第568話 ウォーミングアップ完了、いざ!
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階段前広場を出た俺達はまず、階層移動行列の流れにのって15階層の真ん中あたりまで移動する事にした。別ルートからいっても良いのだが、安全に最短距離で移動するとなると行列の流れに乗るのが早いからな。行列に並ぶ人数もだいぶ減っているので、上の方の階層に比べ移動速度自体も上がっている。
駆け足とまではいかないが、早歩き程度の移動速度だ。
「ここら辺が真ん中位かな?」
「うん、もうそろそろ良いんじゃないかな?」
パーティーの先頭を歩く美佳と沙織ちゃんが、辺りを見渡しながらそろそろ行列を離脱しようかと話し合っていた。今日の探索の進路決定は2人に任せているので、どこで行列を離れるのかは2人が決める事になっている。
離脱する場所によってモンスターとの遭遇率や時間も変わるので、ここで離脱して良いのか少し悩んでいる様だ。
「そうだね沙織ちゃん。よし、お兄ちゃん、ここら辺で列を離れようと思うけど良いよね!?」
「ああ良いぞ、そこら辺の判断は任せているから、2人が良いと思ったらここで列を離れよう」
「うん。じゃあ向こうに見える通路を曲がって、ここで列を離れよう」
美佳は少し先に見える十字路の右側の通路を指さしながら、移動行列を離れると宣言した。
「分かった、裕二と柊さんも良いよね?」
「ああ問題ない」
「私も問題ないわよ」
裕二も柊さんも行列を離脱するのに反対はせず、粛々と離脱の準備を始めていた。
そして十字路に差し掛かった俺達は予定通り、移動行列を離れ十字路の右側の通路に足を進める。
「うん、上手く離れられたね」
「そうだな。それより予定通りこれから先、俺達3人は美佳と沙織ちゃんの後ろをついて行くから好きに動いてくれ」
「うん、それじゃぁ今度こそダンジョン探索に出発!」
最終確認を終えた後、美佳と沙織ちゃんは意気揚々と通路の奥へと歩き始めた。
さぁて、どれくらいでモンスターと遭遇出来るかな。
罠を回避しつつ通路の奥へと進み始めて5分程し、俺達は早速モンスターを発見した。
薄暗い通路の曲がった先から、蠢くモンスターの呻き声が聞こえる。
「……」
モンスターの気配を察した美佳は右手を水平に上げ、無言で俺達に停止のジェスチャーを送る。
それと同時に沙織ちゃんはバックパックから伸縮式の点検鏡を取り出し、通路の角から突き出し曲がり角の先を確認していた。
「オークが1,2……5体いるね」
「5体、まぁ大丈夫だね。沙織ちゃん戦域に罠はありそう?」
「罠は……鏡で見える範囲には無いかな? オークがアレだけ屯して発動してないって事は、落とし穴なんかはなさそうだけど詳しくは接近中に見極めるしかないね」
「そっか……まぁ何時も通りだね」
美佳はそうつぶやくと、後ろで待機していた俺達の方を振り返りこれからの行動について話し始めた。
「それじゃぁ予定通り、私と沙織ちゃんでオークの相手をするね」
「ああ、一応聞いておくけど手伝いはいるか?」
「大丈夫、あのくらいなら何度も戦ったことあるから」
「そうか、じゃぁ俺達は後ろで見学させてもらうよ」
美佳と沙織ちゃんはそれぞれ装備を確認しあい、不具合が無い事を確認する。今日最初の戦闘だからな、念を入れて確認しておく方が良い。
そして準備を終えた美佳と沙織ちゃんは呼吸を整え集中力を高めていく、そして……。
「それじゃぁ沙織ちゃん、行くよ」
「うん」
美佳が少し硬い静かな声でそう呟いた後、沙織ちゃんも静かに返事をする。
そして2人は一呼吸入れた後、通路の陰から飛び出し周囲の罠を確認しながらオークへと一気に間合いを詰めていく。
「沙織ちゃん、まずは右手前の2体を潰すよ。私は右端のヤツを狙うね!」
「了解美佳ちゃん、罠もなさそうだから手早くね!」
「うん!」
美佳と沙織ちゃんは間合いを詰めながら、周辺確認とターゲットの割り振りを素早く行っていた。
うん、中々の手慣れた感が出ているな。注意深く決断も早い、最初のターゲットの見極めも倒した後の立ち回りを考えた上での選択だろう。
「エイッ!」
「ハッ!」
「「グガッ!?」」
美佳と沙織ちゃんの接近に気付いたオーク達が威嚇の咆哮を上げようとしていたが、オーク達が咆哮を上げるよりも前に美佳と沙織ちゃんの繰り出した槍の攻撃が右手前に居た2体のオークの喉を貫いた。
そして2人が繰り出した攻撃を受けたオークは短い悲鳴を上げた後、膝から力が抜け崩れ落ちる。
「良し、まずは2体!」
「美佳ちゃん、次が来るよ!」
「うん、相手が態勢を立て直す前に畳みかけるよ! 私はもう一度右端のヤツを狙うね!」
「了解。私は左端のヤツ、真ん中の奴は後回しで!」
自分達が何かする事も出来ずに仲間がやられた事に動揺するオークに対し、相手が態勢を立て直す前に勝負を決めると美佳と沙織ちゃんは襲い掛かる。
突然の事態に動揺し、矢鱈めったらに棍棒を振り回すオークとの間合いを素早く詰めていく。美佳と沙織ちゃんは冷静にオークの振り回す棍棒の軌道を読み、冷静さを欠いた大振りゆえに生まれる大きな隙を見逃さず攻撃を繰り出した。
「ヤッ!」
「セイッ!」
「「グッ!?」」
オークは美佳と沙織ちゃんの攻撃で胸の中心を貫かれ苦悶の短い悲鳴を上げた後、咄嗟に棍棒の間合いから素早く離脱する美佳と沙織ちゃんを追おうと一歩右足を踏み出した所で膝から力が抜け崩れ落ちた。
うん、急所への正確な一撃……見事な手際だ。
「残り一体!」
「美佳ちゃんお願い!」
「任せて!」
接敵から1分と経たない内に味方が全てやられてしまったオークは、絶叫に近い咆哮を上げながら暴れはじめた。先の2体のオークよりさらに激しく棍棒を振り回し、恐慌状態で更に滅茶苦茶な軌道で振り回す事で攻撃の軌道が読みづらい。
故に止めを美佳に任せた沙織ちゃんが仕掛けた。
「エイッ!」
「グオッ!」
沙織ちゃんが繰り出した槍が棍棒を振り回すオークの腕を貫き、力が抜けたオークの手から棍棒が離れ遠くへ飛んでいった。
そして振り回される棍棒が無くなったという事は……。
「美佳ちゃん!」
「任せて沙織ちゃん、セイッ!」
「グガッ!?」
沙織ちゃんの攻撃で棍棒という攻撃と防御の手段を失い無防備になったオークの胸の中心を、素早く間合いを詰めた美佳の槍が貫いた。沙織ちゃんの攻撃で棍棒と腕を奪われ、注意力が逸れた隙に美佳の急所への一撃が加えられた形だ。
牽制からの本命への攻撃の流れがごく自然だったので、2人ともこれまで何度もこのような連携攻撃を行ってきたというのが良く分かる。
「「……」」
美佳と沙織ちゃんはオーク達を倒した後、仕留めそこなっていた場合の反撃を懸念し少し距離を取りオーク達の粒子化を待つ。確実に仕留めたという手ごたえがあったとしても、相手の粒子化が始まるまでは油断できないからな。
臆病だの心配し過ぎだといわれたとしても、ちょっとした油断が命取りに繋がるので残心は大切だ。
「「……ふぅ、終わった」」
そして最後に倒したオークの粒子化が始まったのを確認し、ようやく美佳と沙織ちゃんは大きく息を吐き出し緊張感を緩めた。
戦闘開始から3分と経っていないが、かなり長い時間闘っていたように感じたよ。
「お疲れ2人とも、見事な戦いっぷりだったよ」
「複数体のモンスターが相手なのに、随分手際が良くなってたな」
「スムーズな連携が出来てたわね、美佳ちゃん沙織ちゃん」
後ろで2人の戦闘を見学していた俺達3人は、口々に戦闘の感想を述べる。
レベルアップの恩恵による身体能力任せのゴリ押しではなく、ちゃんと技量を磨いた上での見事な立ち回りだった。基礎から俺達が教えていた影響もあるが、レベルアップで向上した身体能力に胡坐をかいていたら出来ない戦闘だからな。
「ありがとう、上手く出来て良かった」
「皆さんに見られていると思って、少し緊張しました」
「そうなんだ。スムーズな戦闘だったから、普段通りの出来なんだと思ってたよ」
「そんな事無いよ、結構緊張したんだよ?」
美佳と沙織ちゃんは俺達の評価に安堵した表情を浮かべながら、普段通りならもう少しうまくやれていたと口にする。特に最初にオークを倒した後、次の敵と戦う前に残る一体に飛び道具を用いて牽制し足止めしていれば、最後に残ったオークが錯乱状態に陥る前に倒せていたかもしれないと。
まぁ確かに3体目4体目を倒せば2対1に持ち込めるとはいえ、最後のオークは少し放置気味になっていたからな。足止めの為に、牽制の一手を打っておいても良かったかもしれない。
「まぁ確かに反省点はあるかもしれないけど、今日最初の戦闘としては上手くやれていたと思うぞ」
「うん、ありがとう」
「ありがとうございます」
それなりに上手く出来ていたと俺が褒めると、美佳と沙織ちゃんは少し照れた表情を浮かべていた。
「それはそうと、あそこを見て見なよ。何かドロップしてるぞ」
「えっ? あっ本当だ」
「ドロップ品は……3つですかね?」
オークが粒子化を終えた跡には、3つのドロップアイテムが転がっていた。5体中3つのドロップか、まぁまぁのスタートかな。
そしてドロップアイテムを拾い集めた結果、幸か不幸か鑑定しなくても正体が分かる品ばかりだった。
「えっと、コアクリスタルが2つにオークのブロック肉が1つですね」
「コアクリスタルはともかく、お肉はまぁまぁの当たりかな?」
「お肉も最近は買い取り価格が少し下がってるから、そんなに当たりともいえないかな?」
上層のドロップアイテムよりはマシとはいえ、オーク肉も企業系探索者チームが計画的に採取し供給量が増加した影響で買い取り価格が低下している。それでも某銘柄豚肉と同程度の買い取り価格は維持しているので、よく出るドロップアイテムの中では当たりの部類ではあった。
「まぁ何もドロップしないよりは良いんだし、とりあえず他のドロップアイテムで荷物が埋まらない限りは持ってれば良いんじゃないか? 何なら売らずに、自分達で持って帰って食べても良いんだしさ」
「まぁそうなんだよね、うん」
「そうですね、オーク肉も結構おいしいですし」
最近はモンスター肉も普通にスーパーなどにも並び一般の御家庭でも食べられる様になってきたので、おみやげとして持って帰っても結構喜ばれるからな。
カレーやシチューといった煮込み料理に結構あうんだよ、オーク肉。
「良し、お肉は袋に入れて保冷バッグに入れてっと」
「お兄ちゃん、手慣れてるね」
「まぁな、一時期お肉中心に集めていた時期があったから慣れたんだよ」
「へー、そうなんだ」
柊さんの御願いで、お店で使うオーク肉を暫く採取してたからな。顧客獲得競争の激しい業界なので、時代のニーズに乗り遅れてお客を繋ぎ止められなくなったら大変だ。今はモンスター肉も普通に流通するようになったので、食肉業者経由で仕入れているのでやっていないが。
あの頃は真面目にモンスター肉が流通していない時期だったので、自分で採ってくるか採算度外視で買うしかなかったからな。柊さんや俺達が頑張ったおかげで、お店の方は一番大変な時期は乗り越えられたけど。
「さて、ドロップアイテムも回収できた事だし次行くか?」
「そうだね、もう何回かモンスターと戦って慣れておいた方が良さそうだし行こうか」
「うん。余り時間を掛けてたら本命の時間が無くなっちゃうから、意外とここの遭遇率も悪くなさそうだし急いで回っちゃおうか」
そしてドロップアイテムの回収を終えた俺達は、美佳達を先頭にし再びダンジョンの奥を目指し歩きはじめる。
沙織ちゃんがいう様に意外と遭遇率は悪くなさそうなので、予定より早く目的の20階層に行けるかもしれないな。
そしてモンスターを探し歩き回った結果、大体5分から10分程歩き回るだけでモンスターと遭遇する事が出来た。同時出現最大数のオークの群れと遭遇した際は、流石に美佳も沙織ちゃんも短時間で手早く片付ける事は出来ず、それなりに時間を掛けオークの数を削りながら戦っていた。
幸い時間こそかかったものの、2人とも特に怪我をする事も無く切り抜けられていたけどね。
「美佳、沙織ちゃん、ウォーミングアップはこんなもので大丈夫じゃないか?」
「うん、そうだね。体も温まって十分動けるし、戦闘勘の方もバッチリ研ぎ澄まされたって感じだしね」
「美佳ちゃんとの連携確認も出来ましたし、そろそろ先に進んでも大丈夫だと思います」
数度のモンスターとの戦闘を経た事で美佳と沙織ちゃんは鋭い雰囲気を纏っており、ダンジョンに入った時とは大違いである。もう少し短時間でこの戦闘モードに入れた方が良いのだろうが、まぁその辺は場数を踏んで経験を積んでといった所だろうな。
しかしまぁ、本命に挑む準備は整ったといった所だろうな。
「そうか、それじゃぁ行こうか?」
「うん!」
「はい!」
そしてウォーミングアップを終えた俺達は本命の階層目指し移動を開始した。
待っていろよミノ肉……じゃなかった、ミノタウロス!




