第522話 受けるか受けないか決めかねています
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俺達はコンサルティング問題で頭を悩ませつつ、憂鬱な気分で授業を乗り越え放課後を迎える。昼休みに詳細をぼかしつつ、柊さんを交えながら簡単な情報交換を行ったが、やはりこれといった解決策的な意見は出なかった。
まぁ直ぐに答えが出るような問題ではないので、出なくても問題はないんだけどさ。
「何とか無事に一日を乗り越えたね。まぁこの後が本番といえば本番なんだろうけどさ」
「そうだな。まぁ今日で結論を出すわけじゃないから、多少は気は楽といえば気は楽なんだけど」
俺と裕二は窓の外に視線を向け、憂鬱気な表情を浮かべながら小さく溜息を漏らした。
これからコンサルティングを頼んできた本人達を交えながら、色々と話し合わないと、と考えるとね。
「ほら2人共、何時までも黄昏てないでそろそろ行くわよ?」
「「はぁ、了解……」」
柊さんが少し呆れ顔を浮かべながら移動を促してきたので、俺と裕二は気の抜けた返事を返しながら動き始める。昼休みに情報交換しつつ話し合った時には柊さんも憂鬱気だったのに、俺達と比べ部室へ向かおうとするその足取りは軽い感じだ。
そして俺と裕二は柊さんの後を追う様に、重い足取りで部室へ向かって歩き出す。
「そういえばさ二人とも、今日の部活には橋本先生も顔見せに来るっていってたけど、コンサルティングの話にも同席して貰う? 一応プライベートな活動だけど、何の報告も相談も無しってのはどうかとも思うしさ」
「確かにプライベートの時に依頼されている件だけど、後になって何も聞いていませんでしたとかってなったら面倒だろうからな。面倒だろうけど、立ち会って貰った方が良いかもしれない」
「それが良いと思うわ。部員同士って繋がりから始まった話なのに、顧問の先生が何も知らないってのは拙いでしょうね。私達が何をやっているのか、ぐらいは把握して貰っておいた方が良いと思うわ」
特別何か問題を起こす気は一切ないのだが万が一、何らかの揉め事に発展した際に一番身近な教職員である部活の顧問が何も知らなかったでは済まされないだろうからな。
部活顧問とは直接関係はない迷惑な話だろうが、話し合いの場に同席して貰っておく方が良いだろう。
「そうだね、じゃぁ先生が来たら時間を貰って話し合いに同席して貰えるようにお願いしようか」
「ああ」
「そうね」
余計な仕事を増やす事に多少の申し訳なさを感じつつ、俺達は橋本先生に話し合いの場への同席をお願いする事を決めた。
部室へ到着した時、部屋の中にはまだ誰もいなかった。まだ美佳達は来ていない様だ。
「美佳達の方は、まだLHRが終わってないのかな?」
「かもしれないな。俺達の方は特に連絡事項も無かったからすぐ終わったし、早めに教室を出たからな」
「橋本先生もまだ来てないし、特に急ぐ必要もないわよ」
俺達は机に荷物を置き、いつもの席に腰を下ろす。
舘林さん達が意気込んで待っているかもしれないと思い、少し緊張していたが肩透かしにあった気分だ。
「舘林さんと日野さんが来たら、まずはどういった話から入るのが良いかな?」
「まぁ美佳ちゃん達からある程度話は聞いてるだろうから、受けるか受けないかから話し合うべきだろうな。コンサル料だの道場の紹介先だのは、受ける受けないが決まってからのお話だ」
「そうね。昨日までならその場の勢いで、部活の後輩に教えるだけって意識でコンサルティングの話を受けてたかもしれないけど、改めて考えると簡単に決めて良い話じゃないもの。特にこれまでコンサルティングの様な仕事をしてきた訳じゃない私達じゃ全くノウハウが無い上、万が一の場合に万全の対応をとれるような経験もないわ」
俺達全員が、良く分からないまま仕事として話を受けるという事を軽く考えすぎていたからな。重蔵さんに指摘された裕二の話を聞いて、初めて深く考えるようでは、ね。
ホント、あの場で受けますとコンサルティングの話を安請け合いしなくて良かったよ。
「そうなんだよね。コンサルティングの真似事は出来そうだけど……」
「仕事としてとなるとな……」
「そうなのよね……」
ただ後輩に探索者としてやっていく方法を教えるだけ、そう思っていたんだけどな。コンサルティングという仕事が発生し、一気に悩ましくなった。今更ただの後輩として教えます、というのでは親御さんも納得できないだろうからな。健吾さん達が仕事として2人のコンサルティングをお願いしたいと申し出たのはつまり、中途半端な所で投げ出さず責任をもって舘林さんと日野さんがそれなりにやっていける探索者に育ててくれ、といっている様なものだ。
まぁ後輩への指導という形では最悪、俺達が2人の事を気に入らないからといった理由で指導を途中で放棄する可能性もあると考えたのだろうな。レベルアップの恩恵で探索者は簡単に常人を超える力を発揮できるようになるので、全くの素人という状態より中途半端な状態で放り出されるのが一番危険な状態ともいえるしな。
「幸い2人の探索者になりたいという希望は叶いそうだし、資金援助もしてくれるって話だ。健吾さん達も、俺達がコンサルティングを専門としているとは思ってないだろうから多少の粗は見逃してくれるかもしれないけど……中途半端な事は出来ないからな。仕事として受けるのならちゃんとした契約書を交わす必要もあるから、弁護士なんかの専門家にも相談した方が良いよな?」
「そうだね。正式な書類なんて作った事ないから、専門家に間に入って貰った方が良いと思うよ。抜け穴を突く様な事をする気は無いけど、正式な書類で変な漏れがあると後々面倒な修正処理をしないといけなくなるかもしれないしさ。面倒を避ける為にも、最初っから専門家に相談してからの方が良いと思うよ」
「そうね。でもその手の相談って、単発の仕事で弁護士さんに受けて貰えるのかしら? やっぱり初めて尽くし過ぎて、簡単に良いわよと請け負える事じゃないわね」
話し合えば話し合うほど、仕事を請け負う為の難易度が高くなっていっているのは気のせいだろうか?
そんな事を難しい表情を浮かべながら3人で話し合っている内に何時の間にか時間は経っており、部室の外から美佳達の声が聞こえてきた。
部室の扉が開き、美佳達が中に入ってきた。舘林さんと日野さんは、俺達が既に部屋の中にいる事に気付き少し驚き緊張で表情を強張らせている。
俺は舘林さんと日野さんを軽く一瞥した後、いきなり声を掛けるよりまずは緊張をほぐす方が良いだろうと思い美佳に話しかけた。
「お疲れ、少し遅かったな。今日は連絡事項が多かったのか?」
「お待たせ、ちょっと話が長引いただけで特にコレといった連絡は無かったよ。お兄ちゃん達の方は早く終わったんだ」
「特に何もなかったからな、直ぐに終わったよ」
「ふーん」
美佳は俺と軽い掛け合いをしながら、特に気負った様子もなく普段通りの足取りで部屋の中に入りいつもの席に腰を下ろした。沙織ちゃんも美佳に続き何時もの席に腰を下ろしたが、緊張しているらしい舘林さんと日野さんは一歩遅れ少し慌てた様子で席に着く。
「まずはお疲れ様。昨日の今日でちょっと変な感じがするけど、どうだった二人共。昨日はあの後、ご両親とちゃんと話をする事は出来た?」
「えっ、ああっ、はい。皆さんと別れた後、両親とはちゃんと話をする事が出来ました。まさか、あんなに私達の事を応援してくれるなんて思ってもみませんでした」
「ウチもちゃんと話し合う事できました。色々釘……約束をさせられましたけど、あの場での約束通り応援はしてくれるといって貰えました!」
「そっか、それは良かった。俺達も昨日の話し合いで2人の御両親が、しっかり考えた上で応援してくれるんだって姿勢が見て取れたよ。良い御両親だね」
二人の表情を浮かべる表情を見るに、俺達と別れた後の話し合いは平穏無事に進められた感じらしいな。金銭的な支援も約束通りおこなって貰えるそうだが、金額については応相談との事。まぁ予算にも限りがあるだろうか、無制限に支援を得られる事はありえないよな。
もしかしたら、健吾さん達がとっていた態度はあの場限り、俺達向けのパフォーマンスなんじゃないかと少し疑っていたが、どうやらそういう裏は無かったらしい。となると、いよいよ難しい問題になってくるな。
「そうなると、やっぱり皆でしっかり話し合わないといけないね」
「そうだな。健吾さん達も本気で俺達に仕事を頼んできているみたいだし、よくよく考えてから返事をしないと」
「そうね。娘さん達の事を本気で心配しているからこそ、私達の様な部活の先輩って間柄の相手に真剣に頼んでいるんだもの」
「「話し合う、ですか?」」
正直、勢い任せのその場限りのリップサービスでした、というオチの方が良かったんだけどな。こうなってくると受けるにしろ受けないにしろ、真剣に議論する必要がある。断るにしても、こういう理由でお断りしますと、ハッキリ答えられるようにしておかないといけないからな。
そして俺達の様子に若干の違和感を覚えたらしい舘林さんと日野さんは、首を傾げながら美佳と沙織ちゃんに疑問を問う様な表情を向けていた。まぁ視線を向けられた美佳と沙織ちゃんは、困ったような表情を浮かべながら苦笑を漏らしているんだけど。
「そう、話し合い。昨日二人の親御さんから提案された依頼、探索者デビューのプロデュースという名のコンサルティングの事だよ。昨日提案されてから皆で色々調べたり考えたりしたんだけど、正直迷っているんだ。この仕事を受けるべきか受けないべきか、ってね?」
「えっ、コンサルを受けて貰えないんですか!?」
「どうしてなんです!?」
俺の話を聞き、舘林さんと日野さんは驚きの表情を浮かべながら思わずといった様子で大きな音を立てながら席を立った。まぁ最大の障害になると思っていた両親の説得も上手く行き、念願の探索者デビューまで後少しと思っていたところにこの話を聞けば、この反応も仕方が無いというものだろうな。
そして俺は両手を胸の前で軽く上下させながら、舘林さんと日野さんに落ち着くように促す。
「まぁまぁ2人とも落ち着いて、ちゃんと事情は説明するから席に座って」
「「! す、すみません」」
俺がする手のジェスチャーに自分達のリアクションを思い出し、舘林さんと日野さんは少し頬を赤く染めながら慌てた様子で席に座り直した。
そんな二人の反応に皆で苦笑を浮かべつつ、昨日と今日で話し合い浮かび上がったコンサルティング話を受ける際の懸念点について説明していく。
現時点で浮かび上がっている懸念点について一通りの説明を終えると、舘林さんと日野さんは驚きの表情を浮かべながら引き攣った笑みを浮かべていた。
「「……」」
「うん、まぁそういう反応になるよね」
俺達も仕事としてコンサルティングを依頼されるなどとは思ってもみなかった事態なので、色々調べてみると問題点ばかりがすぐに色々と浮かんできたからな。仕事として継続化するのなら生みの苦しみとでも思い乗り越えようと頑張るのだろうが、どう考えても今回一度きりの仕事だ。受けるか受けないか結論を出し渋るのも、当然の反応だろう。
そしてそんな話をしているせいで、少々何ともいえない淀んだ雰囲気が漂い出した教室に新しい入室者がやってきた。
「皆、お疲れ様。ちょっと遅くなっ……って、何? この何ともいえない部屋の雰囲気は?」
皆に遅れて部室にやってきた橋本先生は、部屋の中に漂う何ともいえない雰囲気に思わず顔を顰め、少々気まずげな様子で淀んでいる原因を訪ねてきた。
まぁ経緯も分からずいきなりこの空気に触れたら、何かあったと思うのが普通の反応だよな。
「ああ先生、お疲れ様です。いえちょっと、舘林さん達から昨日相談されていた件について話し合いをしていたんですが、ちょっと色々問題が出てきまして」
「相談されていた? そういえば昨日は皆して部活をお休みにしていたわね、何かあったの?」
「あったといえばありましたね。実はその件で少し先生に相談と報告をしておいた方が良いかな?という事も発生したので、少々お時間を貰っても良いですか?」
「相談と報告……ええ、特に急ぎの用事もないから時間は大丈夫よ」
俺の発した報告と相談という言葉に少々警戒感を示しつつ、橋本先生は部屋に入り奥の席に座った。
そんな橋本先生の姿を俺達5人は面倒事に巻き込むことに対する申し訳なさの籠った眼差しで、舘林さんと日野さんは何か良いアイディアを出してくれないかと縋りつく様な眼差しで見つめる。




