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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6章 ダンジョンへ行く為には
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第63話 買い物と相談

お気に入り10050超、PV 3970000ジャンル別日刊15位、応援ありがとうございます。




 2日間の登校期間を終え、再びゴールデンウィークの連休になった。裕二は重蔵さんと演舞の地方公演の為に旅立ち、柊さんは実家のラーメン屋の手伝いをしている。 

 そして俺は今、一人寂しく駅のカフェでコーヒーを啜っていた。

 

「……沙織ちゃんは兎も角、美佳と外で待ち合わせする意味はあるのかな?」


 俺はコーヒーをテーブルに置きながら、疑問符を浮かべながら首を捻る。

 今日は、美佳と沙織ちゃんとの買い物の約束の日だ。美佳と一緒に家を出ようと思っていたのだが、俺は美佳と母さんに促され、一人先に家を出て駅のカフェでコーヒを飲んでいる。 

 何でも、女の子には色々準備があるらしい。  

 因みに俺の格好は、白シャツと黒スキニー、そしてジャケットのシンプルなものだ。


「……すみません! カプチーノを、お願いします」

「はーい! 直ぐにお持ちします!」


 俺は3杯目になる飲み物を、店員さんに注文する。

 時計を確認すると、既に俺がこのカフェに入って40分近く経つ。そろそろ、飲み物だけで時間を潰すのも限界だな。待ち合わせ時間まで、あと5分。 

 俺はスマホを操作しメールを作成、美佳に送る。


「お待たせしました、カプチーノです。ごゆっくりお過ごし下さい」

「ありがとうございます」


 店員さんが注文の品を持って来てくれた。ミルクの泡の上に、ココアパウダーでデフォルメされた猫の絵が描かれている。

 芸が細かいな、この店。俺は少しカプチーノを飲むのを躊躇したが、一思いにスプーンで絵を掻き混ぜて一口啜った。……味は普通だな。 

 カプチーノを半分飲み終えた頃、懐のスマホが震えた。


「……ん? 美佳か」


 メールをチェックすると、もう直ぐ駅に到着するとの事だ。

 俺は残りのカプチーノを飲み切り、伝票を持ってレジに向かった。


「合計で、1350円になります。1500円お預かりします……お釣りの150円になります。ご利用有難うございました、又のご利用をお待ちしています」


 会計を済ませ店を後にし、改札口の方に向かう。

 改札に到着し周囲を見渡すと、美佳達らしい後ろ姿の二人組を見付けた。

 

「お待たせ」


 二人に近付き声をかけると、二人は俺の声に反応し振り返った。


「あっ、お兄ちゃん!」

「あっ、おはようございます。お兄さん」

 

 振り返った美佳は俺の姿を見て嬉しそうな笑顔を浮かべ、沙織ちゃんは軽く会釈しながら朝の挨拶をしてくる。二人とも薄く化粧を施し、普段とは違う雰囲気を醸し出していた。

 美佳は白いスカートとシャツのカジュアルコーデ、沙織ちゃんは長い黒髪をポニーテールに纏め、グレーのパーカーにストライプ柄スカートのスポーティーミックスだ。

 二人共、買い物に行くだけなのに随分気合が入ってるな。取り敢えず、服装は褒めておいたほうが良いって聞くし……。 


「おはよう。その服凄く似合ってるね、二人共可愛いよ」

「そ、そう?」

「有難うございます」


 美佳は顔を若干赤らめながら喜び、沙織ちゃんは冷静にお礼を返して来る。 

 沙織ちゃんには、お世辞って思われたのかな? でも、実際に二人の服装は可愛いんだけど……。

 まぁ、突っ込んで聞くような話でもないだろうし、話を進めるか。


「じゃぁ、早速移動しようか?」

「あっ、うん」

「はい」


 切符を購入し、俺達は改札を潜る。

 ゴールデンウィークということもあり、ホームにはそれなりの人数が居た。

 電車が到着するまでの間、今日の予定について二人に話しかける。 


「そう言えば二人とも、買い物はどっちから先に行くんだ?」

「えっと、取り敢えずデパートの方から回ろうと思ってるんだけど……良いよね、沙織ちゃん?」

「うん。デパートの方が駅から近いしね」


 まぁ、そうなるか。

 繁華街までの距離もそう遠くないが、駅ビルの中に入ってるデパートの方が格段に近いもんな。

 買った荷物は、駅のコインロッカーに預けるか。


「なるほどね」

「高校生になって皆大人っぽいファッションを揃えるようになったから、私達も手持ちの服だとちょっと、ね」

「そうなんですよ。この間中学の時の友達と会ったんですけど、私服の雰囲気がガラっと変わってたんですよ? ビックリしましたよ」


 俗に言う、高校デビューというやつだろうか? 

 ……失敗していないと良いね、その子。俺達の時はダンジョン出現のインパクトで、その辺りのことは有耶無耶になったからなぁ。

 暫く二人と雑談していると、電車がホームに入って来た。

 結構、人が乗っているので座るのは無理だな。まぁ、15分程度の乗車時間だから良いか。俺達は話をやめ、電車に乗り込む。

 

 

 

 

 

 

 デパートに到着し、早速服を見て回るのだが……。


「付き添いとは言え、居辛いよな……」


 俺の背中に、女性客の視線が突き刺さる。二人は今、試着室に入っており俺の傍には居ない。 

 一人でいると、場違い感が半端ないな。

 

「お兄ちゃん」

「ん? 着替え終わったのか?」

「うん」 


 試着室のカーテンが開く。

 美佳の試着している服は、ボーダー柄のトップスとフレアスカートだ。


「どう? 似合う?」

「ああ、良く似合ってるよ」

「本当!」


 俺が褒めると、美佳は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 すると、沙織ちゃんが入っている隣の試着室のカーテンが開いた。

 出てきた沙織ちゃんの着替えた服装は、ボーダー柄のトップスとロング丈のプリーツスカートだ。

 

「……どうですか?」

「似合ってるよ。ロングスカートのお陰で、普段の沙織ちゃんと違う雰囲気だけど良い感じだね」

「あ、ありがとうございます」


 俺の褒め言葉に、沙織ちゃんは嬉し恥ずかしそうに頬を赤く染める。 

 可愛いな……そんな思いで沙織ちゃんの表情を見ていると、隣から視線を感じた。

 

「……どうした?」

「沙織ちゃんの方が、私より褒められてない?」

「……そうか? 俺はそんなつもりないんだけど……」

「ふーん」


 何故か美佳の機嫌が悪くなり、試着室のカーテンを閉めた。

 ……何かミスったか?

 俺がカーテンが閉められた試着室を見詰め首を捻っていると、苦笑を浮かべる沙織ちゃんが小声で話し掛けて来た。

 

「あの、お兄さん?」

「ん? 何、沙織ちゃん?」

「私の方は良いので、美佳ちゃんの服装を重点的に褒めて上げて下さい」

「えっと……?」


 俺が良く意味が分からず首を捻ると、沙織ちゃんは追加の説明をしてくれた。


「美佳ちゃん、お兄さんにもっと褒めて貰いたいんですよ。でも、お兄さんが私の服装を美佳ちゃんの時より詳しく褒めたから……拗ねちゃってるんですね」

「ああ、なるほど」

「だから、今度は美佳ちゃんのことをもっと褒めて上げて下さいね」

「分かった。教えてくれて、ありがとう」

「いいえ」


 それだけ言うと、沙織ちゃんもカーテンを閉め試着室の中に戻っていった。

 いやはや、褒め方一つとっても難しいな。俺は頭を掻きながら、次の褒め言葉の選択に頭を抱える。

 その後、美佳と沙織ちゃんによる数着の試着品評会があったが、何とか乗り切った。 

 

  

 

 

 

 

 

 デパートでの買物を終え、今度は繁華街にあると言う、化粧品の専門店に移動する。

 小さな店が並ぶ通りの中頃に、その店はあった。店の入り口付近には、化粧品を買い求める女子中高生達の姿が……。


「……あそこか?」

「うん。友達に聞いた話の通りだと、あの店だね」

「……俺、入らないぞ?」


 美佳に確認を取ると、間違い無いようだ。

 流石にあそこに入るのは、男には難易度が高過ぎる。


「分かってる。お兄ちゃんは……あそこの喫茶店で待っててよ。買い物が終わったら、私達も行くからさ」

「あそこ……ああ、あの店か」


 美佳が指差した数軒先の店に、喫茶店の看板があった。

 正直、朝の待ち時間でたらふくコーヒーを飲んでいたので、余り気は進まないのだが、あの店に突撃するよりはマシだろう。


「分かった。じゃぁ、あの店で待ってるよ」

「うん」

「出来るだけ早く、そちらに行きますね」

「そんなに急がなくて良いよ、沙織ちゃん。コーヒーでも飲みながら待っているから、ユックリ買い物をしておいで」


 俺は二人を見送った後、喫茶店の方に移動する。

 喫茶店の中は、レトロ調で落ち着いた雰囲気だった。BGMとして、クラシックが流れているのも、一因だろう。入口に立っていると、店名が入ったエプロンを付けた店員さんが近付いて来た。


「いらっしゃいませ、お一人でしょうか?」

「はい。あっ、後から二人来ます」

「分かりました。では、こちらに」


 店員さんに先導され、俺は4人掛けの席に案内された。 


「こちらがメニューになります。注文が決まりましたら、お呼び下さい」


 店員さんが置いていったメニュー表に、俺は一通り目を通す。

 コーヒーは朝飲んだので、他の物を頼むか。ケーキやサンドウィッチ等は……いらないな。

 俺はテーブルの上の呼び出しベルを一度鳴らし、店員さんを呼ぶ。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「ココアを、お願いします」

「ココアですね? 少々お待ち下さい」


 紅茶とどちらにするか悩んだが、少し甘い物が欲しくなったのでココアにした。

 暫く待つと、店員さんがココアを持って来る。


「お待たせしました。ごゆっくりお寛ぎ下さい」

「ありがとうございます」


 俺は礼を言った後、ココアを一口啜る。……甘い。予想以上に甘いな、このココア。

 取り敢えずやる事がないので、俺はスマホを取り出しネットニュースを見る。Wi-Fi通って無いな、この店。


「えっと、今日のニュースはっと……」


 何々……?ゴールデンウィーク中の、探索者の負傷者数が急増?

 まぁ、サンデードライバーじゃないけど、たまにダンジョンに行くような人達じゃ、油断をすれば怪我もするか。他人のことは言えないけど……。


「他には……へぇ。南鳥島近海の海底資源の試掘を今夏頃に開始予定、か」


 記事によると、ダンジョン由来の新技術を活用した新型深海作業艇が6月頃に完成予定で、夏頃試掘調査を行うとの事だ。新型海底調査艇は、深度10000mを超える深海でも長時間の作業が可能な性能を持っており、商業ベースに乗る採掘コストでの海底資源の採掘が期待されているとの事。

 実現すれば、エネルギーだけに限らず、鉱石等の資源面でも内製化が進むと記事に書かれている。


「実現すれば凄いけど、どっかの国がイチャモン付けて来そうな計画だな」


 日本は既に、コアクリスタル発電の実用化を発表しただけでも、かなりの波紋を世界中に撒き散らしていた。この波紋の直撃を受けた産油国等では、石油が売れなくなる前に稼ごうとして値上げをしている。今でこそ、産油国への技術支援や経済支援等で混乱は沈静化しているが、未だ不安定と言っても良い状況だ。

 ここで更に、資源でも激震を撒き散らすような計画を打ち上げれば……。

 

「……大丈夫かな?」


 色々な意味で心配になってきた。

 経済関係の事にはそこまで明るくないが、最近の日本経済はダンジョン特需の御陰で、長年の不況を脱しつつあり景気も上向いている。ここで輸入に頼っている資源面でも内製化が進めば、完全に不況を脱せるだろう。

 だけど、それに伴うリスクが高くないかとも思う。既得権益保護の為に、テロなど起きないだろうか心配だ。


「まぁ、其の辺の事は織り込み済みで計画を発表したんだろうし……大丈夫と思っておこう」


 脇の甘い政府という評価の日本だが、流石に無策ということは無いだろう。特に、最近のダンジョン関連の動きを見ていると……。

 俺は少し冷めたココアを飲み、胸に溜まった不安を吐き出す様に溜息を吐く。

 

 

 

 

 

 お代わりに頼んだ紅茶を飲み干した頃、喫茶店の入口が開き美佳と沙織ちゃんが入って来た。

 2人が店内を見回している様子が見えたので、俺は手を振って居場所を知らせる。出迎えた店員さんに俺の方を指さし伝え、2人は俺のテーブルの方に歩み寄って来た。


「お待たせ」

「お待たせしました」

「お疲れ、欲しい物は買えた?」


 俺は手で二人を向いの席に誘導し、買い物の成果について問う。

 

「うん。流石プロだね、バッチリ」 

「はい。要望を伝えただけで、私達に合う品をシッカリ選んでくれました」


 美佳は紙袋を掲げて俺に成果を報告し、沙織ちゃんも満足そうに紙袋を見せてくれた。

 

「そう、良かったね。あっ、何か頼む? ここは俺が出すから、好きな物を頼んでよ」

「えっ、良いの!?」

「……良いんですか、お兄さん?」

「うん。流石に買い物分までは出せないけど、今日の飲食代は俺が持つよ。特に沙織ちゃんは、俺が是非にって誘ったことだしね」


 俺はそう言いながら、二人にメニュー表を手渡す。


「やった!」

「えっと……じゃぁ、ご馳走になります」


 美佳は素直に喜び、沙織ちゃんは美佳の様子を見ながら控えめに同意しお礼を言ってくる。 


「何に、しようかなー」 

「好きな物で良いけど、昼食もあるから軽い物にしとけよ?」

「うん。じゃ……このケーキセットで!」

「じゃぁ、私も同じ物を……」

「そう、分かった」


 注文も決まったので、俺は呼び出しベルを鳴らし店員さんを呼び出す。


「ご注文ですか?」

「はい。えっと、ケーキセットを2つとブレンドコーヒーを1つで」

「はい。ケーキセットのお飲み物は、何になさいますか? コーヒー、紅茶、オレンジジュースの中から選べますが……」

「えっと……?」


 俺は二人に視線を送り、何を選ぶのかと尋ねる。


「私、オレンジジュース」

「私は紅茶でお願いします」

「じゃ、それでお願いします」

「はい。では、少々お待ち下さい」


 注文を取った店員さんは、軽く会釈をし去っていった。


「さてと……。取り敢えず、これで今日の買い物は終了かな?」

「うん。予定していた物は、全部買えたよ」

「はい。お陰さまで」


 二人は満足そうに、笑顔を浮かべる。 

 

「じゃぁこの後は、昼食を何処かでとってから、カラオケだね」

「うん。あっ、でもその前に、お兄ちゃんに相談したい事があるの」

「? 相談?」


 美佳の相談と言う言葉に俺が首を捻っていると、隣りに座っている沙織ちゃんも美佳に同意する様に首を縦に振っていた。


「あれ? 沙織ちゃんも? って……もしかして二人とも同じ相談事?」

「うん」

「はい」


 どうやら、正解の様だ。 

 2人は佇まいを正し、緊張した面持ちで俺の顔を正面から見る。……何を言う気だ?


「あのね、お兄ちゃん」

「私達……」

「「探索者試験を受けようと思うんです(の)!」」

「……はい?」


 ……何で?

 2人の言葉に、俺は一瞬思考が飛んだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

妹達との買い物と、相談です。

エネルギー自給の目処が立ったら、次は資源の自給を目指しますよね?

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― 新着の感想 ―
美佳ちゃんがめんどくさいタイプのブラコンにジョブチェンジしつつある…… これはこれで家族仲いいとこなら可愛いんだろうけども。
[良い点] 現代の日本にダンジョンが現れたらという設定は面白いですね。スライムを食塩で倒す発想は新鮮ですが、そのくらいなら他の冒険者も当然試してみるのでは? [気になる点] まず主人公の目的がはっきり…
[一言] 「「探索者試験を受けようと思うんです(の)!」」……はい?」 ……何で?2人の言葉に、俺は一瞬思考が飛んだ。 ごく普通の成り行きだね。他人をしっかり机のダンジョンでレベル上げしたんだから…
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