第540話 多分、こうじゃないかな?
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週末、俺と美佳は動きやすい私服姿で学校の前で人待ちをしていた。今日は部員全員で、裕二の家で舘林さん達の武器適性確認をする事になっていたからだ。
個人個人でバラバラに家を訪ねるのも迷惑だろうから、一旦学校前に集合して皆一緒に行こうという事である。俺と美佳的には直接裕二の家に行った方が距離的には近いのだが、舘林さんと日野さんは裕二の家には行った事ないからな。まぁ後輩がいきなり先輩の家を訪ねるというのは難易度高いだろうから、多少遠回りにはなるが一緒に行こうとなったのだ。
「まだ誰も来てないな」
「そうだね。まぁ私達も少し早めに来たから、もう少し待てばみんな来るよ」
遅れたらまずいと少し早めに家を出たので、俺達が一番乗りする形になったらしい。
まぁ約束の時間まで後15分も無いので、直ぐに皆集まるだろう。
「それにして、裕二は色々用意しとくっていってたけど何が出て来るんだろうな?」
「さぁ? 色々あるからどれにするかって悩んでたみたいだし、私達が映画や漫画で知ってそうなのは大体?って感じじゃないの?」
「そうかもな。あの重蔵さんが集めていたらしいし、見たことが無いマニアックなのが出てくるかもしれないな」
「ええっ。麻美ちゃん達が使うモノ選ぶんだよ、普通に使いやすいのでいいじゃん」
まぁ美佳のいう通り、素人には使いやすさが一番大事だろうな。取り扱うのに技術がいる系の武器は、基礎固めや実践で使える習熟度にいたるには必要な期間が長くかかるしさ。
「そうだな」
その辺は裕二も認識しているだろうから、余り変な武器は用意しないと思う。まぁ特殊な隠し武器の勉強という意味では、色々な物を見せて貰える方が助かるんだけどさ。
寧ろ俺達は、そっちの方がメインかな?
「あっ九重君に美佳ちゃん、お待たせ。2人とも早いわね」
「おはよう柊さん。俺達もさっき来たばかりだから、そんなに待ってないよ」
「おはようございます」
俺達の次に来たのは柊さんだった。
柊さんの私服も、動き易そうなパンツスタイルの服装だ。
「他の子達はまだ来てないのね」
「まだ待ち合わせ時間までは時間があるからね、多分すぐ来るよ」
周りを見渡しそうつぶやく柊さんに答えていると、少し先の曲がり角から舘林さんと日野さん、そして沙織ちゃんが姿を見せた。
3人とも動き易そうな服装をしている。
「あっ、お待たせしました!」
「おはようございます、お待たせしました!」
「おはようございます」
3人は俺達が既に到着している事に気付き、少し慌てた様子で小走り気味に俺達に近寄って挨拶をしてくる。
「3人ともおはよう、一緒に来たんだ」
「はい。そこで2人と合流したので一緒に来ました」
「そうなんだ」
3人一緒だったことを不思議に思い聞いてみると、沙織ちゃんが答えてくれた。まぁ集合時間は決まっているから、同じ方から移動していればおのずと合流はするよな。
まぁ何にせよ、ほぼ時間通りに全員集合できてよかった。
「ちょっと早いけど、皆揃ったし裕二の家に行こうか?」
「そうね。でも一応広瀬君には、これから向かうって連絡を入れた方が良いんじゃないかしら? 約束の時間より少し早く着きそうだし、広瀬君にも出迎えの準備もあるでしょう」
「それもそうだね。ちょっと待ってね、今連絡を入れるから」
俺はスマホを取り出し、裕二に少し早めに到着するかもとメッセージを送る。
すると裕二からの返事はすぐに戻り、大丈夫との了承が得られた。
「大丈夫だって。じゃぁ行こうか」
「ええ」
「うん」
「「「はい」」」
という訳で、俺達6人は裕二の家を目指し出発する事にした。
初めて裕二の家に行く、舘林さんと日野さんは絶対に驚くだろうな。
裕二の家に到着すると、予想通り舘林さんと日野さんが驚愕の表情を浮かべながら、信じられないモノを見る眼差しで正面の門を凝視しながら絶句していた。
まぁここが友人の家だといわれても、初めてこの門構えを見る人はそうなるよな。
「まぁ初見なら驚くよな」
「それはそうよ、私達だって初めて来たときは唖然としたもの」
「うん、初めて来たときはホント?って目を疑ったもん」
「私も最初にこの門を見た時は内心、ええって引きましたよ。ココが広瀬先輩の家だっていわれても、ドッキリかな?って信用出来ませんでしたし」
まぁそういう反応になるよなと、俺は深く頷きながら皆の感想に同意する。俺だって初めて裕二の家に来た時は、正直腰が引けたしな。
実家が道場をやっているとは聞いていたけど、ここまで立派な門構えを備えた道場だとはちっとも想像していなかったからさ。
「2人とも大丈夫?」
「えっ、あっ、はい」
「は、はい。えっと、その、本当にココなんですか? 広瀬先輩のお家って」
俺に声を掛けられた舘林さんと日野さんは、茫然とした表情を浮かべながら信じられないといった感じで本当に目的地はココなのかと確認を取ってくる。
まぁ信じられないという気持ちはわかるが、俺は力強く頷きながら2人の疑問にハッキリとした口調で答える。
「間違いなくここが裕二の家だよ。2人も裕二の家が道場を運営しているって話は聞いてただろ?」
「あっ、はい。でも……」
「まさか、ココまで凄いだなんて……」
俺が間違いないと断言しても舘林さんと日野さんは今一つ信じられないのか、不安げな表情を浮かべながら美佳や沙織ちゃん、柊さんに確認を取ろうと視線を向ける。
すると3人は何ともいえない表情を浮かべながら頷き、ココで間違いないと教えた。
「まぁ2人が信じられないと思うのは仕方がないと思うけど、余り裕二を待たせるのも悪いしそろそろ先に進もう」
俺はそういうと、門の脇に設けられている通用口の傍に設置されているインターホンのチャイムを押した。舘林さんと日野さんがいきなり!?といった表情を浮かべていたが、このまま立ち話をしていても話が進まないからね。本人の姿を見るのが、ココが裕二の家だという一番の証拠になるだろうからな。
そしてインターホンから軽い電子音が響き、数秒ほど待つとスピーカーから声が響く。
「はーい、どちら様ですか?」
「九重です、裕二君と約束をしていたんですが」
「ああ、九重さんですね。話は聞いています、中にどうぞ」
「ありがとうございます」
俺の来訪用件を聞いたお手伝いさんが、インターホンを切ると同時に通用口のロックを外してくれる。
どうやら裕二から少し早めに着くという話を聞いていたらしく、スムーズに中に入れてくれた。
「中に入っていいって」
「じゃぁ入りましょうか」
「うん」
「ほら、いつまでも固まってないで中に入るよ」
「あっ、はい」
「は、はい」
固まっていた舘林さんと日野さんの背中を美佳と沙織ちゃんが押し、緊張した足取りで通用門を潜る。
さて、真っ直ぐ道場の方に向かうのが良いのか、母屋の方に行く方が良いのか……。
「よっ、皆おはよう」
「あっ、裕二。おはよう、朝早くから押しかけて悪いね」
「なぁに、気にするな」
どちらに向かおうか悩んでいると、道着姿の裕二が道場の方から歩いてきた。どうやらお手伝いさんから、俺達が来たことを伝えられたらしい。
「おはよう広瀬君、今日はよろしくね」
「おはよう柊さん」
「「おはようございます!」」
「おはよう」
ある意味見慣れた姿の裕二に、柊さんと美佳と沙織ちゃんの3人は特に緊張した様子もなく普段通りの挨拶を交わす。
だが、舘林さんと日野さんは裕二の家の雰囲気に飲まれてるのか、緊張した面持ちのまま挨拶の言葉を口にするのも苦労している様だった。
「おはよう、2人とも。随分緊張している様だけど大丈夫か?」
「はっ、はい、大丈夫です! えっと、その、おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「お、おはようございます! よろしくお願いします!」
「ははっ、コチラこそよろしくね」
緊張のあまり舘林さんと日野さんは腰から頭を下げながら裕二に向かって挨拶をし、裕二も2人の思わぬ反応に苦笑を浮かべていた。
「それじゃぁ道場の方に案内するな」
「ああ、よろしく」
裕二に先導される形で、俺達6人は道場の方へと足を進めた。
そしてその移動中、初めてここに来た舘林さんと日野さんは緊張しつつも興味深げな眼差しで辺りを観察していた。まぁ道場が敷地内にある様な広い武家屋敷、まず見る機会なんて無いだろうからな。
「さっ、上がってくれ」
「お邪魔します」
道場に上がると、壁際に色々な種類の模擬武器が置かれているのが目に入った。
パッと見た感じ十数種類ほどありそうだ。
「これはまた凄い数の武器だね」
「これでも、模擬刀なんかがあるオーソドックスな奴に絞ったんだぞ? 特殊な奴も含めたらコレの数倍はあるからな」
「うわっ、コレの数倍……」
これでも一部だとだという裕二の発言に、俺達は驚きの表情を浮かべた。
確かに俺達でもどこかで見たことがある形の、オーソドックスな武器ばかりが並んでいる。
「それじゃ早速始めようか。といってもまずは準備運動からだけどな」
自分達の荷物を武器が並ぶ反対側の壁際に置いた後、舘林さんと日野さんの武器適性調査を始める前に全員で軽く準備運動をする事になった。
軽い試し振りとはいえ、朝からいきなり動いたら怪我をするしな。
「良し、準備運動終わりっと。それじゃぁ始めるか」
「「はい!」」
準備運動を終えた俺達はまず、裕二がお勧めする打ち刀サイズの木刀から試し振りを始める事にした。
まぁある意味、基本といえば基本だよな。
「それじゃぁ2人とも、俺が見本を見せるから10回ほど振ってみてくれ。大樹、柊さん、違和感が無いか2人の様子を良く見ててくれ」
「了解」
「分かったわ」
正直、人の武器適性を見れるほど武術に精通している訳では無いが、動きに違和感を覚えるか覚えないかは分かると思うので頑張るしかない。
美佳達も見学組なので、後で感想を聞いてみよう。
「それじゃ、1! 2! 3!」
「「1! 2! 3!」」
2人と対面する裕二に先導される形で、舘林さんと日野さんが木刀での素振りを始めた。
放課後に素振りの練習をしているので、2人の素振りもそれなりに形になっている。
「10! 良し、そこまで」
裕二の終わりの掛け声と共に、2人は素振りを止めた。特に息を乱し疲れている様子は見られないので、放課後の基礎訓練の成果は出ている様だ。
普段から運動していなかったら、軽い素振りでも疲れたりするからな。
「どうだ、2人の素振りに何か違和感を感じた?」
「うーん、正直分からないよ。別の武器を振った姿を見てないから、違和感といわれてもね?」
「そうね。比較対象が無いと、正直違和感を感じないかといわれても……」
「まぁ、そうだろうな。それじゃぁ、次の武器を試していくとしよう」
裕二は俺達の意見に軽く頷き納得しつつ、舘林さんと日野さんに次の模擬武器の使い方を説明し始めた。次は先程の木刀より短い、小太刀サイズの木刀を使う様だ。
長さが違うだけでも、かなり素振りの仕方も変わってくるからな。
「それじゃぁ行くよ、1! 2!」
「「1! 2!」」
こうして裕二の指導のもと、舘林さんと日野さんは様々な模擬武器の素振りをし続ける事になった。
各武器を10回ずつとはいえ素振りを続けると、やはり終わるまでにはそれなりの時間が掛かる。大体1時間ぐらいかかったのかな?
そのせいで最初はなんでもない感じだった舘林さんと日野さんも、最後の方になると結構な疲労を感じている様だった。
「はい、お疲れ様。とりあえずコレで、一通りの試し振りは終わりだよ」
「「はい、お疲れ様です」」
一通り素振りを終えた舘林さんと日野さんは裕二に向かって軽く一礼した後、美佳と沙織ちゃんが用意したタオルとお茶を受け取っていた。
その間、裕二は俺と柊さんに先程の素振りの感想を聞きにくる。
「で、どうだった? 一通り2人の素振りを見て貰った感想は?」
「そうだね。あくまでも武術経験の浅い素人意見だけど、舘林さんは長物の扱いが苦手っぽいかな?」
「逆に日野さんは、長物の方が得意そうな感じだったわね」
色々試し振りをしている姿を観察した感じ、舘林さんは武器の先端まで意識が通っていないといったらいいのか、武器自体の長さを掴み切れてない感じだった。小太刀やナイフといった、間合いの短い武器の方が合っているんじゃないかと思う。
対して日野さんは、薙刀や槍といった長物を振るっても先端まで意識が行き届いている感じで、慣れればかなり広い間合いでも的確に目標点を攻撃できそうな感じがした。
「なるほど、俺も大体2人と同じ印象を持ったよ。2人の武器適性は、舘林さんが近で日野さんが遠って感じかな?」
裕二の得た印象も、どうやら俺達と同様だったらしい。
一先ず2人にはこの後、適性がありそうなモノを使って軽く模擬戦をして貰ってみるかな。実際に敵と相対した状況での動きを見てみれば、本当にあっているのかどうか分かりそうだしさ。