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第555話 目標達成、そして……

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 試験を終えた舘林さんと日野さんに合流した俺達は、近くのファミレスに入り試験の手応えを聞く事にした。合流した時、2人とも微妙な表情を浮かべていたので気になるしな。

 まぁ落ち込んでいるような雰囲気は無かったので、大コケした訳では無いと思うけど。 


「それで、試験の方はどうだったの? 2人の様子を見るに、ヤマ賭けをして大コケをしたとかはしていないとは思うんだけど?」

「えっと……」

「その……」


 試験はどうだったかと尋ねてみると、舘林さんと日野さんは互いに顔を見合わせ何かいい出し辛そうな表情を浮かべていた。

 手応えを感じたや、やらかしたとも違う、実に妙な反応である。


「どうしたの? もしかして、俺達が知っている試験内容とは違う内容だったとか?」


 既に探索者試験が始まってから1年ほど経過しているので、ダンジョン探索の実情に合わせて試験形式が変更されている可能性も無くもない。まぁその場合は流石に事前告知しているだろうから、何も事前情報が得られないという事は無いと思う。

 となると、本格的に何があったんだ?


「あっいえ、試験内容自体は先輩達から聞いていたのと特に変わりはありませんでした。ただ……」

「ただ?」

「聞いていた話より、大分内容が簡単だったというか、手応えが無かったというか……」

「えっ、そっち?」


 何かあったのかと心配したが、まさか試験が簡単で拍子抜けしていたとは思ってもみなかった。確かに一発で合格出来る様にと、筆記実技共に色々と教えたからな。

 探索者資格試験の合格だけを見据えれば、過剰な練習だったかも。


「はい。筆記試験の方は先輩達から教えてもらっていた内容とほとんど変わらなかったので、20分もあれば全問回答出来ました。多分ですけど、合格ラインの点数は確保できています」

「先輩達がいってたように、真面目に講習を受けていればまず落ちないですよね、あの筆記試験」

「まぁあの筆記試験で合格点を落とすようなら、探索者は目指すべきじゃないだろうな」


 講習をしっかり聞いていれば、事前に試験勉強をしていなくとも全員合格出来る様な試験だからな。初期の探索者人口確保の為だろうけど、もう少し難しい問題や出題数を増やすなどの対応をした方が良いと思う。

 ダンジョン開放初期に比べたら1度の試験における志願者数も減ってきただろうから、もう少し人員の質を厳選する方針に移行しても良いと思う。全体の比率からすると少ないのだろうけど、質の悪い探索者もいるにはいるからな。


「そうですよね。多分TVの探索者特集とかネット情報を見ていたら、講習を受けなくても合格出来ると思います。何もしていなくても自然と見聞きする情報にも疎いとなると、探索者を目指しているとは思えません」

「あっ、それ私も思いました。美佳ちゃん達とダンジョン関係の話をしていると出て来る単語とかが試験問題として出てきていたので、講習を聞いている時も何となく知ってる話だなって思って聞いてました。ダンジョン関連の話題に興味を持って触れていれば、あの筆記試験は落ちようが無いんじゃないかな」


 探索者として常識的な範疇の問題しか出題されないからな、本気で探索者になろうとしている者なら何となく聞いた事がある問題ばかりだったはずだ。

 

「まぁ探索者として最低限の知識が有れば良い、そういう試験だからね、あれ」

「そうだな。でもまぁ、そんな感じなら2人とも筆記試験の方は大丈夫だろう。実技試験の方は?」


 愚痴というか筆記試験の在り方に疑問を呈す事が出来るのなら、赤点を取る事も無いだろうから筆記試験の合否は問題ないと思う。

 裕二も問題ないと判断したのか、軽く頷きつつ実技試験の出来について尋ねる。


「実技試験の方も問題ありませんでした。寧ろ試験より、普段先輩達に見て貰っている練習の方がきつかったですよ。確かにトラップを突破しろっていうのは初めてでしたけど、注意深く周りを観察すれば何かあるというのは分かりますからね」

「それにトラップが作動しても、避けられない速さでもありませんでした。むしろ先輩達が練習で繰り出してくる攻撃の方が、トラップより速度は遅くても余程避けられません。お陰で回避試験の方も、ノーミスでクリアです」


 舘林さんと日野さんは日々の練習を思い出しているのか、少し遠い眼差しをしつつ力無く頭を左右に振る。まぁ完全に不意を突くようなトラップなら兎も角、あると分かっているトラップなら今の舘林さんと日野さんなら避けられるだろうからね。

 それに俺達は放課後の練習の時には、敢えて来るのは分かるのに体勢を崩されて避けれそうで避けられない攻撃をしている。コレは戦闘時の体幹の重要性とか、隙を作らない体捌きの練習の為だ。変な攻撃や無理な防御、強引な回避は致命的な隙を作る切っ掛けになるからな。


「まぁ、そういう風にやってるからね。でもそういう反応をするって事は、問題なく実技試験もクリアできたって事か」

「はい。制限時間内にクリア出来ましたけど、寧ろ自分達の順番が回ってくるまでの待ち時間の方が凄く長かったです。結構多くの人が苦戦したみたいで、制限時間一杯一杯までかかるので長かったですね」

「私達2人が実技試験のトップ合格者でしたよ。試験監督官の人が驚いてました、制限時間前にクリアした受験生は久しぶりだって。まぁ回避試験の方は、ノーミスでクリアする人は結構いるそうですよ」


 舘林さんと日野さんは実技試験の成果に、少し誇らしげな表情を浮かべていた。訓練の努力が試験で実った結果だからな、誇っていい事だろう。

 まぁ何にしても、2人とも実技試験の方も問題はないようだ。


「それじゃぁ2人とも問題なく試験は合格出来そうだな。良かった良かった」

「はい、多分大丈夫です。でも少し手応えを感じれなかったのが残念です」

「それは試験が簡単すぎた結果だろ? 今話を聞いた限りだと大丈夫だって」

「そうだと良いんですけど……そうですね、大丈夫ですね」


 簡単にクリアできたゆえの手応えの無さに2人とも少し不安げな表情を浮かべるが、それは簡単に感じられる程に頑張って鍛えた結果だ。合否を心配する様な事はないだろう。

 

「そうそう、まぁ試験の合否は数日中に届くだろうから直ぐに結果は分かるよ。その後免許を発行して貰うから、早ければ来週には2人とも探索者デビューだ」

「「探索者、デビュー……」」


 舘林さんと日野さんは、厳しい訓練をしてまで目指していた探索者デビューという目標が叶う目前まで来ている事に気付き感嘆の溜息を漏らす。


「そう、この間の簿記検定の様に何週間も待たされる事は無いからさ、合格している事を前提に色々準備を進めようか? 防具類は美佳達の話も聞きながら中古市場なんかで揃えてるだろうけど、ダンジョン内で使う消耗品なんかはまだでしょ? 折角協会支部まで来たんだし、この後少し支部内の専門ショップを見て回ろうか」

「えっ?」

「支部内には探索者が使う、協会推奨の専門用品ショップがあるんだよ。ちょっとお高いけど、質は良い物が揃ってるしさ。ダンジョン内部、モンスターが跋扈しトラップが満載の場所で使う品だからね。安いからと粗悪品を使っていたら、本当に大事な場面で使えないって事もあるしさ。多少高くとも、安心して使える質を伴った物を使わないと」


 新人探索者が安い市販品を使っていて、モンスターの攻撃が少し掠っただけで破損し中身をぶちまけて、注意が逸れた所を攻撃され怪我をするといった事例が良くある。特に学生探索者の新人はお金が無いので、初期投資を減らそうと武器や防具に予算を回し、バックパックなどの補助道具を安く済まそうとする傾向にある。

 結果として治療費、武器や防具の補修費に新規購入費などで更なる支出を強いられる事になる事も多い。安物買いの銭失いとは正にこの事だな。


「例を挙げると、あまり安いヘッドライトなんかを使っているとモンスターとの戦闘中のちょっとした衝撃のせいで作動不良を起こし、ライトが消灯し視界を失うなんて事にも陥ったりする。ダンジョン内部での最低限の明かりは確保されてるけど、モンスターとの戦闘中に光量が極端に変わる上、明るい視界を確保するための光が失われる事の危険性は分かるよね? 高いものには高いなりの理由があるという事だよ」

「確かに使っているものが何時壊れてもおかしくないといった疑問が付きまとっていたら、怖くてモンスターとの戦闘では使えませんね。今例に出されたようにヘッドライトが壊れない様に、衝撃を与えないようにモンスターと戦う事なんて私達には出来ませんし」

「今活動している多くの探索者がそうだよ。だからこそ、多少高くとも確りと品を揃えないとね?」

「「……はい」」


 舘林さんと日野さんが納得してくれたので、俺達は探索者協会支部に戻り専門ショップ巡りをする事にした。最近は見に来ていなかったので、何か新商品が置いてあると良いんだけどな。

 





 舘林さんと日野さんが探索者資格試験を受験してから3日後、何時もの放課後訓練を終え帰宅すると2人から待ちに待っていたものが届いたとの連絡が入る。無論、探索者試験の合否通知の事だ。

 そして俺は、その事を大騒ぎする美佳経由で知った。


「ほっ、そうか合格したか」

「うん、2人そろって合格したんだって!」

「まぁあの内容の試験だからな、確り試験対策の準備をしていた2人なら合格して当然だよ」

「うん! でもこれで麻美ちゃん達も探索者か……先輩として色々教えてあげないと」


 美佳は舘林さんと日野さんの試験合格に喜びつつも、先輩探索者になるにあたり後輩にどういった指導をしようかと責任を感じさせる笑顔を浮かべていた。

 うん、良い傾向だな。今まで俺達の後輩として後についてくるばかりだと思っていたのに、な。


「まぁ程々にな? 俺達も舘林さん達の指導は続けるつもりだから、余り根を詰めるような指導はするなよ?」

「何いってるの、それはお兄ちゃん達がいえる事じゃないよ!? お兄ちゃん達の訓練って、凄いスパルタ教育じゃない!」

「いや、でもさ、実際にダンジョンで怪我をするよりは良いだろ?」

「それはそうだけど、厳し過ぎるって! 何で私達が耐えられたのかは分からないけど、他の探索者をやってる子に聞いたらそこまでの訓練はしないって引かれた事もあるんだからね!」


 俺達が受けた訓練(重蔵さん・幻夜さん監修)に比べたら大分マイルドな訓練だと思うけど……そっか、美佳の探索者友達に引かれる様なスパルタだったのか。

 まぁそういわれても、ダンジョンで怪我をするよりはマシだろうから続けるんだけどね。


「まぁ、教育方針は人それぞれだよな」

「納得いかないけど、お陰で私達がダンジョン探索を始めてから大きなケガはした事ないから何もいえない。納得はいかないけど……」

「そこは納得しろよ。それに碌な訓練も無く実戦を繰り返して、戦い続ける事で鍛えるってのは立派なスパルタ教育の極みなんだけどな? そこんとこどう思う? 事前に練習させる分、俺達の方針の方がマイルドだろ?」


 俺の指摘に美佳は悩まし気な表情を逡巡した後、苦々しげな表情を浮かべながら力無く頷き同意する。


「……そう、だね」

「まぁ依頼が終わった後の話は、また改めてって感じで進めよう。それより今は2人の合格をお祝いしよう。手早く発行手続きを進めれば、今週末にはダンジョンデビューも出来るからな」


 合格通知が届いた以上、支部の方で手続きを進めればその日の内に探索者カードは発行されるからな。そして探索者カードがあれば、その日にダンジョンに入る事も出来る。

 まぁカードを発行した日に、そのままダンジョンに行く初心者は少数派だろうけどな。


「じゃぁさ、早速明日の放課後に皆で協会に行ってカードを発行して貰おう? 経験者がいた方が、手続きも早いだろうしさ」

「そうだな、それでもいいかもしれないな。軽く体を動かした後、皆でいってみるか」

「うんうん、それじゃぁ早速明日行くよって連絡してくるね!」

「ああ、ついでに必要な提出書類もしっかり準備しておく様にいっておいてくれ。必要書類を忘れてまた後日、ってのは面倒だからな」


 必要書類が足りずに手続き不能ってのは、あるあるの失敗ネタだからな。

 そして翌日、放課後の訓練を程々に済ませ、俺達は探索者協会支部へと数日振りに足をのばし舘林さんと日野さんの探索者カードの発行手続きを行った。平日という事もあり待ち時間も少なくカード発行は直ぐに行われ、晴れて舘林さんと日野さんは探索者としてデビューをする事になる。


「おめでとう、これで2人も探索者だね」

「「はい、ありがとうございます」」

「とはいっても、あくまでも探索者としての資格を得ただけだから、探索者としての本番はこれからだよ?」

「探索者はダンジョン探索へ行ってこそ、ですね?」


 軽く息を飲んだ舘林さんが確認する様に尋ねて来たので、俺は頭を縦にゆっくりと振り肯定する。


「そう、全てはダンジョンに行ってからだよ。探索者を続けるも辞めるも、実際のダンジョンを体験してからじゃないと分からないからね」

「「……はい」」

「それじゃぁ早速、予定通りに今週末の日曜日にダンジョンデビューといこうか?」

「「はい!」」


 こうして探索者デビューを果たした舘林さんと日野さんは、気合十分といった表情を浮かべながらダンジョンデビューへと意欲を見せた。

 うん、俺達も2人に負けないように頑張るとしよう。
















資格試験を合格し、後輩も無事に探索者デビュー。

次話から幕間を数話挟みます。


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挿絵(By みてみん)

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なんだかフォークリフトの講習みたい。ちなみに免許ではなく講習の受講済証です。 学科と実技の試験がありましたけど学科はまさに常識の範囲でした。実技はどれだけ練習出来たか次第みたいな感じ。 あとはどれだけ…
洗浄スキルみたいにダンジョン内でヘッドライトをふとしたミスで落として壊して致命的な事態になる可能性や戦闘のしやすさを考えるとNESの3人みたいに光源魔法を取得することにした探索者は結構いるかも まあ…
たくさん居る、ダンジョン1層に入場するのがやっとの初心者免許レベルの試験だからなぁ。 1層の探索だけで、戦闘なしだとすると、そんなものだろうな。 (車の若葉マークですら無い、路上教習すらせずに  敷…
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