第526話 本当の事を話しているのだが
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俺達が実際に昔経験した事件の話とはいえ、美佳達にはかなりショッキングな話だったようだ。まぁ俺達も遭遇した当時は、かなり衝撃的な出来事だったと記憶している。事件直後は事後処理にゴタゴタした事の重要性を良く分かっていなかったが、ある程度時間が経って落ち着いて考えると相当危険な状況だったと理解できた。まさかダンジョン内で人間が実際に敵として襲ってくるとは、その時までは思考想定の一つとしてでしか考えていなかったからな。
そして幸か不幸か襲われたのが警戒感マシマシ状態のダンジョン内だったから、異変を感じ即周辺索敵、冷静に被害者の救護、攻撃してくる存在の即迎撃等といった行動がとれた。コレが普通の街中での出来事だったら、慌てふためくだけで何もできずに襲われてただろうな。
「舘林さんに日野さん。とりあえず今話した事をご両親に話すかは任せるけど、コンサルティング依頼に関してはもう少し考えさせて下さいといっておいてくれるかな? でもまぁ、現状でお仕事として引き受けるのはちょっと厳しいってのが本音だけどさ」
まだ先程の話のショックを引きずっている様子の舘林さんと日野さんに、俺は出来るだけ優しい口調で今日の話し合いの結論を伝える。
もしかしたら何かしらかの解決策を思いつくかもしれないが、直ぐに妥協案というか代替案を思いつくわけではないからな。むしろ現状を考えれば、俺達の手には余ると感じているので依頼を断るという一択だ。舘林さんと日野さんの指導やアドバイスを放棄する訳じゃないが、仕事として受けるのはね……。
「……わ、分かりました。両親にはまだ検討中だと伝えておきます。今聞いた話をするかは……涼音ちゃんと話し合ってから決めたいと思います」
「あ、うん。その方が良いだろうね。今は話を聞いたばかりで上手く飲み込めてないだろうから、他人に話すなら少し時間をおいてからの方が良いだろうね。上手く自分で咀嚼できてないまま話すと、話し合い自体が支離滅裂なことになりかねないからね。2人……いや、4人かな? 4人で話してから決めると良いよ」
目を泳がせながら舘林さんは2人で相談してから両親に伝えるといっているが、青い顔を浮かべる2人の隣で美佳達が心配そうな眼差しを向けていたので、現役探索者の相談相手として俺達より話し易そうな美佳と沙織ちゃんの同席を勧めておく。
それに気丈な様子を見せている美佳と沙織ちゃんも、俺が話した襲撃者の話には衝撃を受けている様なので、誰かと話しながらゆっくり飲み込む時間が必要だろう。
「さて、それじゃぁ今日はこれで解散しようか。俺達は先に帰るから、ここで4人で話してみると良いよ。俺達が居ると話し辛い事もあるだろうしね。それと、もし何か聞きたい事が有ったら何時でも声を掛けていいからさ」
「……はい、ありがとうございます。皆で話してみます」
「ありがとうございます」
何ともいえなさそうな表情を浮かべる4人に解散を告げ、俺達3人は席を立ちあがる。
「うん。それじゃぁ美佳に沙織ちゃん、2人も色々考えたい事もあるだろうけど悪いけど2人の話相手になってやってくれ。舘林さんと日野さんの2人だけじゃ、悪い方悪い方に考えが進むかもしれないしね。あくまでも俺達が話したのは初期の頃の話だから、最近のダンジョン内の様子なんかを教えてあげてくれ」
「うん、分かった。私達もお兄ちゃんの話で色々考えさせられる部分があったしね」
「分かりました、私も1人で考えていたら悪い方悪い方に考えそうだったから丁度良かったです」
少し頭を下げながらした俺のお願いを、美佳と沙織ちゃんは素直に聞き届けてくれた。
まぁ美佳達からしても、先程の話は探索者を続けていく以上、よくよく考えておかないといけない事だからな。
「それじゃぁ頼むな。あっ、先生もいきなり込み入った話に巻き込んですみませんでした」
「別に構わないわ、生徒の相談事を聞くのも教師の仕事だもの。それより貴方達には少し話を聞いておきたい事があるから、この後別の場所で話をしましょうね?」
橋本先生は据わった眼付きで俺達に有無をいわせない迫力を持って、別室でのお話合いのお誘いを投げかけてきた。
どう答えるのかって?
「はい」
俺達に嫌ですと答える選択肢なんて無いよ。
そんな訳で俺達3人は橋本先生と別室でのお話となり、美佳達4人に見送られる形で部室を後にした。
橋本先生に連れられ、まずは職員室へと向かった。勝手に使う事は出来ないので、相談室の利用許可を貰っておかないといけないからな。
この時すでに相談室は利用中ですので使用できません、という答えを期待していたのだが残念な事に今日は利用予約はないとの事。残念。
「それじゃ、行きましょう」
軽い足取りで俺達の前を進む橋本先生に対し、俺達は重い足取りで後に続く。
そして5分と掛からず俺達は第1相談室に到着した。
「さっ、皆入って」
「「「失礼します」」」
ウチの学校の相談室は2つある。1つの部屋が普通の教室ほどの広さがある部屋に内壁を立て2分割した広さで、部屋の中央にそこそこ立派な6人掛けのテーブルとソファーが対面する形で用意されている。内装は防音性を重視した造りで、飾りっ気の少ないシンプルな作りだ。
まぁ相談内容が部屋の外に漏れない造りになっているので、他人に聞かれたくない秘密の相談をするにはもってこいの場所だろう。
「さっ、適当に座って」
「「「はい」」」
俺達がソファーに腰を下ろすのを確認した後、橋本先生も対面のソファーに腰を下ろした。
そして橋本先生は俺達の顔を一瞥した後、小さく溜息を漏らし疲れた表情を浮かべながら話し始める。
「貴方達、また随分と妙な事に巻き込まれたわね?」
「そうですね。元々は部活の後輩が探索者になりたいから手助けを……といった相談をされただけなんですけどね」
橋本先生の労いを含む問いかけ?に、俺達3人は疲れた笑みを浮かべながら肩を少し竦めつつ頭を左右にユックリと振った。
「それが何で、コンサルティングをなんて話になったの? ある程度経緯は聞いたから分かってるけど、どうしてそんなお仕事の話になるのかな? 貴方達が個人事業主系探索者をやっているとはいえ、高校生なのよ?」
「何でなんでしょうね? 正直俺達も、舘林さん達の親御さんからコンサルティングをなんて話をされた時は驚きましたよ。俺達も舘林さん達が探索者をやるのなら、アドバイスや武術の基礎的な手解き支援するつもりだったんですけど……話が何だか変な方向に進んでそれも難しいかもしれませんね」
コンサルティングの話を断った上で、先輩後輩の関係として指導するというのも、なんだかね。一度仕事としてという件が出てしまっている以上、話が拗れないかが心配だ。
やっぱり俺達はアドバイザーに徹し、外部の道場なんかに武術の基礎指導は任せるという形が良いのだろうか?
「コンサルティングをってのは、話し合いの途中で舘林さん達の親御さんが言い出したのよね? 舘林さん達本人じゃなく」
「はい、探索者のケガなんかの話をした後に」
「となると、娘さん達と同い年の九重さん達が大きなケガも無く探索者業をやっている姿を見て、貴方達に任せれば大丈夫だと思ったんでしょうね。コンサルティングをというのは、貴方達のサポートを確実に受ける保証を欲したんじゃないかしら? 重要な事だから、その場での口約束より確りとした契約書を交わしておこうと思ったのかもしれないわね」
「やっぱり、先生もそう思いますか?」
俺達が考えた理由に近い先生の考えを聞き、やっぱりそうなんだろうなと思い3人揃って溜息を漏らした。
先輩が厚意で後輩の指導にあたった、という形にしておいて貰った方が良かったのにと。
「それで結局、貴方達はこの話をどうするつもりなの? さっきの話を聞いている限り、仕事として受けるのは難しそうだけど」
「最終的には、コンサルティングをという話は断るべきだと思っています。ただ断るにしてもその後の遺恨を残さない為に、ちゃんとした理由を用意してからの方が良いと考えています。向こうも断るのなら断って貰っても構わないとはいってもらっていますが、納得できる理由ぐらいは聞きたいでしょうし」
「そうね。ただダメといわれるより、こういう理由でダメといわれる方が変なモヤモヤを抱えなくて済むと思うわ」
舘林さん達の御両親としても、正直コンサルティングをという話を出したのはその場の勢いもあるだろう。だが一度口に出してしまった以上、断られるにしてもそれなりの体裁を整えて貰う方がありがたいだろうしね。
昨日の話し合いから時間も経っているし、如何に変な事を俺達に頼んでいるのかは理解してもらえているはずだ。
「だと思います」
「それで、親御さんが納得できる理由は考えついているの?」
「今日した話だけでも、舘林さん達の親御さん達が求める安全性は保障しきれない。コレだけでも十分とは思いますが、やっぱり分かり易いモノの方が良いですよね?」
「そうね。正直今日貴方達から聞いた話も、実際にダンジョンに挑んだ事がある探索者でなければ本当の意味での実感は持てないと思うわ。話半分、絵空事と感じるかもしれないわね」
まぁ俺達からしても、まさかって事件だったからなアレは。
そうなると、やっぱり分かり易いお断りの理由は……お金だろうな。
「でもそうなると、分かり易いお断り理由の方も嘘っぽく聞こえると思うんですよね。本当の事なんですけれど」
「分かり易い理由って……お金、契約料金って事よね? それが嘘っぽく感じるってどういう事よ?」
「契約料として考えている金額が、ちょっと凄い事になりそうなんですよ」
「凄いって……さっき収入の1割って仮定していた話よね? 無粋なのは承知だけど、幾らを請求する気なのよ」
何か嫌な予感を感じていると言いたげな表情を浮かべる橋本先生は、少し目を細めながら鋭い眼差しを俺達に向けた。
無粋とはいっているが、ココまで巻き込んでいるのだから早く吐けといいたげである。
「ここ最近、何とはいえませんが高価なレアドロップ品を手に入れたおかげで収入が跳ね上がったんですよ。かなり貴重な品だったらしく、破格の買い取り額を提示して貰えました」
「……話を聞く限りかなり、貴方達って相当凄腕の探索者だいうのは分かっているわ。その貴方達が破格の買い取り額というのなら、相当なモノなんでしょうね」
「はい。具体的な数字はいいませんが、ここ最近の収入の1割に相当する額を請求するとしても、百万円単位の請求額になります」
「えっ!?」
俺が請求金額を口にすると、橋本先生は目と口を見開き驚きの表情を浮かべた。
まぁ、そういう反応になるよな。
「う、嘘よね? 私を驚かせようとしていっている冗談よね?」
「いえ、残念ながら本当です。運が良かったといえばそれまでなんですが、レアドロップ品を高騰しているタイミングで手に入れ売却した。いってしまえばそれだけなんですが、今回の件を考えるとタイミングが悪かったといえますね。請求金額が跳ね上がってしまいました」
「本当、なの? お断りの理由を作る為にいっているんでしょ?」
「信じられないでしょうけど、本当です。実際にダンジョン開放初期の頃は買い取り額も高く、似たような額で色々な種類のレアドロップ品が取引されていましたからね。今回俺達が手に入れたものは、最近の値下がりの影響を受けていない数少ない品物の一つです」
(最)初期の頃に手に入っていた色々な(ファースト)ドロップ品と似た額で買い取って貰えた、今でも値下がりの影響を受けていない(条件付き秘匿対象の)ドロップ品、だからね。
そして橋本先生は俺達の顔を一瞥した後、俺達の表情から嘘をいっていないと確信し……力無くソファーの背に体重を預けるように崩れ落ちた。
「「「せ、先生!?」」」
俺達はソファーから立ち上がり、崩れ落ちた橋本先生に駆け寄り声を掛ける。
すると橋本先生は力無い動作で軽く手を振りながら、大丈夫だと伝えてくれた。
「だ、大丈夫よ。心配しないで、少し疲れただけだから」
橋本先生はソファーの背凭れから体を起こし、俺達を元の座っていた位置に戻してからそれぞれの顔を一瞥してから、据わった眼付きで一言愚痴を漏らす。
「貴方達、一体ダンジョンで何をしているのよ?」
十分に安全マージンを取った探索です、と答えても納得して貰えないだろう。
コレは俺達が、普段から相当無茶な探索をしていると思われているんだろうな。