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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第5章 ダンジョン中層階に向けて
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第53話 新生した相棒達の姿

お気に入り9540超、PV 3230000超、ジャンル別日刊18位、応援ありがとうございます。

 

  

 

 柊さんの両親の説得が終わった翌週、俺達は電車とタクシーを乗り継ぎ恭介さんの仕事場に顔を出していた。不知火達の打ち直しが完了した、と言う連絡を受けたからだ。

 俺達は前も使った応接室で、お茶を飲みながら恭介さんを待っていた。


「はぁ……」

「どうしたの柊さん?」


 柊さんがお茶を飲んだ後、庭を見ながら深い溜息を吐く。

 随分と黄昏た感じの溜息だ。


「ちょっと、ね。恭介さんから伝えられた、支払額の事を考えて……」

「ああ、その事……」


 柊さんの溜息の意味を理解し、俺も同じ様に溜息を吐く。数日前、恭介さんから電話を貰った時に伝えられた、最終的な支払額は100万円を僅かに超えたからだ。

 一応支払えない額ではないが、柊さんからしたら借金が増える形だからな。


「御陰で、私達も立派な個人事業主よ」

「まぁ、ね」 


 俺達は昨日、税務署と法務局に出向いて、開業届けと未成年者登記簿を提出し個人事業主となった。個人事業主の登録をすれば、経費として処理出来て税金が安くなるからだ。<年間総売上>-<必要経費>=利益で、利益が課税対象になる。今回の作刀費も、開業費として経費で処理出来る事になった。

 しっかし、刀の耐用年数ってどれ位なんだ? 額が額だから資産扱いされるが、正直消耗品扱いにして貰いたい。元の不知火だって、実質半年持たなかったからな。


「コレからはちゃんと、探索者業関係でお金を使ったら領収書を貰わないとね」

「……はぁ、面倒だわ。飲食費や交通費の領収書なんて、今まで貰った事ないわよ」


 柊さんが溜息を吐き、釣られて俺も溜息を吐きたかったけど我慢する。

 ここに来る時、タクシーの運転手さんに領収書を出して貰った時は、奇異の眼差しを向けられたからな。まぁ、高校生位の若者が領収書を求めるのは珍しいだろうから、仕方ないのかもしれないけど。

 気持ちを落ち着けようとお茶に口を付けた時、応接室の襖が開き恭介さんが姿を見せた。


「待たせちゃって、ごめんね」

 

 久しぶりに見た恭介さんの顔は、些か疲労が溜まっている様に見えた。


「いやぁ……中々の難物で良い勉強させて貰ったよ」


 テーブルの対面に座った恭介さんは、俺達に遠回しな愚痴を漏らす。

 いや、いきなり愚痴られても困るんだけど……。  


「預かった刀は大学の知り合いに頼んで、成分調整しながら上手く再精錬して貰えたよ」

「大学、ですか?」

「ああ。溶かすだけならウチでも出来るけど、成分調整となると畑違いだからね。刀数本分と言う少量だと、製鉄所には頼めないから大学の知り合いにね」

「へー」


 恭介さん、そう言うツテがあるんだ。

 俺が小さく感心していると、少し言い辛い話題なのか恭介さんは少し顔を歪めながら話を切り出す。


「それと事後承諾で悪いんだけど、超高純度鉄を大学で刀を再精錬してもらう時の交換条件に、研究用に少し欲しいと言われたので譲渡してしまった。君達に相談せずに勝手に決めてしまって、申し訳なかった」

「あっ、いえ。アレは恭介さんに使い道を一任して預けた物です。恭介さんに好きに使って貰っても良い物なので、気にしないで下さい」 

「……そうか有難う」


 恭介さんは俺の言葉を聞いて、心底ホッとした様に胸をなで下ろす。まぁ、超高純度鉄はキロ、百万円以上の代物だからな。今回俺達が恭介さんに渡した超高純度鉄は凡そ10キロ、売れば1千万円近い代物だ。少量の譲渡とは言え事後承諾で譲渡してしまったんだ、気が気じゃなかったのだろう。

 恭介さんが胸をなで下ろしていると襖が開き、お茶とバインダーを持った女性と5つの木箱を持った青年が応接室に入ってきた。 


「恭介さん、指示された品物をお持ちしました」

「ああ、ありがとう。テーブルの上に置いておいて」

「はい。……では、失礼します」


 女性と青年はお茶とバインダー、木箱を置いて応接室を後にした。

 恭介さんはお茶を一口啜った後、4つの木箱をそれぞれ俺達の前に差し出す。俺の前に1m程の木箱が一つ、裕二の前には60cm程の木箱が2つ、柊さんの前には2m程の木箱が一つ。 


「まぁまず、品物を見てみてくれ。良い物に仕上がったよ」

「はい。では、失礼して……」


 俺達はそれぞれ目の前に置かれた木箱の中身を確認する。

 蓋を締める紐を解き、紫色の布を捲るとそれは姿を現した。

 

「おおっ」

「へー」

「わぁー」


 俺は箱に収められた、生まれ変わった相棒の姿に目を奪われた。それは、裕二や柊さんも同じの様だ。

 漆塗りで仕上げられた、品のある光沢を放つ黒基調の鞘。黒染めされた木綿糸を使い、丁寧に編みこまれた捻巻。不知火から移植されたであろう、メッキし直した駐爪が付いた鍔。  

 外観の仕上げは、見事の一言だ。


「刀身の方も見てくれるかな?」 

「あっ、はい」


 恭介さんの促す声を聞き、俺たちはハッとし生まれ変わった相棒を手に持つ。

 ズッシリと来る重量感が何とも言えない、が。


「あれ? 前のより少し重いような気が……」


 違和感を感じた俺は、気のせいかと怪訝な表情を浮かべながら頭を少し捻る。だが、裕二や柊さんも同様の様で、首をひねっていた。

 俺達が揃って首を捻っていると、恭介さんがその答えを教えてくれた。 


「ああ、気付いた? 実は刀身の強度を増す為に、それぞれの刀身を少しだけ分厚くしているんだ」

「へー、でも何でですか?」

「皆の使用目的を聞いていると、切れ味もだけど強度の方が重要な要素なのではないかと考えこう言う処置を取ったんだよ。若干重くなってしまったけどね」

「……なる程」


 確かに切れ味も重要だが、一番重要な事は使用中に折れない事だ。モンスターとの戦闘中に武器が折れるなどしたら、最悪だからな。


「今回打った刀は、甲伏せという手法で作ったよ。預かった刀を溶かして成分調整をし直した硬鋼を皮金とし、超高純度鉄と高純度炭素を合成した軟鋼を心金にした御陰で、今まで以上に粘り強く折れにくい物に仕上がっていると思うよ」

「そうですか……じゃぁ、刀身を見させて貰いますね」

 

 俺は駐爪を押し外し鯉口を切る。鞘から少し引き抜くと、白銀の刀身が姿を見せた。以前の不知火とは違い、美しい波紋が刻まれた刀身が姿を見せる。

 

「……凄いですね。見事と言う言葉しか、思い浮かびませんよ」

「そう言って貰えると、頑張った甲斐があったよ」


 俺は心此処にあらずと言う感じで恭介さんを口で称賛しつつ、唖然とした眼差しで刀身を凝視し続ける。恭介さんはそんな俺の態度に腹を立てる事もせず、苦笑を漏らす。

 俺は恭介さんの苦笑を耳にしながら刀身の残りを鞘から引き抜き、光に翳しながら生まれ変わった不知火の刀身を眺めた。


 

 

 

 

 俺が生まれ変わった不知火に見入っている傍ら、柊さんは恭介さんに疑問を投げかけていた。


「恭介さん。私の槍、槍頭もですけど柄の方も変わってませんか? 重さもですけど、握り具合からして、前の槍より一回りか二回り程太くなっていますよね?」

「ああ。柊さんの槍は、柄の方にも超高純度鉄製の薄い鉄管を使って補強しているよ」

「補強、ですか?」 

「元の柄が、木材だったからね。君の作刀依頼の要望に合った、剣と打ち合っても折れない様にって要望を元の柄を使って実現しようとすると、鉄管を被せる位しか思い浮かばなくてね。少し重くはなったけど超高純度鉄製の鉄管を使った御陰で、要望に合った剣と打ち合っても折れないって言うのは達成出来たと思うよ」

「そうですか」

「ああ、そうそう。柄に巻き付けてあるのは、カーボンテープだよ。それも補強の一部だから」


 柊さんと恭介さんの会話が気になり、俺は不知火を鞘に納め柊さんの方に視線を向ける。 

 柊さんの手の中には、波紋を持つ、白銀の槍頭を付けた、黒い柄の槍があった。以前の五十鈴に比べ、重厚な雰囲気が増している。

 

「……」


 柊さんは周りに槍が当たらない様に気を付けつつ、片手で持った槍を確かめる様に軽く上下左右に振る。恭介さんは、そんな柊さんの様子に少し目を見開く。 


「……重くないの? 出来るだけ重量増加には気を配ったけど、言っておいた様に以前より2,3キロは重くなっている筈なんだけど……」

「別に。これ位の重さなら、大丈夫ですよ」

「そ、そうなんだ」

 

 柊さんの平然とした返事に、若干恭介さんが引いている様に見える。

 まぁ、柊さんの様な女の子が、片手で数キロある槍を軽々と振ってていたら驚くか。

 

「うん。バランスも大丈夫そうね」


 確認を終えた柊さんは、槍頭に鞘を付け直し五十鈴を木箱の中に収めた。

 

 

 

 

 

  

 俺と柊さんが恭介さんと話している間、裕二は静かに両手に持った小太刀の具合を見ていた。


「ふむ」

「ええっと……何か質問はあるかな?」

「いえ。素晴らしい出来ですよ、恭介さん。若干重くはなっていますが、重心バランスも元の小太刀と殆ど変わりません。これなら、直ぐに使い慣れる事が出来ます」

「そ、そう」


 裕二は小太刀を鞘に収め、木箱に仕舞った。

 その様子を見て、恭介さんは疲れた様に溜息を吐く。

 

「はぁ、何故か妙に疲れたよ」


 恭介さんは右手を額に宛て頭を左右に軽く振った後、冷めたお茶を一口飲む。


「ふぅ。さて、と。取り敢えず依頼の品の受け渡しは、これで終了で良いかな?」

「あっ、はい」

「じゃぁ、コレを」


 恭介さんは自分の手元に置いておいた最後の木箱を、真ん中に座っていた俺の前に差し出す。30cm四方の木箱だ。

 俺は紐を解き、木箱の蓋を開ける。


「……コレは?」


 箱の中には、白木鞘造りの懐刀が三つ入っていた。

 こんな物、注文した記憶はないんだけど……。


「九重君と広瀬君の刀を作っている時に、切り落とした端材で作った物だよ。納期を1週間も延ばしてしまったからね。まぁ、お詫びの品だよ」

「はぁ、そうですか……」

「端材で作ったから刀身は短いけど、強度は君達の持っている物と同等だから実用品として使えるよ」


 俺達は箱の中からそれぞれ、1本ずつ懐刀を手に取った。鞘から刀身を引き抜くと、不知火と変わらない美しい波紋を持つ白銀に輝く刃が姿を見せる。

 ……これ、サブウエポンとして使えるかな?

 不知火と同じ様な光を反射する刀身を見ながら、俺はそんな事を思った。


「さて、と。じゃぁ、これで依頼品の受け渡しは終了で良いかな?」 

「あっ、はい」

「じゃぁ、納品した品物に問題がないなら、この納品書にサインをしてくれるかな?」

「はい」


 俺達は恭介さんがバインダーから取り出した納品書に目を通し、受け取り欄に自分達のサインを入れる。

 

「……うん、OKだ。じゃぁ、これで納品は終了だね」


 納品書に目を通した恭介さんは、満足そうに頷く。

 そう言えば、俺達の依頼は恭介さんの刀工としての初仕事だったな。無事依頼を完遂して、一安心といった所だろう。


「じゃ、次は支払いの話に行っていいかな?」

「はい」


 納品書をバインダーに戻した恭介さんは、3枚の請求書をそれぞれ俺達の前にそっと差し出す。

 それぞれの請求書に書かれた金額は違うが、全員6桁は超えていた。


「事前に電話で伝えたように、見積もりより高くなっているから。……大丈夫だよね?」


 事前の見積より高額になってしまった請求書を提出した恭介さんは、俺達の顔色を窺いながら不安気な表情を浮かべていた。

 まぁ、もしここで俺達が見積もり額以上に支払えないと言う話になると、新人刀工の恭介さんには致命的な損失だからな。 


「大丈夫ですよ。事前に請求額は聞いていたので、用意して来ています。だから安心して下さい」

「そ、そうか」


 俺が懐から膨らんだ茶封筒を取り出すと、恭介さんは胸をなで下ろしていた。 

 お客を目の前にして少々失礼な態度じゃないかと思わなくもないが、見た目は俺達普通の高校生だからな。恭介さんが胸を撫で下ろす気持ちも分からないでもないので、追求はしないでおく。

 俺達はそれぞれの請求額を恭介さんに渡し、支払いを済ませる。


「……確かに。じゃぁ、はい、これ領収書だよ」

「ありがとうございます。これで、支払いを含めて全て終了ですよね?」 

「ああ。これで終了だよ」


 俺達は受け取った領収書を仕舞い、恭介さんもお金をバインダーに挟む。


「しっかし……初仕事から中々難物だったよ、君達の依頼」

「ははっ、そうみたいですね」

「全くだよ。でも、良い勉強になった」

「じゃぁ、またその内依頼を出しますので、その時は宜しくお願いしますね」

「ははっ、一つお手柔らかに頼むよ」

「考えておきます」


 俺達は恭介さんと別れの挨拶をし、工房を後にする。

 因みに、不知火等を鑑定解析をした結果はこうなった。


 不知火改+31・五十鈴改+42・時雨改+46・村雨改+46・懐刀+10・懐刀+15・懐刀+15


 打ち直しの結果、不知火等はレベルアップの効果を無事に引き継いだ様だ。おまけに、懐刀にも不知火等の3分の1程だがレベルアップの効果が付加されていた。+10の懐刀が俺で、+15の懐刀が裕二と柊さんの物だ。

 色々と手間とお金は掛かったが、これは朗報と言える。探索者を続けて行くなら、今後とも恭介さんとの繋がりは大事にしないといけないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

    


相棒が帰って来ました。

余りの材料で作った、サブウエポンも入手です。

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事後承諾で期限延ばして「はい料金上乗せな」はぼったくりです。 普通は「手間取ったから延びる。料金は据え置き」が当たり前。 家とかでも延びたからって料金上乗せせんやろて。 良いもの作っても報連相しっかり…
いや、立ち上がったばかりの刀匠とはいえ納期すぎて時間取られたのでその分増額です!まぁ代わりに端材でサブウェポン作ったからゆるしてね?は二流では? しかもいっちゃん金がねぇ柊たんにはサブウェポン無いし …
[気になる点] 刀匠は年に24本しか刀を打てないのに6本も打って大丈夫なのか?「半年に1本しか打てない」と愚痴ってたのに。 それとも懐刀は本数に入らないのか?
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