第58話 オーガと戦おう
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俺達はオーガの姿を確認して直ぐ、動き始めた。
裕二は獲物を構えオーガの動きを警戒し、俺は素早く部屋の中を鑑定解析しトラップの有無の確認、柊さんは予め用意していた大量のケミカルライトを部屋のあちらこちらに投擲散布し光源を確保する。
柊さんが散布したケミカルライトに照らし出され、部屋の中の全容が薄ぼんやりとだが判明した。部屋の大きさはミニバスケットコート2面分、学校の体育館位の大きさで、天井の高さもあり圧迫感は感じない。
「裕二、柊さん。取り敢えず、部屋の中にトラップは設置されていないみたいだ。戦闘中にモンスターがポップする事には警戒しておかないといけないだろうけど、一応安心して大丈夫だと思うよ」
オーガが動く前に俺は、部屋の中の鑑定解析結果を二人に伝える。
トラップの類がない所を見ると、この部屋では正面からオーガと戦う事が前提の様だ。
「こっちも、ケミカルライトの散布は終了したわ。発光持続時間は、凡そ15分程が限界よ。……投光器を設置しても大丈夫そうね、少し時間を貰うわよ」
ケミカルライトを散布し取り敢えずの光源を確保した柊さんは、オーガの動きを警戒しつつ電池式LED投光器を設置する余裕があると判断し、入口近くに投光器を設置し始めた。
「了解。こっちも今の所、オーガに動きはない。ある一定距離まで近付くか、先制攻撃を加えるかしないと動かない仕様なのかも知れないぞ?」
裕二は部屋に入った俺達に対し、敵対する動きを見せないオーガを怪訝そうな表情を浮かべつつ、動かない理由を幾つか推測し報告する。
「それなら、柊さんの準備が終わった後に全員で間合いを詰めよう」
「分かった。警戒を続ける」
「頼むよ……柊さん?」
「もう少し……準備出来たわ。点灯させるわよ」
4台の投光器の設置を済ませた柊さんは、一言断りを入れスイッチを入れる。投光器が点灯し、部屋の中を明るく照らす。
石造りの部屋の中央奥、オーガの背面に俺達が入って来た物と同じ大扉が見えた。恐らくあの扉の先に、30階層に繋がる階段があるのだろう。オーガとの戦闘を回避しながら、30階層に行くのは無理だな。
「是が非でも、オーガを倒さないと下には行けない仕組みの様だな」
「そうだな。まぁ、元々倒すつもりだったから問題はないけどな」
「そうね。でもこれって、30階層に潜る為には毎回オーガを倒さないといけないって事?」
「うーん、どうだろ? 何らかの、回避方法はあるとは思うけど……」
もし柊さんの言う通りだったら、少し面倒臭いな。
「アイツを倒したら、通行許可アイテムとかがドロップアイテムとして出るんじゃないか?」
「それって……ゲームで良く有りがちな設定だよな」
「まぁな」
オーガの動きを警戒しつつ、俺と裕二は軽口を言い合う。
「まぁ、実際に倒してみればハッキリするさ。それより二人共……準備は良い?」
「ああ」
「私も大丈夫よ」
「じゃぁ、行こう」
オーガから目を離さず、俺達は各々武器を構えオーガの動きを警戒しつつ間合いを詰め始める。
部屋の半分程まで間合いを詰めた時、初めてオーガが動きを見せる。
俺達を無視し、天井に顔を向け咆哮を上げた。部屋の中にオーガの咆哮が響き、反響する音が俺達の鼓膜を揺らし顔を顰める。
「うるせぇー!」
「威嚇してるのか!?」
「こんなに敵が近付いてからか!? 威嚇なら、俺達が部屋に入った時点でしろよ!」
「オレに言うな! アイツに言え!」
オーガは長々と咆哮を上げ続けていた。
威嚇にしては変な行動だと思っていると、柊さんがオーガの足元を指さしながら声を上げる。
「見て! アイツの足元!」
「!?」
オーガの左右の足元の床に、モンスターの頭らしき物が2つ出現し始めていた。
「召喚!?」
「あの頭……ビッグベアーか!」
「このオーガ……召喚スキル持ちよ!」
俺達が驚愕の声を上げている内に、ビッグベアーは床から全身を出現させた。
出現した2体のビッグベアーは咆哮を上げ、自分の存在を主張する。
「面倒なスキルを持っているな、コイツ……」
「オーガを倒さないと、モンスターが無限に湧くって事か?」
「召喚上限はあるでしょうけど、面倒な敵に違いは無いわ」
俺達は可能性の一つとして考えていたとは言え、突如増えた敵に戸惑いつつも警戒する。
ビッグベアーは、オーガに寄り添う様にそれぞれ左右に陣取り、俺達に威嚇の唸り声を上げていた。オーガはその姿が、さも当たり前とでも言う様に振る舞う。
「別種族なのに、主従関係もバッチリみたいだな」
「仲違いしてくれると楽なんだけど、そんなに甘くないか……」
種族違いで仲違いしてくれるかもと淡い期待をしたが、どうやら無駄な期待だったようだ。
咆哮を止めたオーガは、手に持った棍棒を頭上に掲げる。
「来るぞ」
裕二が硬い声で、注意を促す。その直ぐ後、オーガは俺達に向かって棍棒を振り下ろした。
その動作を合図に、オーガの左右に控えていたビッグベアーが俺達に向かって飛び出す。ビッグベアーの狙いはそれぞれ、裕二と柊さん。隊列の関係上、前衛と中衛についていた2人がビッグベアーの標的になった様だ。
「裕二! 柊さん!」
「大丈夫だ! 大樹、オーガの相手を頼む!」
「九重君は、オーガの相手を御願い!」
「あっ、ちょ!」
二人は何時もの様に、それぞれ左右に分かれビッグベアーの相手を始める。
拙ったな……ボス戦なのに行き成り戦力を分断される形になってしまった。
「……お願いって」
普段、連携してモンスターと戦う必要が少ないから当たり前の様に分かれて戦い始めたけど、これはまずい傾向だよな。今はまだ単独でも対処出来るから良いけど、これから先の事を考えると……要改善事項だ。
俺は棍棒を振り上げ近づいてくるオーガを見つつ、そんな感想を抱いた。
俺は左側にサイドステップで跳んで、大樹と距離を開け襲ってきたビッグベアーと対峙する。
25階層で初出し戦った時にも感じたが、デカいよなコイツ。昔水族館で見た、ホッキョクグマクラスか……?
ビッグベアーは、俺と大樹の間に位置取り足を止める。
「どうやら、最初の突撃はパーティーの分断が目的だった様だな……」
やっぱり、コイツら頭が良いな。
試しに様子見の攻撃を仕掛けてみるが、大きく間合いを取りながら避けられ、ビッグベアーを無視して大樹の方に近付こうとすると間合いを詰めて来た。
無理に勝負を急がず、一番戦闘能力が高いオーガが各個撃破出来る状況を作る事に徹している。
普通の探索者パーティーなら、この時点で詰みの状況に近いな。
「まぁ、普通の探索者が相手ならだけど……」
チラリと視線をオーガと戦う大樹に向けると、危なげなくオーガの攻撃を避けている姿が見えた。
前衛と中衛の護衛が居なくなった後衛をオーガが手早く撃破し、2対1の状況を作る事が目的だったのだろうが……残念だったな?
……と言うか、難易度が高過ぎないか、このボス戦?最低でもパーティーメンバーの個々に、オーガを相手にして時間稼ぎが出来るか、ビッグベアーを単独で撃破出来る戦闘力が求められているぞ。
「まぁ、考えるのは後にするか」
先ずは、目の前のビッグべアーの相手に集中しよう。ここで集中力を切らして、怪我をするのは馬鹿らしいからな。
「とは言え……勝負を掛けて来ない敵の相手は面倒だな」
既に何度かの牽制攻撃を仕掛けているが、大きく避けられるので剣先がビッグベアーを傷付ける事はなかった。相手が仕掛けてくるのなら、カウンターを合わせる事も出来るんだけど……。
「仕方無い……こっちから仕掛けるか!」
俺は、牽制攻撃ではラチがあかないと考え、足に力を込め一気に踏み込む。武器の間合いまで踏み込み、時雨を、ビッグベアーの首筋目掛けて切り上げる様に走らせる。
しかし、ビッグベアーは突然眼前に現れたであろう俺に対しカウンターを仕掛けて来る。頭からの突進……体当たりだ。
「おっと!」
俺は咄嗟に切り上げようとしていた時雨の柄で、ビッグベアーの横っ面を殴り突進の勢いを逸らす。
ビッグベアーの突進の進路が僅かにズレた事を確認した俺は、村雨を打撃のせいで無防備になったビッグベアーの首筋に突き出した。
刃先が肉に食い込む抵抗を感じつつ、俺の村雨はビッグベアーの首筋深くに食い込んで行き不意に抵抗が消える。ビッグベアーの首筋を、村雨が貫通した様だ。
「ふっ!」
反撃が来る前に、俺は首筋を貫通した村雨を捻りながら、一気に引き抜きビッグべアーから距離を取る。ビッグベアーは首筋から大量の血を垂れ流しつつ、フラつく足取りで俺に近付いて来たが数歩歩いた所でその巨体は地面に崩れ落ちた。
俺は数秒倒れたビッグベアーの様子を観察し、息を吐く。どうやら、無事倒せたようだ。
「ふぅ……少し手間を取ったな。大樹と柊さんの方は……」
両手に得物を構えたまま顔を振り向くと、そこには俺と同じ様にビッグベアーを倒し大樹の戦闘を眺める柊さんと、オーガの首を切り飛ばそうとしている大樹の姿があった。
失敗した。
ビッグベアーと戦う為、咄嗟に右側にサイドステップで跳んだ直後に私はそう思った。
相手の誘いに乗って、行き成りパーティーを分断されてしまったわ。
「普通の探索者パーティーなら、この時点で各個撃破の危機ね」
私と九重君の間に陣取ったビッグベアーに槍を構えつつ、自分の失態に対する愚痴を漏らす。
焦ったつもりはなかったのだが、つい連携してビッグベアーを倒すと言う選択肢を失念してしまったからだ。ボス戦なのに、連携して戦うと言う選択肢が一番に取れない時点で、パーティーとしてはダメダメだろう。
結果、私達のパーティーは分断され、単独戦闘を強いられている。
「全く、今後の要改善事項ね。早い内に矯正しておかないと……」
自分達の不甲斐なさに、思わず溜息が漏れそうになるが、今は我慢する。敵対するモンスターが眼前に居るのに、溜息を吐いて緊張を解く訳にはいかないから。
「……貴方には悪いけど、八つ当たりさせて貰うわよ?」
私は胸中の苛立ちを、眼前のビッグベアーにぶつける事にした。
槍を構え、ビッグベアーに向かって踏み込みながら、私は準備していた魔法を発動させる。
「エアーボール!」
空気の塊を、ビッグべアーに向かって打ち出す。私が打ち出したエアーボールを、ビッグベアーは軽く横に飛び容易く回避するが、着地の瞬間、僅かに体勢が崩れる。私はその隙を逃さず、五十鈴をビッグベアーの僅かに開いている口目掛けて突き出す。八つ当たり気味に繰り出す手加減抜きの一撃だ、ビッグベアーはロクな反応も示せない。
槍頭がビッグベアーの僅かに開いた口の隙間に入り込み、ビッグベアーの頭部を容易く貫いた。
「悪いわね。今は貴方に時間を取られている暇はないのよ」
光を失った虚ろな瞳を向けてくるビッグベアーに一言掛け、私は頭部を貫いている五十鈴を引き抜く。それを合図に、ビッグベアーは口内と後頭部から血を流しながら地面に鈍い音を立てながら倒れた。
数秒残心をした後、私はビッグベアーから視線を外し2人の様子を探る。
「広瀬君……まだ戦闘中ね」
私と同じビッグベアーと戦う広瀬君は、私と違い相手の様子を観察しながら慎重に戦闘を進めている。特に苦戦する様子もなさそうなので、私はオーガと戦う九重君の方の援護に回る事にした。
しかし。
「……特に手を貸す必要はなさそうね」
九重君はオーガが連続で繰り出す棍棒を危なげ無く回避しつつ、確実にオーガを仕留められる機会を探っている様だった。このまま私が手を出さずに見学していても、九重君が勝ちそうだが何もしないと言うのは流石に……ね。
私は九重君の戦闘の邪魔にならないように慎重に間合いを詰め、声を掛ける。
「九重君、魔法で援護するからトドメを刺して! 行くわよ!」
「えっ、柊さん!?」
「エアーカッター!」
私は棍棒を支えるオーガの腕に狙いを定め、エアーカッターを放つ。
オーガは私が放ったエアーカッターを棍棒で容易く迎撃するが、九重君の前でその行動は悪手よ。オーガがエアーカッターに棍棒を振り下ろした瞬間、九重君の不知火がオーガの首筋目掛けて振られた。
縦横斜め……オーガの棍棒が俺に目掛け、連続で振り下ろされる。俺の直ぐ傍を連続で通る、オーガの棍棒が奏でる風きり音が中々耳に付いて怖い。
「……」
棍棒を避けつつ、俺はオーガの動きを観察する。
長い金属製の棍棒を小枝でも振る様に、片手で振るう腕力は驚異的だ。オーガが身に着けている急所を覆う簡易鎧も、金属パーツを多用し耐久性が増している様に見える。元々の防御力と合わせて考えると、生半可な攻撃では効き目がないだろう。
今の所、召喚スキル以外の特殊能力はないみたいだが、絶対にないと考えるのは危険なんだろうな。
「……やっぱり、首を刈るのが確実だな」
鎧の強度が不明な以上、鎧を避けて攻撃するのが良いだろう。
幸い簡易鎧なので、フルプレートの様に全身に鎧があるわけではない。首を守る様にネックガードもあるが、顎下から刈り上げる様に刃を通せば、切断は可能だ。
「後は仕掛けるタイミングだけど……」
疲れた様子も見せず、オーガは棍棒を縦横無尽に振り続ける。
コイツの体力って、何時になったら切れるんだ?
俺は時折脚や拳が織り交ざる棍棒を避けつつ、仕掛けるタイミングを待っていると、柊さんの声が聞こえてきた。
「九重君、魔法で援護するからトドメを刺して! 行くわよ!」
「えっ、柊さん!?」
柊さんは、一方的に援護する事を宣言してくる。
俺は驚きで回避行動が少し疎かになり、オーガの振り下ろした棍棒を少しかすらせてしまった。
「エアーカッター!」
柊さんの声と共に、風の刃が放たれた。
俺は僅かに立ち位置をズラし、エアーカッターの進路を確保する。オーガも柊さんの魔法に気が付き、振り上げた棍棒を魔法に叩き付け迎撃する。
今だ! 俺は不知火をオーガの首目掛けて走らせる。身長差からオーガの首を狙うと、自然と下から振り上げる形になるので今回は好都合だった。不知火の刃をオーガの顎ギリギリを通し、首に食い込ませる。軽い手応えを感じつつ、俺は不知火を一気に振り抜く。
「っと!」
俺は不知火を振り抜いた後、オーガの体を蹴り飛ばし反動を利用して跳躍し距離を取った。
「……今回は返り血を浴びずに済んだな」
血の海に沈む倒れたオーガを見つつ、俺は溜息を吐きながら戦闘の緊張を解いた。
初のボス戦としては、ギリギリ及第点といった所だろうか?
チームワークを意識していても、練習不足では咄嗟の行動として取れませんね。結局、ボス戦も1対1の個人戦でした……要練習ですね。




