第548話 ゆっくり移動するのも悪くはない、かな?
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訓練場での模擬戦を終えた帰り道、予想通り美佳と沙織ちゃんは訓練の疲労により足取りは重くなっていた。思う様に自転車のスピードは中々上がらず、ちょっとした坂道でもスピードは落ちる。
まぁそれでも、一般人が全力で漕ぐ自転車より早く長時間維持しているんだけどね。
「やっぱり訓練終わりに、この自転車移動はキツイか?」
「う、うん。でもキツイというより、訓練で強張った体が動かしづらいって感じかな?」
「つまり筋肉痛か? 出るのが早い様な気もするけど……」
「どっちかというと、打撃を受けた部分の筋肉に張りというか違和感が出てる感じ。ペダルを漕ぐ度に、痛いというかなんというか……」
模擬戦で普段使わない筋肉を使ったせいで、色々と体に負担が出てるみたいだ。この分だと、明日は2人とも筋肉痛になってるかもな。
出来るだけ手加減はしていたが、流石にノーダメージとはいかなかったか。
「まぁ慣れない動きをしたせいかもな。何回もやってれば、その内慣れるから我慢するしかないな」
「そうなんだろうけど、青あざになってないといいな」
「回復薬を使うか、直ぐに良くなるぞ?」
特に怪我をしている訳でもない訓練の疲労程度なら、回復薬を使えば瞬時に回復は可能だ。
一応訓練で手加減を間違えた時の為に、回復薬は複数持ってきている。在庫は一杯あるので、どうしてもというのなら使う分には問題ない。
「流石に訓練程度では使わないよ、初級の回復薬って高いし。お風呂に入って寝れば治るよ、青あざが取れるかは分からないけど」
「まぁ怪我をしてるのなら兎も角、訓練程度の疲労で使ってるようじゃ、それこそ訓練にならないよな」
疲労している状態でも最低限戦闘行為が出来る様にしておかないと、襲撃を退けたとしてもモンスターを回避しつつダンジョンから脱出するのも難しいだろうからな。
襲撃で所持していた回復薬を壊されていたら、都合よく回復出来るとも限らない。最悪のケースを想定し、対策を練っておく方が無難というモノだ。
「そうだよね」
「まぁ休憩を挟みつつ、ユックリ帰るから頑張れよ」
「うん」
辛そうな様子は変わらないが、先程よりは美佳も沙織ちゃんも元気に自転車を漕いでいるように感じた。
来る時にも立ち寄った道の駅に寄り、休憩を取る事にした。そろそろ美佳も沙織ちゃんも速度を維持するのが限界そうだったので、遅めの昼食を兼ねて少し長めの休憩を取る事にしたのだ。
来る時に食堂が併設してあるのは確認しているので、ココで食べて帰ろうという事になった。
「到着っと、2人とも大丈夫?」
「う、うん」
「な、何とか」
自転車を駐輪場に停め、美佳と沙織ちゃんの様子を確認すると、息こそ上がっていないが結構辛そうな表情を浮かべている。段々と筋肉痛が表面化してきたのかな?
まぁ動けないほど痛いって訳じゃないみたいだし、少し休めばまぁ帰るまでは持つだろう。
「大丈夫そうだな。まぁ暫く休憩時間を取るから、マッサージなり何なりしてケアしたら良いよ」
「う、うん、そうする」
「は、はい。そうします」
「まぁ、どうしてもつらいようなら回復薬は出すから遠慮なくいって」
その場合は、後で料金請求というか美佳達が持っているモノと現物交換という形にした方が良いだろうな。コレがダンジョン内で必要という事であれば問題ないが、使用目的が訓練の疲労抜きじゃ、ね?
ないとは思うけど、コレに味を占めて毎度毎度訓練ごとに欲しがられても困る。一応予防線という意味でも、何らかの形で請求はした方が良いだろうな。
「ありがたいけど、それは辞めておく」
「私も遠慮しておきます。流石に……」
「分かった、じゃぁ食堂の方に行こうか?」
食堂の位置を確認し俺達3人が進み始めると、美佳と沙織ちゃんは若干重い足取りで後をついてくる。
お昼には少々遅い時間という事もあり、建物に併設してある食堂の中は大分空いていた。
「良かった、まだやってるな」
昼の営業時間が終わっているかもと心配していたが、施設併設の食堂という事もあり通しで営業しているようだった。
そして店内を確認してみると先に食券を買う方式らしく、壁に大きな写真付きのメニュー表が貼られている。
「うどんそばがメインみたいだね、ここ」
「定食系のセットメニューもあるみたいだぞ」
「洋食系はないわね」
メニュー表の半分はうどんとそばが記載されており、残りも丼ものや一品ものが載っている。
まぁ拘ったものを食べたいわけでも無いので、別に良いんだけどね。
「さて、どれにしようかな……」
暫くメニュー表とにらめっこをした後、それぞれ注文するメニューが決まった。
俺と裕二はうどんと丼もののセット、柊さんはきつねうどんとお握りのセット、美佳と沙織ちゃんはざるそばとお握りのセットだ。
「全員座れそうなのは……ああ、あそこが空いてるな。皆、あそこで良いよね?」
食券を購入した後、奥の方に全員で座れそうな席を見つけたので移動する。
そして全員が席に着くと、店員さんが注文を確認しにきた。
「いらっしゃいませ、食券をお預かりします」
「お願いします」
「お預かりします。お冷やはセルフになっていますので、少々お待ちください」
食券を受け取った店員さんはセルフコーナーを指さした後、軽く会釈して厨房の方へと帰っていった。
「セルフか、じゃぁ取って来るよ。水で良いよね?」
入り口反対側の壁際に給水機が置いてあるのが見えたので、取りに行こうと席から立ち上がる。
「ああ、頼む」
「ありがとう」
「うん」
「ありがとうございます」
「了解」
給水機の横の棚には小さなお盆とコップが置かれており、俺は人数分のコップに水を入れていく。
「はい、お待たせ」
水の入ったコップを皆に配り席に着くのとほぼ同時に、注文の品を持った店員さんが声を掛けてきた。
「お待たせしました、きつねうどんセットの方は……」
「あっ、私です」
注文を店員さんに伝えてからまだそれほど時間は経っていないのに、もう料理が来た。
あまり時間が掛からない分類のイメージのうどんとはいえ、早すぎないか?
「お待たせしました、ざるそばセットの方……」
「あっ、はい」
「私です」
そんな事を思っていると、早くも次の品が届く。いやいや、本当に早いって。作り置きしてるのかな?と思ってしまう。
多分、券売機と厨房が繋がってるんだろうな。
「お待たせしました、丼セットの方……」
「あっ、はい」
「こっちです」
最終的に入店してから5分と経たずに、全ての料理が揃った。
この早さ、売りにして良いと思うぞ。
「じゃぁ皆揃ったし、とりあえず食べようか? いただきます」
「「「「いただきます」」」」
思ったより早々と注文した料理が揃った事に戸惑いつつ、まずは目の前の料理を食べる事にした。
まずはうどんからだな。上にこれといった具の無いかけうどんだが、スープを一口。うん、美味しい。しっかりと昆布とかつお出汁が効いており、塩味の少ない醤油を使っているのか飲みやすい。
「美味しいな、このうどん」
「ああこだわりのスープって感じだな、しっかり出汁も効いていて美味い」
「麺も美味しいわよ。細麺だけどコシがあるし、表面がモチモチしてるから出汁が絡んで美味しいわ」
柊さんの評価を聞き麺を食べてみると、確かに出汁が良く絡んでいて美味しい。
「こっちのそばも美味しいよ」
「学食のそばと違って、そばの風味がしっかりします」
美佳と沙織ちゃんもそばを美味しそうに頬張りながら、それぞれ感想を述べる。
そういえばウチの学食のそば、そばっぽい見た目と味はするけど風味は感じた事無いな。まぁ量はかなりあるし、何より安いから文句はないといえばないんだけど。
「それじゃあ、こっちはどうかな……」
俺はうどんを一旦脇によけ、セットについてる丼ぶりに手を伸ばす。セットの丼ぶりは、俺が親子丼で裕二は牛丼だ。多分、素早く提供できるようなチョイスなんだろうな。
因みに丼メニューの中には、普通にかつ丼や天丼といった提供に時間のかかりそうなメニューもある。
「うん、こっちも美味しい。やっぱり出汁が良いからかな?」
親子丼の卵はトロトロのフワフワで、鶏肉も軽く炭火で炙っているのか香ばしい香りがして美味しい。そして何より、出汁が良い仕事をしている。あっさりとした口当たりでありながら、鳥肉と卵の味を引き出しサクサクと食が進む。
うん、うどんもだけど当たりだな。
「この親子丼、凄く美味しいよ」
「こっちの牛丼も中々の物だぞ。特にこれだ、トロトロの玉ねぎが美味しい」
俺の親子丼評を聞き、裕二が緩んだ表情を浮かべながら牛丼の美味しさを力説する。
牛丼も当たりとなると、レベル高いなこの食堂。
「このお握りも美味しいわよ。具は無いけど、塩加減が絶妙ね。うどんと合わせて丁度良くって感じね。これ振り塩じゃなく、お米を炊く段階で塩を入れてるんじゃないかしら?」
「程よい塩味が効いてて美味しいね」
「うん、美味しい」
柊さんを始め、美佳も沙織ちゃんもシンプルな塩お握りを美味しそうに頬張っていた。
そして俺達は暫く無言のままま、目の前の料理に集中し味わう。
夢中で遅めの昼食を食べた後、俺達は食後の一休みをしながらこの後の予定について話し合う。
まぁ予定といっても、あとは家に帰るだけなんだけど。
「ふぅ、思わぬ当たりを引いたね。美味しかった」
「そうだな。俺達だけで移動する時は素通りしてたから、こんな良い店があるとは知らなかったよ。今度は、この店のうどんを目当てに来ても良いかもな」
「そうね。訓練場まで休まずに移動してたけど、こういうお店を見つける為に色々な所に立ち寄るのも良いかもしれないわ」
3人だけで移動していた時は、先を急ぐ為にいつもここは素通りしていたので、今思えば惜しい事をしていたなと思う。許可取りの為に、フェンスの修理などで何度もこちら方面に来ていたのにな。
もっと早く知っていれば、他のメニューも食べられていたのに惜しい事をしていた。
「まぁ、今度こっちに来る楽しみが一つ増えたと思っておこう。それよりこの後の事だけど、このまま家に帰るで良いかな?」
「ああ、それで良いんじゃないか? 今日は他に立ち寄る予定も無いしな。柊さんは?」
「私も特にこれといった予定はないわね。美佳ちゃん達も疲れてるみたいだし、今日はこのまま素直に帰って良いと思うわよ?」
裕二も柊さんも、このまま帰っても特に問題なさそうだ。
となると……。
「美佳と沙織ちゃんはどう、どこか寄って行きたい所があるのなら寄るけど?」
「私は特にないかな? 疲れてるし、出来れば早く家のベッドに寝転がりたい。沙織ちゃんは?」
「私も特に立ち寄りたい所は無いです。正直にいうと、美佳ちゃんと同じ気持ちです」
「まぁ、そっか」
美佳と沙織ちゃんは疲れた表情を浮かべながら、早く帰りたいと主張する。
慣れない模擬戦で疲れている上、追い打ちをかける様に足を酷使する長距離自転車移動だからな。出来ればどこにも寄り道せずに、真っ直ぐ家まで帰りたいというのが本音だろう。
「じゃぁ寄り道は無しで、真っ直ぐ帰路につくって事で良いかな?」
「おう」
「ええ」
「「賛成」」
という訳で、美佳達の疲労を考え休憩の為に何ヵ所かコンビニなどに止まりはするものの、基本的に真っ直ぐ家に帰るという事になった。まぁ長めに休憩を取ったとはいえ、美佳達の疲労が抜けきる事は無いだろうから自転車もそんなに速度は出ないだろうからな。
「それじゃぁ、そろそろお店を出よう」
「ああ、食べ終わったのに何時までも居座っていたらお店も迷惑だろうしな」
俺達は席を立ち、店員さんに軽く声を掛けてから店を出る。
良いお店だった、また来よう。
昼食を取った道の駅を後にした後、2回ほど休憩を挟んで無事に俺達の住む町まで帰ってこれた。
そして裕二と柊さんとは駅で別れ、俺と美佳は沙織ちゃんを家まで送る。流石に疲労で足取りが怪しい子を一人で家に帰すのはね?
「それじゃ沙織ちゃん、今日は体を解してからゆっくり休んでね」
「沙織ちゃん、また明日学校で」
「はい、送ってくれてありがとうございます。美佳ちゃん、また明日学校でね」
沙織ちゃんが家の中に入るのを見送った後、俺と美佳はやっと家路へとつく。
「それじゃぁ俺達も帰るか?」
「うん! それにしてもお兄ちゃん、流石に初日からあれは厳しいよ?」
「何をいってんだ、あのくらい簡単に熟せるようになって貰うからな? それにあれはまだ初歩だぞ?」
「うへぇ~」
俺は美佳から今日の模擬戦に対する不満を聞きながら、苦笑を浮かべつつ家路についた。
まぁ今は厳しいだろうけど、2人なら何回かすれば慣れるだろうさ。




