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第533話 基礎トレーニングは日々の積み重ねだ

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 机の上に視線を落とし気まずげに黙り込む舘林さんと日野さんの反応に、軽い気持ちで問いかけた俺は嫌な予感を覚えた。

 もしかして、何もやってない、とかってないよね?


「えっと……」


 俺は助けを求める様に、舘林さん達の隣で気まずげな表情を浮かべる美佳に視線を向けた。

 すると美佳は軽く目を閉じ小さく息を吐いた後、真っ直ぐ俺の顔を見ながら口を開く。


「一応、2人共運動はしているよ。探索者を目指す以上、それなりには動けないと駄目だからね。でも……」

「2人ともまだ、探索者を始められる基準に達していません。探索者になりたいと2人に真剣に相談され始めた頃から、基礎体力向上にってマラソンとかを勧めて実践してもらっているんですけど……」


 美佳と沙織ちゃんは気まずそうな視線を舘林さんと日野さんに向け、後は自分達の口から伝える様にと無言で促す。

 すると舘林さんと日野さんは観念したような表情を浮かべながら、自分達の運動能力が現状でどれくらいか説明し始める。


「えっと、ですね。美佳ちゃん達に相談を持ち掛けた時に、探索者はとにもかくにも体力が無いと務まらないって説明されたので、体力向上をめざして頑張り始めたんですけど……」

「まだ、これといった成果は出ていないです。前よりは動ける様にはなっているとは思うんですけど、美佳ちゃん達からは全然足りないっていわれてて……」


 何もしていなかったという訳ではなく、どうやらまだ始めたばかりらしい。基礎トレーニングの成果って、直ぐには表れないからな。トレーニング期間が短いのであれば、目に見える形で成果が出るまでにはまだまだ時間が掛かる。 

 夏休み前から始めていればそれなりに成果が表れているのだろうが、おそらく先程の話から本格的に探索者を目指す様になったのは文化祭のあたりかな?


「なるほどね。それで現状だと、2人はどれ位動けるんだ?」


 トレーニング時間不足というのは分かったので、その上で現状どれくらい動けているのか美佳と沙織ちゃんに尋ねる。

 基礎トレーニングを2人に勧めている以上、トレーナーっぽい事をやっているだろうからな。


「えっと私達が把握している範囲だと、マラソンは1~1.5㎞ぐらいの距離を息を乱さずに走れるくらいかな? 腕立てや腹筋といった筋力トレーニングもやって貰ってるけど、各筋トレメニューを30回3セットもしたら終わってから暫くは動けなくなってたよ」

「あと槍の素振りなんかも各型を30回3セットやって貰ってますけど、これも1セットやったら徐々に型が崩れて3セット目は息も絶え絶えになります」


 美佳と沙織ちゃんから舘林さん達の現状報告を聞き、体力不足な面が目立つのでこのまま暫くは基礎的なトレーニングを続けるのが良いだろうなと思った。

 探索者はレベルが上がれば身体能力も向上するが、レベルが低い時は探索者自身の身体能力がモノをいう。基礎体力が足りないと、モンスターと戦いレベルを上げる事自体が難しいからな。


「なるほど、確かにまだまだ基礎体力不足が目立っているね」

「ああ。出来ればある程度の距離を稼げる逃げ足と、確りと武器を振りモンスターにダメージを与えられる程度の筋力は備えておかないと拙いからな」

「そうね。体力が足りないといざって時の思考が鈍って危険を招きかねないし、筋力不足だといくら良い武器を持っていても的確に使えなくてモンスターにダメージを与えられないなんて事にもなりかねないわ」


 少なくとも、それなりに活動している運動部程度の基礎能力は欲しいかな。全国大会に出場する強豪部活のレギュラー級とはいわないが、多少運動した程度で簡単に息を切らすようでは話にならない。

 そして何より体力不足でダンジョンに挑んだ場合、動きが鈍ってケガに直結する確率が上がるからな。


「そう、ですよね」

「はい……」


 俺達がそれぞれの所感を口にすると、舘林さんと日野さんは肩を落とし落ち込んでしまった。本人達も不足は認識していただろうが、こうして面と向かっていわれるとクルものがあるだろうからな。

 そんな舘林さんと日野さんの姿を横目で眺めながら、俺達は美佳と沙織ちゃんに2人が今やっている基礎トレーニングのメニューについて詳しく聞く事にした。


「なるほど、確かに基礎トレーニングメニューだな」

「うん。今まであんまり運動してなかった人に、いきなり私達が普段している様な練習は無理だもん。まずは基礎トレーニングで体力不足の解消と、体の動かし方を覚えるのが先かなって」

「素振りもユックリとした動きで型を覚えて貰うのを優先しています。慣れてない動作なのに、素早く素振りをしていたら筋を痛めちゃいますから」


 一通り話を聞いてみると、美佳と沙織ちゃんの指導方針はすこぶる真っ当なモノだった。

 暫くこのメニューを熟していれば、それ相応の基礎は身につくだろう。技能云々は基礎固め後の話だからな。

 

「2人の指導方針は分かった。館林さんと日野さんには、基礎体力が付く迄は暫くはこのメニューを熟して貰った方が良いな。このメニューを楽に消化できるように成れば、ダンジョンに入っても体力不足で変に躓く事も無いんじゃないかと思う」

「後付け加えるとすれば、運動前と後に十分なストレッチをする事かな。柔軟性が上がれば可動範囲も広がるし、怪我をするリスクも減る」

「そうね、まずは基礎体力をつける事が優先かしら? 資格試験の筆記テストは簡単だから、トレーニングの合間にやるだけで大丈夫でしょう」


 俺達3人は美佳と沙織ちゃんが提案したトレーニングメニューを維持していれば、舘林さんと日野さんの基礎体力改善は時間の問題であると判断した。本当に、時間を掛けるしか解決方法が無いからな。

 本音をいえば、夏休みあたりから走り込みでもしていてくれたらもっと短縮できたんだけどね。


「「分かりました」」


 一先ず舘林さんと日野さんの現状を把握できたので、美佳達考案のトレーニングメニューを継続するという方針が決まった。基礎が出来ていない段階であれこれ教えても、中途半端になるだろうからな。

 

「とりあえず、トレーニングの方は今のメニューのまま様子見をしようか。最低限の基礎が固まってないと、ダンジョンに入った時に痛い目を見る事になるからね」

「「はい」」


 俺の話を聞き、舘林さんと日野さんは少し表情を曇らせ焦っている雰囲気を漂わせる。焦る気持ちは分からないでも無いが、焦って事を進めても碌な事にはならない。

 それに既に美佳達と一緒にトレーニングを始めているのなら、そう時間はかからず成果は出始めると思う。 


「確かに時間はかかるだろうけど、そんなに焦らない方が良いよ。基礎トレーニングなんてものは、急に成果は出ない類のものなんだからさ」


 まぁ毎日頑張っていれば、1ヶ月もあればそれなりに実感できるようになるんじゃないかな?


「うんうん、コツコツと努力を積み重ねるだけだよ。それにトレーニング自体はもう始めてるでしょ? もうすぐ実感できるようになるよ」

「少しずつだけど、ちゃんと記録は伸びてるし大丈夫だよ。ほら、継続は力っていうじゃない」

 

 落ち込む舘林さん達の姿を見た美佳と沙織ちゃんも、気付きにくいがトレーニングの成果は出ているから大丈夫だと励ましていた。

 その励ましに落ち込んでいた舘林さんと日野さんも顔を上げ、力の無い苦笑いを浮かべ返した。 


「うん、そうだよね。コツコツと頑張るしかないよね」

「走れる距離も少しずつ伸びてるし、ちゃんと成果は出てる筈だもん……うん」


 舘林さんと日野さんは少し自信無さげだが、トレーニングの成果を少しは実感できている様だ。

 まぁ本格的に実感できるのは、もう暫く時間がかかるだろうな。





 

 トレーニング系の話が終わったので、俺達は次の話題に話を移す。 


「良し、じゃぁ次の話に進もうか」

「次の話、ですか?」

「ああ。トレーニングの方は現状のまま続けて貰うとして、並行して装備品の方も揃えていこう。協会主催のオークションなんかを利用して、安く良い装備品を揃えようとしたらそれなりに時間が掛かるからね」


 美佳達も装備品を揃える時に利用した、協会主催の中古装備品の売買サイトの事だ。今でも結構な品物が売買されており、良い物を買おうとしたらそれなりに手間暇がかかる。

 値段だけ見て買うと、酷い状態の品物が送られてきたりするらしいからな。


「一応俺達もそれなりに知ってはいるけど、実際に購入した事がある美佳達の方が詳しいかな?」


 問いかけの視線を美佳と沙織ちゃんに向けると、2人は自信ありげな笑みを浮かべながら力強く頷いた。


「任せてよ、前に私達のを買う時にいろいろ勉強したから良い物を選んであげられるから!」

「使用期間の短い新品同様だから良い防具じゃないとかって、先に調べておかないと分からない部分もあるから、色々教えてあげるね」

「えっ? ああ、うん。よろしくお願いします?」

「よろしくお願いします?」


 自信ありげな美佳や沙織ちゃんに対し、戸惑いの表情を浮かべている舘林さんと日野さん。


「えっと、防具なんかの装備品って販売店で新品を揃えるんじゃないんですか?」

「うん、その疑問は当然出て来るよね。そう思うのは無理もないと思うけど、探索者業界だと新品が必ずしも良いという訳でもないんだよ」


 俺は舘林さんと日野さんに、探索者業界における新品防具と中古防具の立ち位置を教える。


「そんな事になっていたんですね」

「知りませんでした」


 まぁ最終的にどれを買うかの決定権は舘林さん達にあるのだから、色々教えて貰いながら判断すると良いと思うよ。

 何せ下調べしていない新人なら、新しくて高い方が良い物って思うかもしれないけど、そうじゃないってのが探索者業界の中古市場だ。防具にもレベルアップ時の恩恵とかあるから、未使用の新古品とかより状態の良い中古品の方が防御性能が良いとかあるからね。

 

「基本的に美佳や沙織ちゃんとの方が相談しやすいだろうから任せるけど、俺達も分かる範囲でアドバイスするから気軽に相談してくれて良いからね」

「あっ、はい。ありがとうございます」


 舘林さんも日野さんも思ってもみなかった探索者業界の装備品事情に目を丸くし驚いているが、注意点も伝えておかないと。


「それと今話したのは防具なんかの装備品の事だけで、武器なんかの装備品については別だよ。こっちは中古品じゃなく新品を購入した方が良い」

「「えっ?」」


 いきなり直前の話と真逆の答えを告げられ、舘林さんと日野さんは呆気にとられたような表情を浮かべていた。


「武器の場合、中古品だとどういった使い方をされていたか分からないからね。まともに武器の扱い方も知らない素人が手荒く扱ったモノだった場合、どこにガタが入ってるか分かったものじゃない。特にある程度レベルを上げた探索者が使っていた物だった場合、想定を超える負荷が掛かっていた可能性が非常に高い。いくらレベルアップの恩恵で武器が強化されていたとしても、正しい使い方をされていなかった武器だと見た目がキレイでも中身はボロボロで何時壊れるか分からないよ」

「「えっと……」」

「まぁ難しい話は横に置いとくとして、武器に関しては新品を購入した方が良いと覚えてくれたらいい。モンスターと戦っている最中に武器が壊れるなんて事になったら、致命傷を負いかねないからね」

「「な、なるほど……」」


 まぁ新品を購入する事になるので、中古品を買うより少々高くなるが自分の身を守る為に我慢して貰いたい。妥協した結果、大怪我を負ってしまっては後悔してもし切れなくなるからな。

 まだ少し混乱している感じなので、後でもう一度言っておいた方が良さそうだ。


「武器と防具に関してはそんな感じだから、バックパックなんかの装備品については美佳達と話し合いながら決めると良いよ。まぁ予算には限りがあるだろうから、全部新品で揃えるってのは難しいだろうけどさ」

「分かりました、お財布と相談しながら出来るだけ良い物を揃えようと思います」

「美佳ちゃん沙織ちゃん、色々アドバイスお願いね?」

「「うん、任せて!」」


 俺が装備品購入に関する一通りのアドバイスを伝え終えると、館林さんと日野さんは少々不安気な表情を浮かべながらも楽し気な雰囲気を漂わせ、美佳と沙織ちゃんは目を輝かせながら意欲的な笑みを浮かべていた。買い物は楽しいだろうが、予算の範囲内で買えよ。

 そこはかとなく不安を感じるけど、まぁそこまで変なモノは購入しないだろう、うん。
















基礎トレーニングは始めて直ぐだと中々成果が実感できず、やきもきしますからね。


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挿絵(By みてみん)

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色々と情勢が進んでいってるのはわかるけど、少し前の練習場を使うって話は無いのかな 本人たちが、練習場を利用している話もないし、ダンジョンに潜っている話もない スライムダンジョンはどうなって居るんだろう…
ダンジョンが民間開放されたばかりの頃と比べたら最近探索者が増えたことで死傷を負うリスクが下がった分稼ぎにくくなっているんだよね。 例えば、浅い階層で倒しやすいモンスターがいるエリアの独占や ダンジョ…
なるほど、基礎トレーニングはやってたけど効果実感前 トリオがもやもや迷走してるうちに、妹ちゃん達実践的なアドバイスと準備 ナイスです ちょっとトレーニングやっただけでもう十分 ガンガン探索できる っ…
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