、静かに口を開く。 


「さて、何から話そうか?」

「出来れば、最初からお願いします。DPに調書を取られ解放された後の事は、殆ど何もわからない状態なので……」

「了解。じゃぁ先ずは、君達が捕まえた襲撃犯をDPに引き渡した後の事から話そうか……」


 宮野さんは、空を眺めながら当時の事を思い出し話し始めた。


「中級回復薬で回復した篠原さん以外の俺達は、調書を取られる前に医療室に搬送されたんだ」

「あの出血でしたからね。大丈夫でしたか?」

「ああ。幸い出血量も命に関わる程は無かったから、暫く医務室で休んだら少しはマシになったよ。でもまぁ、後で検査も兼ねて病院に搬送され、そのまま即入院したんだけどね」

「そうですか」

 

 宮野さんは苦笑しながら、俺達と別れた後の事を教えてくれた。やっぱり宮野さん達は、あの後に入院したんだな。篠原さんと同じように宮野さん達に中級回復薬で治療していたのなら、検査入院以外の必要性は無かったのだろうけど……流石に、あの時点で何個も中級回復薬を出すのは怪しまれるからな。


「でも、君達には本当、助けられたよ。ケガの治療は勿論だけど、君達が帰り道を護衛してくれなかったらと思うと……ゾッとするよ」

「いえ。自分達に出来る事をしただけですから、気にしないで下さい。それにケガの治療だって、回復薬の代金はちゃんと貰ってるんですから」 

「それでもだよ。改めてお礼を言わせて欲しい。あの時は助けてくれて、ありがとう」


 宮野さんは、俺に頭を下げながらお礼を言う。

 こうやって面と向かってお礼を言われると、中々恥ずかしい。俺は照れ隠しに、顔を頭を下げる宮野さんから逸らし頭を掻いた。

 

「じゃあ話を戻すけど、捕まった襲撃犯達はあの後、DPから警察に身柄を引き渡されて強盗傷害容疑で逮捕されたよ。彼らの襲撃理由は聞いてる?」

「あっ、はい。DPに調書を取られている時に聞きました。まさかあんな理由で、人を襲うなんて……馬鹿としか言いようがありませんね」


 遊興費欲しさに人を襲うなんて、一体何を考えているんだか……。


「全く、九重君の言う通りだよ。彼等には重々反省して貰わないと」


 襲撃犯について語る宮野さんの表情が、忌々しげに歪んでいるのがハッキリと見てとれた。

 被害者からしたら、自分勝手で許しがたい理由だからな。出来る事なら、自分の手で報復したいに違いない。

 宮野さんは一度大きく深呼吸をし気持ちを落ち着けた後、襲撃犯達のその後について話してくれた。


「ふぅ。……彼等は今、刑務所に居るよ」

「刑務所? もう裁判は終わっているんですか? 裁判って、結構長くかかるイメージなんですけど……」

「確かにニュースとかで報道される様な年単位で裁判が長引く事件もあるけど、そういう裁判は滅多に無いね。今回の事件に関しては、事実関係は明白だったし、犯人の自白もあったからそこまで時間はかからなかったよ。犯人を捕縛した日から大体、3ヵ月位で判決が下ったね」


 へぇー。と言う事は、2月か3月中に判決が下され量刑が確定していたんだ。


「裁判で下された襲撃犯達への判決は強盗致傷罪や諸々で、主犯と判断された青年に執行猶予無しの懲役18年、共犯の未成年の少年に執行猶予無しの懲役15年だったよ」

「……やっぱり執行猶予は付かなかったんですね」

「ああ。計画的犯行だった上に、犯行理由が理由だったからね。流石に、執行猶予は無理だったみたいだよ。一応、相手側の弁護士が起訴前に示談交渉をしてきたんだけど、皆納得が行かずに突っぱねたよ」


 宮野さんは顔を歪めながら、吐き捨てる。

 まぁ、そうなるよな。これが酒に酔った勢いの喧嘩とかだったらまだ示談交渉の余地もあったかもしれないけど、明確な害意と略奪の意思を持って行われた襲撃だとね……。示談が成立する見込みは無いか。

 あれ?でも、そうなると……。


「そう言えば、回復薬の代金は回収出来たんですか? 通帳の振込日を見た限り、事件の2週間後には振り込まれていましたけど……」

「一応裁判所から、襲撃犯に対して損害賠償命令が出ているけど……強盗しようとする輩だからね、賠償金を回収出来る見込みは無いよ」

「えぇっと……」

「つまり今の所、入院治療費は自腹だよ」


 俺の問いに、宮野さんは弱々しく失意に満ちた溜息を漏らす。

 殺されかけた上、賠償金も取れずに治療費が自腹って……無いわ。そこまで考えて、俺はある事を思い出す。あの時点では、探索者が加入出来る保険が無かった事を……。うわ……弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったりだな。


「ええっと……」

「ははっ、心配しないで。一応こう言う場合、犯罪被害者等給付金って言う制度が利用出来る事になっているから……今は支給裁定申請を出して支給裁定待だけどね」


 何とか励まそうと声を掛けようとしたのだが、宮野さんの発言で更にどう言って良いのか分からくなった。申請中って事は、今は何も支給されていないって事だ。

 俺は宮野さんの身の上話に居た堪れなくなり、話題を変えることにした。


「そ、そう言えば。他の皆さんはどうしてるんですか? 今もダンジョンに?」

「……いいや」


 他の被害者達の話を聞いた途端、宮野さんの表情が露骨に陰り周囲の雰囲気が更に重苦しいものに変化した。やばい、地雷を踏んだみたいだ。


 

 

 

 

 

 宮野さんの発する雰囲気に飲まれ、俺は体を硬直させた。気不味い沈黙が続き、自分の呼吸音が異様に大きく聞こえて来る。

 実際には数秒だが、数時間にも感じる沈黙を破り宮野さんは口を開いた。


「皆、探索者を辞めたよ」

「……えっ?」

「篠原さんは探索者を続けてダンジョンに潜っているみたいだけど、俺の友達3人はトラウマを抱えて探索者を辞めたんだ」

「……」     


 宮野さんは疲れ切った表情を浮かべ、ポツポツと自分と辞めた人達の事情を話しだす。


「篠原さんは凄いね。あんな事があったのに、未だにダンジョンに潜り続けられるんだから。専業探索者……本物のプロだよ、あの人は」

「……」

「本当、凄いよ」


 宮野さんは羨望の表情を浮かべ、空を見上げ呟いた。

 俺は何も言えず、只々その姿を見守る事しか出来無い。


「それに引き換え……俺達はダメだった。俺はそれ程酷いトラウマを抱えなかったけど、それでもダンジョンに潜ろうとすると体に震えが走るんだ」

「……」 

「今はダンジョン協会の好意で、イベントの広報スタッフとして雇って貰って名目上は探索者モドキを続けているけど、もう僕がダンジョンに潜る事は出来ないね」

「……」

「これが探索者を生業とするプロと、遊び感覚で探索者をしていた大学生の違いかな? ……覚悟が決まってなかったんだよ、僕達は」


 自分の両手の掌を見ながら、宮野さんは悲し気に自分の状態を告げる。


「芳樹と平野さんは、一応外出は出来るけど精神的に不安定で、毎週のカウンセリング通い・日向さんに至っては、学校を辞めて精神病院に入院したよ。周りに他人がいると怖いってさ……」

「……」

「ダンジョンが出現したと聞いた時はさ、ワクワクしたよ。ゲームみたいだなって。そして、探索者になった時は、自分が物語の主人公になったような気さえしたんだ」

「……」


 宮野さんの当時の事を思い出したのか、若干明るい表情を浮かべ楽し気に語る。

 が、それも長くは続かなかった。


「……でも、違った」


 宮野さんの顔が悔しげに歪む。

 歯を食いしばり、吐き捨てる様に自分達の愚行を悔いる。

 

「僕達は主人公じゃなかった。危険をスリルと履き違えて、友人と面白いアトラクションに参加しているつもりだったんだ。何も考えていない、何の覚悟も決まっていない、只々状況に流されただけの単なる愚か者だよ」

「……」

「その愚かな行為の代償がコレさ……ははっ、自業自得だよね」


 独白する宮野さんは、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。 

 だが、俺はそんな宮野さんに掛ける言葉を見付けられないでいる。確かに俺達は宮野さん達を助けたのかもしれない……が、本当に助けられていたのだろうか?宮野さんのこの姿を見ていると、とてもではないが胸を張って助けたとは言えない。良く小説や映画で、命は助けられたが心までは助けられなかった、と言う表現が出てくる。

 しかし、実際にその場面に遭遇すると……。


「……」

「……」


 ち、沈黙が痛い! 真面目に、どう話を持っていけば良いのか分からない。先人達の言葉(小説や映画のセリフ)を引用して慰めたら良いのかもしれないけど、とてもではないが俺には借り物の言葉で宮野さんを慰める事など出来無い。当事者でもない俺が言っても、口先だけの慰めにしかならない事が分かりきっているからだ。

 だから俺は結局何も言えず、只々宮野さんの横に座っている事しか出来なかった。全く……格好悪いな。

 

 

 

 

 

 

 

 宮野さんは次のステージ出演の為、スマホで呼び出されイベントエリアへと戻って行く。俺はその後ろ姿を、何とも言えない気持ちで見送った。

 結局あの後、俺は何も言うことが出来なかったのだ。


「どう言ったら良かったのかな……」


 答えの出ない疑問に、俺は途方にくれ頭を悩ませた。 

 宮野さんの身の上話は、決して他人事では無いのだ。探索者としてダンジョンに潜り続ける以上、強かろうが弱かろうが絶対に無いとは言えない事なのだから。


「……美佳や沙織ちゃんを、同席させるべきだったな」


 酷ではあると思うが、宮野さんの話は今からダンジョンに潜ろうとしている2人にこそ当事者本人の口から直接聞かせるべきだったかもしれない。取り返しのつかない事態に至る前に……覚悟を決めさせる為にも。

 

「……さて、美佳と沙織ちゃんに挨拶をしてから帰るか。もう、イベントって言う気分でもないしな」


 俺は雑念を振り払う様に頭を左右に振り、ベンチから立ち上がる。

 予期せぬ再会と話ではあったが、これからも探索者を続けていく上では有意義な出会いであったと思う。宮野さんの話を聞いた今だからこそ、美佳達を宮野さん達のようにはさせない為にも厳しく指導しようと俺は改めて決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮野さん達は、PK 被害に合いトラウマを抱えました。まぁ、殺されかけられれば、トラウマの1つは抱えますよね。

 因みに、宮野さんが探索者としてアルバイトをしているのは、精神的に弱っている所を言葉巧みに協会の広報官にスカウトされたからです。一般人以上超人未満の広報模擬戦が出来る探索者…レベル10前後の宮仕え出来る探索者として目に止まりました。

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― 新着の感想 ―
最後の説明が悪意に溢れてるw
[一言] なるほど! ヤバいなら色々なところで意味がわかりやすいです。 つたない、かと思ってたので少し読みづらかったです。 ありがとうございます。
[気になる点] 拙い この言葉がよく出てくるけど、どういう意味で使ってるのだろう
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