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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第5章 ダンジョン中層階に向けて
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第55話 潜行時間の延長

お気に入り9620超、3370000超、ジャンル別日刊21位、応援ありがとうございます。

 

  

 

 

 柊さんの突然の提案に、俺と裕二は動きを止めた。

 オーク素材を得る為にダンジョンに潜っている柊さんにとって、ダンジョンの深くに潜る事は必須条件では無い筈なんだが……。

 

「最近オーク食材の流通量も増えて、価格も下がってきているわ。コレまでの様に自分でオークを狩ってお肉を得るより、深い階層に潜ってレアリティーの高いドロップアイテムを取得し換金したお金でオーク肉を金銭購入した方が効率が良いと思うのよ」

「……言われてみれば、そうかもね」


 今回、柊さんが持ち帰ろうとするオーク肉の査定額はドロップアイテムの換金総額の内、全体の3分の1以下。1,2ヶ月前なら同量で、換金総額の半分を超えているほど価値があったんだが……。

 しかも、今回拾得したドロップアイテムは、数は多い物の10階層以下のレアリティーが低いドロップアイテムが中心。換金額も普段に比べ、特別多いと言う事ではないのにだ。


「それに、広瀬君の修業の為にも、ダンジョンの深い階層に潜るのは必要な事じゃないかしら?」

「それは……」

「重蔵さんに一撃入れるって課題を達成させるにも、何時までも低層階を彷徨っている訳にもいかないでしょ? 正直言って、今の私達にとって低層階に出てくるモンスターは敵に値しないわ。作業よ」


 柊さんに、ダンジョン下層へ潜らないかと言う話題を振られた裕二は、一瞬躊躇し即答出来ないでいた。


「ここ数ヶ月、私の用事に付き合ってくれたんだから、今度は広瀬くんの目的に協力させて」

「柊さん……、大樹?」


 裕二は顔を俺の方に向け、俺の意見を求めて来る。無言で俺の目を見てきているが、裕二の目にはハッキリと下層に潜りたいと考えがにじみ出ていた。

 俺としては、下層への潜行には特に異論もないので、俺は顔を縦に振り頷く。

 

「そうか・・・柊さん。その提案、乗らせて貰う事にするよ」

「分かったわ」

「大樹も良いよな?」

「勿論。ただし、深く潜るにしても一気に潜る様な事はしないで欲しいかな? 出来ればそれなりに、各階層のマッピングをしておきたいからね」


 リアルダンジョンには、ゲームで定番のオートマッピングと言う機能はない。

 探索者達は基本的に、最低限のマッピングをした後に次の階層に潜ると言う事を繰り返している。マッピング範囲が狭いといざと言う時、逃げるにしても待ち伏せをするにしても困難だからな。


「分かってる。マッピングを疎かにするつもりはないよ、1階1階確実に進んで行こう」

「じゃあ、決まりだね。次からは、ダンジョンの奥に潜って行くと言う方針で」

「ええ」

「ああ」


 全員の合意が得られたので、次回の探索からダンジョンの奥へと進む事になった。

 取り敢えずの目標は、低層階を突破し中層階への到達かな?

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンから帰宅し夕食を取った後、俺は家族とリビングでTVを見ていた。

 

「ねぇ、お兄ちゃん?」

「ん? 何だ?」

「ダンジョンはどうだった?」

「? 何時もと変わりなかったけど……? 急にどうしたんだ?」


 美佳の質問に、俺は意図が読めず首を捻る。何故今更、そんな事を聞くのだろうか?

 俺が不思議そうな表情を浮かべていると、美佳が辿たどしく理由を話し出す。


「だって、お兄ちゃん。今回が、未成年者の死亡事故のニュースが流れてから初めてのダンジョン行きじゃない? 何か変わった事があったのかなって」

「ああ、そう言う事か。……特に変わった様子はなかったな。普通に、未成年探索者の姿も見たぞ?」

「本当……?」

「ああ」


 俺は待合所で見た例のアレなパーティーの事を思い出しながら、美佳の質問に答える。あれは、ニュースなんか気にしないタイプだな。


「まぁ、未成年探索者に死亡者が出たとは言え、俺達が行っているダンジョンで出た訳じゃないからな。皆普通に来ていたのは、対岸の火事と思っているのかもしれないな」

「……それならお兄ちゃんはどうなの? 死亡者が出たと言うのに、ダンジョンに行って……」


 美佳の言葉に、一緒にTVを見ていた父さんと母さんもコチラに顔を向け耳を傾ける。

 

「対岸の火事とは見ていないよ。寧ろ、起きるべくして起きた事だと思っている」

「起きるべくして起きた?」

「どう言う事だ、大樹?」

「あっ、うん。それはね……」


 父さんが俺の言葉の意図を確かめようと聞いてきたので、以前学校で重盛君に話した内容を父さん達に聴かせる。

 父さんと母さんは、俺の話に納得した様な反応を示す。


「なる程な。確かに大樹の言う通りかもしれないな」

「だから初めてダンジョンに行って来た時、夕飯を食べれなかったのね。ああそう言えば、何日か調子が悪い日が続いたわね」

「うん。昼食は普通に食べられたんだけど、夕食はね……」


 あの時の事を思い出すと、胃が少し痛くなる様な気がした。


「まぁそのうち、協会の方で何らかの対策を出すと思うよ」

「対策?」

「うん。例えば新人探索者を対象にした、協会が専任した探索者が引率する研修ツアーとかね」

「インストラクター付きのダンジョン探索か。確かにそれ位はあって然るべきかも知れないな……」

「うん。参加するしないは探索者の自主性に任せるとしても、そういう救済措置は実施しているって言う建前は協会も欲しいだろうからね」

「TVや新聞が大分騒いだからな、何らかの対策は取らなくちゃいけないからな」


 一部の週刊誌では未成年者の探索者資格取得を禁止すべきと言う社説を挙げているが、事故発覚数日以外は大手出版者が同調していないので世間の反応は低調だ。スポンサーから圧力でもかかっているのかな?


「取り敢えず、お前の考えは分かった。十分気を付けるんだぞ?」

「勿論、分かっているよ」

「本当に気を付けなさいよ? 年若い息子の葬式なんて出したくないんだから」

「うん。胸に刻んでおくよ」

「……」


 父さんと母さんには再度釘を刺されたが、美佳は何も言わずに、何かを考えている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、裕二と柊さんと一緒に昼食を食べながら、昨日の件について話をしていた。


「深く潜るって方針は決めたけど、探索時間はどうする? 延ばす?」

「そうだな。20階層まで潜るのに2時間半は掛かるから、延ばさないと拙いな」

「そうね。今までと同じ潜行時間だと、折角下層に到達しても探索をする時間がロクに取れないわ」

「今までは片道3時間の往復6時間で探索していたからね。20階層以降に潜ろうと思えば、潜行時間を延長するしかないか」


 しかし、潜行時間を延ばすと言っても簡単には決められない。

 ダンジョンへ行くまでの往復に3時間かかり、潜行時間の6時間と合わせると9時間となる。今は朝の7時に自宅を出発して、夕方の4時に帰宅出来る様に日程を組んでいる。

 無論、他にも体力面や精神面の事を考えると……。


「取り敢えず潜行時間を往復一時間ずつ、2時間程増やさないか? 遅く帰宅する事になるけど、潜行時間は稼げる」 

「まぁ、その辺が無難ね。段々と体を慣らしながら、潜行時間を延ばして行ったほうが良いわ」 

「物資面は俺のアレ(空間収納)があるから、そこまで気にしなくてもいいかな?」


 他の探索者パーティーの場合、潜行時間を増やせばその分補給物資の確保が問題になるが、幸い俺達は空間収納の御陰でその辺の心配はない。


「じゃぁ、次の探索は2時間延長するって言う事で良いか?」

「良いわよ」

「俺も大丈夫だ」


 全員賛同した事で、潜行時間の2時間延長が決まった。

 帰ったら家族に、ダンジョンから帰ってくる時間が延びるって伝えておいた方が良いな。  

 

 

 

 

 

 翌週、俺達はダンジョンに来ていた。


「今日は20階層以降に潜るって事で良いな?」

「ええ。問題ないわ」

「補給物資も多めに持ってきているから、大丈夫だよ」

「それじゃ、行くか」


 裕二の号令で、俺達はダンジョン探索を開始する。

 探索は順調に進み、以前到達した事がある20階層までは予定通りの2時間半程で到達出来た。


「ここまでは順調に来れたな」

「ええ。前回来た時は、来るまでに時間が掛かってロクに探索が出来なかったわね」

「そうだね。2体のミノタウロスを倒した辺りで時間切れになって、帰路に就いたんだったっけ。出来ればミノ肉を集めたいけど……」


 美佳の高校合格祝いの席で出したミノ肉は、この時に拾得した物だ。


「少ししか食えなかったけど、確かに美味かったよな、アイツの肉」

「ええ。ブランド牛並みに美味しかったわ」

「俺と裕二はあまり食べられなかったんだよな……」

「「「……」」」


 俺達は顔を見合わせ暫く沈黙した後、首を大きく縦に振って一言口にする。


「「「今日はミノタウロスを狩ろう!」」」


 異口同音で、俺達の今日の探索目的の変更が決定する。

 早速時計をチェックし、3時間ほどミノタウロスの探索に当てられる時間がある事を確認した。

 俺達が20階層をマッピングをしながら早足気味に歩き初めて10分後、通路の先を徘徊している最初のミノタウロスが居る事を柊さんの気配察知スキルが感知する。

 

「居たわ」

「居たか」

「居たな」


 徘徊するミノタウロスは、まだ俺達に気が付いていない様だ。

 俺達は近くの通路の曲がり角に身を隠し、短時間の作戦会議を開く。


「ミノタウロスの特殊能力は、大音量の咆哮だな」

「他にも、力が強い事と表皮が硬いとかあるな」

「前の私達の武器なら、普通に効いていたけど……」


 柊さんは少し不安げな表情で、自分が持つ槍を見る。


「大丈夫じゃない? ここまでのモンスターを相手にしても、以前と同じ様に使えたんだから」

「寧ろ、前以上に使い勝手はいいと思うぞ?」 


 打ち直しで強度を増す為に刀身を分厚くした分、重量が増加した。

 しかし、重くなった分だけ一撃の威力は上がっているので、使い勝手という意味では良くなっている。

 一般人の剣士なら刀の重量増加はデメリットだろうが、常人の数倍ある腕力を発揮出来る探索者にとって重量増加は大したデメリットにはなっていない。


「……そうね」

「よし。じゃあ、今回は単体目標だから、特に練った作戦はなくても良いか。攻撃担当は……」

「俺がやる」

「裕二が? まぁ、良いけど。柊さんも裕二が担当で良い?」


 裕二が攻撃担当に立候補したので、俺は柊さんに確認を取る。


「良いわよ」

「じゃぁ攻撃担当は裕二で、俺と柊さんは裕二のバックアップと言う事で良い?」

「任せろ」

「任せて」

「じゃぁ、役割も決まった事だし……行こう」


 作戦会議を終え、俺達は裕二を先頭に通路から出る。

 

 

 

 

 

 接近してくる俺達の姿を見付けたミノタウロスは大きく深呼吸した後、俺達に向け大音量の咆哮を放ってくる。

 

「ブモォォォ!」


 ジェットエンジン並みの大音量の咆哮が、狭いダンジョンの通路に響く。

 俺達は、ミノタウロスが深呼吸した辺りで足を止め、耳を手で塞いだが、耳が少しキーンとする。数秒の短い咆哮が終わり、ミノタウロスは手に持っていた棍棒を構えた。


「あぁっ、耳が痛い」

「五感保護系のスキルってないのか?」

「もしくは、耳栓かイヤーマフね」


 俺達は軽くフラつく頭を振りながら、愚痴を漏らす。


「音響兵器だよな」

「ああ。低階層にいるミノタウロスの咆哮でこれなら、深層にいるモンスターの咆哮ってどんなんだよ?」

「ドラゴンとかが居たら、咆哮だけで死ぬんじゃないか?」

「ありえるな」

「二人共、雑談はそこまでよ。ミノタウロスが近付いて来たわ」


 ミノタウロスは重々しい足音を立てながら、俺達に駆け寄ってきていた。


「二人共、少し離れてくれ」

「了解、頼むよ裕二。……柊さん」

「ええ」


 ミノタウロスに正面から対峙する裕二を通路の中央に残し、俺と柊さんは通路の端に寄る。ミノタウロスは距離を取る俺と柊さんには反応せず、通路の中央で待ち構える裕二に駆け寄り棍棒を振り下ろした。


「しっ!」


 裕二は振り下ろされた棍棒の軌道を見切り、ギリギリで避けながらミノタウロスの首筋に右手に持った時雨を逆手で突き立て捻った。

 そして裕二は、血が噴出する前に大きく跳躍しミノタウロスから距離を取る。

 ミノタウロスは血が噴出する首筋に手を当て止血しようとしていたが、出血量が多く膝から崩れて巨体は地面に正面から倒れた。


「ふぅ」

「お見事、裕二」

「狙い澄ました一撃だったわね」


 倒れたミノタウロスを警戒しつつ、俺と柊さんは裕二に歩み寄った。無警戒に近付いた所を襲われたら事だからな、残心は重要だからな。

 裕二も俺達が側に寄った事で、漸く構えを解く。


「まぁ、これくらいはな。それより……柊さん」

「ええ、分かっているわ」


 柊さんは剥ぎ取りナイフを取り出し、ミノタウロスの死体に突き立てる。ミノタウロスの体は分解され、コアクリスタルと一塊のミノ肉が残った。

  

「うーん、3kgって所かしら?」


 ミノ肉を拾い上げた柊さんは、手に持った感覚から重さを測る。 

 3kg……ミノ肉は100g数千円はするから、あの一塊で数十万円か。


「はい、九重君」


 柊さんがミノ肉を俺に差し出してきたので、空間収納から取り出したラップで軽く巻き保冷バッグの中に入れて空間収納に戻す。

 移動中は邪魔だからね。


「さてと、まだまだ時間はあるんだから、次のミノタウロスを探しに行こうか」

「そうだな。換金分と食用分を確保するなら、もう少し量がいるな」

「ええ、そうね」

「じゃぁ、出発しよう」


 少し休憩を挟んだ後、俺達は再びミノタウロスを探し20階層の探索を再開した。 

 結果、今日の探索の成果はミノ肉が保冷バッグ1つ分、30kg程だ。半分の15kg程を換金し、残りを5kg程ずつに分け持ち帰る事になった。

 柊さんはドロップアイテムの換金作業後、換金して得た金額の一部でオーク食材を窓口で購入する。

 

「どうやらオーク食材も無事に買えた様だね」

「ええ。自分達でオークを狩るより、深く潜れるなら金銭購入した方が効率が良いわよ」

「オーク肉よりミノ肉の方が買取単価が高いからな。同数のミノタウロスを倒せるのなら、オーク肉は金銭購入した方が効率は良い」

「ミノタウロスをオークと同量狩れる、って言う条件を満たせるならね」

「普通の探索者には無理な条件よね、ソレ」


 俺達の様な存在は流石に例外だろう。ゲームで例えるのなら、魔王城に到達出来る勇者パーティーが始まりの街付近で狩りをしている様な物だ。少なくとも、高レベル探索者である必要がある。

 

「まぁ、そうなるな。でも、下層探索の収益でオーク肉金銭購入が可能だって言う事が分かったから、柊さんが下層に潜る事に支障はないよね?」

「ええ。オーク食材が手に入るのなら、自分で狩ろうと金銭で購入しようと、どちらでも問題はないわ」


 これで、下層に潜る懸念の一つが無くなったな。

 裕二は柊さんの返答に、ホッとした様な表情を浮かべていた。


「じゃぁ、もう遅いし帰ろうか?」


 話も纏まったので、俺達はお土産を持って帰路へと就く。

 因みに、ミノ肉は家族で夕食のオカズとして美味しく頂いた。

 

 

 


 

 

 

 


 高校生の日帰り探索では、この辺りがダンジョン潜航時間の上限でしょうか?

 もう少し行けそうな気もしますが……。

 

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― 新着の感想 ―
妹の心配がそろそろ食傷気味。心配なのはわかるけど散々諭されてるのに気をつけてねくらいで済まされないなはちょっと。
[一言] そういえば収納に大量ストック分はもう換金したの? 最下層まで降りれたらワープ使えるようになるのにね。行きつけのダンジョンって何階層なんだろ?
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