第541話 武器選びは無事に終了、かな?
お気に入り38220超、PV121580000超、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします
裕二に用意して貰っていた武器の素振りも一通り終わり、ある程度2人の武器適性が見えてきた。舘林さんは間合いの短い武器、日野さんが間合いの長い武器といった感じだ。
2人が上手く連携を取れるのならば、互いの間合いの隙を埋め合える良い組み合わせになる。
「それじゃぁ2人とも、そろそろ休憩も終わりにして軽く打ち合ってみようか? さっきの素振りを見た感じ、舘林さんが間合いの短い武器、日野さんは間合いの長い武器があってそうだから、とりあえずそれらを使ってみよう」
「「は、はい」」
そこそこ休憩時間を取っていたので、舘林さんも日野さんも息を整え終えていた。短い時間でも十分な回復力があるので、日々の訓練の成果が出ている感じだな。
運動不足だったりすると、軽い運動でも息を整えるのにもかなり時間が掛かるしね。
「それじゃぁまずは、舘林さんからこの短刀を使ってやってみようか? 俺が受けに回るから、型なんかは気にせず好きな様に打ち込んできてよ。でも受け止めはするから、余り変な力の入れ方をすると反動で手首を痛めたりするから気を付けて」
「あっ、はい。でも気を付けるってどうやれば?」
裕二は舘林さんに短刀型の木刀を手渡しながら、打ち込みに関する注意点を説明する。
確かに受け止められることを考えずに思いっきり打ち込んだら、力を込めた分だけ強烈な反動が発生して、下手をしたら打ち込んだ方が怪我をするからな。
「そうだね……受け止めるから、まずは軽く打ち込んでみてよ。どのくらいの反動が有るかは、実際に体験してみる方が分かり易いからね」
「分かりました」
そういうと裕二は舘林さんから少し距離を開け、手に持っていた打刀サイズの木刀を構える。
その為なのか、特に威圧している気はないのだろうが木刀を構える裕二の雰囲気に飲み込まれているようで、舘林さんは少し怯えた表情を浮かべながらぎこちない動きで短刀型の木刀を構えていた。うん、これじゃぁまともな打ち合いは無理だな。
「はい2人とも、一旦ストップ」
なので、俺は一時中断の声を掛ける。
「裕二、悪いけど構えるのは無しにした方がいい。ほら、舘林さんが気圧されて怯えてるよ」
「あちゃ~、そうかもな」
「そうだって。裕二は意識してないかもしれないけど、構えたら無意識に威圧している様な感じになっちゃってるから、初心者が受けるにはキツイって」
裕二は何ともいえない申し訳なさげな表情を浮かべながら、頭の後ろを木刀を持っていない手で掻いて誤魔化している。まぁ武芸の熟練者が自然と発する圧の類なので、抑えられないのは仕方がないとは思うんだけどね。
とはいえ、素人がその圧を乗り越え打ち込むのは難易度が高いだろうな。
「となると、俺は構えずに打ち込まれた時に防御するってやり方の方が良いかな?」
「その方がまだいいんじゃないかな? 舘林さん達の打ち込み速度程度なら、後出しでも裕二なら十分に間に合うだろうしね」
先程見た素振りを考えれば、舘林さん達がどれだけ思いっきり木刀を振るったとしても、裕二に当てる事は不可能だからな。
しかし、その提案に難色を示したのはコレから裕二に打ち込む方だ。
「えっ、でもそれって危ないんじゃ……」
「そうですよ。もし受け止めるのが間に合わなかったら大怪我しちゃいますよ?」
まぁ舘林さんと日野さんから心配する声が上がるのも当然だろう。まだ探索者にもなっていない2人からすると、俺と裕二の提案は正気の沙汰には思えないだろうな。
しかし、探索者としてレベルアップの恩恵を受けている美佳と沙織ちゃんからは、裕二の身体能力や技量もある程度知っているので、特に怪我を心配するような雰囲気はない。寧ろ裕二なら、それぐらいできて当然だよねと思っている感じだ。
「大丈夫だって、2人の打ち込み程度で受け損なう事なんてないよ」
「「でも……」」
「うーん。あっ、じゃぁこうしよう。大樹、少し手伝ってくれ」
裕二の言葉がイマイチ信じ切れないのか、舘林さんと日野さんは不安げな表情浮かべながら互いに顔を見合わせ戸惑っている。
そんな2人の様子に裕二はどうしたモノかと悩んだ表情を浮かべた後、何か思いついたらしく俺に声を掛けてきた。
「手伝うって、何を?」
「いやさ、2人が信じられないってのは、実際に俺が防げるって姿を見たこと無いからだろ? だったらその姿を見せるのが手っ取り早いだろ?」
「ああ、うん。まぁそうかもね」
「という訳で大樹、さぁ打ち込んできてくれ」
そういうと裕二は手に持っていた木刀を俺に投げ渡して、自分は壁際に立てかけてある余っていた木刀を手にする。まぁ確かに見たこと無い者を信じさせるより、実際に出来る所を見せる方が早いよな。
まぁそういう訳で、俺と裕二は互いに木刀を手にしデモンストレーションを行う事になった。
「それじゃぁ行くよ裕二、徐々にスピードを上げていくからね」
「おう、さぁこい大樹!」
裕二に一声かけてから、まず俺はユックリとした速度で手にした木刀を裕二の脇腹を狙って横一文字に振り抜く。ユックリとした速度とはいえ、先程舘林さん達が素振りをしていた時と同程度の速度なので、舘林さん達的には十分な速さだと思う。
そして狙い通り俺の振るった木刀は、裕二が防御の為に構えた木刀に甲高い音と共に受け止められた。
「まぁこんな感じで、構えてなくても防御には間に合うから」
「「……わぁ」」
「よし大樹、スピードを上げながらドンドン打ち込んできてくれ」
「了解」
目を丸くしている舘林さんと日野さんを尻目に、俺は徐々にスピードを上げながら裕二に向かって打ち込み続ける。上下左右、あらゆる角度から木刀を裕二に向かって打ち込むが、その場から一歩も動かずに涼しい顔で俺の打ち込みを全て受けきった。
因みに、かなり打ち込みのスピードが上がっているので、木刀を目で追えていないっぽい舘林さん達には、木刀を受け止める音が間隔の短い連続音に聞こえているだけだろうな。
「よし大樹、証明にはこんなモノで十分だろ」
「そうだね」
20秒ほど打ち合った後、俺と裕二はもう良いだろうと互いに距離を取り軽く頭を下げ一礼をした。
俺と裕二としてはかなり手加減をした打ち合いだったが、舘林さんと日野さんからすると驚天動地の打ち合いに見えたらしく目を丸くしている。これまでも体育祭などで時々見る機会はあっただろうが、こうやって目の前で激しい打ち合いを見るというのは初めてだったからな。
「それでどうだった、2人とも。俺が大丈夫だっていっている事は、本当だっただろう?」
「「……」」
「少し落ち着く時間を取った方が良さそうだな」
放心状態に近い舘林さんと日野さんの様子に、裕二は少し落ち着く時間を取ろうと提案した。
うん、まぁ時間を置けば大丈夫だろう。
美佳と沙織ちゃんの介抱を受け数分程で復帰した舘林さんと日野さんは、裕二に向かって頭を下げながら発言を疑った事を謝っていた。まぁ中々に信じ難い事ではあるので、謝る様な事でもないんだろうがそれで2人の気が済むのなら受け入れるべきだろうね。
そして裕二の大丈夫という言葉を信じる事にした2人は、改めて打ち合いを行う事になった。
「じゃぁ改めて、軽く打ち込んでどれくらい反動が来るのかを体験してみようか?」
「はい……行きます!」
そういうと短刀型木刀を右手に構えた舘林さんは自然体で立つ裕二との間合いを詰め、俺と同じく脇腹目掛けて木刀を横一文字に振り抜く。
そして当然の様に甲高い音を立て、裕二の構える木刀によって防がれた。
「っ!」
「結構勢い良く振ったみたいだけど、大丈夫? 手首とか痛めてない?」
「は、はい、大丈夫です。ちょっと手が痺れちゃってますけど……」
「怪我が無くて良かったよ、それなら少し時間を置けば治るから」
舘林さんは短刀を左手に持ち直し、少し痛そうに痺れた右手を振っていた。
まぁ少し痛い思いはしただろうが、無闇矢鱈に攻撃すると自分も痛い目を見るという事は学んで貰えたと思う。思いっきり攻撃するのなら、その反動を抑える技術も学ぶ必要があるからな。
「さて、もう痺れは取れたと思うから、もう一度同じぐらいの強さで打ち込んできてくれないかな? 打ち合いの練習で有効な、ちょっとした技術を見せるからさ」
「えっ……はい。 ……行きます!」
今しがた痛い思いをした所に、もう一度同じ事をといわれたら躊躇するよな。
そして意を決した舘林さんは、先程と同じ様に右手に短刀を構え裕二に向かって振り抜いた。だが……。
「? あれ?」
「どう、さっきと比べて?」
舘林さんは裕二に短刀を受け止められた姿のまま動きを止め、不思議そうな表情を浮かべながら受け止められた短刀を見つめていた。
なるほど、アレをやったのか。
「えっと、さっきと同じ様に打ち込んだはずなのに、全然手が痺れていません。もしかして、何かやったんですか?」
「うん、正解。さっきはただ単純に受け止めただけだから大きな反動が出たけど、今のは攻撃を受け止め衝撃を吸収したんだよ。だから反動も少なく済んで、舘林さんも手が痺れなかったって訳さ」
「えっ……そんな事って出来るんですか!?」
「まぁ同レベルの武術経験者相手だと無理だけど、舘林さん達の様な素人が相手なら可能だね。あまり使う機会が無い技術だけど、こういう練習では手を痛めさせる事なく指導できる技術だよ」
裕二は経験者なら簡単に出来る技術の様にいっているが、ハッキリいって達人クラスの技術だろ。確かに俺や柊さんでもレベルアップの恩恵のお陰で似た事は出来るかもしれないけど、素人相手でも進んでやりたい事ではない。
お陰で裕二の説明を聞いた美佳や沙織ちゃん、舘林さんに日野さんは目を見開き驚愕の表情を浮かべていた。
「まぁそういう訳だから、構えていなくても受け止められるし、打ち込みの反動も消せるから遠慮なく打ち込んでくれ」
「あっ、はい」
「じゃぁ、俺が止めっていうまで打ち込んでくれ」
「分かりました……行きます!」
裕二の凄さを実感した舘林さんは、先程の痛みを覚悟し意を決した様な表情とは違い、少し安堵したような笑みを浮かべながら勢いよく短刀型木刀片手に裕二に挑みかかった。
そして舘林さんは体力が続く限り、短刀による連撃を繰り出し続ける。慣れない武器による攻撃ではあるが、舘林さんは意外に短刀を上手く使い立ち回っていた。これなら裕二と同じ様に、短刀の二刀流で攻撃の手数を増やさせるのも面白そうだな。
「良し、止め!」
「はぁはぁ、ありがとう、ございました」
裕二の合図で、2分程の打ち合いが終わると舘林さんはかなり息を乱していた。結構激しく動いていたから、体力の消耗も激しかったようだ。
そして舘林さんが息を整え終わるのを待って、裕二は今の打ち合いの評価を伝える。
「お疲れ様、中々上手く使えてたみたいだね。慣れない武器に戸惑っていたみたいだけど、上手く攻撃を繋げられていたし、思ったように間合いの短い短刀に適性があるっぽいな」
「そう、なんですかね? 自分では良く分からないんですけど、確かに普通の長さの木刀よりは使いやすいように感じます。何というか、ちゃんと振り易いです」
「多分それは、武器の間合いをちゃんと感覚として把握できている証拠だよ。自分の使う武器の間合いが把握できていないと攻撃が届かなかった、狙った場所より奥に攻撃が当たったとかってなって、的確な攻撃なんて出来ないからね」
「……何となくわかります、確かにコレは狙った所に当てやすかったですね」
ハッキリとは断言できないものの、舘林さん本人も短刀などの間合いの短い武器に適性があると感じたようだ。
ダンジョンではモンスターと不意に遭遇し咄嗟に迎撃しなければならない場面も多々あるので、自身が使いやすい武器を装備するのが無難な選択だからな。偶に初心者や駆け出し探索者が自分の武器を使いこなせず、自分の武器で怪我をしたり、仲間に怪我を負わせたなどという話はよく耳にする。まぁ中堅探索者にもなれば、適性が無くともある程度使い熟せている者も多くいるんだけどね。
「それは良かった、じゃ数日はそれを使って練習をしてみようか? 適性があれば直ぐに、ある程度は使いこなせるようになるからさ」
「はい、頑張ります!」
とりあえず、舘林さんは暫く短刀型木刀を試用して見るという事で話は纏まった。
そして続いて日野さんとの薙刀を使った打ち合いも行われた結果、やはり俺達の見立て通り長物に適性があったらしく、本人も使いやすいといっていた。
「それじゃぁ2人とも、今日選んだ武器で数日様子を見てみようか。もし手に合わなかったら、また選び直しも出来るからさ」
「「はい!」」
「ああそれと、それは貸し出すから持って帰って良いからね。しっかり練習に使ってよ」
「「ありがとうございます!」」
こうして無事に、舘林さんと日野さんの武器適性検査は終了した。
さて、この後は息抜きを兼ねて皆で買い物に行こう。