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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第20章 後輩とダンジョンへ

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第570話 強敵ミノタウロス

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 階段前広場での休憩を終えた俺達は、美佳と沙織ちゃんを先頭に20階層の探索を開始した。20階層に出るモンスターは、ミノタウロス。20階層では主に単体で出現する確率が高いが、その強さはオークを軽く上回る。体格もだがパワーとスピードがね。

 そして相手が単体で出現したからと舐めてかかり、痛い目にあってお高い回復薬のお世話になる中堅手前の探索者はそこそこいる。それまでの階層で複数体のモンスターに対応できたのだから、単体のモンスターなんて軽く対応できる……と思っていたところに、予想外のパワーとスピードで敵が突っ込んて来るという訳だ。


「2人とも、念の為にいっておくけど油断はするなよ」

「油断なんてしないよ、ここダンジョンだよ?」

「そうなんだけど、いるんだよ油断する奴は。相手が単体で出現したんだから楽勝だ、ってな?」

「えっ、いるんですかそんな人?」

「残念ながらね。自信を持つのは良いんだけど、油断はダメだよ油断は」


 美佳と沙織ちゃんは信じられないといった表情を浮かべながら、俺達の顔を見回した。

 たまに階段前広場にいるんだよ、大怪我を負って大慌てしてる探索者パーティーってのが。仲の良いパーティーだと直ぐに回復薬を使っているが、仲が悪かったりするパーティーだと治療もそこそこに大声で責任の擦り付け合いをしていたりする。運悪く階段前広場に居た人は、迷惑そうな表情を浮かべながら遠巻きに眺めてたりするんだけどね。

 

「まぁそういったパーティーもいるってのは覚えておいてくれればいいよ、反面教師として」

「ああうん、気を付けるね」

「はい」


 何ともいえない微妙な表情を浮かべつつも、美佳と沙織ちゃんはしっかりと頷いていた。

 そして俺達はそんな話をしつつ、ダンジョンの奥へと進んで行く。


「!」


 そしてついに先頭を歩いていた美佳が通路の分岐路に差し掛かった時、何かを見つけたらしく静かに腕を水平に上げ皆に止まれの指示を出す。美佳と沙織ちゃんから一気に緊迫した雰囲気が漂い出し、慎重に周辺の様子を探り出した。

 バックパックから点検鏡を取り出し、美佳は通路の角から顔を出さない様に気を付けながら奥の様子を探る。

 

「……いた」


 そして点検鏡にモンスターの姿を確認し、美佳は鋭い眼差しで観察を続けた。 

 

「うん、間違いなくアレはミノタウロスだね」

「美佳ちゃん、数は?」

「数は1体、やっぱり単体で出現したね。他にお供はいないよ」

「そっか、良かった。それで罠の方は?」


 美佳はさらに点検鏡を使いミノタウロス周辺の様子を観察し、1分程かけ罠の有無を確認していく。

 

「大丈夫そう、見える範囲にはそれっぽいトラップはないかな」

「それならミノタウロスとの戦闘に集中出来るね、最低限の警戒は必要だろうけど」

「うん、初めての相手だから慎重にいきたいから良かったよ」

「そうだね」


 敵情視察を終えた美佳は点検鏡をバックパックに戻し、沙織ちゃんと情報共有と作戦の最終確認を始める。事前にある程度対応策は決まっているが、緊張で度忘れしているという事もあるのでしっかり確認しておかないとな。

 どんな時でも、大事な場面だからこそ報連相はしっかりって事だな。


「相手はミノタウロス、数は1体。予定戦場に分かりやすいトラップの類は無し」

「武器は?」

「棍棒を右手に所持。大体2mくらいあるから、薙ぎ払いには注意かな。結構な範囲が薙ぎ払われると思うから、間合いに注意して回避する事が推奨だね。見た目の巨体相応のパワーがあるから、私達が防御しても吹っ飛ばされると思うし」

「そうだね。今の私達だと防御はちょっと難しいかも」


 その懸念は正解だろうな。レベルが上がれば相手との体格差など無視した防御も可能になるが、今の美佳と沙織ちゃんのレベルでは相手との体格差を無視できるまでには至っていない。更に相手はオークよりパワーに定評のあるミノタウロス、体格に加えパワーもあるとなると下手な防御は野球のバットで打たれたボールの如く吹っ飛ぶだろうな。まぁ大怪我をするかどうかは別の話だが、ノックバック効果を受け一時的にでも戦場を強制離脱されればパーティーでの連携が崩れる危険性が出て来る。

 そうなった場合、吹き飛ばされたメンバーが復帰するまで現場を支えられなかったら総崩れ、最悪の事態に至る可能性も高い。


「うん。相手の動きをしっかり観察してれば攻撃は回避は出来るだろうから、焦らず冷静に対応しないとね」

「初めての相手だから緊張するけど、頑張ろうね」


 そして美佳と沙織ちゃんは最終確認を終了し、いよいよミノタウロスとの戦闘を開始しようと準備を整えた。作戦の基本は挟み撃ち、2人が左右から接近しミノタウロスが対応に逡巡している間に一撃を加えるというものである。

 単純ではあるが、数の差を生かした作戦である。


「それじゃ準備も出来た事だし……始めようか?」

「うん」


 美佳と沙織ちゃんは軽く自分の頬を両手で叩き気合を入れ深呼吸をした後、通路の角からゆっくりと歩み出る。






 通路の角から歩み出た美佳と沙織ちゃんは、ゆっくりとミノタウロスとの間合いを詰めながら作戦に従い素早く左右に分かれた。

 そしてミノタウロスも間合いを詰める美佳と沙織ちゃんに気付き、右手に構えた棍棒を握る手に力が籠る。


「行くよ、沙織ちゃん!」

「うん!」


 ミノタウロスがゆっくりと接近する2人の迎撃態勢に入ろうとした瞬間、美佳と沙織ちゃんは走り出し一気にミノタウロスとの間合いを詰めていく。ミノタウロスはその急激な緩急について行けず、左右から一気に間合いを詰め自分に迫ってくる美佳と沙織ちゃんのどちらから先に迎撃すべきか躊躇した。

 そして、その一瞬の躊躇はミノタウロスにとって致命的な隙を晒す結果となる。


「エイッ!」

「ヤッ!」

「グモォッ!?」


 美佳と沙織ちゃんはミノタウロスの晒した隙を見逃すことなく、相手が対応する間も与えず第一撃目の攻撃を仕掛けた。ミノタウロスに右側から迫った美佳は喉元に狙いを定め槍を繰り出し、ミノタウロスに左側から迫った沙織ちゃんは棍棒を持つ右手首に狙いを定め槍を繰り出した。

 そして攻撃を繰り出されたミノタウロスは反射的に上半身を傾け、美佳が繰り出した首を狙った槍をギリギリで躱したが、逆に沙織ちゃんが繰り出した槍が棍棒を握る右手首を無防備に貫いた。 


「っ、首は躱されちゃったか!」

「大丈夫、代わりに右手を使えなくしたから棍棒による攻撃は無力化できたよ!」

「そうだね。薙ぎ払いはなくなったし相手の間合いも狭まった、このまま一気に攻め落とすよ沙織ちゃん!」

「うん!」

「ググッ……!」


 攻撃を仕掛けた後、美佳と沙織ちゃんは一旦ミノタウロスとの距離を取り戦果を確認。致命傷は避けられたものの、攻撃手段の武器を奪う事には成功した。

 右手首を槍で貫かれたミノタウロスは棍棒を保持できず地面に取り落とし、血が溢れ出す傷口を抑えつつ血走った眼差しで美佳と沙織ちゃんを睨みつけていた。


「まずは相手の動きを止めるよ」

「了解!」

「グモッ!」


 美佳と沙織ちゃんは第一撃目と同様に、左右から分かれてミノタウロスとの間合いを詰めていく。ミノタウロスも先程してやられた反省からか、手首を貫かれまともに使えない右手を盾にするように構え迎撃態勢を即座に取った。

 怪我で使えないと判断した右手を、即座に見切りをつけ有効活用しようとする姿勢には感心するね。


「エイッ!」

「ヤッ!」

「グモッ!!」


 ミノタウロスは美佳と沙織ちゃんの攻撃に即座に反応、左手で美佳の繰り出した太腿狙いの槍を打ち払い捌きつつ、動かない右手で沙織ちゃんの槍を受け止めながら押し潰す様に体当たりで襲いにかかった。

 損傷を覚悟した上で、まずは確実に一人を仕留めよう判断したらしい。初撃で戦力を大きく削られた以上、人数差がある状態は不利過ぎるからな。


「沙織ちゃん!」

「っ!?」


 予想外の反撃行動に出るミノタウロスに驚きつつも、沙織ちゃんは咄嗟にサイドステップで大きく横に飛びミノタウロスのタックルを躱す。

 しかし反射的に回避したため、必要以上に大きく距離を開ける事になり、この瞬間においては美佳とミノタウロスが一対一の状況に置かれた。


「グモッ!」

「!?」


 そして沙織ちゃんが大きく距離を開け回避した事を確認したミノタウロスは、崩れた体勢のまま左手を力任せに振り回し美佳に攻撃を仕掛ける。

 沙織ちゃんへの攻撃に驚き僅かな隙を見せていた美佳は咄嗟に体を後ろに逸らし倒す事で攻撃は回避できたが、大きく体勢を崩し大きな隙を晒す事になった。今のはバックステップで距離を取った方が良かったな、さぁその崩れた体勢でミノタウロスの動きにどう対応する?


「グモッ!」

「っ!」


 大きく体勢の崩れた姿を晒す美佳を見たミノタウロスは、すぐさま追撃を仕掛ける。崩れた体勢を立て直すことなく、ミノタウロスは美佳を押し潰そうと美佳目掛けて跳びかかった。

 まともに攻撃を仕掛ける余裕が無いのなら、自分の質量を武器に使うのが早いからな。特に大柄なモンスターであるミノタウロスが行えば、かなりの攻撃力になる。当然、そのような場当たり的な攻撃は体勢を崩すどころではない隙を晒す事になるが、同じように体勢を崩し回避困難な相手へなら効果覿面だろう。回避困難な相手だけへの攻撃、なら。


「ヤァ!」

「グモッ!?」


 美佳を押し潰そうと跳びかかったミノタウロスの横っ面に、戦線復帰した沙織ちゃんの跳び蹴りが炸裂し軌道が逸れる。体を無理やり傾け回避する美佳の脇を通り、ミノタウロスは地面へと盛大な音を立てながら墜落した。

 ミノタウロスは沙織ちゃんの予想外に早い戦線への復帰に対応できず、まともに攻撃を食らった形だ。


「大丈夫、美佳ちゃん!?」

「あ、ありがとう沙織ちゃん、何とか大丈夫だよ!」


 大慌てで体勢を立て直した美佳は急いで墜落したミノタウロスから距離を取り、ミノタウロスへの警戒を続ける沙織ちゃんと合流した。

 どうにか窮地を脱した美佳の顔には焦りの広が色濃く出ており、動揺しているのが手に取る様に見える。


「ググッ」

「……こいつ、手強いね」

「……うん」


 思わぬ反撃による動揺を落ち着かせようと美佳と沙織ちゃんは追撃はせず、ゆっくりと起き上がろうとしているミノタウロスの姿を見守る。冷静さを欠いた状態で無理に攻撃を仕掛けるより、少しでも冷静さを取り戻す時間を確保した方が良いと判断したのだろう。

 そして美佳と沙織ちゃんがある程度冷静さを取り戻した頃には、ミノタウロスも体勢を立て直していた。


「ふぅ……もう一度行くよ沙織ちゃん!」

「うん!」


 気合を入れなおした美佳と沙織ちゃんは再び、左右からミノタウロスを挟み込むように間合いを詰めていく。対してミノタウロスも威嚇の咆哮を上げながら今度はコチラが仕掛ける番だとばかりに、自ら左腕を振り上げながら美佳へ向かって襲い掛かる。

 迎撃ではなく自分から攻撃を仕掛けるということは、先程の交戦で正面からなら対応できると判断したのだろう。しかし……。


「エイッ!」

「グッ!?」


 美佳は自分に向かって突撃してきたミノタウロスの顔に向かって隠し持っていた棒手裏剣を素早く投擲、ミノタウロスは顔に向かって飛んできた棒手裏剣に驚きつつも右手を盾に防いだが、回避ではなく防御を選んだ事で致命的な隙を作ってしまった。

 咄嗟に顔の前に腕を上げた事で視界を防いでしまった結果、一瞬ではあるが2人の姿を見失った事で対応が一手遅れる事になったのだ。


「ヤッ!」

「グモォォ!」


 ミノタウロスが視界を失った瞬間を見逃さず、深く踏み込んだ沙織ちゃんが繰り出した槍がミノタウロスの胸の中心を深々と貫く。紛れもない致命傷、美佳が隙を作り沙織ちゃんが仕留めたということだ。

 そしてミノタウロスの口から絶叫が漏れ、膝から力が抜ける様にして地面へと崩れ落ちる。

 

「「……」」


 美佳と沙織ちゃんは崩れ落ちたミノタウロスから距離を取り、相手がいつ立ち上がっても迎撃できるように待ち構えつつ見守る。

 そして暫く待った後、ミノタウロスが粒子化を始めた事を確認し美佳と沙織ちゃんは安堵の息を漏らした。


「「はぁ……」」

「お疲れ様、美佳、沙織ちゃん。危ない場面もあったけど、怪我もせずに無事に勝てたな」

「……うん。勝つには勝てたけど、ちょっと反省しないとだね。油断してるつもりはなかったけど、あんな戦い方をしてくるなんて思ってもみなかったよ」

「私も、もう少し冷静に対応すべきでした。咄嗟だったとはいえ、力加減を誤って美佳ちゃんを窮地に追い込んでしまうなんて……」


 初めてのミノタウロスとの戦いを終えた美佳と沙織ちゃんは、自分達の戦い方のまずさを反省し勝利の喜びに浸る様子は少しも見せなかった。確かに不意を突いた初撃はともかく、追撃のまずさはかなり危なかったからな。

 幸い2人とも怪我は無かったが、もしこの場にミノタウロスがもう一体居たらかなり危ない場面だった。同じ轍を2度踏まない為にも、反省と対策はしっかりやらないといけないな。
















ミノタウロスが思わぬ奮戦をしました。


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挿絵(By みてみん)

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