第59話 オーガ戦を終えて
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オーガを倒し終えた俺は、魔法で援護をしてくれた柊さんにお礼を言おうと声をかける。
「ありがとう柊さん、御陰で助かったよ」
「どう致しまして、って言えば良いのかしら? 特に援護は必要無さそうだったけど、何もしないってのもアレだったから。余計なお世話じゃなかった?」
「止めを刺す切っ掛けになったから、余計なお世話じゃなかったよ」
「そう、それなら良かったわ」
少し不安げな表情を浮かべていた、柊さんの表情が和らぐ。
ロクに連携が取れていない状況での援護だったからな。下手をしたら、フレンドリーファイアになっていたかもしれない状況だ。上手く援護出来たか、心配だったのだろう。
「でもやっぱり、私達の連携には問題があるわよね?」
「まぁ……確かにそれはあるかもしれないね。今回の事で、俺も同じ事を思ったよ。援護のタイミングとか」
「やっぱり……」
遠回しに援護のタイミングについて文句を言うと、柊さんの声のトーンが下がる。柊さんも俺と同じ様に、行き成り戦力を分散する様な行動を取ってしまった事を気にしていたらしい。さらに、ロクな意思疎通もないまま行われた援護攻撃。今回の戦闘では、連携のレの字も無い有様だ。
「個々の戦闘力が高い分、今まで連携しながらモンスターと対峙して来なかったからね……」
「今まではそれでも良かったのでしょうけど、コレからの事を考えると早めに改善しないと拙いわ……」
「そうだな。戦闘中の連携強化が、今後の俺達の課題だな」
「大樹」
俺と柊さんが話し合っていると、裕二が直ぐ傍まで歩み寄って来ていた。
どうやら、俺と柊さんの話を聞いていたらしい。
「今回の戦闘、勝ちはしたがパーティー戦としてみれば失敗だろうな」
「そうだよな……」
「ああ。今回のボス戦は、個々に戦っても勝てる程度の強さのモンスターが相手だったから良かったが、これから先に出てくるモンスター……特にボスクラスを相手に戦う事を考えれば、連携の強化は必須だ」
俺と柊さんは裕二の言葉に、無言で首を縦に振る。
裕二の言う通りだ。今回のボス戦では偶々問題にならなかったが、パーティー戦においてメンバー間の連携不備など致命傷だからな。
「まぁ、反省はダンジョンを出てからにしよう。帰還時間も押してるし、剥ぎ取りもしないといけないからな」
裕二の指摘に、俺は時計を確認する。ボス戦が始まってから、既に15分程が経過していた。
「そうね。折角のモンスター倒したのに、剥ぎ取る前に死体が消えたら勿体無いわ。チョッと待ってね、直ぐに剥ぎ取るから」
柊さんが剥ぎ取りナイフを取り出し、近くのビッグベアーの死体に突き刺す。ビッグベアーの死体が消え、後には肉塊と液体の入った瓶が出現した。
「九重君。私は残りのモンスターからアイテムを剥ぎ取ってくるから、この瓶の中身を鑑定しておいてくれる?」
「ああ、良いよ」
「じゃぁ、お願いね」
柊さんは俺にドロップアイテムを預けた後、剥ぎ取りナイフを片手に持ち、残りのビッグベアーとオーガの元へ向かった。薬瓶を一度裕二に預け、熊肉を空間収納から取り出したラップで包み収納する。
そして、裕二から薬瓶を返して貰い、何となく見覚えがある薬瓶に俺は鑑定解析を掛けた。
「へぇー、やっぱり」
「ん? どうしたんだ大樹? 何か変な物だったのか?」
想像していた物と判明し、俺が感心の声を上げた。俺の上げた声が気になったのか、裕二は俺の手元の瓶を覗き込みながら正体を尋ねてくる。
俺は瓶を裕二に見え易い様に掲げ、中身の説明をする。
「これは、上級回復薬だよ。まぁ、ボス戦の御褒美アイテムと言った所だな」
「上級回復薬か……」
「スライムダンジョンからは何本も出ているけど、こっちのダンジョンで出たのは初めてだな」
篠原さんに使った中級回復薬より効果が強力で、先天性でなければ身体の欠損も治せる回復薬だ。
一応、協会のアイテム売買取引リストにも載っているが、1000万円を優に超える超高額商品である。常に品薄状態で、購入出来る確率は宝くじ並みと言われていた。
「……これ、換金の時に絶対騒ぎになるよな?」
「まぁ、そうだろうね……」
裕二の心配も尤もだろう。
一応、薬品系ドロップアイテムは本部で鑑定に回される為、ここの窓口で騒がれる事はないだろうが、買取の催促手紙が送られてくる事は確実だろう。
更にこの事……俺達が上級回復薬を手に入れた事が他に漏れれば、噂や所持情報を得た買取希望者が俺達の元を訪れると言う事態も考えられる。
「今後の事を考えれば、売らずに取っておいた方が良いんだろうけど……」
「上級回復薬を持っていると言う事実があれば、篠原さん達の様な事態に遭遇した時の言い訳には使えるからな」
「売らない事に対するデメリットを考えれば、手放すと言う選択肢も無くは無いんだけど……」
「そうだよな。しかし、大樹の空間収納の肥やしにするには少し勿体無い品なんだよな」
俺は手の上で、上級回復薬を転がす。中々扱いが厄介な代物だ。
俺と裕二が上級回復薬の扱いについて頭を悩ませていると、柊さんが回収したドロップアイテムを持って帰って来た。
「何二人で、頭を突き合わせて唸っているの?」
「ああ、柊さん。ちょっと、ね。それより、回収し終わったんだ?」
「ええ。九重君に鑑定して貰いたい物もあるわよ」
柊さんは、俺に鑑定して貰いたいドロップアイテムを手渡してきた。
ピンポン玉程の大きさの紅玉と、出刃包丁のようなナイフだ。
「紅玉がオーガのドロップアイテムで、ナイフがビッグベアーのドロップアイテムよ」
ドロップアイテムの説明を聞きながら、俺はラップを柊さんに渡す。
「分かった。じゃぁ、鑑定させて貰うよ」
柊さんは受け取ったラップで、熊肉と鬼肉?を包み始めた。
俺は先ず、オーガのドロップ品である紅玉から鑑定を始める。
「ああ、やっぱり……」
紅玉の鑑定結果は、ある意味予想通りの物だった。
「ん? やっぱり?」
「これはマジックアイテムの一種……通行許可証だよ」
「通行許可証……」
裕二は俺の手元の紅玉を凝視する。
俺は紅玉を指で挟んで二人に見え易い様にしながら、効果の説明を行う。
「これを入口の扉のレリーフの窪みに嵌めれば、扉が開く上、オーガが出現する事はないみたいなんだ」
「そいつは便利だな」
「ねぇ、九重君。それは、一回限りの使い捨てアイテムなの? それとも、何回でも繰り返し使える物なの?」
「繰り返し使えるみたいだよ」
「へぇー」
俺は肉の梱包処理を終えた柊さんに紅玉を手渡し、肉とラップを受け取り空間収納にしまう。
柊さんは受け取った紅玉をライトの光に翳し、裕二と一緒に紅玉を観察していた。
「さてと、じゃぁ次の物を鑑定しようかな」
紅玉に夢中な二人を尻目に、俺は出刃包丁の様なナイフに鑑定解析を掛ける。
鑑定結果が出ると、俺の口元に自然と小さな笑みが浮かんだ。
「柊さん、ちょっと……」
「……何、九重君?」
俺は紅玉を観察している柊さんに、声をかける。
若干、不満気に見えるのは気のせいだろうか?
「このナイフ……マジックアイテムだったよ」
「それって……」
「名称はアイアンナイフ。付与効果は“解体Ⅱ”。柊さんが持っている、剥ぎ取りナイフの上位版だよ」
柊さんは持っていた紅玉を一緒に見ていた裕二に手渡し、俺に顔を寄せてきた。
「本当?」
「あっ、ああ。効果は今、柊さんが持っている剥ぎ取りナイフと同じ。違いは、モンスター解体時に得られるドロップアイテムの増加……剥ぎ取れる肉の量が増えるって言う事みたいだよ」
「……そう」
柊さんは、俺の手の中にある鉄製の剥ぎ取りナイフを少し恨めし気な眼差しで眺める。まぁ、試していないので増加量は定かではないが、もう少し早くこのナイフを手に入れていれば、オーク食材の収集も幾分かは楽になっていた筈だからな。
「取り敢えず、コレは柊さんに渡しておくよ。裕二もソレで良いよね?」
「ああ、別に良いぞ」
「……ありがとう」
俺が剥ぎ取りナイフを柊さんに手渡すと、柊さんは受け取った剥ぎ取りナイフを無言で数秒観察した後、小さく溜息を吐きつつタオルを巻いて自分のバッグにしまった。
ドロップアイテムの鑑定を終え、俺達は散布したケミカルライトとLED投光器を回収する。
「じゃぁ、後片付けも終わったし、帰ろうか?」
「おう」
「ええ」
「それにしても……休憩と後片付けも含めて、ボス戦は正味30分程か……」
入口の扉に向かって歩き出しながら、俺は時計を見て小さく呟いた。
意外に早くカタがついた……と言えば良いのだろうか?
「30分か……連携が上手く行けば、もう少し早くカタが付けられたのかな?」
「戦闘自体には、そんなに時間は掛かってい無いわ。どちらかと言えば、ドロップアイテムの回収と後片付けに時間が取られたって感じね」
確かに、柊さんの言う通りだな。
ドロップアイテムの自動回収は兎も角、光源系の魔法位は習得しても良いかもしれないな。今まではそれ程広くない通路内での戦闘だったからLEDライトの明かりで十分だったけど、今回の様に広い空間での戦闘になると全体を照らす光源を設置するのが些か手間だった。今回は投光器を設置する時間があったから良かったけど、部屋に入った瞬間に戦闘が開始していたら不十分な光量で戦う事になっていただろう。以前の様な乱戦になったら、少し不味い事態だ。
幸い、スライムダンジョンから何本か光源系のスキルスクロールも出ている事だし、全員レベルも上がってEPにはそれなりに余裕もある……言ってみるか。
「二人共、ちょっと提案なんだけど良いかな?」
「「?」」
俺が足を止めて声をかけると、二人も足を止める。
「光源魔法を習得してみないか? 今回の戦闘で分かったけど、広い空間で戦う場合は俺達の今の装備だと少し心もとない」
移動中はEP節約の為にも、このままの装備で良いだろうが、戦闘中に全体を照らす光源を、手早く確保したい。ケミカルライトの光も、通路を照らすには十分だが、今回の様な広い空間を照らすには、光量が不足していた。
光源魔法がどの程度かは分からないけど、少なくとも設置の手間は省ける。
「ああ、確かにそれは良いかもな。今回は投光器を設置出来る時間があったけど、毎回毎回そうだとは限らないからな」
「そうね。こう広い空間だと、ケミカルライトだけだと薄ボンヤリとして効果が薄かったわ」
どうやら二人共、俺の提案に賛成のようだ。
今の装備で十分と思い、その内換金に回そうかと思って取っていたがしなくて良かった。
俺は空間収納庫から人数分のスキルスクロールを取り出し、一人一本ずつ手渡す。
「はい。これが光源魔法のスキルスクロール」
「おう」
「ありがとう」
早速、俺達はスキルスクロールを開き光源魔法を習得する。
確認の為、二人に一言断りを入れ鑑定解析を掛けると、ステータスにしっかり光源魔法……ライトの文字がのっていた。
「じゃぁ、俺が試してみるぞ。大樹、一回でどれ位EPを消費するか見ていてくれ」
「分かった。やってくれ」
「ああ、行くぞ……ライト!」
裕二が右手を前に出し軽く深呼吸をした後、魔法発動のトリガーを口にすると掌の上に野球ボール程の光の玉が出現する。
しかし……。
「余り、明るくないな……」
「そうだな……豆電球位か?」
「そうね……広瀬君。それ、何個か同時に出せる?」
「同時に? ちょっと待って……無理だな。今の状態だとこれ一つを出すのが限界のようだ」
裕二は柊さんの疑問を試してみるが、どうやら同時出現は無理のようだ。熟練度不足と言う事なのだろうか?
「裕二、手の上からそれを離す事は?」
「……」
裕二が手を左右に動かすと、光球も一緒に左右に動いた。
暗い、増えない、離れない……相変わらず熟練度が足りてない初期状態だと使い勝手が悪いな。
俺達は揃って溜息を吐く。
「まぁ、要練習だな。幸い自宅でも練習しようと思えば練習出来る類のスキルだから、各自で熟練度上げをしよう」
「そう、だな」
「そうね。洗浄スキルの時も似た様な状況だったし、この結果も当然よね」
「「「はぁ……」」」
「……帰ろう」
俺達は少し肩を落としつつ、入ってきた扉の方からボス部屋を後にする。
4時間後、ドロップアイテムを入れた保冷バッグを担いで、俺達は帰還予定を30分程オーバーしてダンジョンから外に出る。既に外は暗くなり始めていたが、ダンジョン周辺は探索者が多数おりそこそこ賑わっていた。
「うーん。やっと出られた」
「そうだな。ダンジョンの中だと常に気を張っておかないといけないから、休憩が休憩にならないからな」
「そうね。何時モンスターが襲って来るかもと考えると、気が休まらないわね」
俺は両手を上げ背伸びをし、裕二や柊さんも各々体を伸ばしていた。
潜行時間を延長した分、緊張する時間が長くなって、身体的疲労より精神的疲労が蓄積し易くなったな。
「今回はボス戦をしたのも、何時も以上に疲れたって感じる要因だろうね」
「だな。さて、何時までもこうして居る訳にもいかないから、さっさと着替えてこよう」
「賛成。スキルで汚れは落としているけど、シャワーを浴びたいわ」
「じゃぁ、着替えが終わったら何時もの所で」
「分かったわ。じゃっ、また後で」
柊さんはそう言って、女子更衣室に向かった。
「さてと、俺達も行くか?」
「ああ、行こう。俺もシャワーを浴びたい」
「そうだな」
さて、仕事終わりのヒトっ風呂を浴びますか……シャワーだけど。
俺と裕二は些か疲れた足取りで、更衣室へと向かって歩き始めた。
ボス戦のクリア報酬は、少し豪華です。
ただし、現状では厄介物でもあります。




