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第549話 ケアの大切さが身に染みる

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 訓練場で模擬戦を行った翌日、朝起きてリビングへ降りると、少し辛そうな表情を浮かべている美佳が目に入った。どうやら昨日行った訓練の影響、筋肉痛で苦しんでいるらしい。

 やっぱり普段使わない筋肉を酷使する運動を行うと、筋肉痛は避けられないよな。常日頃行う訓練が大切なのかという事か。美佳も沙織ちゃんも、ある程度慣れるまでが大変だろうな。


「おはよう……だいぶ辛そうだな?」

「う、うん。ちょっと、ね」


 朝の挨拶をすると、美佳は辛そうな表情を浮かべたまま返事をしてくる。

 そこまで激しい模擬戦では無かったと思うんだけど、慣れない美佳には結構な負担があった様だ。


「やっぱり昨日の訓練での筋肉痛だよな、昨日マッサージをしなかったのか?」

「やったよ、やった上でコレなの。体のあっちこっちが痛いし、動くのも億劫って感じだよ」

「まぁ普段使わない様な筋肉を使っただろうからな、そうなるのも仕方ないさ。普段沙織ちゃんと模擬戦訓練をしても、昨日みたいな試合はした事なかったんだろ?」

「うん、万が一攻撃を止め損ねたり避け損なった時の怪我が怖いからね」


 美佳と沙織ちゃんも前々から立ち合い自体は行っていたらしいが、美佳の言う様に素人同士では怪我のリスクが高くなるので、探索者になって得た強化された身体能力をフルに利用した模擬戦は行った事が無いとの事だった。

 まぁ美佳達の強化具合でも、思いっきり攻撃をすればブロック塀くらいは殴り壊せるからな。因みに俺達だと、粉砕レベルである。


「それは正しい判断だと思うぞ。でもそうなるとやっぱり大幅なマージンを取っているから、訓練としての質は低下するよな。思いっきり動かない事には、現時点での自分の限界が解らないって事だ。限界を超えろとはいわないけど、限界ギリギリでやるのがやっぱり成長の伸び率が良いからな」

「そうだね。でもだからといって、いきなり慣れない限界領域での模擬戦はどうかと思うよ? 私もそうだけど、沙織ちゃんだって模擬戦が終わるたびに疲労困憊で息も絶え絶えだったんだから」

「そりゃそうだ、何せそうなるように調整してたからな」

「そうだよね、やっぱり……」


 美佳は溜息を吐きながら、俺に恨みがましい眼差しを向けて来る。

 全く、何が不満なんだろうな? 安全な環境で明確な格上相手に全力を試せるんだ、喜んで全力を発揮して経験の糧にしないと。筋肉痛が辛いのは分かるけどさ。


「普段からストレッチは重視しているから柔軟性に問題ないと思うけど、普段動かさない筋肉が痛いって事はそれだけ制限された動きしかしていなかったって事だからな。高度な対人戦になってくると、あと少し、あと1㎝届けばってシーンもある。攻撃動作や回避動作が硬いという事は、攻撃の機会を逃したり、怪我を負うリスクが高まるって事だ。対人戦の基本はイメージした様に、自分の体を十全に使える様にするって事だしさ」

「……まだ実感は持てないけど、お兄ちゃんがいいたい事は何となく分かる。お兄ちゃん達を相手に模擬戦をやってる時、あと少し届かなかった攻撃を出した時に筋肉痛になってる部分に違和感があったと思う。普段使ってない筋肉だから、後少しが伸びきらなかった感じなのかな?」

「多分そうだろうな。普段動かさない分、咄嗟の反応が悪いのはしょうがない。改善するには、他の筋肉と同じ様に動くように鍛えるしかないさ」

「という事は、暫くこの筋肉痛を何度も味わう事になるんだ……」


 この先も続く訓練の事を考え、美佳は溜息を吐きながら憂鬱そうな表情を浮かべていた。

 まぁ暫くやれば慣れるから、頑張れ。


「二人とも、何時まで話をしてるの? 大樹は顔を洗ってらっしゃい、早くご飯食べないと学校に遅れるわよ?」

「あっ、はい」


 美佳と昨日の事について話していると、キッチンで朝食の準備をしていた母さんが声を掛けてくる。

 そして時計を確認してみると、確かにそこそこの時間話し込んでいたようで家を出る時間が迫っていた。因みに父さんは、俺達より先に出社している。


「じゃぁ、この話はまた後でな。どうしても辛いようなら無理せずに、回復薬を使えよ?」

「流石に筋肉痛にはもったいないから、気合で我慢するよ」

「そっか」

 

 美佳に声を掛けた後、母さんに促された俺は顔を洗いにリビングを後にした。






 朝食を食べ終えた俺と美佳は、準備を整え母さんに挨拶をしてから家を出る。

 そして家を出る際、母さんは筋肉痛で動きのぎこちない美佳に心配げな眼差しを向けた後、俺にあまり無理をさせるなといいたげな表情を浮かべながら少し睨まれた。


「それじゃぁ行ってきます」

「行ってきます」

「2人とも気を付けるのよ。それと大樹、ちゃんと美佳をサポートしてあげなさいね。アナタが無理をさせたんでしょ?」

「動けないって程じゃないんだし、大丈夫だよ。でもまぁ了解」


 母さんに軽い調子で返事をした後、俺と美佳は学校へ向かって歩きはじめた。

 

「まぁ母さんもああいってたし、無理はするなよ?」

「うん。ちょっと動きにくいけど、大丈夫」

「そっか、それはそうと湿布薬は塗ってきたか? アレならそんなに匂いもきつくないし、目立たないだろ?」

「一応塗ってきたけど、アレって効き目が短いんだよね」


 塗り薬タイプは関節部などにも簡単に塗る事が可能だが、貼布タイプと比べ持続して効果を発揮しづらく定期的に塗り直しが必要になる。

 まぁ体の至る所が痛いといった、広範囲に湿布をしたいときは塗り薬タイプ一択なんだろうけどな。


「休み時間にでも塗り直せばいいさ」

「もう、気軽にいってくれるよね。背中とかは、1人で塗るの結構難しいんだよ?」


 美佳は不満げな表情を浮かべながら、俺の背中を軽く叩く。

 そして筋肉痛の美佳を気遣いつつ何時もと比べユックリとした足取りで歩いて行くと、前方の角から俺と美佳と同じ様にユックリとした足取りで進む2人組を見つけた。


「あっ、あれは裕二だな」

「沙織ちゃんも一緒みたいだけど……やっぱり、沙織ちゃんもぎこちない歩き方をしてるね」

「お前と一緒で、昨日の訓練での筋肉痛が出たんだろうな」

「そうかもね。沙織ちゃん、おはよう!」


 美佳が大声で挨拶を投げ掛けると前方を歩いていた2人組、裕二と沙織ちゃんが俺達の存在に気付き足を止め振り返った。

 振り返った沙織ちゃんの顔には、美佳と同じ様に痛みに耐える様な表情が浮かんでいるので筋肉痛が出ているのは確定っぽい。まぁ美佳と同じ訓練をしたんだ、無理もないか。


「あっ、美佳ちゃん。おはよ、あぅっ!」

「痛いんだから無理するなって。おはよう大樹、美佳ちゃん」


 挨拶をしようとした沙織ちゃんは振り返った動作で痛みが走ったのか、思わず口から苦悶の声を漏らしていた。

 裕二もそんな沙織ちゃんに少し呆れた様な表情を浮かべながら、気を遣う様に安静にしていろと助言をする。


「おはよう裕二、沙織ちゃんの方は筋肉痛がかなり辛そうだね」

「残念な事に、家に湿布の備蓄が無かったんだってさ」

「あらら、それは……」 


 ああ、だから美佳より筋肉痛が酷そうなのか。欲しい時に湿布の在庫切れだなんて、間が悪かったというかなんというか。昨日家に帰る前に、湿布の有無を確認してもらってからドラッグストアにでも寄るべきだったかな。

 探索者を始めてからは湿布は常備していたので、沙織ちゃんの家にも常備しているものだと思い込んでた。思い込みは良くないな、確り確認はしないと。


「大丈夫沙織ちゃん、かなり辛そうだけど……」

「か、体のあっちこっちが悲鳴を上げてるよ。朝ベッドから起き上がるだけでも、悲鳴を堪えるのに一苦労だった……」


 美佳は自分より筋肉痛に苦しむ沙織ちゃんに素早く駆け寄り、少し引き攣ったような表情を浮かべつつ心配げに声を掛ける。自分も筋肉痛で痛いだろうけど、それよりも酷い状態の沙織ちゃんを見て一時的に痛みを感じなくなっている様だ。

 

「そ、それは、その、た、大変だったね? えっと私、塗るタイプの湿布薬持ってきてるけど、いる?」

「う、うん。貸して貰えるなら貸して欲しいかな。ちょっとこのままってのは辛いかも……」


 美佳は湿布薬を入れた通学バッグを軽く手で叩きながら、沙織ちゃんに使うかどうか確認する。

 すると沙織ちゃんは辛そうな表情を浮かべたまま、すぐにでも使いたいと小さく頭を上下に振っていた。


「そ、そう。えっと、じゃ学校についたら薬を塗ろうか? 更衣室はこの時間に空いてるかな?」

「ど、どうだろ? あっそれより美佳ちゃん、すぐに塗れるのなら足だけでも塗らせてもらっても良いかな? チョッと歩くだけでも痛くて……」

「えっ!? あっ、うん、スティックタイプだからココでも塗れるよ。ちょっと待ってね、今出すから」


 美佳はバッグの中に手を突っ込み、湿布薬を探し始めた。

 その間、俺と裕二は美佳と沙織ちゃんのやり取りを眺めながら、昨日の訓練に対する意見を交わす。


「ううん、ちょっとやり過ぎたかな?」

「筋肉痛になる事自体は予想出来ていたから、やり過ぎては無いと思うけど……後のケアが少し杜撰だったかも知れないな。事前に、湿布なんかのケア用品の準備状況を確認しておくべきだった」

「そうだね。昨日の内に湿布を貼ってれば、美佳みたいにもう少しはマシだったろうしさ」

「そうだな」


 俺と裕二は建物の陰で痛みに耐える様に歯を食いしばりながら目を瞑っている沙織ちゃんと、丁寧に湿布薬を足に塗っている美佳の姿を眺めながら、少し申し訳ない事をしたといった表情を浮かべていた。

 まぁ最悪、放課後まで酷い筋肉痛に晒されている様なら回復薬を提供するかな?






 何とか痛みに耐えながら学校に辿り着いた俺達4人は、少々周りから奇異の眼差しを向けられながら昇降口で別れる事となる。筋肉痛で苦しむ二人が無事に教室までたどり着けるか少し心配だったが、2年生が1年の教室まで送っていくというのもアレという美佳の申し出もあり、ここで別れる事になった。

 まぁ通学路の途中で使用した湿布薬の効果か、沙織ちゃんの表情から少し苦痛の色が薄まっているので、そこまで心配しなくても良さそうなのが救いである。


「それじゃぁ、痛みできついだろうけど授業頑張れよ」

「うん、今日は幸い体育の授業は無いから頑張る。湿布もあるから、放課後までにはもう少しマシにはなってると思うよ。なってると良いな……」


 美佳は大丈夫だと強がった表情を浮かべているが、放課後にも訓練がある事を思い出したのか少し憂鬱げな雰囲気を醸し出していた。 


「手間を取らせてすみませんでした」

「なに気にしないでくれ、筋肉痛の辛さは良く分かってるからさ。授業、気を付けてな」

「はい、ありがとうございます」


 沙織ちゃんは俺達と合流するまで筋肉痛で苦しむ自分に付き添ってくれていた裕二に軽く頭を下げながらお礼を述べ、裕二も筋肉痛の辛さは身に染みて理解しているので何でも無いかのように励ましの言葉をかけていた。

 きっと裕二は重蔵さんに扱かれているせいで、筋肉痛とは長年の友達だろうからな。言葉に出さずとも、辛さは身に染みて良く良く理解できるという事なのだろう。


「それじゃぁ教室に行く前に湿布を塗っておきたいから、そろそろ行くね?」

「ああ、湿布を塗るのに夢中になって遅刻しない様に気を付けろよ?」

「もちろん、じゃぁまたね」

「失礼します」


 そういうと美佳と沙織ちゃんは筋肉痛の体を引きずりながら、1年の教室がある方へと去っていった。

 

「じゃぁ俺達も行くか」

「そうだな、注意したのに俺達の方が遅刻したら笑い話にしかならない」


 俺と裕二は美佳と沙織ちゃんを見送った後、自分達の教室に向かって移動を始めた。






 何事もなく1日の授業も全て終わり、俺達は放課後を迎えた。

 そしてHRでも特にこれといった連絡もなく、俺達は荷物を片付け3人揃って教室を出る。いつもこんな風に面倒事も何もなく終われると良いんだけどな、偶に降ってわいたように大問題が発生するのは何でだろう?


「さて、美佳と沙織ちゃんの筋肉痛はマシになってるかな?」

「何か連絡は来てないのか?」

「特には何も。連絡が無いって事は、マシになったから部活には出れるって事だと思うけど……」

「今日は体を解す程度の、軽めのメニューにした方が良いだろうな」


 俺もそれが良いと思う。無理に訓練を施しても、痛む体を庇って変な癖が付くと修正が面倒だからな。


「2人はそんなに酷い筋肉痛だったの?」

「早めにケアできた美佳はマシだったけど、沙織ちゃんが少しね。まぁ美佳が持ってきてる湿布薬を使ってるだろうから、少しはマシになってると思うよ?」

「そう。2人にはもう一度、ケアの仕方を教えた方が良さそうね」

「そうだね、そこら辺は柊さんにお願いするよ」


 俺や裕二だとその辺の事を教えるのは難しいから、同性の柊さんにお願いする方が良いだろうからね。面倒だろうけど、マッサージのやり方を含めて舘林さんや日野さんにも一通りケアの仕方について教えて貰おう。

  















面倒だからと運動後のケアを怠ると地獄を見ますからね……。


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挿絵(By みてみん)

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筋肉痛の脅威! 恐ろしいです 戦闘もですが自転車運転の疲れもありそう この前 足を痛めて湿布を使いましたが、だいぶ楽になりました 常にちょっと痛かったのが痛さが消えて、効果の高さに驚きました
妹たちはこういう訓練だけど主人公たちは言えない回復薬の貯蔵使って治して訓練治して訓練という地獄やろうと思えばやれるんよなぁ……妹ちゃんが知らないのは実は幸運なのかもしれないw
湿布に薬効ない。 テレビの宣伝、あれは嘘だ。皮膚上から筋肉に薬が浸透するはずがない。
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