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幕間 肆話 政府の動き2

お気に入り5400超、PV498000超、ジャンル別日刊2位、総合日刊32位、応援有難うございます。

 

 

 

 会議室に集められたダンジョン検証委員会のメンバーは、侃々諤々の議論を交わしていた。会議室の大型モニターには、自衛隊を中心として特別編成された第1次ダンジョン調査隊の行動記録映像が繰り返し再生されている。


「だから! ダンジョン内に重機関銃以上の重火器を持ち込むのは無理だって言ってんだろうが!」

「対戦車ロケット砲なら持ち込めるだろ!」

「アレ幾らすると思ってんだ! コスパを考えろ! 1階層クリアするのに、幾ら金を注ぎ込む気だ! 予算には限りがあるんだぞ!」

「その通りだ! それに、通路が狭く半閉鎖空間に近いダンジョンでそんな物を使えば、モンスター諸共爆風で隊員に死傷者が出るだろ!」

 

 防衛省と経産省と財務省の担当官が、それぞれの立場に沿った意見をぶつけ合う。ダンジョン産のアイテムを少しでも確保したい経産省、ダンジョンに突入する事になる実働部隊を擁する防衛省、不要な予算を削りたい財務省。


「あ、あのー良いでしょうか?」

「「「ああっ!?」」」

「ひっ!」


 血走った目で睨みつけてくる面々に、文科省の担当官は小さな悲鳴を上げる。威嚇する様な3担当官に怯えつつ、文科省の担当官は叫ぶ様に意見を述べた。

 

「う、ウチからも報告があります! 突入した調査隊の装備品を調べた所、僅かながら物理強度や薬品耐性等が向上している事が確認されました!」

「「「???」」

 

 各省庁の担当官はその報告に首をかしげていたが、外部民間協力員として出席していたSF作家とゲームクリエーターが声を上げる。


「なる程、面白い。それはモンスターを倒した隊員の装備品がですか? 調査隊全員の装備品もですか?」

「えっ?えぇぇっと……モンスターを倒した隊員の物だけです」

「と言う事は、アレですかね?」

「アレじゃないですか?」

 

 隣同士で座っていたSF作家とゲームクリエーターは、お互いの考えをアイコンタクトで確認する様に掛け合いをおこなう。その様子に、少し苛立たしげな防衛省の担当官が話を聞く

 

「あの、我々にもどう言う事か分かるように、説明して貰えませんか?」

「無論です。ですが、これは私達の推測です。事実とは異なるかも知れない事は、念頭に置いておいてください」


 SF作家は前置きをした後、持論を述べ始めた。


「恐らく、モンスターを倒した事で経験値を得たのでしょう。つまり、モンスターを倒した隊員はレベルアップしたと言う事です」

「「「はぁ~!?」」」

「装備品の強化はおそらく、レベルアップした隊員の装備品だった事による恩恵を受けた為だと思われます」

 

 ゲームクリエーターは同意する様に首を縦に振るうが、各省庁の担当官達はSF作家がぶち上げた説に呆気に取られた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!そんなファンタジーの様な話……」

「ダンジョンの実在こそ、ファンタジーじゃないですか。そこにレベルアップ説が加わった所で、如何程の物ですか?」

「……」

「おそらく同じ装備品を使い続ければ、所有者のレベルアップと共に装備品もレベルアップしていくと思いますよ?」


 もっともなSF作家の反論に、泡を食って反論した経産省担当官は黙り込む。


「装備品が共にレベルアップするのならば、何故銃がモンスターに効かないのですか?」 

「おそらく単純に威力不足な事と、使い捨て品である銃弾に対して強化の恩恵がないからではないでしょうか? 銃器本体や予備弾薬に変化はありませんでしたか?」

「ええっと、それは……ああ、ありました。確かに銃器本体も僅かながら強化されています。そして予備弾薬に関しては、調査前の弾薬配布時の物と変化ないそうです」


 SF作家の質問に、文科省の担当が手元の資料を慌てて確認する。そこには確かにSF作家が言った事を裏付ける検査結果が記載されていた。 


「確定ではないにしても、当たらずとも遠からずと言った所でしょう。銃器本体が強化されているのなら、弾薬の発射薬を強化し威力を高める事も出来るでしょうが……」

「発射時の反動などの諸問題が出てくるでしょうし、こんな場当たりの強化では何れ頭打ちになると思いますよ? ダンジョン表層部なら通用するとは思いますが、深く潜れば潜るほど銃器は打撃武器程度の扱いになる筈です」


 SF作家とゲームクリエーターの意見に、各省庁の担当者達はお互い顔を見合わせ困った様に眉をひそめあった。ダンジョンの特殊事情により、戦場の主役に君臨し続けた武器は通用しない。銃器を絶対の武器として認識していた者達は、対応策を見い出せない。


「では、どう対処しろというのですか……」

「意外に簡単ですよ?」

「えっ?」

 

 困り果て懇願する様なボヤキを漏らした担当者達に、SF作家はいとも簡単に解決策を提示する。


「所謂、レベルを上げて物理で殴れですね。使用者と共に装備品も強化されるのなら、消耗品でない剣や槍などの近接兵装で武装する事が有効でしょう」

「ますますゲーム染みて来ましたね」

「ダンジョンなんて物自体が、ゲームの存在じゃないですか」

「ははっ、そうですね」

 

 SF作家とゲームクリエイターは、顔を見合わせながら小さく乾いた笑い声を上げる。

 各省庁の担当者達は、そんな二人の様子をチラチラ横目で見ながら現実的な対策を検討しようと逃避気味に意見を出し合う。


「第2次調査隊の編成状況はどうですか?」

「第1次調査隊に参加した者達を中心に現在再編中です。後2日もあれば、出発は可能です」

「では先程の意見を取り入れ、近接兵装を装備した者を調査隊に編入させる事は可能ですか?」 

「可能です。その手の者を、至急リストアップしましょう」

「お願いします。それと彼らが使う得物は……」

 

 不安を振り払おうとする様に、活発に意見を出し合う各省庁の担当者達。そんな姿を民間アドバイザーとして会議に出席しているSF作家とゲームクリエーターは、何処か可哀想な物を見る様な眼差しを向けていた。


「現実逃避する時間も貰えず異常事態に向き合わなきゃならないなんて、官僚って大変だねぇ」


 そんな感想を、ゲームクリエーターは会議の様子を眺めながら、誰にも聞こえない大きさの声でポツリと漏らした。

 

 

 

 

 

 最近頻繁に開かれる様になった臨時閣議、その席で総理は手元の資料を見ながら疲れた様に溜息を漏らす。 

 

「そうですか。第2次調査隊が仮説を実証しましたか」

「はい。仮説の様に近接兵装で武装した隊員を中心にモンスターと戦闘を繰り返した所、隊員の身体能力と装備品に顕著な差が出てきました」

「身体能力がダンジョン調査前の計測値の1割増になり、装備品の強度も1割増にですか……」 


 官房長官が暗い顔で、総理に第2次調査隊の結果を報告をする。

 第2次調査隊の主目的の一つに、SF作家とゲームクリエーターが提唱したレベルアップ説の検証が含まれており、ものの見事に仮説が正しいと調査隊により実証された。

 第2次調査隊では比較検証の為、従来の銃器で装備を固めたA班と近接兵装で装備を固めたB班に分けられ、無理をしない範囲でダンジョン潜行を行った所、A班の銃器による攻撃が表層階層で効かなくなり始め撤退したのに対し、B班によるダンジョン潜行は順調に進んだ。

 そして、銃器による攻撃が完全に通じないモンスターも、B班が装備する近接兵装で問題なく討伐に成功。後の調査で、このモンスターを討伐するのに必要な銃弾の威力を検証した所、20mm以上の火砲が必要との結果が出た。トテモではないが、ダンジョン内を徒歩で移動する歩兵が運用する様な物ではない。

 

「これらの事から、ダンジョン内での戦闘行為には銃火器等の飛び道具ではなく、剣や槍などの近接武器が有効だと判明しました。そして、ダンジョン内でモンスターと戦闘する事で外的要因による身体能力向上現象……レベルアップが存在する事も」

「レベルアップ……つまり民間にダンジョンを開放し、ダンジョンに潜る者が増えたら」

「時と共に、既存の者とは桁違いの身体能力を発揮する者達が出現する事に成ります。これは、治安維持に関して重大な問題が発生する事になるかと」


 総理の脳裏には、レベルアップを果たし力に酔って暴走する者の出現が過る。取り押さえようとする警察官を押しのけ被害を拡大させ、最終的にやむ無く射殺される犯人の姿が。

 

「……出来れば、民間開放は避けたいですな」

「……ですが総理。民意はダンジョン開放に傾いており、各国内企業もダンジョンの開放路線を支持しています。諸外国も、ダンジョンの民間開放の動きを見せている以上……」

「分かっています。現状で民間開放は不可避でしょう。ですが、少しでも開放期日を遅らせる事が出来れば、一応の治安対応策ぐらいは整える時間を捻出出来る筈です。例えば、特殊部隊や機動隊の精鋭を民間に開放する前のダンジョンに潜行させ、レベル的に優位に立った対応部隊を創設するなど……」

「はい。至急対応策を検討し、出来るだけ早期に実現出来る様に努力します」


 総理と官房長官は何れ起きるであろう国内の治安問題に頭を抱えながらも、どうにか対応出来る様にと手を尽くす事を確認しあう。

 総理は痛む頭を振りながら、次の議題に移る。


「それで……文部科学大臣。例の物の2次分析結果は?」

「はい、既に終了しています」


 多発する問題で疲れ気味の総理の問いに、文部科学大臣が申し訳なさそうにある資料を読み上げ始める。


「第1次、2次調査隊がダンジョンから共に持ち帰った物品。ここではドロップアイテムと呼称しますが、その中の一つ、コアクリスタルと呼ばれる物の第2次分析結果が出ました。このコアクリスタル、1次分析作業中にある特徴が発見されました。極めて硬質ながら、水に漬けると熱を出すと言う性質です。当初、この性質は酸化カルシウム……生石灰と同じ性質と思われていました。ですが、このコアクリスタルを詳しく分析した所、もう一つ特異な特徴が発見されました」


 文部科学大臣はひと呼吸間を入れ、検査結果を口にする。


「……水中で熱量を放出した後に重さを測ると、()()()()()()()()()()()()()なっていたのです」


 会議室内には文部科学大臣の言う意味が良く分からず首を捻る者と、意味を察し顔色を変え絶句する者に分かれた。前者の内の一人が首を捻りながら、質問を口にする。


「つまり、どういう事なのですか? 態々成分に変化がという以上、水に溶けたと言う訳では無いようですが……」

「……水に漬けると自身の質量を熱量に変換する現象……これは質量をエネルギーに変換する核融合や核分裂によって生じる現象と同質のものです」


 質問した大臣は表情を凍りつかせ動きを止め、文部科学大臣は更なる驚愕すべき情報を開示する。


「更に詳しく調べた所、このコアクリスタルは自身の持つ質量をほぼ100%熱量へと変化させていました。変換効率はほぼ100%、これは()()()と類似する性質です」


 今度こそ会議室内にいた者達の顔色が全て蒼白に変わり、会議室内の空気が凍りついた。 

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 反物質に類する!? 何でそんな危険物が!?」

「爆発したら核以上の代物ですよ!?」

「……」

「おい!何とか……」

「静かに」


 正気を取り戻した大臣達によって、大騒ぎになる会議室。文部科学大臣はこうなる事を予想していたのか、目を伏せ沈黙を保つ。その態度に苛立ち、大臣達が更なる抗議の声を上げようとした時、今まで静観していた総理が有無を言わさぬ声で場を鎮めた。


「文部科学大臣、続きを……」 

「はい。確かにコアクリスタルの持つ質量が瞬間的に熱量に変換されれば極めて危険ですが、コアクリスタルが質量を熱量へと変化させる変換速度は極々遅いものです。例えドロップしたコアクリスタルが水に触れても温かいかな? と感じる程度で、瞬間的に質量が熱量に変換される事はまずありません。正にファンタジー物質ですね」

 

 文部科学大臣は資料を片手に、安全であると断言した。その宣言と同時に、会議室の空気が安堵の息と共に緩む。

 だが……。


「ですが、何事にも例外はあります」


 その文部科学大臣の一言で、再び会議室内の空気が緊張する。


「確かにこのコアクリスタル、ドロップした状態では、極々遅い速度でしか熱量に変化しませんが、ナノ粒子状になると、話が変わってきます。ナノ粒子状に微細化されたコアクリスタルは、変換速度を急激に上昇させます」

「もしかして……爆発する可能性が?」

「いえ。熱量を発生させるだけで、爆発の可能性はありません」


 安堵の息が漏れる。

 そして1拍間を置き、ある事に気が付いた経済産業大臣が座っていた席を立ち、文部科学大臣に震える声で問いただし始める。


「文部科学大臣、もしやこのコアクリスタル……」

「はい。水に触れ続けている限り、自己質量を消失させるまで熱量を放出する……エネルギー資源として十分使用できます。それも、原子力とは比べ物にならない力でありながら安全かつクリーンに」

「!?!?」


 会議室内が歓喜に揺れる。


「それでは、エネルギー革命ではないですか!」

「しかも、必要な物資が国内で調達可能になる!」

「安定供給が実現すれば、エネルギー資源の海外依存度が大幅に減らせますな!」


 エネルギー資源を輸入に依存している状態を苦々しく思っていた閣僚達は、年々上昇するエネルギー需要に対する解決策の出現に小躍りする。原子力事故で国内原発が停止し不足する発電力をカバーする為、化石燃料発電への依存度が上昇しエネルギー資源の輸入量が急増している昨今、原子力や化石燃料に代替可能なエネルギー資源の出現は正に塞翁が馬の事だった。


「安価なエネルギーが安定供給可能なら、現在節電の為に生産設備の稼働率を落としている企業群も息を吹き返します! 製造時のエネルギーコストを落とす事が出来るのならば、安価な海外の製品とも対抗可能になる筈です! 不況を脱する切っ掛けにもなる!」 

「そうなれば税収も増大し、予算不足でストップしていたプロジェクトも開始出来る!」

「新規高速道路や新規鉄道路線の交通インフラが整えば、さらに人の動きも活性化し地方経済も活性化する!」


 経済産業大臣が物凄い笑顔で不況脱出をほのめかし、財務大臣は所得増で増えるだろう税収の皮算用を始め、国土交通大臣は巨額プロジェクトの承認を夢想する。

 こうなると、もう止まらない。各大臣はダンジョン出現によって齎されるデメリットに頭を抱えていた事は遠の昔の事とし、ダンジョンから産出されるであろう利益を確保しようと思惑を巡らせ始める。

 そこに、浮つき始める大臣達に冷水をかける様に総理が、文部科学大臣に問う。

 

「それで、ダンジョンから得られたコアクリスタルの量は、如何程なのですか? あまりに少なければ、エネルギー資源としては……」


 期待と不安に満ちた総理の問いによって、各大臣は冷静さを取り戻す。コアクリスタルの産出量が少なすぎれば、全ての思惑は御破算になるのだから。

 総理の問を耳にした各大臣達も、期待と不安の篭った鋭い視線を報告を行う文部科学大臣に向ける。


「現在、第1次第2次調査隊によって確保されたコアクリスタルの総量は10個。ビー玉サイズの大きさで、1つ10g程の重さがありますので全部で100g程です。この量でも石油換算でも21万トン相当、石油備蓄タンク2.5基分に当たるエネルギー資源になります」

「……調査隊がダンジョンに入った実働時間は?」

「両隊合わせて5時間に届きません」


 この文部科学大臣の報告に、閣僚達の顔に喜色が浮かぶ。総理は軽く頷いた後、経済産業大臣の方に顔を向けた。 


「経済産業大臣」

「はい」

「コアクリスタルを使った新規発電所を建設するには、どれ位かかりますか?」

「そうですね……」


 総理の質問に少し考えた後、大凡の期間と費用を述べる。


「実験炉の建設から商業炉の実用運転までおよそ10年、2000億程度とみて貰えれば良いかと」

「10年……ですか」

「はい。原発技術や火力発電技術を応用すれば、新発電に必要な技術の確立の為の期間は短くなると思うのですが、発電所を建設する為の用地買収など10年は掛かるかと」


 会議室内に溜息が漏れる。ダンジョンと言う不安材料を払拭する為の、民間向けへのメリット提示であり、即効性のある不況対策のカンフル剤として、新方式の発電を表に出したいのに、10年と言う期間は長すぎる。10年一昔、10年後に完成しても、それでは時期を逸し手遅れなのだ。

 それに10年もあれば、現在エネルギー資源を牛耳っているオイルメジャーや産油国等も、コアクリスタルが自分達の利権を脅かすエネルギー資源だと気がつくだろう。そうなればコアクリスタルの利用に制限をかけてくる筈。長くとも1年以内には、相手が気付き行動に出る前に発電が成功したと言う事実を世界的に発表する等の手を打たねばならない。石炭から石油に切り替わった際、世界中で起きた栄枯盛衰を経験している以上、既得権益に固執する輩が妨害してくる可能性が多いにあった。


「何とかならないか?」

「と、言われましても……」

 

 総理の懇願する様な眼差しに、経済産業大臣は気まずそうに顔をそらす。どうと言われても、どうしようもないと言うのが経済産業大臣の本音だった。

 他の閣僚達も実用化に10年と聞き、絵に書いた餅だったかと失意の底に沈み始めていた。

 しかし、そこに……。

 

「あっ……」

「どうした?」 

「えっと、あの……素人考えなのですが、地熱発電ではどうですか?」 

「「……地熱?」」


 小さく声を上げた農林水産大臣が、素人考えと前置した後おずおずと持論を話す。


「勿論、地熱発電その物を使うと言うのではなく応用です。コアクリスタルを水に漬けると発熱するという事は、逆に貯水された水にコアクリスタルの粉末を入れれば水は熱水に変化し蒸気が発生すると言う事ですよね?ならば、ゲリラ豪雨対策で最近多数建設している取水立坑の様な物を建設し、濾過フィルターを通した水量の多い川の水とコアクリスタルで蒸気を発生させ、汽力発電すればいいのではないかと……?」

「「……」」


 農林水産大臣が自信無さげに話をしめると、会議室内に沈黙が落ちる。ただしその沈黙は、期待ハズレから来る失望の沈黙ではなく、もしかしたらいけるかもと言う期待からだ。

 総理と不安顔の農林水産大臣を除いた閣僚達は、視線でお互いの意志を確認し各々提案を出し始めた。

 

「行けるかね?」

「検討する価値はあるかと。地熱発電の技術はある程度確立していますので、蒸気を発生させる事が出来るのなら……」

「発電所建設の候補地は水量の豊富な河川の傍の土地を、国が管理する国有地で場所を見つけましょう。それなら土地買収の手間が省けます」

「今までの例からすると、立坑と発電施設を合わせても工費は500億程度に抑えられる筈です」

「各法手続きに必要な作業は、うちの方で進めます」 

「至急、ダンジョン潜行経験者を中心にし第3次調査隊の編成を始めます」

 

 期待に胸を膨らませ、活き活きと各々の仕事へと動き出す大臣達。そんな姿を見た総理はほんの一瞬、躊躇する様な表情を浮かべた後、各大臣達に指示を出す。


「では、各自迅速に動いて下さい。時間との勝負になる筈です」


 臨時閣議を終え、閣僚達が出て行ったドアを眺めながら総理は、ポツリと胸中に渦巻く不安を誰にも聞こえない大きさの声で呟いた。


「……もしかしたら私は、引き金を引いたのかもしれんな」


 総理の漏らした不穏な響きを感じさせる呟きは、誰も居なくなった会議室に静かに溶けて消えていった。

 

 

 

 この臨時閣議の2ヶ月後、突貫工事で利根川近郊にコアクリスタル発電の実験施設が建設され、早々に試運転が行われた。24時間作業で掘られたボイラー代わりの立坑、納入期間短縮の為に新規原子力発電用にと作られ計画凍結で製造メーカーの倉庫で埃を被っていたタービンと発電機、取り敢えず雨よけが出来る屋根と壁があるだけの掘っ立て小屋。どうにか体裁を整えました感で溢れる有様であるが、日本最初のコアクリスタル発電試験が開始された。

 調査隊が交代で潜り確保したコアクリスタルをナノ粒子状に粉砕し、1g単位で水溶性カプセルに封入した燃料カプセルがボイラー内に投入された。所定位置にカプセルが到達した十数秒後、水溶性カプセルが崩壊しコアクリスタルと水が反応を始める。微細化されたコアクリスタルは光を発しながら自己質量の熱量変換を開始、周囲の水を熱湯に変えていく。反応開始数秒で蒸気が発生し、蒸気タービンが回転を始め発電を開始した。発電量は見る見る内に上昇し発電機の定格出力である100万kWhを記録、安定運転のため蒸気量を調整するも発電に使う蒸気量を上回る余剰蒸気が大気中へと豪快に放出されていく。それを見た試験運転参加者達は、新しい時代の幕開けを予感し高揚感に包まれていた。  

 

  

 

 

 

 


これ位利点がないと、政府はダンジョン攻略に積極にならないかなと。

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― 新着の感想 ―
コアクリスタルを水につけると発熱するというのはすばらしい発想だと思います。簡単に魔道コンロできちゃいますよね。まあ湯沸かし温度だと思いますが。「高圧蒸気コンロ新発売150度まで温めできます」なんて
めっちゃしっかりしてて話がスっと入ってくる
>使用者と共に装備品も強化されるのなら、消耗品でない剣や槍などの近接兵装で武装する事が有効でしょう クロスボウとかで再利用可能で頑丈な合金杭使えば遠距離でも【1体の討伐に使う数分の1】ずつは強くなれま…
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