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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第71話 思わぬ所での再会

お気に入り10360超、PV4530000超、ジャンル別日刊19位、応援ありがとうございます。


 

 

 

 俺はデジタルカメラをバッグにしまいながら、俺の行動に不思議そうな眼差しを向けて来ている沙織ちゃんに、出来るだけ自然な感じで話しかける。


「一昨日振りかな? もうお昼を回ってるけど……おはよう、沙織ちゃん」

「おはようございます」

「沙織ちゃん、バイト中なんでしょ? こんな所で何してるの?」

「それは私のセリフですよ。美佳ちゃんからお兄さんが来るとは聞いていましたけど、カメラをテントの方に向けて何を撮っていたんですか?」


 うん、誤魔化しきれないようだ。

 まぁ、バレたからどうって事はないんけど……取り敢えず口止めはしておこう。


「ちょっと、頼まれ事をね」 

「頼まれ事、ですか?」

「うん、父さんと母さんにね。美佳のバイト姿を、写真に収めて来てくれってさ」

「バイト姿の写真を……ですか?」


 沙織ちゃんは今一俺の言葉の意味を察せず、少し困惑する様な表情を浮かべ首を捻る。

 

「うん。まぁ父さん達からしたら、娘の成長記録写真が欲しいって所かな? ああ、この事は美佳には秘密にね。美佳が恥ずかしがって、写真のデータを消したら困るからさ」

「えっ、ええ、はい。でも、良いんですか? 美佳ちゃんが知ったら、きっと怒りますよ?」

「そうなったら、スウィーツでも用意してご機嫌取りをするよ」


 俺の答に沙織ちゃんは、若干呆れた様な表情を受かべる。

 でも、まぁ……取り敢えず沙織ちゃんの口止めは成功かな?

 

「で、話を戻すけど沙織ちゃん。ここで何をしてるの?」

「えっ、私ですか? 私はって……あっ!」


 俺の質問で何かを思い出したらしい沙織ちゃんは、腕に着けた時計を見て、険しい表情を浮かべ慌てた声を上げる。


「御免なさい、お兄さん! 時間が無いから、私行きますね! イベント楽しんで下さい!」

「えっ? 時間?」

「お昼休みの時間です! じゃぁお兄さん、また後で!」

「ああ、うん。沙織ちゃんも頑張って」


 沙織ちゃんは俺に会釈しながら謝罪の言葉をのべた後、慌ただしくグッズ売り場があるテントの方に向けて走り出す。俺は只々、走り去って行く沙織ちゃんの背中を見送ることしか出来なかった。

 どうやら本当に、交代時間までの時間があまり無いらしい。


「……行くか」


 立ち話で時間を消費させてしまった事に若干の罪悪感を感じつつ、俺は沙織ちゃんの後を追うようにグッズ売り場のテントに向かってゆっくりとした足取りで歩き始める。 








 グッズ売り場のテントに近付くと、売り子をしている美佳と目が合った。

 俺は軽く片手を挙げ、軽い口調で美佳に話しかける。


「よっ、美佳。頑張ってるみたいだな?」

「あっ、お兄ちゃん! 本当に来たんだ……」

「来たら拙かったのか?」

「ううん。そう言う訳じゃないんだけど……」


 俺の問いに、美佳は恥ずかしそうに顔を赤らめさせながら俯かせる。別に、恥ずかしがることなんて無いだろうに……。

 俺が赤面し俯く美佳と話していると、様子を窺っていた眼鏡を掛けた女子大生らしき売り子さんが話し掛けて来た。


「九重さん、大丈夫? この人、知り合い?」

「……はい。私の兄です」

「あっ、そう」


 どうやら美佳が、変な男に絡まれていると思ったらしい。俺の事を警戒していた眼鏡の売り子さんの目から、若干ではあるが警戒感が薄れる。


「あっ、すみません。お仕事の邪魔してしまったみたいですね。俺、美佳コイツの兄です。美佳がお世話になっています」

「そうなんですか、お兄さんですか……」


 俺が頭を下げながら丁寧に挨拶をするのを見て、漸く眼鏡の売り子さんの警戒が解けた。 

 この人、面倒見が良いタイプの人なんだろうな。

  

「それでお兄ちゃん、何をしに来たの?」

「何をしにって……イベントを見に来たに決まってるだろ? 昨日は散々、美佳がこのイベントの事をプレゼンしてたからな、興味が湧いたんだよ」

「うっ……」

「勿論、ついでに美佳の働きっぷりを見ようとも思ってるけど……」


 美佳は自分が原因で、俺が本当に来た事に気付き撃沈した。

 その俺と美佳の掛け合いを横で見ていた眼鏡の売り子さんは、小さく笑みを浮かべながら美佳にとある提案をする。


「仲良いですね。じゃぁ、九重さん。お兄さんを案内してあげたら?」

「……えっ?」

「九重さんは、この後お昼休みでしょ? お兄さんと一緒に会場を回って来たらどう?」

「でも、交代の時間が……」

「後は私に任せなさい。交代時間まで後5分も無いから、その位なら私一人でも大丈夫よ」


 気を効かせた眼鏡の売り子さんが、美佳に少し早めの昼休みを取る事を提案してくれた。提案を聞いた美佳は、どうしたら良いのか分からず俺に助言を求める視線を向けてくる。

 うーん。折角だから、ここは御好意に甘える事にしよう。


「美佳。折角こう言って貰えてるんだ、御好意に甘えよう」

「えっ、でも……」

「良いから良いから。交代の人には上手く言っておくから、早く行ってきなさい」


 眼鏡の売り子さんは美佳の背中を軽く押し、美佳に離席を促す。そこまでされれば美佳も否とは言えず、後ろ髪を引かれるているようではあるが渋々ながら席を立った。

 ハッピと帽子を脱いだ美佳は、コンビニの袋を持って俺の横に並んで立つ。


「それじゃぁ、少し美佳を借りていきますね」

「後を、よろしくお願いします」


 俺と美佳は軽く頭を下げながら、眼鏡の売り子さんにお礼を言う。


「ええ、分かったわ。あっ、昼休みの終わりは14時半よ、忘れないでね?」

「はい、ありがとうございます」


 一言忠告を入れ、眼鏡の売り子さんは俺と美佳を小さく手を振りながら送り出してくれた。 

 グッズ売り場を少し離れた俺は、隣を歩く美佳にこの後の予定について声をかける。


「お昼休みって事は、昼飯はまだ何だよな? じゃぁ、先ずは飲食エリアに行くか?」

「うん」

「じゃぁ、迷惑掛けたみたいだし奢ってやるよ」

「えっ、本当!? やった!?」 


 美佳は喜びの声を上げ、俺の腕に抱き付く。俺の提案が、余程嬉しいようだ。


「随分、嬉しそうだな」

「うん。食べたいのは色々あったんだけど、このイベントの屋台の食べ物って1つ1つが結構高いでしょ? とてもじゃないけど、私じゃ手が出せなかったんだ」

「まぁ、初期の頃よりは安くなったとは言え、ダンジョン食材をふんだんに使ってるからな。普通の屋台飯よりは高くなるさ……」

「でもさ、屋台の焼きソバ1パックで1000円超えってのは無くない?」


 ごめん……それ、さっき食べた。結構、旨かったぞ?

 俺は表情に出さず、美佳の愚痴を聞き続ける。


「会場全体に屋台の良い匂いが漂ってるけど、私達バイトは高くて食べられないんだよ? 本当、生殺しだよこのバイト先」

「……そうか」

「うん。屋台の誘惑に我慢出来ずに、ココの屋台で昼食を買ったら、折角のバイト代が全部飛んじゃうんだよ?」

「うん。まぁ、そうなるか」


 金が無くてバイトしてるのに、バイト先の飯テロに負け散財する……か。本末転倒だよな、それ。


「昼食は自己負担だから、私達バイトの大半はコンビニ弁当なんだよ? 賄い位、出してくれても良いと思わない?」


 美佳は自分が持っているコンビニの袋を、俺に見える様に掲げ愚痴を漏らす。どうやらバイト先の食事事情に不満が募っていたらしく、美佳は止めど無く愚痴を吐き出し続ける。

 ……どうしよ、コレ?って、解決策は一つしか無いか……はぁ。


「まぁ、何だ? 今日は俺が持つんだから、美佳が食べたいと思う物を食べれば良いよ」

「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」

「はぁ……」


 懐に余裕が有るとは言え、手持ちは余り無いんだよな……足りるかな? 

 俺は若干の不安を抱えつつ、美佳に手を引かれながら飲食エリアに向かった。


 

 

 

 

 

 

 

 

 テーブルの上に空パックが並び、正面では美佳が手を合わせている。

  

「ふぅ……御馳走様でした」

「どういたしまして。……にしても、随分食べたな?」

「うん、気になっていたのが色々あったからね」 


 美佳は紙ナプキンで口を拭きながら、満足気な笑顔を浮かべていた。どうやら、機嫌は直ったみたいだな……。俺は美佳の様子に安堵しながら、ビニール袋に空パックを片付け始める。

 

「さてと、これからどうする? 昼休みは、後30分位だろ?」

「うん。……どうしよう? お兄ちゃん、物産展エリアでも回ってみる?」

「物産展エリアは、美佳の所に行く前に一通り見て回ったしな……」

「そうなの?」

「ああ。色々と、興味深いのもあったぞ?」


 偽物のスキルスクロールとか、強かなオッサンとか。 

 

「じゃぁ、さぁ。私が言ってた、スキルスクロールは見て来た? まだ残ってたかな?」

「ああ、あったぞ。だけど、アレは止めとけ。ロクな事にならないぞ」

「……やっぱり、偽物?」

「断言は出来ないけどな。限定特価とは言っても、価格設定がおかし過ぎる。本物の可能性もあるけど、怪しい物には手を出さない方が良いな」

「そう……はぁ」


 美佳は落胆した様に、溜息を吐く。

 鑑定解析で偽物と言う事はハッキリしているけど、こんな人混みの中で鑑定結果を元にして偽物と断言は出来ない。万一これが鑑定スキル持ちを炙り出す協会の罠なら、何処に耳があるか分かった物じゃないからな。 

 期待していたスキルスクロールが偽物と分かり落ち込む美佳を慰めていると、イベント会の一角からスピーカー越しのアナウンスと、大勢の歓声が上がる。


「……何だぁ?」

「……あっ、そうか。この時間だと、ステージエリアで探索者同士の模擬戦をやってるんだった」


 美佳は腕時計を見ながら楽し気に、聞こえて来た歓声の原因を言う。


「模擬戦……美佳が凄いって言っていたヤツか?」

「うん! TVで見る特撮みたいに、本当に飛んだり跳ねたりするんだよ!」

「へぇー」


 俺は美佳の話を聞きながら、歓声が聞こえるステージエリアの方を見る。

 

「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん。ステージの方に行ってみない?」

「模擬戦を見にか?」

「うん。アレは、一見の価値はあると思うよ?」

「そうか……じゃあ、行ってみるか」

「うん。あっ、その前に……」


 美佳はそう言って、ポケットからスマホを取り出し弄り始める。

 

「……何してるんだ?」

「タイマーをセットしてるの。模擬戦を見るのに夢中になって、お昼休みの時間を過ぎる訳にはいかないからね……良し10分前にセット完了、これで大丈夫」

「そうか。じゃあ、行くか」


 美佳のスマホ操作が終わった事を確認した俺は、テーブルの上のゴミを詰めた袋を持って席を立つ。イートインコーナーの一角に大型のゴミ箱が設置してあるので、俺はそこにゴミ袋を放り込んで美佳と合流しステージエリアへと移動を始める。

 

  

 

  

 

 

 

 ステージエリアの前の観客席は既に満席で、立ち見客が大勢いると言う盛況ぶりだった。幸い模擬戦はまだ始まっておらず、司会がマイクパフォーマンスを行っているようだ。

 俺と美佳は立ち見客の密集度が薄い場所を探しながら移動するが、見物客達の歓声が上がる度に何が行われているのか分からず苛立ちが募ってくる。 


「凄い人集りだな……」

「人気のステージイベントだからね、仕方ないよ」

「でもこれじゃ、ステージが見えないぞ?」

「そうだね……って、あそこからなら見えるんじゃない?」


 美佳が指さす先に、辛うじてステージ上が見えそうな場所を見付けた。

 ほぼステージの真横と言う全体が見えづらそうな場所だが、確かに人の密度は少ない。 


「……まぁ、贅沢は言ってられないか。行ってみよう」


 俺と美佳は見物客の隙間を掻き分けながら、目星を付けた場所へと移動する。


「ふぅ……一応見えるな」

「……うん」


 移動した場所からステージ上は見えるのだが、本当に見えると言ったレベルだ。

 全体像を把握するのは無理だな。


「昨日も、こんな感じだったのか?」

「ううん。昨日はもう少しお客さんも少なくて、立ち見も楽に出来たよ」


 あまりの人の多さに、思わず愚痴が漏れる。


「じゃあ、何でこんなに混んでるんだ?」

「さぁ? あっ、もしかしたら、どこかのTVニュースに映ったのかも……」

「……なる程な」

 

 確かに、それはあるかもしれない。この規模のイベントなら、TV局の取材が1つや2つ来ていても不思議では無いからな。  

 俺と美佳が人の多さを悩んでいる内に、ステージ上で行われていた司会のマイクパフォーマンスが終わっていた。


「では! 本日模擬戦を行ってくれる、探索者の方達を紹介したいと思います! 皆さん、拍手でお迎え下さい!」


 司会に促され、観客達が一斉に拍手を行う。

 

「まずは一人目! Eランク探索者の水沢耕一みずさわ こういちさんです!」


 司会に紹介され、ステージ裏から一人の男性探索者が姿を見せた。拍手が一層大きくなり、歓声を以て迎えられる。

 因みに彼は、ダンジョン協会が公式販売している防具を身に纏い、人の丈程ある長い木製の棒を持っている。槍がメイン武器の探索者だろうか?

 

「次に二人目! 同じく、Eランク探索者の宮野洋司みやの ようじさんです!」


 再び盛大な拍手と歓声が上がったのだが、俺の耳にそれらは届かなかった。何故なら、次に登場した探索者に見覚えがあり動揺していたからだ。

 ……宮野さん。こんな所で、何をしてるんです?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージイベントに、PK被害者の登場です。

まだ主人公の存在には気付いていません。


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