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幕間八拾話 娘の先輩達って…… その1

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 娘がその話題を持ち出してきた時、とうとう来たかと思いながら私こと舘林健吾は溜息を漏らした。世界中にダンジョンが出現し1年半ほど経ち出現当初は不安と混乱が広がったものの、その有用性に注目が集まり日本でも1年ほど前から民間人にも開放された。ダンジョンから産出される資源のお陰で低迷していた日本経済は活性化し、ダンジョン由来の新技術なども開発され日常も変化、特に探索者と呼ばれるダンジョンに潜る人々の活躍には目覚ましいものがある。

 そして探索者に成る若者は多く、探索者資格が得られる年齢に達した学生が探索者になる事例が多くあった。いずれ何らかの規制が掛かるかもしれないが、現状は何の制限もない状態なのだ。


「探索者になりたい、ね」


 私の反応に娘は不服そうに頬を膨らませジト目で見てきたが、軽く頭を左右に振りながら話の続きを聞く。何の話も聞かないままに反対するのもアレだろうし最近の学校、学生探索者の増加事情を考えれば娘からこの手の要望が出て来るのは無理もない。

 夏休みも過ぎ、周りの友達の多くが探索者資格を取得しているという話も以前聞いた事があったしな。


「うん、そうだよ。この話をした時、お父さんとお母さんに反対されるかもとは思っていたけど、そんなにダメ? クラスの皆は夏休みの間に、探索者資格を取ってダンジョンにいってたんだよ?」

「ダメというより、麻美が周りに流されて決めていないか心配なんだよ」

 

 学生が周りの子が皆やっているからという流れで探索者になり、良く調べもしないで始めて大怪我を負ったという話は何度も耳にする。確かに学生でも始められ短時間で大きな利益も出せる探索者だが、それに伴って大怪我を負うリスクも少なくないのが探索者というものだ。国家戦略の一環かもしれないが、しきりにメディアがダンジョン特集などを組んでダンジョン探索を煽り掻き立てている。リスクはあるが、それに値するメリットがあると。

 だからこそ不安なのだ、娘が流行に乗る為にろくに調べもしないで探索者になりたいといっているだけなのではないのか?と。


「そんな訳ないじゃない。こうやっていい出す前に、ちゃんとある程度の準備はしてるよ。探索者をやっている友達に色々生の話を聞いてるし、ネットなんかで情報収集もしてる。あと同じ部活の友達に教えて貰いながら、探索者をする為の体力作りなんかもやってるんだから」

「体力作り?」

「うん、最近は放課後に学校のグラウンドの一角を借りて運動してる。ウチの学校の運動部、今部員の人数不足で殆ど活動休止中だから場所は空いてるの。断りを入れておけば、迷惑にならない範囲で好きに使えるんだよ」

「そういえば聞いた事があるな、運動部の活動停止が多くなっているって」


 麻美の説明を聞き、TVニュースなどで探索者人口の拡大に反比例し各種スポーツ競技者人口が減っているといっていたなと思い出す。どうやらこの問題は、学生探索者が沢山出ている学校の部活にこそ大きな影響が出ている様だ。

 しかし、ちゃんと現役の探索者に話を聞き、自分で広く客観的な情報も調べ、ダンジョン探索に耐えられる体作りもしているともなれば、流行に乗って探索者になりたいといっているだけではないみたいだな。


「そうそう。夏休み中に新入部員だった1年生が探索者資格をとって部活を辞めた上、受験勉強の為に3年生が引退したから、個人戦のスポーツの部活はともかく、チームスポーツの部活は規定人数を割って試合自体が出来なくなってるっぽいよ」

「なるほど、夏休み明けに上と下が一気に居なくなれば活動中止に追い込まれるな。しかし、麻美もしっかり準備は進めていたんだな」

「そうじゃないと、お父さん達も納得できないでしょ? コレからやるっていうより、準備してきたっていう方が説得力あるしさ。それに今からトレーニングを始めるとなると、実際にダンジョンに行けるようになるまでには何ヶ月も後になるじゃない」


 確かに、娘が言っている様に今からトレーニングを始めていたら、実際にダンジョンに行けるコンディションになるには何ヶ月も後になるだろうからな。

 ダンジョンが民間に開放された当初、色々な人達が競うように探索者になったが、比例するようにケガ人も続出した。怪我をした人達の原因で多かったのは普段ろくな運動もしていない、運動不足の人々が多くを占めていたとか。中には怪我をした原因はモンスターとの戦闘ではなく、捻挫や肉離れ、アキレス腱の損傷といった普段の運動不足から来る怪我でリタイアしていたと聞く。


「じゃぁこうして麻美が探索者になりたいと言い出したという事は、それなりに体作りが出来たからという事かな?」

「うん。探索者をやっている友達がいうには、単独じゃなければダンジョンの一階層に入っても怪我をしないですむ程度にはましにはなったかなって」

「……それは、安心して良いのか?」

「どうだろ? でも経験者が大丈夫だっていうんだから、最低限は動けるようになっているとは思うよ」


 娘の探索者に対する意欲と努力に感心はするのだが、現役探索者からの何ともいい難い評価に私は首を傾げる。最低限とはいうが、その最低限の基準が分からないので何ともいえない。

 さらに単独でなければという以上、娘一人でモンスターと戦う事になったら怪我をする可能性があるという事でもあるからな。


「なぁ、まだ早いんじゃないか? せめて単独でも怪我をしない程度になるまでは、事前に準備した方が良いと思うぞ」

「うん、それは私もそう思う。私も態々痛い思いはしたくないしね。後その友達がいうには、基礎能力的にはっていってたから武器を使って戦う訓練をすればもう少しましになると思うよ?」


 つまり娘の友達のいうダンジョンに入って怪我をしないで済むというのは、モンスターを倒すのではなく、モンスターと遭遇しても逃げるか回避できるという意味なのかな?

 そしてモンスターと戦う練習はこれからと?


「麻美はその友達と、まだ戦う訓練はしていないのか?」

「うん、まずは基礎能力の向上からだって。武器を使うにしても、最低限の筋力なんかの身体能力が無いと上手く使えないからっていってたよ」

「まぁそうだろうね。武器はただ振り回すだけでも疲れるだろうから、ちゃんと使いこなそうと思ったらそれなりの基礎能力が無いと辛いだろう」


 私は学生時代に体育の授業で竹刀を使った時の事を思い出し、娘の友達の基礎能力の向上から訓練を始めた方針に感心する。確か昔、型通りに竹刀を20~30回素振り練習をしただけでも腕が酷く疲れていたからな。

 最低限の筋力や体力が無いと、とてもでは無いがダンジョンでモンスター相手に武器を振り回して戦うなんて真似は出来ないだろうな。仮に出来たとしても、数回の攻撃で確実にモンスターを倒すという事が出来なければじり貧になる事が目に見えている。

 

「確かにそんな感じの事をいってた。探索者になってレベルが上がれば身体能力に強化補正が掛かるけど、それが実感できるレベルになるまでは素に近い身体能力で戦わないといけないから、基礎能力の向上は大事だって」

「なるほど、探索者はレベルが上がると強くなるとは聞いていたがそういう落とし穴もあるのか。そして、その辺の情報を良く調べもせずに鵜呑みにしてダンジョンに挑んだ新人が良く怪我をしている、という訳か」

「多分そういう事だと思うよ」


 成りたての新人探索者に怪我人が多いという話は聞くが、そういう事情があったんだな。確かに探索者がダンジョンでモンスターを倒し、レベルを上げる事で強くなる事は広く知られている。TV等のバラエティー番組なんかでも、その事をメインに扱った企画なんかも放送されているからな。レベルを上げた探索者は常人離れした身体能力を発揮できる、コレは既に広く知られている事だ。

 故に、探索者になれば直ぐに強くなるという誤認が広まっているという事か。私も探索者になり少しすれば、TVで見る探索者の様な能力を発揮できるのだと思い込んでいたからな。TVに映る様な感じになるまでに時間が掛かると知らないで新人が無理をすれば、自分の実力を見誤って怪我をする者が出るのも無理はないか。





 

 娘の話に頷き納得しつつも、新たな疑問が次々に出て来る。


「なるほどな。そういう状況なら、まだ暫くはダンジョンに行くって事は無いんだな?」

「うん。うちの部の探索者をやっている先輩からも、基礎能力は勿論だけど最低限の戦闘訓練はしておかないと、ダンジョンに行ってもモンスターを前にして動けずに怪我をするだけだっていわれたよ」

「ん? お前の所属する部活の先輩というのは、もしかして体育祭の時にとんでもない演武をしていた彼等の事か?」

「そうだよ」


 どこか誇らしげな表情を浮かべつつ娘は頷き、私が考えている者達で間違いが無いと肯定する。あの時に見た光景は、今思い出してもかなり衝撃的だった。探索者が凄い身体能力を発揮するというのはTVなどを通じ知っていたが、実際に自分の目でその動く姿を見るとまるで違った。

 正直あまりに現実離れした光景に、凄いという感想しか出て来なかったけどな。


「で、その先輩達にも探索者になりたいって相談したんだけど、まずはちゃんとご両親に探索者になりたいという意思を伝えて話をしなさいって。探索者になるなら色々入用になるし、学生なら親の了解や協力が必要になるから」

「うん、まぁそうなるか」

「探索者をやっている友達の話を聞いてるだけでも結構初期投資でそれなりにお金が掛かるみたいだし、武器関係の購入には未成年だと親の協力は必須だよって」


 確か真剣などの武器関係の物は、法律の関係で未成年の学生だと購入出来ないってTVでいってたな。そのせいで学生探索者の多くは、ホームセンターなんかで工具や鉄パイプなんかを武器として調達しているとかなんとかって。

 

「先輩達がいうには抜け道として、親が武器を購入して子供に譲渡するって方法があるっていってた。だから私達がちゃんとした武器を使うなら親の協力は絶対に必要で、ちゃんと話し合いをして納得して貰う必要があるんだって」

「成る程、そういう抜け道があるのか。確かにその方法を使うのなら、親を説得し協力して貰う必要があるな」


 なるほど、そういった裏技があったのか。いわれてみれば偶に娘と同じ年頃の学生探索者が、工具などではない立派な武器を持っている姿がTVに映る事があったが、そういった裏事情があったのか。

 学生探索者の間でホームセンターで購入した武器を、それっぽい見た目にするのが流行っていると聞いていたので、TVに映るあれもその一つと思っていたのだが本物だったのか。


「うん。それにそういったちゃんとした武器は少しお高いから、学生が購入するにはどうしても親に支援して貰う必要があるから、その辺もしっかり話す様にって」

「……やっぱり、そういった武器って高いのか?」

「うん。友達に聞いた限りでも、安くて数十万円はするって。先輩も武器は下手に安い物を買うとモンスターとの戦闘中に壊れる可能性があるから、多少高くてもちゃんとした新品を買う方が良いって」

「まぁモンスターとの戦闘中に武器が壊れたら事だからな、その先輩が質の確かな新品を勧める気持ちは分かる」


 とはいえ、武器一つ買うのに数十万円の出費か。確かに娘の様な学生が購入するには、親が購入費用を支援するしかないだろうな。

 

「うん。あと素人が下手にその手の武器を使うと壊れるから、使いこなすための練習も必要だっていってたよ。協会が推奨する特殊合金製の武器なら多少手荒に使っても大丈夫だけど、かなり高額だから学生が手を出すのは難しいって。だから経験の無い素人が適当に使うなら、頑丈な鉄パイプやバールなんかを使った方が良いかもしれないともいってた」

「鉄パイプにバール……学生探索者がホームセンターで武器を買うのも強ち間違った選択でも無いのか」


 見た目はあれだろうが、実用性オンリーの武器として考えれば悪い選択でも無いのか。まぁ普通の学生が刀剣類の武器の扱い方に習熟しているなんて事は、稀な事例だろうからな。

 そう考えると、ちゃんとした武器を勧めてくる娘の先輩達は稀な例という事か。武器の扱いに精通していなければ、扱いが下手だと壊れやすいなどといった助言は出来ないだろうからな。


「出来る事なら、その先輩達も交えて話をしてみたいな。学生とはいえ探索者としては、私達よりその先輩やお友達の方が詳しい事情を把握しているだろうからな」

「そうだね……会えるか予定聞いてみようか?」

「頼めるか?」

「うん、学校に行った時に聞いてみるね」


 こうして探索者業界に対する知識が乏しい自分達だけでは即決する事は出来そうにないので、その業界の事を良く知るという娘の先輩達を交えた話し合いの場を娘にセッティングして貰う事になった。娘が十分に準備をした上で探索者になりたいと意思表示している事は理解できたのだが、やはり探索者業界の事をあまり知らない状態ではね。

 出来ればその先輩達に、探索者としての基本をレクチャーして貰える様になると良いのだが。 
















ご時世的に何れかはいい出すと覚悟はしていたもののいざ直面すると、ですね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
鈍器って外してゴーンにさえ慣れれば当たれば基本ダメージいくし武器としては優秀なんよなぁバールとか振り回すのは正直持ち手部分すべらないようにとかちょっと改造したほうがいいんじゃね?って見てて思うけどw …
これが三者面談?(希望者・父兄・指導者)につながっていくのですね。 話の中が、少しずつ詰まってきて、良い感じがします。
竹槍ならぬ鉄パイプ槍なら壊れる事も無いしバールも壊れない、鉄の塊系の大型工具とかの類いは無茶しても壊れないし頑丈だし、購入も容易なのがいい。 ゾンビが町に溢れてもホームセンターなら何とか成りそうな安心…
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