第567話 駆け込み需要ってやつなんかな?
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舘林さんと日野さんの初ダンジョン探索挑戦の翌日、俺達5人は昨日と同じ最寄りのダンジョンに来ていた。初挑戦の翌日に連続ではキツイので、今日は舘林さんと日野さんはお休みだ。
そして昨日は付き添いメインで特に動く事も無かった美佳と沙織ちゃんが、今日は自分達が主役なんだと張り切っている。
「それじゃぁまずは、入場手続きからだね。うーん、昨日に増して人が多い」
「まぁ今日は日曜日だからな、サンデー探索者の利用も多いんじゃないか?」
「専業探索者じゃない社会人パーティーだと、日曜日が一番予定を合わせやすいって聞くものね」
昨日の1.3~1.5倍はいそうなダンジョン利用者の列に、俺達は少し憂鬱な表情を浮かべながら溜息を漏らした。入場受付でこの状態ともなると、ダンジョンの中はどれだけ混んでいる事やら。
ましてや昨日とは違い、今日は美佳達と一緒にダンジョンの奥まで進み目一杯探索をする予定だ。それ即ち、ダンジョン利用のピーク時間にガッツリ被るという事だ。
「行きもだけど、帰ってからの方が大変そうだね」
「そうだな。まぁ昔よりは大分改善しているから、何時間も手続き待ちをするハメにはならないだろうさ」
「だと良いんだけど」
これだけの探索者が凡そ似た様な時間帯に一斉に帰ってくる光景を想像し、1時間で終われば御の字かなと思った。
探索終わりにただ待つのって、地味にきついんだよな。
「お兄ちゃん、早く手続きに行こうよ!」
「ああ、分かった分かった」
「今日は出来る限り潜るんですから、時間はいくらあっても足りませんよ」
「それは良いけど、夢中になって帰る時間はオーバーしないようにね」
俺達3人の心配など何のその、美佳も沙織ちゃんも早くダンジョン探索がしたいとばかりに俺達の背中を押す。
まぁここで尻込みしていても意味は無いので、俺達もあの行列に並ぶしかないな。
「そうだな、行くか」
「行きましょう」
俺達は美佳と沙織ちゃんに手を引かれる形で、長蛇の列の最後尾へと並んだ。
入場手続きは比較的スムーズに進み、俺達は着替えと準備運動を手早く済ませる。今日は慣れていない舘林さんも日野さんもいないので、もう何度も行った流れなので実にスムーズだ。
でもまぁ、順調なのはここまでなんだけどね。
「予想はしてたけど大渋滞だな、これ」
「折り返し地点がいくつあるんだ?」
「今日は何時もに増して行列が長く見えるわね」
「うわぁー、凄い数だね」
「連休でもないのに、今日は何かあったかな?」
目の前に広がる入場待ちの大行列に、俺達は少し呆気にとられた表情を浮かべた。連休の中日でもあるまいに、何でこんなに人が来てるんだ?
「これ、入場するのに30分は掛かるか?」
「その位は掛かりそうだな、冬休み前に新人が増えたのか? それで手間取って大渋滞……とか?」
「もしくは、もうすぐ年末だし仕事納め的な感じかしら?」
確かに年末年始で忙しい人からすると、忙しくなる前、最後に行っておくかと考えるかもしれないな。
「そっか、もうすぐ年末だもんね。そうかもしれない」
「そうだな。確かに年末年始が忙しくて時間が取れないとなったら、今年の最後に……って気持ちにもなるか」
受験生でもない学生からすると年末はただの休みだけど、社会人からすると色々動き回らないといけないから休みとはいい難い休みだからな。
比較的余裕がある今の内に、となるのも無理はないのか。
「仕方ない、並ぶか」
「はぁ、今日は並んでばかりだね」
「仕方がないだろ、利用者が多いんだから。それに……中も行列だぞ?」
「はぁぁ、そうなるよね」
俺達は溜息をつきながら列に並び、行列の連続に愚痴を漏らす。
ダンジョンの外でコレだ、中の階層移動行列がどれだけ続いているんだろう。比較的浅い階層で多くのパーティーが離れてくれると助かるんだけど、どうなる事かな。
「あっ、ようやく順番が回ってきた」
「早かっ……早くないよね、結局30分は掛かっちゃったし」
「入場ゲートの通過に慣れてないパーティーが多いみたいだからな、一組一組は短い遅延でも塵も積もればってやつだな」
スムーズとはいい辛かった行列の進み具合に不満を漏らしつつ、俺達は慣れた手つきでゲートを通過した。
「さぁて、ここからダンジョン内だけど、まぁ見ての通りこの先も暫くは行列だ。変わらない光景にウンザリしそうだけど、気は抜かない様に気を付けてくれ」
「「はぁーい」」
「そうだな」
「ええ」
さてさて、暫くは行列の流れに乗っての移動だ。
モンスターとの遭遇はそうそうないだろうけど、出来れば1回くらいは出てくれないかな?
階層移動行列にのってダンジョン内を1時間半程かけ移動し、ようやく第一目的の15階層へと到達した。まずは本命の階層に挑戦する前に、手前の階層に出現するモンスターと数回肩慣らしの戦闘を行う予定なのだ。
まぁここに来るまでに、大分予定時間はオーバーしたけどね。
「はぁ、やっと着いた」
「結構時間が掛かったな」
「そうね。10階層を超えたあたりから行列の進みが早くなったけど、他の時に比べて大幅に時間が掛かったわ」
「もう、何でこの階層に来るのにこんなに時間が掛かるのよ! いつもなら1時間ぐらいで来れるのに!」
「仕方ないよ美佳ちゃん、人が多かったんだし」
普段からココを利用している美佳は沙織ちゃんに宥められつつも、何時も以上に移動に時間が掛かった事に憤っていた。時間一杯がんばろうと意気込んでいたのに、出鼻をくじかれた形になるからな。
美佳達レベルの中堅探索者でも、日帰り探索における30分の移動ロスでどれだけの損失が出ることやら。通常ドロップ品は勿論、レアドロップ品が出れば数万から数十万の損失が発生するからな。
「まぁ愚痴をいってても仕方がないさ。取りあえずここで少し休憩を取った後、さっそく探索を開始しよう」
「はぁーい」
「はい」
「それじゃぁ、どこか空いてる場所は……」
15階層の階段前広場を見回してみると、少し人口密度は高めではあるが所々空き地は目に入る。
まぁ階段付近は先に来た探索者パーティーに陣取りされてるので、必然的にダンジョンの奥へ続く通路傍が空いてるだけなのだが。
「うん、まぁそうなるよな」
「そりゃそうだ。誰だって休憩中位安全な場所で休みたいだろうからな」
「そうだよね。しかたない、空いてるあそこに腰を下ろそうか?」
俺は通路から少し離れたスペースを指さしながら、そこでいいか4人に確認を取る。
「まぁ良いんじゃないか?」
「良いわよ。あのくらい通路から離れていれば腰を下ろしていても、敵が出て来ても対処できるわ」
「直ぐ出発するし、大丈夫だよ」
「良いと思いますよ」
全員の了承が取れたので、そこで休憩を取る事にした。
まぁここまで移動行列に乗って歩いていただけなので、特に消耗はしていないけどな。気持ちの切り替えという意味では、休憩を挟んだ方が仕切り直しが出来る。
「ふう、とりあえず皆お疲れ。予定より時間かかったが第一目的地には無事到着できた」
バックパックから折り畳みの薄いクッションシートを取り出し、床に敷いてから俺達は腰を下ろした。
携帯用の薄いクッションなので効果は乏しいが、地面に直座りだとお尻が痛くなるからな。休憩時の質が悪いと全体のパフォーマンスが低下するので、効果が乏しくても無いよりはマシだ。
「まぁ順調といえば順調か?」
「少し時間はオーバーしているけど、順調といえば順調なのかしら?」
「順調じゃないですよ、時間オーバーしてる分だけ探索時間は削られるんですから」
「この分だと、帰りも混みそうですよね」
俺達はペットボトルに入った麦茶を少量口に含み水分を補給しながら、この後の予定について話し合う。予定移動時間がオーバーしているので、当初の予定を少し変えるかどうか決める為だ。
「で、どうする? 慣らしの時間を少し削って、攻略の進捗予定を早めるか?」
「うーん。時間的には出来ればそうしたいけど、慣らしが中途半端ってのは危ないと思うんだよね」
「私も惜しいとは思いますけど、慣らしの時間は削らない方が良いと思います。調子が整わない前に急に強い敵と当たったら、私か美佳ちゃんのどっちかが怪我をすると思います。今回はお兄さん達が一緒ですから最悪は無いと思いますが、何時でも一緒に来れる訳じゃないので頼り過ぎるのは拙いと思います。ですから、いつも通り十分に慣らしをしてから挑む方が良いかなって」
美佳も沙織ちゃんも探索に充てられる時間が減るのは惜しいが、本命前の慣らしの時間は減らしたくないという考えらしい。これが新人探索者なら、慣らし時間を減らし無理な探索を押し進めて怪我をするところだ。
無理な挑戦より堅実な進め方を選ぶ、安全重視の探索スタイルである。俺達が色々と探索者失敗あるあるを教えた成果だな。学生探索者らしくない探索スタイルかもしれないが、怪我をするよりましだ。
「そっか、それじゃぁ20階層での探索時間を少し短くするという事で」
「それしかないだろうな。慣らしでもだけど、本命でもモンスターとの遭遇率が良い事を祈るか」
「そうね。まぁここら辺は来ている人も少ないから、上の階層よりはマシな遭遇率は期待できそうよ」
短時間でモンスターと遭遇出来れば、結果的に慣らしの時間も短縮できるからな。
もし早々に遭遇出来なかった場合? ……まぁ頑張って探すしかないな。
「あっうん、何時もならそこそこの遭遇率なんだけど……」
「今日は何時もより人が多いですからね……」
普段の光景と比べただろう美佳と沙織ちゃんは、少し迷惑気な眼差しを広場に沢山居る探索者達に向ける。上の階層よりましとはいえ、この階層にもそれなりに纏まった数の探索者達が活動していた。
遭遇率という意味では、活動人数が増えれば増えるほど低下するからな。
「まぁ……何とかなるだろ、出来るだけ他の探索者達が居なさそうな方を探して回るか」
「そうした方が良さそうだな、少し奥の方まで入った方が遭遇率は上がるか?」
「そうね。それなら上り階段付近より下り階段の方に行きましょう。向こう側の方が慣らしを終えた後、下の階層に直ぐに移動できるわ」
俺達の相談を耳にした美佳と沙織ちゃんは、少しいい辛そうな表情を浮かべながらこのダンジョンの情報を教えてくれた。
「下り階段の方……向こう側って結構他の探索者がモンスターを倒していて、遭遇率はあまり高くないんだよね。皆お兄ちゃん達と似たような考えで、戻りやすい下に降りやすい方でって戦ってるから」
「そうだよね、寧ろ真ん中辺りの方にモンスターが残っている感じだよね」
普段からココに通っている美佳と沙織ちゃんが、探索者の行動とそれに伴うモンスターの分布状況を教えてくれた。
確かに同じ条件下なら、皆考えは似るよな。
「なるほど、いわれてみればそうだよな。じゃぁ真ん中辺りから奥を目指す方が、モンスターとの遭遇率は良さそうって事か」
「そうそうそんな感じ、まぁこれだけ他の探索者が居たら気休め程度かもしれないけど」
「その気休めでモンスターとの遭遇率が上がるというのなら、試してみる価値はあるさ」
「……うん、そうだよね!」
「はい!」
移動時間オーバーで探索時間が削られた事に意気消沈していた美佳と沙織ちゃんは、まだ挽回のチャンスはあるんだと気を取り直した。
美佳と沙織ちゃんのモチベーションも戻ったので、いよいよ慣らしを始める前の最終確認だ。
「良し、それじゃぁ最終確認だ。まず2人にはこの階層で出現するモンスターを相手に慣らして貰う。コンディションの確認をしないまま、いきなり本命に挑戦てのは危ないからね。そしてこの階層で出現するモンスターは、徒党を組んだ複数体のオークだ。だいたい5体~9体前後のチームで出現するらしい。2人はオークとの戦闘経験は?」
「大丈夫、この階層には何度も来てるからバッチリ! オークの戦闘経験は十分あるよ」
「この階層で出現する最大数で遭遇しても、オーク相手なら怪我無く倒せます!」
「そっか……2人とも強くなったね」
美佳と沙織ちゃんが複数体のオーク相手に怪我無く切り抜けられる実力がついている事に、俺達は思わず感嘆の声を漏らす。
「まぁそれなら問題ない。今回基本的に俺達は荷物持ちに終始するから、余程危ない場面じゃない限り手は出さないからな。進路、索敵、戦闘方針は2人に任せる。いつも通りやってくれ」
「うん!」
「はい!」
「良し。それじゃぁ長居していても仕方ないから、そろそろ出発しよう」
これからの探索の方針も定まったので、俺達は休憩を終え立ち上がる。
さて、これからがいよいよ本格的なダンジョン探索の始まりだ。




