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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第20章 後輩とダンジョンへ

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第572話 苦手意識は厄介だな

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 ブロック肉がドロップしたのを確認し、美佳と沙織ちゃんは大きく息を吐き出し戦闘で籠った緊張を抜いた。ミノタウロスとの戦闘を一度経験していたので、今回は不覚を取る事も無く無事に戦う事が出来ていたな。

 美佳は軽く周囲を見渡し警戒した後、ドロップしたブロック肉を拾い上げた。


「やっと一個目ゲットだね。でも、アレだけ手強い敵を相手にしても、これ一個か……」

「慣れればもう少し手際よく倒せるようになるんだろうけど、相手がどんな行動で反撃に出るかわからないからね」

「うん、反撃を受けない様に一撃で仕留められる様にならないと数は熟せないかな。相手が複数だった場合、一旦足を止めたらそのまま乱戦になるのが容易に想像できるしさ」

「そうだね。でも、その一撃ってのが出来るようになるまでには時間が掛かりそう」


 美佳と沙織ちゃんはミノタウロスとの難戦の対価の渋さに小さく溜息を漏らし、コレからのミノタウロスとの連闘を想像し憂鬱気な表情を浮かべていた。

 確かにミノタウロスとの戦闘を何回もこなすには、如何に一撃目で勝負を決められるようになるかが重要だ。特に複数体いる場合は、一撃で仕留められなかった場合ミノタウロスの反撃が連鎖するからな。例えば数体のミノタウロスがパーティーの中衛後衛を牽制し足止めしている間に、残りが前衛を袋叩きにしようとするとか、ね?


「ねぇ、お兄ちゃん達はどうやってミノタウロスを倒してるの? お兄ちゃん達でも、結構手間取るよね?」

「ん? いやまぁ俺達も最初は戸惑ったけど、今はそんなに手間は特にかかってないかな? 俺達の場合は基本的に、相手が何かする前に一撃で首を刈り取ってるからね。どちらかというと、ドロップアイテムの回収の方が手間かな?」


 俺の返事を聞き、美佳と沙織ちゃんが一瞬驚いたという表情を浮かべる。


「えっ、それホント?」

「ああ、慣れれば結構一撃必殺はいけるぞ。ドロップ回収は……何とか効率化したいんだよな。ここより下の階層になると、ミノタウロスも徒党を組んで襲ってくるからな」

「そうなんだ……」

「私達も頑張れば、ミノタウロス相手に一撃必殺が出来る様になるんですかね……」


 美佳と沙織ちゃんは今のミノタウロスとの戦闘を思い出し、一撃必殺はまだ難しいかなと少し遠い眼差しを天井に向けた。確かにミノタウロスとの戦闘に慣れていない現状では、2人で連携を取って隙を作り急所への一撃は出来るだろうが、相手に何もさせずに一撃では難しい。 

 美佳と沙織ちゃんが単独で一撃必殺を出来る様になるには、まだまだ時間が掛かるだろうな。つまり、ミノタウロスが複数体で出現する下の階層に進むのは時期尚早という事だ。ドロップアイテムの時間当たりの取得率は下がるが、まずは慣れる事に注力し安全を確保しつつ探索するのが良いだろうな。


「出来る様になるよ。今の段階でも相手の反撃にも普通に対応出来てるし、ミノタウロスが今までのモンスターと行動基準が少し違うから2人とも戸惑ってるけど、そこに慣れれば普通に対処できる様になるって」

「そっかな?」

「そうですかね?」

「戦闘力という意味では2人とも、ミノタウロス相手でも十分通用するからね」


 実際、慣れない相手であるミノタウロス相手に一撃で致命傷を与えること自体は出来ているからな。後は立ち回りや間合い管理、踏み込みのタイミングや牽制への対応なんかを修正できれば十分にやれるとおもう。2回目でそれなりに戦えてたからな。

 そして状況の変化に対応できない探索者パーティーは、大体がここで暫く足踏みをする事になる。


「それより美佳、生肉を何時までもそのままにしておくのは良く無いぞ。生モノはちゃんと管理しないと最悪買取拒否されて、廃棄品扱いで無駄な出費をするからな」


 昔は実際にあった事例なのだ、泊まりがけで探索したパーティーが沢山のモンスター肉を持ち帰ったのだが、お肉の常温保存という杜撰な管理でかなりの数が腐敗していた。当然ダンジョン産の食品としての買い取りは不可、自分で持ち帰り破棄する様にとお達しを受けたものの、腐敗し悪臭を放つようになったそれを持ち帰りたくないと泣く泣く手数料を払い破棄して貰う探索者パーティーがそれなりに居たのだ。

 そんな事があってか今では多くの探索者パーティーが、小さい容量のもので良いので保冷バッグと保冷材のセットを持ち込むようになっていた。

 

「あっ、そうだったね。ごめん、直ぐ仕舞うからちょっと待ってて」


 沙織ちゃんに周辺警戒を頼んだ後、美佳はバックパックから折り畳み式の保冷バッグを取り出し、ミノタウロスのブロック肉をラップで巻いていく。たまに剝き身のままモンスター肉を買取カウンターに持って行く探索者パーティーも居るのだが、大体お叱りを受けた後に衛生管理講習を受けろとおススメされる。当然買い取り評価額も下がり、場合によっては廃棄品扱いだ。

 

「これで良しっと、お待たせ!」


 美佳は手早く処理を済ませた後、肩に保冷バッグを担ぎ立ち上がる。今回はミノタウロスの肉を沢山回収する予定だったので、それなりに大きい保冷バッグを持ってきていた。

 うん、こうやって広げて見ると結構邪魔な大きさだよな。今は中身が少ないので軽いが、美佳の動きに合わせ大きく左右に揺れている。中が詰まれば揺れも少なくなるかもしれないが、今度は重くなって重心を狂わせる要因にもなりかねない。


「うーん、保冷バッグが左右に揺れてちょっと邪魔だね」

「欲張って大き過ぎるのを用意しちゃったかも?」

「そうかも。やっぱり戦闘に入る時には、事前にこれはその辺に置いてからの方が良いかも」

「そうなると、このくらいの大きさの方が適当においても安定して置けるかな?」


 美佳が肩にぶら下げる保冷バッグを見て、2人ともこの大きさは邪魔だよなという結論に達していた。

 あの保冷バッグ、随分大きいけど多分業務用のコンテナサイズだな。それなりに中身が入っていれば、あれなら適当に置いても倒れないだろう。

 

「まぁ運用法は任せるけど、戦闘や移動に支障が出ないようにな? その保冷バッグ一杯ともなれば、それなりの重さになるだろうしね」

「うん」

「はい」


 ドロップ品の回収も終了し、これでひとまず戦闘は終了かな。

 さて、次の戦闘では上手く行くと良いんだけどね。






 探索を再開した俺達は警戒し歩きながら、次の戦闘について話し合っていた。

 

「それじゃぁ次かその次の戦闘で、一対一でミノタウロスと戦うって事?」

「ああ、もう少し慣らし回数を入れても良いとは思うけど、最終的には一人でミノタウロスを一撃必殺出来る様になる事を目指す感じだな。複数体のミノタウロスと戦う場合、なるべく手早く倒して数を減らさないと数で囲まれるからね。今の所2対1なら十分に戦えるのは分かったから、安定して戦えるのなら1人で戦えるかも確認した方が良い」

「そうだとは思うけど……」

「まだちょっと1対1は、少し不安ですね」

 

 俺の提案に、美佳と沙織ちゃんは少し渋い表情を浮かべる。やっぱり最初の戦闘で予想外の反撃を食らった事で、少しミノタウロスに対し苦手意識を持ってしまったらしい。

 確かに今までの戦いでも、相手に反撃を許さない完勝をしたという訳ではないからな。反撃こそ食らってはいないが、攻撃に反応し反撃自体はされている。


「そっか、まぁそうだね。でもさ、ミノタウロスに対して苦手意識が染みつく前に解消した方が良いと思うぞ? 闘えば勝てそうだけど、何となく不安って感じてるんだろ?」

「……うん。やっぱり最初の戦闘みたいに、予想外の反撃をしてくるんじゃないかって思うと」

「2回戦った経験を踏まえると、対処は出来ると思うんですけど……」


 美佳と沙織ちゃんは少し不安気な表情を浮かべながら、気まずげに視線を逸らした。

 やっぱり予想通り2人とも、ミノタウロスに対して軽い苦手意識を持っちゃったみたいだな。


「大丈夫。今は相手の行動基準の変化に翻弄されているだけだから、慣れれば十分一人でも対処可能だ。このまま苦手意識をこじらせたままだと、いざという時に体が縮こまって素早く対応出来なくなるかもしれない。解消できる苦手意識は早めに払拭した方が良いよ」

「……そうだね」

「……はい」


 あまり気が進まない様子だが、美佳も沙織ちゃんも必要性は理解しているようで同意するように小さく頷いた。


「まぁまずは相手の行動基準の変化を理解し慣れる事だよ、相手がどういった考えで反撃に出るかに慣れてしまえば素早い対処は可能だ。何となくだろうけど対処出来ているって事は、相手の行動基準が何となく分かる感じなんだろ?」

「まぁ、何となくは……」

「私も何となくは……」


 たった2回の戦闘で何となくでも感じ取れているのなら、一対一でも勝てるだろうな。


「後何回か戦闘して、その何となくを補強すれば良い。現状でも対処出来ている以上、理解が深まれば楽に対処できるようになる」

「うん」

「はい」


 美佳と沙織ちゃんは少し自信無さげな表情を浮かべながら、覚悟を決めたように力強く頷いた。

 そして暫く歩いた俺達は、再び通路の奥にミノタウロスの影を捉える。


「いた」

「うん、居たね」


 美佳と沙織ちゃんはミノタウロスの姿を確認し、美佳は肩にかけていた保冷バッグを通路の端に置き素早く戦闘態勢を取る。

 

「沙織ちゃん、相手の動きを観察したいから、危ないけど少し戦闘時間を長引かせるよ」

「うん。幸い周りには罠もなさそうだし援軍もいなさそうだから、少し長引かせるのは大丈夫だと思う。どれ位長引かせる?」

「そうだね……キリ良く10回も打ち合えれば良いかな?」

「10回か……相手が10回行動したら、で良いよね?」


 どうやら美佳と沙織ちゃんは今回の戦闘目的を、ミノタウロスの行動観察に重点を置く事にしたらしい。前回の戦闘で何となくどう動くかが分かっているので、2人がかりなら対処できると踏んだのだろう。

 まぁ本来戦闘は短期決戦、長引かせるのは良くないのだろうが敵の手札を見る為という目的があるのなら許容範囲内だろうな。


「うん、相手が10回行動したら仕留めよう。それまでにいろいろな角度から牽制攻撃をして、相手がどういった反撃をするのかを観察する」

「分かった。じゃぁ攻撃する順番は美佳ちゃん、私で5回ずつ。止めは刺せそうな方がって事で良いよね?」

「うん、それで良いと思う」

「じゃぁ今回はそういう手順で」


 打ち合わせが終わり、美佳と沙織ちゃんはゆっくり歩いてミノタウロスとの間合いを詰めていく。

 そして歩き始めて直ぐ、美佳と沙織ちゃんの接近に気付いたミノタウロスが手にした棍棒を振りかぶりながら威嚇の咆哮を上げた。


「グモォォ!」

「行くよ、沙織ちゃん!」

「うん!」


 ミノタウロスの咆哮を合図にし、美佳と沙織ちゃんが横並びで一気に間合いを詰めていく。

 そして2人が棍棒の間合いに入った瞬間、ミノタウロスは接近する2人を薙ぎ払う様に棍棒を横なぎに振るった。


「よっ!」

「ふっ!」


 美佳と沙織ちゃんは軽くしゃがみ棍棒を回避し、事前に決めた順番でミノタウロスに牽制攻撃を放つ。


「えいっ!」

「やっ!」


 美佳は棍棒を振るったミノタウロスの右腕上腕を狙い槍を繰り出したが、ミノタウロスは無理やり棍棒の軌道を天井方向に変える事でギリギリで攻撃を躱した。

 しかし棍棒の無理な軌道変化でバランスを崩し脇腹を無防備に晒したミノタウロスに向かって、沙織ちゃんが攻撃を繰り出す。


「グモッ!?」

「……」


 沙織ちゃんの繰り出した攻撃はミノタウロスの右脇腹表面を浅く切り裂き、致命傷には程遠いが傷口から血が盛大に噴き出す。慌てて距離を取るミノタウロスの動きを見るに、見た目ほど動きに支障はなさそうだ。

 そして美佳と沙織ちゃんも敢えて距離を離すミノタウロスを追撃する事はせず、手負いの相手が次にどう動くのかを観察する。


「グモォォ!」

「「……」」


 体勢を立て直したミノタウロスは傷口から溢れ出る血を気にする事も無く、激しい怒りを宿した目で美佳と沙織ちゃんを睨みつけながら間合いを詰め始めた。

 そして右手に握った棍棒を振り上げ、自身に攻撃を加えた沙織ちゃんに向かって振り下ろす。


「よっと! やっぱり攻撃を与えた方に優先して潰しに来るみたいだね!」

「みたいだね、上手くヘイト管理できるのなら集団から一体だけ釣り出すとかも出来るかも!」

「集団で出現した時に同じように動くかは分からないけど、その可能性はありそう!」

「良し沙織ちゃん、この調子でドンドン検証を続けよう!」

「うん!」


 美佳と沙織ちゃんは色々な攻撃パターンを試しながら、ミノタウロスがどういった場合にどういった反応をするのか危なげなく検証を重ねる。2人が戦い始める前に持っていたミノタウロスに対する苦手意識も今ではどこ吹く風、激高し棍棒を振り回すミノタウロスを右へ左へ翻弄していた。

 うん、この調子なら次の戦闘は1体1でも十分にやれそうだな。
















苦手意識って些細な事でも持っちゃいますよね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
変な話で恐縮なのですが私は検証というか答え合わせが好きでして。 ミステリーでも途中経過はどうでも良いから「… … 以上の理由から、犯人はお前だ」ってシーンが好き。あるいはクイズ番組もそうですね。 だか…
更新ありがとうございます。 そういえばここのドロップは生肉がそのまま床にべたっと落ちるんですね。 オークやミノタウロスが素足でペタペタ歩いてる床に落ちた生肉……。 ダンジョンの謎ラッピングされた状態で…
主人公パーティーと同じ様になれると思ってますけど、技術面も差があるけど、ステータス差によるフィジカルの格差がとんでもなく大きいからなあ。 経験の差は一年も無い筈だけど引き出しダンジョンの底上げで異常に…
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