第535話 話は上手くいったらしい
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部室に入ってきた4人は少し上機嫌な足取りで席に着くと、待ちきれないとばかりにコンサル関係の話を始める。
舘林さん達の明るい表情と口調から考えると、良い報告が聞けそうだ。
「えっと、ですね。昨日、両親にコンサルティングの話を断られた件と、先輩達に教えて貰ったダンジョン関連の話をしました」
「コンサル話はともかく、あのダンジョン関連の話もしたの?」
ダンジョン内で探索者同士による戦闘もありうるという情報は、親御さん達にとってかなり刺激的だったんじゃと心配する。
「はい。黙っている事も可能ですけど、コレから受ける訓練や何も話さずにいて万が一が起きた時の事を考えると、事前に話しておいた方が良いと思いまして。それにもしもがあった時、知っていたのに先輩達が何も話していなかったから私達がこんな目にあったんだ、とかってご迷惑をおかけするわけにもいきませんから」
「……そっか」
俺達が手の出しようが無かった状況で起きた事だったとしても、そういう事例を知っていたのなら忠告ぐらいとは思うだろうからな。それが娘が怪我をした遠因に当たるのかもしれなかったのなら、たとえ八つ当たりだったとしてもぶつけたくなるという気持ちはわかる。
それを防ぐ為にも、舘林さん達は両親を説得する上で不利になると分かっていても敢えて話してくれたらしい。
「まぁ話を聞いてすぐは心配はされましたけど、お父さん達もこの前の先輩達との話し合いの後に色々調べていたらしく、噂話としてはそういう事もあるって知っていたらしいです。本当にそんな事があるのか?って疑わしく思ってはいたそうですけど、先輩達の話を聞いてやるせない表情を浮かべてましたけど納得はしていました。海外のダンジョンでは良くある出来事だという情報はあったけど、まさか日本でも数は少なくとも同様の事が起きているとは、って」
「まぁ、そうだろうね。海外のダンジョンと比べたら事件数は少ないってのが、親御さん達のギリギリの妥協って感じだったのかな?」
「多分そうだと思います。両親も、そういう事例があるのなら先輩達の話をよく聞いて、確り対応できる備えをしなさいっていってました」
「そっか、まぁそういった危険性があるのを理解した上で納得して貰えているのなら良いけど」
対人戦の危険性を認識した上でそういってくれるのなら、期待に応えられるように2人を確りと鍛えないとな。少なくとも、襲撃現場から逃げ出せる程度には。
まぁ美佳達も対人戦闘能力を鍛えるといっているし、一緒に教えればいいだけだしな。
「はい。でも渋々という感じだったので、どこかのタイミングで一度成果を見せた方が良いと思います」
「そうだね。ダンジョンに入る前に一度、組手か模擬戦をやって見せた方が親御さん的には安心材料に……なるのかな?」
「ある程度動ける姿を見せられれば、多少は安心して貰えると思います。私達今まで武術的な活動の経験が無いので、両親としてもこれだけ動けるんだって見せられればある程度は」
「……期間は短いけど、ある程度動ける様に教えるよ」
基礎訓練と並行して、見栄え重視の殺陣を覚えて貰うかな? 前に俺達が、柊さんの親御さんに見せたようなヤツをさ。
まぁレベルアップの恩恵が無い分、派手さは劣るだろうけど動けるっていう姿は見せられると思う。
「はい、お願いします」
「うん。とはいっても、まずは基礎体力をつける所からだからだね。途中で息切れしていたら、見栄えが悪いしさ」
こうして話の流れで、ダンジョンに入る前にお披露目会をする事が決まった。
お披露目会を行う事が決まった後、いよいよ本題について話し合う。
「話が逸れちゃったけど、コンサルティングを断った件は大丈夫だったの? 2人の表情を見るに、上手く話は纏まったみたいだけどさ」
「はい、2人とも無事に話はつきました。両親としても、最初から無理な場合は断って貰っても構わないといっていたので、先輩達に説明して貰った理由を伝えたらすぐに了承して貰えましたよ」
「むしろ逆に、自分達がかなり無茶な依頼をしてしまった事に反省していました。先輩達を悩ませた挙句、学校を巻き込む様な問題に発生させかねなかったなんてって」
「「本当に、色々とお手数をおかけしてすみませんでした!」」
そういうと、舘林さんと日野さんは深々と頭を下げ反省の言葉を口にした。
まぁ少し検討した段階で、色々と問題が発覚した案件だからね。とてもでは無いけど、学校に通う学生が片手間で取り扱う様な案件では無かった。それ専門に会社を立ち上げて行う様な話である。
「そんなに畏まって謝る様な事じゃないから、頭を上げてよ2人共。まぁ場の雰囲気に焦って出て来た話なだけだし、俺達も改めて考えさせられる良い機会だったよ。人を育てるのって難しいね」
「そうだな。今まで身内の者だからってまあまあなあなあでやってたけど、真剣に考えると頭が痛くなる話だったよ」
「そうね。でも今回客観的に色々考えたおかげで、色々と気付かされたわ」
そうだね。自分達が探索者としてどういう立ち位置に居るのかとか、自分達の探索者としての労力が金銭的にどれくらいの価値が付くのかとかさ。
何となく感じていたけど、色々可笑しなことになったよね。
「確かにお兄ちゃん達って、探索者として色々と凄いよね。強い強いとは知ってたけど、ガチのトップクラス探索者だもん」
「うん。私達ってそんな凄い人達に教えて貰っていたんだなんて、改めて考えると凄い状況だよね」
俺達と舘林さん達とのやり取りを横目で見ながら、美佳と沙織ちゃんは声を潜めながら2人で内緒話をしていた。目の前でやっているので内容は丸聞こえだけど、突っ込まないからな。
「まぁそれはそうとして、コンサルティングの話を断るという話は、2人とも了解して貰えたと考えて良いんだよね?」
「はい、その点はちゃんと了解を貰えました」
「私の方も大丈夫です」
「そっか、良かった」
ここ暫く頭を悩まされていた案件も、一先ず揉める事なく無事に片付いたようだ。
そして俺達が安堵した表情を浮かべ小さく安堵の息を漏らしていると、少し申し訳なさそうな表情を浮かべる舘林さんと日野さんが口を開く。
「それと私達の両親との面会の件なんですが、すみません。今週中に会うのは難しいそうです。仕事のスケジュール調整が難しく、来週に出来ないか確認して欲しいといわれました」
「私の方も、今週中は難しそうとの事です」
2人はそういいながら軽く頭を下げ、今週中の両親との面会は難しいと告げる。
まぁつい先日顔みせをしたばかりだからな、よほど緊急の用事でも無ければ同じ週に連続で早退やお休みを貰うのは心情的にも難しいだろう。
「まぁ急なお願いしてるしね。特に急いでいる訳じゃないし、面会は来週でも大丈夫だよ。……大丈夫だよね?」
「ああ、既にコンサルティングの件について了承を貰えているのなら、面会自体は遅くなっても大丈夫だろう。それまで2人は、基礎固めをして貰っていれば問題ないしな」
「私も大丈夫よ。広瀬君のいう様に、本格的に動く迄は基礎固めをしていればいいしね」
裕二と柊さんの了承も得られたので、舘林さん達の親御さんとの面会は来週おこなおうという事で話が纏まる。詳細な日時についてはコレからスケジュール調整をしてからになるので、後日決まり次第連絡を貰う事となった。
「分かりました、帰ったら両親にはそう伝えておきます」
「うん、お願いするね」
「「はい!」」
早ければ、明日明後日にはわかるかな?
まぁ特に急ぐわけでも無いので、のんびり2人の基礎訓練をしながら連絡を待つとしよう。
コンサルティング関係の話は一通り終わったので、この後に行う事について少し話し合う。
昨日、美佳達が指導し基礎体力訓練をやっているという話を聞いたので、今の段階で舘林さん達が実際にどれだけ動けるのか確認したいと頼んでいたのだ。
「一通り話も終わったし、昨日いっていた件を確認したいと思うけど大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
「トレーニングウェアもちゃんと持ってきてます」
舘林さんと日野さんは、そういうと軽く通学バッグを持ち上げアピールする。
普段から学校の隅を借りてやっているので、昨日見学をお願いしたらすぐにOKしてくれた。
「じゃぁ俺と裕二は部屋を出て下に降りてるから、着替え終わって出てきたら声を掛けてよ」
「「はい!」」
「じゃぁ、また後で」
俺と裕二はコレから着替える女性陣にそう告げ、部室を後にした。
そして1階の昇降口で待ちながら、雑談をしつつ時間を潰す。
「さてさて、コンサルティングの件が無事に終わって良かったよ」
「そうだな。まぁ元々勢いで出た様な話だったし、高校生が受けるには無謀な依頼だったんだ。落ち着くところに話が落ち着いてよかったよ」
「そうだね。変に受ける受けないで揉めていたら、舘林さん達との関係自体がぐちゃぐちゃになっていただろうから良かったよ」
元々が断っても良いので検討して見てくれないか?って話だったし、俺達の方から断れる要素があってよかったよ。あの時、軽はずみに受けますといっていたらどうなっていた事か……。
まあ悩みの種もコレで解消したんだ、後は舘林さん達の訓練を頑張ればいいさ。
「それはそうとして、2人はどれくらい動けるのかな? 美佳達の話を聞くに、多少はマシな状態っぽいけど」
「まぁ過度な期待はしない方が良いだろうな。普段から鍛えていたのならまだしも、始めてまだ1,2ヶ月ぐらいだしさ」
探索者がレベルアップの恩恵で大幅に身体能力を向上できるとはいえ、最低限の基礎運動能力は鍛えておかないと有効に活用はできないからな。最低限、体の使い方が分かっていなければ、向上した身体能力に無様に振り回されるのがオチだ。
俺達も昔、急激なレベルアップによる弊害をやらかした経験があるしな。
「お待たせ、2人共」
「ん? ああ、もう着替え終わったんだ」
柊さんに声を掛けられ振り返ると、柊さんの後ろにはトレーニングウェアに着替えた美佳達4人の姿が見えた。美佳と沙織ちゃんも一緒にトレーニングをしているといってたし、まぁそうなるよな。
因みに柊さんは、普通に制服姿のままである。
「あれ? 4人とも同じトレーニングウェアなんだ」
「うん。皆お揃いの方が、一緒にトレーニングしている団体って分かると思って。ほら学校のグラウンドを間借りしてやってるし、一目で同じ部活のメンバーだって分かった方が良いじゃない?」
「あと学校外でトレーニングする事もあるので、統一感のあるユニフォームの方が変に話しかけられる事も減りますから」
皆が一緒のトレーニングウェアを使っている理由を、美佳と沙織ちゃんが教えてくれた。
「なるほどね、そういう理由があるんだ。でもさそれ、どっかの有名メーカーの高いヤツじゃないよな?」
皆が一緒のトレーニングウェアを着ている理由は分かったが、俺は一つの懸念を持った。お揃いのユニフォームってのは良いけど、舘林さん達に無用な金銭的負担をかけていないよな?と。
探索者をやって稼いでいる美佳達と違って、舘林さん達は普通の高校生なんだからな。
「ん? ああ大丈夫、これ普通のお店で買えるヤツだから。広告にものってたし、普通の時に買うより安く買えたんだよ」
「へー、そうなんだ」
とりあえず俺の心配は杞憂だったらしい。
有名ブランドのトレーニングウェアともなれば、かなりお高いからな。
「はいはい皆、そろそろ外に行きましょう。今日は2人の現状を見せて貰うんだし、それなりに時間が掛かるのよ」
「ああうん、そうだね。じゃぁ行こうか」
俺達は外履きの靴に履き替えた後、普段美佳達が使わせてもらっているというグラウンドの一角に移動する。グラウンドでは運動部がそれぞれ活動しているが、話に聞いていた通りかなり人数が少なく侘しい状況が広がっていた。
夏休み前は新入生部員が入って、かなり盛り返していた様に見えたのにな。
「話に聞いていた以上に、運動部の人数不足はかなり深刻な状況だね」
「そうだな。個人種目がある部活はまだしも、団体スポーツの部活は開店休業状態だぞ。こういう姿を見てると、スポーツ業界も何かしらかの対策を急がないと競技人口がいなくなるんじゃないか?」
人数不足で困っている運動部を眺めながら、俺と裕二は何ともいえない眼差しを向けた。
「2人とも、何時までも黄昏ていないでこっちに来て。そろそろ始めるわよ」
「あっ、ごめん。すぐ行くよ」
「悪い」
柊さんに声を掛けられた俺と裕二は少しバツの悪い表情を浮かべながら、気合十分といった様子のトレーニングウェア姿の4人が待つ場所へと急いだ。