第520話 何も考えずに、はいとはいえないよな
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部屋のレンタル時間終了も迫っていたので貸会議室を出た後、家族で話す時間が欲しいと舘林さん親子と日野さん親子とはビルの前で別れた。まぁ先程時間は取っていたけど、流石にあの短時間ではじっくり話し合って、とはならないよな。
そして俺達5人は休憩を取ろうと、駅近くのファミレスに入った。
「皆、今日はお疲れ様。いやぁ、慣れないことして疲れたね」
注文した飲み物が全員にいきわたったのを確認し、まず初めに慰労の挨拶を口にする。
「そうだな。一応俺達が伝えられる範囲の事は伝えたけど、アレで良かったのかな?」
「良かったと思うわよ? 探索者を始めて経験して知る様な体験談、始める前に知れる機会を得られただけ有意義な時間になった筈だわ」
「うん。私達も色々探索者関連の事を教えてたけど、今日の話程踏み込んだ内容は喋ってなかったから参考になったと思うよ」
「私もそう思います。麻美ちゃん達の御両親も初耳だって感じでしたし、事前に聞けて良かったんじゃないかなって」
今日の話し合いの出来に少々不安だったが、ひとまず成功じゃないかという皆の意見に安堵する。話すのは裕二に任せっきりになってしまったが、話した内容自体には別の意見がある訳でも無かったからな。
しかし、テレビや雑誌には出ていないような実際に体験してから知る様な話がメインだったので、話を聞いた後に親御さん達が舘林さんと日野さんが探索者になるのを反対するかもと思ったが……まぁ意外とはいえないが意外な形で着陸したものだ。
「そうだと良いんだけどね。でも、ちょっと面倒な事になったかも?」
「まぁ面倒というわけではないんだが、どう取り扱ったらいいのかって感じだな」
「そうね、正直こういった方向に話が向くとは思ってもみなかったわ。元々ある程度教えるつもりではあったんだけど、お仕事でっていうのはね?」
「私も友達に教える、一緒に行くって感覚だったんだけどな……」
「私もそのつもりでした」
まさかコンサルティングという形で、親御さんから探索者指導を頼まれるとは思ってもみなかったよ。
「そもそもさ、コンサルティングってどうやってやるのかな? 高校生がやっても良いものなの?」
「さぁ? コンサルティングって単語は知ってるけど、具体的にどういった仕事なのかは知らないな。誰か知ってるか?」
「確か事業が上手く行くように色々な助言をするお仕事、だったと思うけど……」
「「さぁ?」」
コンサルティングって仕事自体をよく把握していなかったので、全員揃って不安と自信無さげな表情を浮かべながら首を傾げた。と言う訳で、まずはコンサルティングって仕事が一般的にどういったモノなのか調べる所からだ。
皆でスマホ片手に調べ始める事数分、とりあえずといったレベルであるがコンサルティングという仕事がどういったモノなのかが判明した。
「調べた感じだと、相談された問題に対し解決策を提案する仕事、って事かな?」
「そうみたいだな。その道の専門家であるにこした事は無いが、特にコレといった資格は必要はないみたいだ」
「実務経験やスキルが有れば誰でも活躍できる、らしいわ。そういう視点でいえば確かに私達でも、コンサルティング……コンサルティングの様な真似は出来るわね」
相談相手が納得するかは別にしても、高校生でも能力があるのならコンサルティングをする事は出来るみたいだ。
「探索者経験の短い私達は別にしても、お兄ちゃん達なら私達を育てたって実績もあるしね」
「そうだね美佳ちゃん。素人を独り立ち出来る位置まで育てるって条件なら、私達が実績証明だもんね」
美佳と沙織ちゃんの言葉に、確かに新人育成という点で見れば俺達は既に実績を上げてるんだよなと思う。相談内容に対する実務経験やスキルの有無という点では、俺達は条件をクリアしているといえるな。
ただ、だからといってこの話を受けるかというと、また難しい問題である。
「確かに美佳達を育てたのは俺達といえるけど、それは重蔵さんとかに協力して貰ったからだ。俺達だけの力で育てたという訳じゃないからな。それに問題解決の為の提案となると、実績もだけど色々なコネクションが無いと難しくないか? 俺、重蔵さんに頼る以外の武器を調達する伝手なんて無いぞ?」
「大樹のいうとおりだな。基本的に俺達が使える伝手ってのは、爺さん経由のモノばかりだ。俺達だけで使える独自の伝手なんて、数える程度しかないぞ」
「その上私達の場合、かなり独自路線的な進め方をしているから、一般的な探索者が通る道というのが良く分からないのよね。装備品なんかに関する助言はある程度出来るでしょうけど、探索者を目指す人が通うにはどこの武術系カルチャースクールが良いのかとかさっぱりだわ。広瀬君の所って、そういう生徒さんを受け入れてるかしら?」
柊さんのいう様に、重蔵さんに直接指導された俺達にはその辺の伝手は全くといっていい程にない。仮に評判が良いというネット情報を信じた結果、ロクでもないなんちゃって武術スクールを薦めていたとかなったら目も当てられない。その結果として、ダンジョン探索において最重要ともいえる戦闘技能の基礎を学べていないとなったら、大怪我を負う確率が跳ね上がるからな。
その為柊さんは信頼できる武術を学ぶ先として裕二の道場の状況を尋ねたが、裕二はその問いに難しげな表情を浮かべながら頭を左右に振った。
「ウチ? ウチはまぁ準備中って感じだな。基本的にウチの武術って対人がメインだから、モンスター相手の武術って訳じゃないんだよ。準備不足の段階で下手にその手の生徒を受け入れて、その生徒がダンジョンで大怪我や死んだりしたら、ウチの教え方が悪いからだろって非難されるかもしれないからね。生徒を受け入れる様になるのは最低限でも、5階層辺りまで怪我無く対処できるノウハウを貯めてからかな? 人型モンスターが相手なら、対人武術もある程度使える様になるからね」
「そう、残念ね。でもそうなると、本格的に武術を学ぶ先を紹介できそうにないわ」
「そうだね。有るのは知ってるけど、カルチャースクールとか通った事ないし……どうしよう?」
最終手段として、俺達が直接教えるという方法もあるにはあるが、コンサルティングという意味では止めておいた方が良いだろうな。どこかのカルチャースクールに、体験指導を受けに行ってみるかな?
「それなら、私達で探索者をやってるクラスの子に、どこのカルチャースクールに通ってるか聞いてみようか? 多分お兄ちゃん達のクラスよりは、そういう所に通ってる子はいると思うから」
「何人かそれっぽい話をしていたのを聞いた事が有ります。今も通っているか分かりませんけど、どんな感じだったのかとか聞いてみますね」
「ホント? じゃちょっと聞いて貰っても良いかな? ウチのクラスというより2,3年で探索者をやってる奴は、大体がカルチャースクールとか無い時から探索者をやってる連中ばかりだからな。通ってるやつを探す方が難しそうだしさ」
モンスターとぶっつけ本番の実戦を繰り返し、喧嘩殺法の様な戦闘方法を覚えた奴が殆どだろうな。それでモンスターを倒せるように成ったら、よっぽど向上心が有って深い階層を目指すやつでない限り、わざわざカルチャースクールに通ってまで武術を学ぼうとするヤツはいないだろう。
それにある程度の階層までは、武術系の技術は無くともレベルを上げて物理で殴るでいける。平日に数時間潜る学生探索者なら、まぁ必要性を感じるヤツの方が少ないかもしれない。
「分かった、じゃぁ明日学校で話を聞いてみるね」
「頼む。結果は放課後の部活の時にでも教えてくれ」
全く未開拓の分野に手を出すのなら、とりあえず取っ掛かりとしてはこれで十分だろう。無論、俺達の方でも調べられる範囲でネットなどを使い調べておく必要はあるけどな。
そういえば、新聞チラシにそれっぽいのがあったような?
武術系の問題については一応の目途?が立ち、追加注文していたパンケーキが届いたので皆で突きながら話を続ける。
こうやって頭を使ってると、無性に甘いものが欲しくなるんだよな。
「とりあえず、コンサルティングっぽいのをでっち上げる事は出来そうなんだけど……そもそもこの話を受けるかどうかって話、どうする?」
「現段階では保留かな? 流石に受ける受けないかを決めるには、色々と情報が足りないしな。元々ある程度は教えるつもりだったけど、報酬というお金が絡んでくると話がややこしくなってくる。仮に受けるとしても、個人事業主っていう立場でその手の依頼を受けて良いのか、報酬を貰うにしてもどういった扱いをすれば良いのか調べてからじゃないとな」
「そうね。そこら辺のルールを理解しないまま仕事を受けた後に……ってなったら面倒だもの」
探索者って業種に、コンサルティングって事業内容は含まれてるのだろうか? 一応新人育成って事にはなると思うんだけど、その辺がどうなってるのか調べないとな。
俺達の場合叩かれると色々とマズイので、その辺は慎重に確認していかないと。
「やっぱり舘林さん達への返事は暫く保留させて貰って、その辺も含めて色々調べてから結論を出すしかなさそうだね。正直今のままじゃ動き様がないしさ」
「それが良いだろうな。舘林さん達には明日顔を合わせるだろうから、その辺を説明して待って貰うように伝えよう。向こうも返事がいつまでもないとなると不安だろうしね」
「その方が良いでしょうね。美佳ちゃん沙織ちゃん、明日学校で麻美ちゃん達にあったら、返事は少し遅れるって伝えておいてくれるかしら? 色々調べないといけない事があるって」
「分かりました、明日教室の方で伝えておきます」
「あの、その時にどれくらい待てばいいか聞かれたら何と答えたら?」
沙織ちゃんの疑問に俺達は顔を見合わせた後、一斉に何ともいえない表情を浮かべながら頭を傾げた。
さて、どれくらいかかるものなんだろう?
「どれ位か……1週間で終わるか?」
「法律関係はネットなんかで調べればさほどかからないだろうけど、カルチャースクール関係の確認がな……正直分からないとしか言えないな」
「そうね。手探り状態から始めるとなると、1週間で終わるかしら?」
俺達は思案顔を並べ、見通しの立たなさに頭を抱えた。
とはいえ、何の返事もしないというのもまずい話なので……。
「とりあえず1週間後には途中経過を報告するつもりだ、といっておいてくれるかな?」
「分かりました」
俺の返事に、沙織ちゃんは何ともいえない表情を浮かべながら頷いた。
「一応話を受けるつもりで検討はしてみるけど、現段階では何ともいえないね。ああそうだ裕二、重蔵さんにこの話を相談してくれないか? 毎度毎度頼るのは悪いとは思うけど、俺達だけで結論を出すにはさ? もしかしたら重蔵さんも、似たような経験があるかもしれないし」
「そうだな、それとなく相談してみるよ。もしかしたら簡単に解決するかもしれないしな」
「頼む」
毎度毎度何かあるたびに、重蔵さんの知恵を借りるのは申し訳ないがこの手の相談できそうな人が他に居ないしな。もしかして、知り合いがカルチャースクールを開いてるとかあったらありがたいけど、流石にそう都合良くある訳ないか。
「とりあえず、コレで一通り今日の話は終わったかな?」
「そうだな。ちょっと思ってもみなかった話の流れになったけど、舘林さん達の探索者になるって希望は叶いそうだ」
「二人の話をちゃんと聞いて、真剣に検討してくれる御両親だったわね」
「そうだね」
「はい」
親御さんが出て来て一緒に相談と聞いた時には、やっぱり反対されて一緒に説得して欲しいという流れかと思ったからな。それが蓋を開けてみれば、親御さんは探索者になる事に消極賛成で、俺達に現在の探索者が置かれている状況と事前にしておくべき注意点の確認というものだった。
まぁコンサルティングをお願いされるという予想外の事態が発生したが、話し合い自体はスムーズに終わったけどさ。
「さて、そろそろ日も暮れ始める事だし、コレを食べきって帰るとしようか? また明日も学校あるし、それぞれ今日の話を落ち着いて考えたいだろうしね」
話し込んでいる内にそれなりに良い時間になっていたので、俺達は手早くパンケーキの残りを食べきるとファミレスを後にし解散した。
さて、家に帰ったら色々調べておかないとな。




