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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第70話 出店を見てまわろう

お気に入り10340超、PV 4430000超、ジャンル別日刊15位、応援ありがとうございます。


 



 俺は立ち止まり、ジト目でそれを眺める。展示方法から考えても、激しく偽物臭い香りしかしない。

 本物のスキルスクロールなら、こんな無造作に商品展示はしないだろう。

 

「いらっしゃいませ。お気に召す物はありましたか?」


 俺が店前に立ち止まっている事に気が付いた、人当たりの良い爽やかな笑みを浮かべた30代半ばの男性店員が声を掛けて来た。胸元にネームプレートが付いた白いYシャツに、黒いスラックス。

 パッと見では、偽物のスキルスクロールを扱っているような胡散臭さは感じられない。  


「あっ、いえ。珍しい物が置いてあったので……」

「珍しい物? ……ああ、スキルスクロールの事ですね。それは、このイベント期間中の数量限定商品です。我社の独自ルートで、10本だけ仕入れることが出来たんですよ」

「……はぁ」

「コレに御興味をお持ちになると言う事は、お客様は探索者で?」


 店員の男性は、俺に変わらぬ笑みを浮かべたまま探索者か否かと問い掛けて来る。

 俺はその笑顔に若干違和感を覚え、咄嗟に首を横に振って否と答えた。


「そうですか。では、簡単に商品の説明をさせてもらいますね?」


 自慢気に商品の説明を行う男性店員に、どう対応したら良いものかと俺は困惑する。

 退席するタイミングを逸した俺は仕方なく、男性店員の話を聞くことにした。

 

「ですので、今回に限り! 今回に限り! 10本のみ5万円と言う、驚きの低価格での御提供が可能になったのです!」


 オーバーリアクションを交えた、テレビショッピングのような売り文句だな。御陰で、俺の他にも道行く買い物客が寄ってきて、ちょっとした人だかりが出来ていた。

 俺は店員が集まった他の客に向けて商品説明を力説している内に、カゴの中のスキルスクロールに鑑定解析を掛ける。鑑定結果は当然……クロ。見た目だけ取り繕った偽物だった。

 

「……はぁ」

 

 俺は周りに聞こえない様に、小さく溜息を吐く。 

 予想通りの結果とは言え、イザ目の前にするとどう対処したものかと迷う。偽物と言うべきか、言わざるべきか……。


「さぁ! 残りは後6本! この機会を逃すと、二度とこの価格では購入は出来ませんよ!」


 最後の締め括りとばかりに畳み掛ける男性店員の巧みな購入誘導話術に、人集りの中から幾人かが動こうとしている気配を俺は感じた。

 うーん、マズイ兆候だな。鑑定解析の御陰で、スキルスクロールが偽物だと判明しているので、詐欺に引っ掛かりそうになっている人達を見過ごすのは気が引ける。

 だが流石に、偽物だと高らかに宣言するという行動は取れないので、俺は次善策を実行することにした。


「丁寧な商品説明をありがとうございました。ですが、残念ながら今の所購入する心積もりは有りません。折角、説明して貰ったのにスミマセン。では、失礼します」


 俺は態と周りに聞こえるように、少し大き目の声でハッキリとスキルスクロールの購入を拒否する旨を男性店員に伝えた。軽く会釈をした後、俺は態と人集りの中央を通ってその場を後にする。

 俺のこの2つの行動で、購入の声を上げようとしていた人達は水を差された形になって、購入の意思を表明する声を上げるタイミングを逸し口篭っていた。

 ……上手くいけば良いけど?

 

「えっと、その、あの……スキルスクロールの購入を希望される方はいらっしゃいますか?」


 俺の突然の行動に呆気に取られていた男性店員は、十数秒の間を空けた後正気を取り戻し、俺以外の集まった客にスキルスクロールを購入するかどうか希望を尋ねる。

 しかし、俺の行動で男性店員の購入誘導話術から逃れた客達は、互いの顔を見合わせた後その場から一人一人離れて行き、最後には誰もいなくなった。

 ……どうやら成功したようだな。背中に強い視線を感じるので、恐らくカモを逃した男性店員の逆恨みの視線だろうな。

  

  

  

  

  


 偽スキルスクロール屋の前を離れた俺は、再び物産館のエリアを見て回る。中々興味深いラインナップと言えた。単にダンジョン産のマジックアイテムを取り扱っている店もあれば、モンスターの牙や爪等の部位を加工した工芸品の様な物を扱う店まで、試行錯誤と言った感じではあるが見ていて飽きはこない。  

   

「へー、ホーンラビットの角を使ってるのか。見事な彫刻だな」


 俺は多数の工芸品を取り扱う1軒の店先で足を止め、細かな彫刻が施された象牙色の角に注目する。

 値札に付属する説明文を読むと、ホーンラビットの角が原材料のようだ。 


「いらっしゃいませ。そちらの商品に、御興味が?」

「あっ、はい。ちょっと気になって……」


 俺が角を見ていると、店のロゴが入ったエプロンをした妙齢の女性店員が声を掛けて来た。

 接客用の笑顔を浮かべた女性店員さんは、俺の気になると言う発言に食いついてくる。

 

「失礼ですが、どの辺りが気になったのですか?」

「えっと……ホーンラビットの角が素材って所が、です。俺が知っているホーンラビットの角は、こんな色をしていなかったんだと思うんですけど……?」

「ああ、なる程。元の色を知っていらっしゃるのなら、その疑問は尤もですね」


 女性店員さんは、俺の疑問に納得がいったという様子で、手を胸の前で打ち合わせ、ホーンラビットの角について、説明を始める。

  

「ホーンラビットの角は丁寧に表面を研磨する事によって、この様な色と光沢を出すんですよ。表面を覆う硬い層の研磨には少々手間が掛かりますが、内側の芯の部分は象牙に勝るとも劣らない品ですね」

「へー」


 俺はもう一度、ホーンラビットの加工品をよく見る。こうして説明を聞いた後でも、これがホーンラビットの角とは思えないな。

 俺が加工された角を感心しながら見ている間も、女性店員の説明は続く。


「最近は探索者さん達が角を多く確保してくれるので、研磨のコストをかけても象牙より大分安価なんですよ?まぁ、大きさが大きさですから、そんなに大きな加工品は作れないんですけどね」

「でも、元がモンスターの角だと、固くて加工しづらいんじゃないんですか?」

「それが、そうでもないんですよ。確かに表面の硬い層は加工に向かないんですが、内側は象牙と変わらない程良い硬さで加工はし易いんです」

「へぇー、そうなんですか」


 と言う事は、角の大きさ以外は象牙と変わらないと言う事か。

 研磨されたホーンラビットの値段は知らないけど、象牙が高い事は有名だからな。

 

「この事は一般には周知されておらず加工品の流通量は少ないですけど、ホーンラビットの角は象牙の代用品として業界では有望視されているんですよ? 今の所、日本国内での象牙の用途は大半が印鑑材料ですからね。印鑑としての用途になら、大きさで象牙に劣るホーンラビットの角でも十分に使えますから」


 なる程、モンスター素材にも意外な活用法があった物だな。ゲーム何かだと、モンスター素材の使い道なんて、装備品の強化くらいしかないからな。

 俺は暫く女性店員さんに勧められるままに店内のホーンラビットの角の加工品を見た後、両親へのお土産にと思いホーンラビットの角で作られた兎の彫刻が施されたキーホルダーを購入した。  

 

 

 

 

 

 

 お土産を購入した俺は彫刻店を後にし物産展エリアを再び練り歩くが、昼食時も過ぎ物産展エリアに客足が戻り人混みが出来始めた。 

 少々歩きづらくなって来たが、これくらいならまだ問題はないだろう。 


「ん? これは……回復薬の瓶か?」


 俺はとある出店の店先で、再び足を止めた。

 見慣れた薬瓶が、穴あきプラスチックコンテナにうず高く積み重ねられていたからだ。


「いらっしゃい。おう、兄ちゃん。興味あるのならどうだい、安くしとくよ?」

「あ、いえ……」


 立ち止まった俺に、白髪混じりの初老の男性店員が声を掛けて来た。 


「すみません。特に欲しいと言う訳では無いの……」

「なんだ、冷やかしか?」


 俺が軽く頭を下げながら購入を断ると、初老の男性店員はつまらなそうに機嫌を損ねた。


「あっ、いえ、そう言う訳ではないんですが……。何で空の小瓶が、こんなに沢山積み上げられているのかと気になって……」

「ん? 積んでたら悪いのか?」

「いえ、決してそう言う訳では……」


 男性店員の顔に、険の色が浮かぶ。

 俺が誤解を解こうと動揺し慌てふためくと、初老の男性店員は口元を吊り上げニヤリと笑った。


「ふっ、冗談だ冗談。怒っていないから、そう慌てるな」


 どうやら俺は、揶揄われていたようだ。


「……冗談キツイですよ」 

「すまん、すまん。余りに客が来なくて、暇だったんじゃよ」


 だからと言って、客を揶揄って遊ぶな! 俺は口に出さず、初老の男性店員を罵倒する。 


「いや、本当にすまん。侘びに、そこの小瓶なら幾つか持って行って構わないぞ?」


 俺の眉が僅かにつり上がっていたのか、その変化を見取った初老の男性店員は素早く頭を下げ謝罪してきた。

 だけど、侘びの品にこの薬瓶をって……。  


「いりません」

「そうか? アホほど頑丈で、コンクリートの地面に落としても簡単には割れない代物だぞ? 何なら、試してみようか?」


 いや、知ってるから。回復薬が入った瓶が異常なまでに頑丈な事は、実体験で知ってる。

 俺の否と言う返答を聞く前に、初老の男性店員は金床とハンマーを取り出す。……どっから出した、それ。

 手品の如く出現したそれを手早くセットし、プラスチックコンテナから薬瓶を一つ取って金床にセットする初老の男性店員。

 俺はその姿を黙って見守るしか無く、この騒ぎを耳にした通行人が足を止め俺の背後から興味深気に事の成り行きを見守る。 


「せぇーの、チョイさ!」


 準備を整えた初老の男性店員はハンマーを振り上げ、薬瓶目掛けて気合を込め一気に振り下ろした。薬瓶が砕け散る姿を想像した見物客から、短い悲鳴が上がる。

 そして、ハンマーが薬瓶に当たった瞬間、澄んだ甲高い音が辺りに響いた。周囲に響いた音に反応した通行人は足を止め、発生源に視線を送る。初老の男性店員はハンマーを振り下ろしたままの体勢で動きを止めていたが、ユックリとした動作でハンマーを地面に置き、鉄床から薬瓶を持ち上げた。 

 

「どうだ? ハンマーで力一杯叩いても、罅一つ入ってないだろ?」


 初老の男性店員は満足気な笑みを浮かべながら、ハンマーで叩いた瓶を掲げて見せ傷1つ無い事を俺を含めた見物客に知らしめた。

 俺の後ろにいた観客達から、感嘆の声が上がる。


「こんだけ頑丈なガラス瓶なら、色々な用途があるだろ? どうだ、いらないか?」

「……」


 俺が何と返答して良いか迷っていると、俺の後ろに居た観客の中から購入希望者が声を上げた。その声を皮切りに、次々と他の購入希望者が声を上げガラス瓶を購入して行く。


「ああ、ちょっと待って下さい。 順番に順番に!」

 

 初老の男性店員はそれら購入希望者の対応にてんやわんやの大忙し、俺の対応を後回しにして購入希望者達を捌いて行く。手持ち無沙汰になった俺は、どうすれば良いのか分からず店の隅でその光景を眺めていると、不意に初老の男性店員と目が合う。目が合った瞬間、初老の男性店員はオレに向かって含み笑いを送って来た。 


「……!」


 それで、俺は初老の男性店員の意図に気が付く。あの店員、俺を出汁に客寄せをしやがった!

 俺を煽って小さな騒ぎを起こして周囲の注目を集め、謝罪を名目にデモンストレーションを行って集まった見物客に商品アピールをする。

 ……随分強かな手口だな。  


「……はぁ」


 俺は溜息を吐いた後、購入希望者の対応に忙しそうな初老の男性店員を恨みがましく軽く睨み付け、その場を静かに離れた。

 全く、してやられたな。

 

 

 


  

 

 

 

 暫く歩き回った後、俺は物産展エリアを抜け、美佳達がバイトをしているグッズ売り場に移動する。色々と寄り道をしていたので、1時間近くイベント会場を彷徨って漸く目的地に辿り着く。

 遠目に、ダンジョン協会のマークが入ったテント群が見えて来た。聞いた話では、販売しているグッズはダンジョン協会が売店で販売している商品の一部だそうだ。探索者が実際にダンジョン探索で使用していると言う触れ込みで、売っているらしい。

 それは、アレか? 宇宙食を、宇宙飛行士も食べていると言う謳い文句で売っているアレと……。

 

「まぁ、良い。さて、美佳は何処だ?」


 深く考える事を辞め、俺はテント群の中から美佳達の姿を探す。

 だが、販売スタッフは皆同じハッピと帽子を着けているので、中々見つける事が出来ないでいる。テントに近付いて探しても良いのだが、両親の頼みの写真の事を考えると何枚かは美佳に見つかる前に撮っておきたい。

 目を凝らしてテント群を暫く観察していると、漸く俺は美佳を見つける事が出来た。美佳はダンボールを持って、商品の補充をしている。 


「……頑張ってるな」

 

 俺は美佳の頑張って働く姿に感心しつつ、バッグからデジタルカメラを取り出す。カメラのピントを美佳に合わせ、俺はシャッターを切る。


「……うん。まぁ、上手く写ってる方かな?」


 液晶画面で写り具合を確認していると、俺は後ろから聞き覚えがある声で話かけられた。

 

「何してるんですか、お兄さん?」


 俺が振り返ると、そこには美佳と同じユニフォームを身に着けた沙織ちゃんが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

象牙の代わりに、モンスター角を利用して見ました。

小さくても、印鑑になら利用可能ですよね?


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― 新着の感想 ―
中空洞なのにハンマーで叩いても割れないガラス瓶ってどう考えても工業資材になると思うんだけどなんでこんなとこで売ってんだ?
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