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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第5章 ダンジョン中層階に向けて
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第57話 エリアボス戦の前に

お気に入り9720超、PV 2500000超、ジャンル別日刊16位、応援ありがとうございます。

  

 

 

 

 

 方針が決まった翌日。ゴールデンウィーク2日目にして、俺達は29階層に到達した。

 降りて来た階段の先の正面に見える大きな両開きの金属扉を前にして、俺は時計を確認し軽く溜息を吐く。


「ここまで来るのに、予想通り片道4時間はかかるか……」

「どうする?」

「今からボス戦をするとなると、時間が……」

 

 時計を見ながら渋い表情を浮かべる俺に、裕二はコレからどうするかを質ねてくる。

 エリアボスがどんな相手かは、協会で事前にある程度調べてはいるが、実際に戦うとなるとどれ位の戦闘時間が掛かるかが分からない。

 事前に決めている帰還時間も迫り、引くか進むか迷う。


「折角ここまで来たのだから、挑戦してはみたいけど……」

「柊さんは、ボス戦希望って事?」

「希望って程ではないけど、後ろ髪引かれるって気分ね」

「そう」


 柊さんは、消極的ではあるが挑戦してみたいらしい。

 確かに、折角ここまで時間を掛けて来ているので、挑戦してみたいと言う柊さんの気持ちも良く分かる。

 

「一応、ボス戦をする事も想定して準備はしていたから、挑もうと思えば挑めない事はないだろうけど……。裕二はどう?」

「……俺としては、挑戦してみたいかな?」

「裕二……」


 裕二は積極的に挑戦したい派らしい。


「勿論、帰還時間が迫って来ているって言うのは分かっているさ。ココまでの道順もマッピングしているから、次にダンジョンに潜ればボス戦の時間もそれなりに捻出出来るって事も」


 そう。裕二の言う通り、帰還時間が迫るここで無理にボス戦をしなくとも、次の機会に時間的余裕を持って挑む事も出来る。階段が閉鎖されている訳でもなく、ボスが目の前にいるのでもないのだから。


「だったら、今回は此処で引いた方が良いんじゃないか? 引き時も肝心だろ?」

「でも、何時も何時も自分達の都合で戦闘を回避出来るって言う訳でもないだろ?」

「……それは、まぁ」


 裕二の指摘に、俺は答えに窮する。

 確かに今は、低階層に出現するモンスター達と俺達の戦闘力の差で、俺達が望むタイミングで戦闘が出来ている。しかしそれが、これからも通用するとは限らない。

 裕二は金属製の大扉を眺めながら、さらに続ける。


「おそらく今回のボス戦は、あの扉に入ったら決着が着くまで出て来れないタイプの戦闘形式だと思う」

「……デスマッチって事か?」

「多分な。だからこそ、俺は今挑んでみたい。戦力に余裕がある内に、時間的制約って言う不利な条件がある中での回避出来無い戦闘って言う物を経験しておきたい」

「……」

 

 うわぁ……。

 随分好戦的な表情を浮かべているな、裕二の奴。思考が戦闘民族過ぎないか?

 いや、まぁ、言ってる事は分からなくもないんだけどさ……。確かに不利な条件下での戦闘って言うのも、経験はしておいた方が良いんだろうけどさ。


「えっと、柊さん?」

「……何?」

「裕二はこう言ってるし、俺も裕二の言わんとしている事は分かるんだけど……どうする?」


 不利な条件の下での戦闘と言う条件が追加されたので、取り敢えずもう一度柊さんの意志を確認しておく。 

 柊さんはボス戦に消極的賛成だったので、裕二の意見を聞いたら返答は予想がつくけど……。 


「一応、賛成と言っておくわ。確かにこれまで、私達が不利な条件下で戦った戦闘って少ないわね」

「まぁ、ね」 

「だったら、私も今の内に経験しておいた方が良いと思うわ。不利な条件があると言う事は、それだけ戦闘時に精神的プレッシャーを受けるという事だもの。プレッシャーを感じれば、それだけ焦りが生まれるわ。ギリギリ対処可能と言うモンスターに遭遇した時、そう言う焦りを感じる精神状態での戦闘に慣れていなかったら危険よ。それに、今回は不利な条件と言っても、帰還の時間制限と言う致命的な問題と言う訳ではないわ。広瀬君の言う様に、余裕を持って対処出来る内に経験しておいた方が良いと思うの」

 

 やっぱり、柊さんもボス戦に賛成の様だ。

 これでボス戦を行う事に賛成が2か。俺も消極的ではあるが賛成なので……決まりかな。 

 俺は二人の顔を見た後、結論を口にする。


「じゃぁ……この後、エリアボスに挑むって事で良いかな?」

「ああ」

「私も良いわ」

  

 俺の言葉に、二人は頷きながら同意する。

 ふぅ。じゃぁ、急いでボス戦の準備しないといけないな。

 ボス戦を行う事が決まると、柊さんが言う様に俺は時計を見て少し焦りを感じた。こう言う精神状態か……。

 

 

 

 

 

 

 

 レリーフの様な文様が刻まれた大扉の前で俺達は、短い休憩を挟みながら準備を整えた。

 時計に表示される時間は既に折り返し予定時間の4時間を過ぎており、ボス戦の時間が延びれば延びるほど帰還予定時間が延びる状況だ。

 俺は軽く息を吐き出し、気持ちを整え二人に声をかける。  


「じゃぁ、行こうか?」

「おう」

「ええ」


 俺達3人は、俺を先頭に大扉の前に足を進める。一応、扉に罠が仕掛けられていないかを警戒しての隊列だ。鑑定解析を使いつつ扉を観察すると……俺はウンザリした表情を浮かべた。


「面倒な……」

「どうしたんだ、大樹? やっぱり、罠が仕掛けられていたのか?」

「いいや……罠は仕掛けられていないよ」

「じゃぁ、どうしたんだ?」

「えっと、罠は仕掛けられていないんだけど……単純に重いみたいなんだよ、これ」


 俺は大扉を指さしながら、二人に扉の鑑定結果を言う。

 

「「……重い?」」

「ああ、扉の片方でも10トン近くあるみたいだ」

「10トン……大型トラック1台分位か?」

「ああ。しかも分厚い扉の下が地面と完全に接触しているから、摩擦がダイレクトに開ける時の抵抗になってる」

「……げっ」

「つまり、この扉を開けるには10トン近い重量物を押し動かす力がいるって事?」


 裕二は少し表情を歪め、柊さんは驚きの声を上げた。

 俺は無言で柊さんの問いに頷く。


「一応、扉の開閉補助機構はあるみたいだよ。ほら、そこの扉の表面にある窪み」

「窪み?」


 俺が扉を指さすと、二人の視線が釣られて動く。

 視線の先には、ピンポン玉が嵌め込める位の大きさの穴が空いたレリーフがあった。

 

「あそこの窪みに合う大きさのコアクリスタルを嵌め込めば、補助機構が作動する仕組みみたいなんだ」

「コアクリスタルか……あの大きさのコアクリスタルって言ったら、上の28階で手に入れたビッグベアーの物か?」

「まぁ、低階層で手に入れられる物だと、あの大熊のドロップ品位だろうな」


 ビッグべアー、28階層で出てきた大熊だ。

 豪腕による重い一撃、大きな体に見合わない機敏な運動性、分厚い脂肪や硬い毛皮による高い防御力。

 そして何より、今まで遭遇したモンスターの中で格段に頭が良かったからな。


「一応、補助機構が無くても扉は開けられる事は開けられるけど……どうする?」


 コアクリスタルは基本、重さ単位で取引されるので、ビッグベアーのコアクリスタルと言ってもそこまで貴重品ではない。

 俺は一応、コアクリスタルを使って扉を開くかと二人に聞く。


「使わなくても開けられるのか?」

「俺達なら、そこそこの力を込めて押せば開くんじゃないか? まぁ、ボス戦を前にして無駄な消耗になる、オススメ出来無い方法だけど」

「そうだよな」


 俺の言い分に、裕二と柊さんは頷く。

 コアクリスタルを消費するだけで、無駄な消耗をしなくて済むのなら、それに越した事はない。

 

「多分これ……ボス戦に挑む為の一種の選別になっているんじゃないか? 一応救済処置として、開閉補助機構は付いてるけど……」

「この扉を開けられない奴に、この先にいるボスと戦う資格はないって?」

「多分だけど。レベルが上がれば自然と探索者の身体能力もそれなりに向上するから、単独でも身体強化系のスキルを併用すればこの重量でも開けられない事はないからね。何なら、パーティーメンバー全員で押せば開くしさ。挑戦者を選抜するには、分かり易い方法じゃないかな?」

「まぁ、そうだろうけど……何で選抜する必要があるんだ? コレを協会側が設置したっていうのなら、その意図も分かるけど、これ……元々からダンジョンにあった物だろ?」


 裕二の疑問は尤もだろう。ダンジョン側が態々、ボス戦挑戦者を選抜する必要があるのだろうかと?

 俺もイマイチ具体的な理由が思い付かず、胸中に悶々とする物がつのる。


「……さぁ?」 

「さぁって……」

「仕方ないだろ? 本当に思い付かないんだからさ」


 俺の回答に、裕二は不満そうな表情を浮かべる。

 しかし、俺に具体的な回答がない以上は、さぁ?としか言いようがない。

 ふと思い付く理由としては、ダンジョン側が挑戦者を選抜するのは、挑戦者の無意味な消耗を嫌っているのでは無いだろうか?表層階のチュートリアルステージと言っても良い階層の存在と言い、無謀な挑戦によって、探索者が消耗してしまう事態は望ましくない、と考えているのではないのだろうか?

 俺と裕二が話し込んでいると、柊さんが柏を打つ。


「はいはい、二人共そこまで。其の辺の議論は、ボス戦を終わらせて上に戻ってからにしましょう。ここで話込んでも結論は出ないし、どんどん帰還時間が押していくわ」

「あっ、ごめん」 

「悪い」


 俺と裕二は柊さんの指摘に、バツの悪い表情を浮かべ謝罪する。

 確かに、こんな所で直ぐに結論が出ない議論を延々とするのは如何な物だろうか。時間制限もある以上、場を弁えるべきだった。


「それで、どうするの? コアクリスタルを使うの?」

「えっ、あっ、うん」

「俺も使った方が良いと思う」

「じゃぁ、決まりね? 九重君、コアクリスタルを出してくれるかしら?」

「あっ、はい。直ぐに……」


 俺は柊さんの有無を言わせない態度に焦り、慌てて空間収納を漁りビッグベアーのコアクリスタルを取り出す。柊さんの迫力ある笑みが怖い。 


「どうぞ」


 俺は取り出したコアクリスタルを、柊さんに恐る恐る差し出す。これ、何か献上品みたいだな。

 柊さんは俺が差し出したコアクリスタルを受け取り、レリーフの窪みを指さし最終確認をする。


「ここに嵌めれば良いのね?」 

「うん。それで補助機構が起動して、扉が開く筈だよ。この扉自体が1種のマジックアイテムで、コアクリスタルがバッテリーの役割を担っているみたい」

「そう。じゃぁ、嵌めるわよ? 行き成りモンスターが仕掛けてくるかも知れないから、注意してね」


 そう言って柊さんは、コアクリスタルをレリーフの窪みに嵌めた。

 俺と裕二は得物を鞘から抜いて構え、柊さんも素早く扉から距離を取り槍を構える。敢えて扉の正面は避け、扉の両サイドに陣取った。無いとは思うけど、扉が開いた瞬間、セオリー無視の開幕ブッパで全滅とか嫌だからな。 

 だが、数秒待つも何も起らない。


「……何も起きないな」

 

 裕二が変化がない事に愚痴を漏らした瞬間、扉に嵌められたコアクリスタルが徐々に光り始めた。コアクリスタルから漏れた光がレリーフの文様に伝播する様に広がり、扉全体が光を放つようになる。    

 扉全体が光ると、扉がユックリと音を立てながら内開きに開いていく。数秒後、扉は完全に開き切った。


「開いた」

「開いたな」

「開いたわね」 


 俺達は開いた扉を暫く観察した後、互いに顔を見合わせ頷きあう。


「良し、行こう。中の様子が分からないから、十分に注意して」

「ああ、分かっている。大樹、部屋の中に入ったら先ず、部屋の中にトラップが設置されていないか調べてくれ。部屋の中の安全が確認されないと、安心してボスと戦えないからな」

「了解、任せてくれ。柊さん、部屋の中の気配は分かる?」

「部屋の中には、モンスターの気配が1つ有るわ」

「1体?」

「ええ。今部屋の中にいるのは、1体だけよ。勿論、後からポップする可能性もあるし、別の部屋からモンスターが出てくる可能性は有るけどね」


 確かに、その可能性はあるだろう。

 

「分かった。じゃぁ、警戒を怠らず何時も通り行こう」

「ああ、時間制限はあるが、焦る必要はないからな」

「そうね、折り返し予定時間は過ぎているけど焦る必要はないわ」


 裕二と柊さんが敢えて、時間制限という言葉を、口にした。今回の戦闘目的の一つである、不利な条件下での精神的プレッシャーの克服、と言う課題の為だと分かっているが、俺の心臓は一度大きく鼓動する。

 軽く息を吐いた後、裕二を先頭に俺達は扉の中に足を進めた。

    

 

 

 

 

 

 

 薄暗い明かりが灯る広い部屋の中、俺達の手持ちライトの光が部屋の奥に佇む1体のモンスターの姿を照らしだした。

 2mを超える分厚い筋肉を誇る赤い体。黒い簡易鎧を身に纏い、手には自身の身長に匹敵する長さの太い金属製の棍棒。額から伸びる一本の角と、口の端から見える鋭い牙。


「オーガ」


 俺の口から漏れたそれが、俺達が今から戦うモンスターの名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

致命的ではない制限のついた、条件付き戦闘の練習です。

心持ちだけで、どれだけ影響が出るのか……。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] じゃぁの連発が気になって仕方ない 周囲の人間との差がこの小説の面白さであるが それに反する頭の悪そうな言動はキャラクターの価値を下げる
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