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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第69話 イベントに行ってみる

お気に入り10300超、PV 4380000超、ジャンル別日刊35位、応援ありがとうございます。



 

 

 

 夜遅くまで動画検証をしていたので、少し寝坊してしまった。

 アクビを掻きつつリビングに降りていくと、既に美佳は家を出たのか姿が見えない。リビングには、母さんと父さんがTVを見ながら寛いでいる姿があった。


「……おはよう」

「おはよう」

「あら? 漸く起きてきたわね。大樹、休みだからと言って、余りだらけちゃダメよ?」

「あ、うん。ごめん」

「美佳はもう、アルバイトに行っちゃったわよ? アナタも行くって言ってなかったかしら?」

「うん」


 母さんと会話しつつ、俺は寝ぼけた頭を振り払いながら台所に移動する。冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注いで一気に飲む。

 ……何となく、頭がスッキリした気がする。


「……ふぅ。一応、お昼頃を目処に行くつもりだから、まだ大丈夫だよ」

「そう」


 俺はリビングに掛けられた時計を見ながら、母さんに心配ないと伝える。既に時計は10時を回っているが、1時間もあれば余裕で移動出来るので問題は無い。


「じゃぁ大樹、朝食は食べて行く? 朝の残りなら、冷蔵庫に入ってるわよ?」

「うーん、止めとく。向こうで屋台を食べ歩いてみるつもりだから、コーヒーだけ飲んで行くことにするよ」

「そう。じゃあ先ず顔を洗ってらっしゃい、顔がまだ眠そうよ?」

「……うん」


 俺は母さんに返事をした後、リビングを出て洗面所で顔を洗う。冷水で顔を洗った事で、漸く目が覚めた。歯磨きをしつつ鏡を見ると寝巻きのままだったので、リビングに戻らず服を着替える為に一旦部屋に戻る。

 俺は手早く寝巻きから普段着に着替え、財布等の小物を入れたショルダーバッグを持って部屋を出た。出掛ける準備を整えた俺がリビングに再び入ると、父さんと母さんが座るソファーの前のテーブルに、俺の普段使いのコップに入ったコーヒーが用意されている。


「あら、大樹。準備出来たみたいね」 

「うん。コーヒー入れてくれたんだ、ありがとう」 


 俺は母さんにコーヒーのお礼を言って、ソファーに座りバッグを足元に置く。

 コーヒーを飲むと、若干冷めているように感じるが許容範囲だろう。


「そうだ、大樹。ちょっと頼みたいことがあるんだが良いか?」

「? 頼みって、何?」


 俺がコーヒーを飲んでいると、母さんの隣に座っていた父さんが俺に声を掛けて来た。


「実はな、美佳の仕事振りを撮って来て欲しいんだ」

「仕事振りを?」

「ああ、写真でも動画でも良いから頼むよ」

「あら、良いわね。大樹、お母さんからもお願い」


 授業参観のホームビデオ的ノリだな。

 ……いや、俺は別に良いけどさ。美佳が知ったら、赤面物だな。


「良いけど、美佳が嫌がったら撮って来ないからね?」

「まぁ、その時はその時だな。上手く誤魔化して、一つ頼むよ」

「ふふっ、どんな姿か楽しみね」


 一応予防線は張っておいたのだが、微笑んでる2人の姿を見ていると、撮って来なかったら不味い気がする。俺は誤魔化すようにコーヒーの残りを飲み干し、バッグを持ってソファーを立つ。

 

「じゃあ、行ってくるよ。帰りは、そんなに遅くはならないと思うから」

「ああ。美佳に宜しくな」

「気を付けて行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」


 俺は父さんと母さんに一言断りを入れ、リビングを後にし家を出る。見上げた空は程良い晴天で、雨の気配もなく暖かな日差しだった。

 

 

 

 

 

 

 改札を出ると広い通路には人、人、人……人が溢れていた。老若男女、カップルやファミリー等の様々な層の人が一方向……駅の外へと歩いて行く。どうやら、ここに溢れている人達の目的地は、皆一緒らしい。

 

「へぇー、こんなに盛況なイベントなんだ。やっぱり、ダンジョンって注目されているんだな」


 俺は壁際のちょっとした空きスペースに移動し、人の多さに感心しながら人の流れを眺めていた。

 少し前に、未成年探索者が死亡したというニュースが大々的に報道されていたので、ダンジョン関連のイベントに来る人も減っているだろうと予想していたのだが、ハズレたらしい。


「しっかし、この人波に紛れてイベント会場まで移動するのはな……」


 俺は半眼になりながら、イベント会場に行くであろう人の多さにウンザリした。パッと見ただけでも、列をなす人達は数百人規模だろう。会場に着くまで何れ位時間が掛かることやら……。

 しかし、入り口付近で無理やり割り込むのも格好が悪いので、結局は並ぶしかないのだが。


「はぁ……。並ぶか」

 

 俺は自販機でペットボトルのお茶を購入し、人波に乗って駅を出る。そこそこのスピードで列は動いているので、そんなに時間は掛からないだろう。

 しかし、俺の予想は外れ、会場に到着した時には12時を過ぎてしまっていた。イベント会場の運動公園は駅から1km程の距離にあるので普通に歩けば10~15分で着くのだが、俺がイベント会場に到着したのは駅を出て30分程後、普通の倍は時間が掛かった。

 御陰で……。

 

「やっと着いた。はぁ……腹減った」


 会場に近付くに従い、会場の屋台から漂ってくる屋台飯の臭いが、朝食を抜いた俺の空きっ腹を直撃していたのだ。

 特に、焼きソバだろうソースの焦げた匂いが、壁一枚隔てた入場待ちの列の横から漂って来た時はキツかった。


「美佳達と合流する前に、先ずは何か食べるか……」


 俺は心の中で美佳達に謝罪し、2人が働いていると言っていたグッズ売り場と反対の、屋台が纏まる飲食エリアに足を向けた。腹が減っては戦は出来ないって言うし……仕方ないよな? 

 俺は自己弁護を完了し、飲食エリアへ突撃していった

 

 

 

 

 

 

 

 俺は屋台で確保した食べ物をイートインスペースのテーブルに広げ、満足気に頷く。戦利品は全部で3つ、取り敢えず時間が掛からず購入出来そうな物をチョイスした。 


「よし、じゃぁ頂きます。先ずは、焼きソバからだな」


 俺は心躍らせながら、先程から香ばしいソースの香りを放つ焼きソバのパックを止める輪ゴムを外し、付属の割り箸で麺を掴み口に放り込んだ。

 

「うん。旨い!」


 俺は続け様に、二口目の麺を掻き込む。

 パリパリに焼かれた麺の食感が程良く、シャキシャキのモヤシやキャベツが程良いアクセントになっていた。ソースは甘辛く、焦げたソースの香ばしい香りが鼻を抜け食欲を刺激する。

 そして何より……。


「このカリカリに焼けたオーク肉が、良い味を出しているな!」


 表面がカリカリに焼けているのに、シッカリとした肉の味わいを感じられる。肉から溢れた肉汁が麺に絡み、コクや味の深みを増していた。

 俺は空腹の後押しもあり、夢中になって残りの焼きソバを一気に掻き込んだ。


「ふう……値段の分だけの味ではあったな」 


 俺は箸を空のパックの上に置いて、口元を付属のペーパー布巾で拭く。

 オーク肉を使った焼きソバ、パック一つで1200円と高かったがボリュームと味には満足行く物だった。最近、ダンジョン食材の値段も落ちてきているとは言え、まだまだ割高の食材と言う事だな。


「さて、次のを食べるか……」


 俺が次に手を伸ばしたのは……紙袋に包まれたケバブだ。半円状の小麦の器にコールスローと焼けた肉が挟まった物で、上にかかった赤いホットソースのスパイシーな香りが食欲をそそる。

 ただ……。


「ジャイアントフロッグの肉というのが少し気になるけど……まぁ、食べてみるか」


 ジャイアントフロッグ……手加減を間違え爆散させてしまったカエル型のモンスターだ。アレの肉かと思うと若干躊躇するが、俺は意を決してカエル肉ケバブに齧り付く。

 

「……! 中々イケルな」


 ジャイアントフロッグの食感は鶏肉その物。肉の味は淡白ではあるがシッカリと下味が付いており、程よい弾力の肉を噛めば噛むほど旨みが溢れ出てくる。カリカリに焼かれた香ばしい肉の香りとホットソースのスパイシーな香りの調和は実に見事で、瑞々しいコールスローが後味をサッパリとしてくれた。 


「ジャイアントフロッグの肉……鶏肉の代わりになるんだな」


 見た目はあんなのだが、食材としてみれば意外に優秀な奴なのかもしれないな。俺はジャイアントフロッグの見事な転身ぶりに感心しつつ、残りのケバブを口に運んだ。

 因みに、ジャイアントフロッグのケバブ……一個600円なり。 


「さて、最後は……」


 俺は最後の戦利品、串焼きに手を伸ばす。焼けた大ぶりの肉が4つ串に突き刺さった、シンプルな串焼きだ。

 

「ミノタウロス肉の串焼き。高かったけど……どれ味は」


 ミノ肉の串焼きは、1本1800円。俺は期待しつつ、ミノ肉の串焼きに齧り付く。


「旨い!」


 この一言しかない。

 炭火で表面を香ばしく焼いた肉に、塩コショウが振られているだけのシンプルな調理方法なのだが、これ以上無い程ジューシーに仕上がっており、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出て来る。下手に手が加えられていない分、素材の味がそのまま反映されていた。

 

「……」


 俺は無言でミノ肉の串焼きを味わう。やっぱりプロが調理すると、シンプルな調理法程腕の違いがハッキリ出るな。

 俺は自分で持ち帰り調理したミノ肉料理と、この串焼きを比べ嘆息の息を漏らす。

  

「まぁ、良いんだけどさ」 

 

 戦利品を食べ終えた俺は、ペットボトルのお茶を飲んで一服していた。場当たり的にチョイスした割には、中々満足する昼食だったと自分の嗅覚に感心しつつ。

 

「ふぅ……さて、御馳走様でした」


 手を合わせた後、俺は食べ終わった空のパック等のゴミを片付け席を立つ。昼食を取ろうと他の客も結構イートインスペースに集まって来ているので、あまり場所を専有していたら悪いしな。

 俺が席を立つと直ぐに、空き席を探していたらしいペアが席に着く。ゴミをイートインスペースの端に設置してあるコンテナ型ゴミ箱に放り込み、俺はイートインスペースを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 腹も満ちて気分も落ち着いたので、俺は会場を軽く一回りして美佳が居るグッズ販売エリアに行くことにした。

 飲食エリアに出店している屋台では、俺が食べた物以外にも、様々なダンジョン食材を使用した品々が並んでいる。中には、ゴブリン肉の……という確認もしたくない、怪しげなメニューもあったが、概ね既存の料理にダンジョン食材を使ってアレンジした物だった。

 

「ダンジョン食材の種類が増えれば、もっと料理の幅が広がるんだろうけど、今の所肉関係の素材しか出て来てないみたいだな……」


 一通り飲食コーナーを見て回ったが、魚類や植物類を取り扱っている屋台の姿は見えなかった。そのせいか、殆どの屋台ではダンジョン産の肉をメイン食材にした料理が多い。

 現状では、まだまだ幅が狭いラインナップでしかないな。


「他の系統の食材は、中層階以降に出現するモンスター達に期待するしかないな」


 俺が屋台の軒先を眺めながら暫く歩いていると、人波と屋台の数が減り飲食エリアが終了した。 

 

「ここまでか……」


 俺は来た道を振り返り屋台が立ち並ぶ飲食エリアを一瞥した後、次のエリアを目指し歩き出す。

 飲食エリアから少し離れた所にパイプ椅子を並べ、設置された大きな仮設ステージが見えてきた。どうやら隣のエリア、ステージショーを行うエリアに到達したらしい。 


「結構大きなステージだな……」


 パッと見た感じ、20m×10mと言った所だろうか?

 まぁ、美佳が言っていたヒーローショーモドキの模擬戦をやるなら、この位の広さは必要か……。

 お昼時ということもあってステージショーエリアはガランとしており、人の気配はあまりない。


「ん? アレは……」


 俺はステージの脇に、スケジュールが書かれた立て看板があるのを見付けた。近くに寄って立て看板を見てみるとショーの公演スケジュールが書かれており、美佳が言っていた模擬戦は13時半から行われるらしい。

 時計を確認すると、大分時間が空いている。


「……後、1時間か。結構、空き時間があるな」


 取り敢えず、ここに居てもしょうがないので移動することにした。 

  

 

 

 

 


 少し歩くと、ステージショーエリアの隣、物産エリアに到着する。

 このエリアの出店にはダンジョン素材を使った各企業の商品が並んでおり、新商品展示会の様相を呈していた。興味深いのは興味深いのだが、このエリアの客足は疎らで、今居る客層もどちらかと言うと業者の様な玄人感が滲み出ている。あの店の店員が客と今やっているのは、店頭販売と言うより業者の商談だよな。

 取り敢えず俺は、客も疎らな物産エリアを回ってみる事にした。雰囲気はアレだが、様々な商品が並んでいて中々面白い。

 

「って、ん?」


 俺は気になる物を見付け、とある出店の前で足を止めた。 

 店頭のピンク色のプラスチック籠に無造作に積み重ねられ、ダンボール板にマジックで商品名と値段が書かれた、それ。

 美佳が言っていた、特売のスキルスクロールだ。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 


特産品を使った屋台が沢山出ています。

少々お高めですが、味はお値段なりです。

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[一言] 「出掛ける準備を浮いを」→「出掛ける準備を行いを」
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